☆その16の物語☆

今日はクリスマスイブ。
朝食の席、お父さんからこれで勉強もはかどるだろうって電子辞書を貰った。嬉しいけど・・・もう少し
ムードのある渡し方できないのかな?
そりゃサンタクロースがお父さんだった事なんて、小学校3年生時に気がついたから寝てるときに置いて
なんて言わないけど、せめて晩御飯の時とかにすればいいのに。
でも今日から使えるものだし、こういう電気製品って別府君が好きそうだから、使わせてよって言われたり
したら・・・嬉しいかも。そういう意味では、今がいいタイミングだったのかも。

家を出ると、仲良さそうに手を繋いでいる高校生のカップルとすれ違った。
今年は受験でそんな雰囲気じゃないけど・・・同じ高校に行けるようになって、お付き合いし出したら
私も別府君とあんな感じになれるのかな?
それでクリスマスを二人きりで過ごしたりなんかして・・・っと、いけないいけない、また妄想が始まっちゃう
ところだった。
そういう感じになるために、今日も頑張らないとね。

朝の仕事が一段落して、別府君からちなみちゃんの話をされた。
自分の事を悪い子だって言って、プレゼント貰えないって泣いていたって。
別府君は全然理由が解らないって言ってたけど・・・私には解る。もし私がちなみちゃんと同じ状況なら
多分同じ・・・好きな人に素直になれなくて、酷い事言っちゃったりしちゃったりする事に負い目を感じて
るに違いない。
「あのさ・・・もしかして、何か心当たり・・・あるとか?」
聞かれたけど、答えづらい。きっと・・・ちなみちゃん自身も別府君にはまだ本当の気持ちは知られたくない
はず。それを私が話していいものなのかな?
言ってしまったら・・・別府君のちなみちゃんへの接し方が変わってしまうかもしれない。これは
ちなみちゃんにとっては結果的に良い方向に思える。
私だって、本当の気持ちは知られたら恥ずかしいけど、好きな事を解った上でなら、どんなに酷い事言って
しまっても照れ隠しなんだなって思ってくれる。そうしたらどんなに助かる事か。
『何となく解ります。でも・・・別府君には言えません』
結局、私は現状維持するために言わない事にした。別府君をめぐる戦いに、ずるいとか卑怯とか
言ってられないもん。特に私みたいにアピールできる事が少ないなら尚更。
「それってさ・・・俺が原因なの?」
『はい。別府君が悪いです』
ちなみちゃんと、そして私を惑わせる悪い人。その事にまったく気が付かないなんて鈍感にも
程があるというもの。
私の言葉で「う〜ん」と悩む別府君。でも・・・きっと見当違いな事を考えてるんだろうな。
本当は好きで好きでしょうがないのに、素直に言えない女の子の気持なんて分かるはず無いもの。
『あの・・・多分、別府君が考えてる事は全部違うと思いますよ?』
「は?」
『ちなみちゃんの事をちゃんと解ってあげてない。そこが別府君の悪いところです』
おっと、これ以上のヒントは出してあげれない。小説を手に取り私は知らん顔。
本を読んでいるときに話しかけられたくないのはお互い様だものね。
私の態度で諦めたのか、別府君は寝てしまった。今なら・・・言えるかな?
『私の事も・・・ですからね?』
ちょっとだけスッキリした気分。と思いきや、まだ寝てなかった別府君がいきなり顔を上げた。
「今・・・何か言った?」
『な、何も言ってないです。夢でも見たんじゃないですか?』
慌てて誤魔化すも別府君は不審な顔つき。聞こえちゃった・・・かな?でも、それならそれで
ちゃんと私の事を考えて欲しい。そして・・・いつかちゃんと解ってくださいね?

☆その17の物語☆

今日は待ちに待った勉強会の日。本当は冬休み中毎日でもやりたかったんだけど・・・ため息が出ちゃう。
別府君にも都合があるだろうし、私がただ二人で居たいからって理由で毎日やるなんてできないよね。
言えばきっと毎日でも付き合ってくれるんだろうけど。結局、2回だけ・・・私としては渋々の承諾。
考えてみれば、毎日やったら学校での勉強会と変わらず、ダラダラとしてしまうから調度いいかもしれない。
もちろん、ダラダラしてしまうのは勉強の方でなく、別府君と距離を縮める方だけど。
でも今回は違う、ちゃんと計画を立てた。名付けて、手作りお弁当大作戦。
午前中からの勉強会だから、当然お昼はどうしようかって話しになるはず。そしたら・・・この新兵器の登場。
別府君が読書してる公園に行って・・・二人で一緒に私の手作り弁当を食べる。
美味しいねって言ってくれて、きっと私は舞い上がっちゃうんだろうな。
そ、それで・・・食べ終わったら・・・食べ終わったら・・・

「ごちそうさま、委員長」
『お粗末さまでした』
「ところで、デザートとかないの?」
『で、デザートですか?その・・・えっと・・・』
「どうしたの?」
『デザートは・・・わ、私です』
「い、委員長が?・・・いいの?」
『はい・・・大好きな別府君に・・・美味しく食べて欲しいです』

という感じになって・・・誰もいない公園で二人きり、キスして・・・あぁ、勉強会どころじゃ
なくなっちゃうよぉ。
でも1日くらい・・・二人でずっとベンチに寄り添って、たくさんの甘い言葉とキスで私を溶かして欲しい。
誰かが通りかかったって、そんなの知らん振り。見せ付けるようにイチャイチャしちゃうんだから。
ふっと気がつくと、目の前に想いの人が。冷静になって、今の状況を思い出してみる。
確か・・・勉強道具とお弁当をもって出かけて・・・途中で近所のおばさんからみかんのお裾分けを貰って
・・・待ち合わせ場所について・・・そ、そこで・・・えぇ!?
『あ・・・えっと・・・い、いつからそこに?』
「ん?ちょっと前くらいから」
『どうして声をかけてくれないんですか?』
「声をかけたけたよ。でも、考え事に夢中で気がつかなかったみたいだったね」
どうしよう・・・私がイケナイ妄想してたのばれちゃったかな?何か取り繕わないと、と思う気持ちだけで
何も言葉が出てこない。
『その・・・と、とにかく、勉強会始めますよ!』
結局うやむやにしてしまう事にした。はぁ・・・外で妄想しちゃうクセをなんとかしないとなぁ。
図書館の方へと歩き出すと、別府君が早足で駆け寄ってきた。
「でもさ、声かけられても気がつかないって集中して考え事してるって事だよね」
『・・・変な奴って思ってるんですよね?』
「いや、そうじゃなくてさ、凄いなって」
ちらっと別府君の顔を見ると、ちょっと笑ってる。絶対に変な奴って思ってるに違いない。
『凄い変な奴って事ですか?』
「違うって。集中力が凄いって意味で、変な奴とか思ってないって」
『・・・どうだか。そんな上辺だけの言葉じゃ信用できません』
せっかくフォローしてくれたのに、ついつい反発してしまう。自分が悪いはずなのに、いつの間にか
別府君を責めてるし。どうしていつもこんなになっちゃうんだろう?
「それにさ、考え事してる時の委員長・・・結構可愛かったよ?」
思わず足が止まってしまった。今・・・私の事・・・可愛いって?きっと、本心じゃなくて、これも
私の機嫌を直すための言葉だよね?
「あ、いや・・・ゴメン、今のは聞かなかった事にして」
慌ててなかったことにしようとする別府君。もしかして・・・本心だったのかな?
でもそんな嬉しい言葉にも、私はついつい悪口言ってしまう。どうしてなんだろう・・・?
甘えたい訳じゃないけど、私のこういう所は目を瞑って欲しい。分かった上で好きになってくれたら・・・
一番良いと思う。照れ隠しをするところも好きだよって。
そんな事を考えながら、別府君の背中を押して図書館へ。だって、また顔が赤くなってそうだから
見られたくないもの。

図書館では席を探してウロウロ、やっと見つけて勉強会が始まった。
『休み中やったところで、分からない所とかありましたか?』
「あぁ、えっとね・・・数学だとここかな?なんかイマイチ・・・」
『えっと、ここはですね』
説明しながら、別府君に密着する。勉強会を始めたときからちょっとづつ距離を詰めていって
ようやくこうやってくっつく所までこれた。私の進歩の証・・・かな?
こうやって説明してる時は度々別府君が聞いてない事がある。そして最近気がついたのだけど、これは
別府君がぼーっとしてるんじゃなくて・・・私と密着してるのが気になってるからなんだって。
つまり、私を女の子として認識してくれてるって事だよね?色々頑張ってきた甲斐があるというもの。
だから、別府君が聞いてないって言われるたびに・・・嬉しくなっちゃう。
つまり、私が気になってしょうがないって事だから。
『もう・・・ぼーっとしないで、もっと集中してください』
そんな事言いつつ、内心ではガッツポーズ。私って意地悪かな?
久しぶりの勉強会でも説明を聞き返してくれた。これは次に控える作戦にとっては大きなプラス要素だよね。

やがてお昼ご飯の時間。作戦決行の合図が図書館に鳴り響く。
今一度別府君の荷物を確認すると、お弁当らしきものは持ってきてない。もし持ってきてたら、ここで
作戦失敗となってしまうだけに、ほっと一安心。
図書館内での飲食は出来ないので、一旦荷物をまとめて外へ。
よし・・・言わなきゃ。お弁当作ってきたら、一緒に食べましょうって。
『あ、あの・・・お昼ですが』
「うん」
『こ、これを・・・つ、作ってきました』
しどろもどろって感じになっちゃったけど、何とか言えた。鞄の中身を見て、驚く別府君。
でもなんか急に恥ずかしくなってきちゃった。いくら鈍感な別府君でも、こうやって女の子から
お弁当もらえれば、少なからず好意があるって事くらいは分かってくれるよね?
「弁当?俺の分も?」
『じ、自分のために作ったんですよ?でも・・・どうせ別府君の事だから、何も用意してなさそうですし。
 だから、ついでに・・・というか・・・二つ作るのも手間はそんなに変わらないし・・・』
はぁ・・・また変な事を言ってしまった。別府君のために作りましたとか、気の聞いた事が言えたらいいのに。
せっかくの雰囲気が台無しになっちゃったよね。
でもまだ終わった訳じゃない。むしろ、これからが本番なんだから。
『あ、あの・・・場所なんですが・・・天気も良いので、公園で食べませんか?』
「ん〜・・・そうだね。そうしようか」
少し躓いてしまった事もあるけど、舞台を移して次の戦いが始まるのであった。
・・・なんか自分で言ってて、ちょっと恥ずかしいな。まぁ、いいか。

公園へと行くと、狙ったかのように誰も居ない。元々そんなに賑わうような場所でもないのだけど
こういう時に限って思い通りに行かないものだったりする。
それだけに、思い描いたような状況は神様が与えてくださったチャンスなのかなと思えてしまう。
でも・・・天使に恋した人間の後押しってしてくれるのかな?
私がこういう性格なのは、もしかしたら天使に恋した人間への試練なのかもしれない。これを乗り越えられ
たら・・・認めてやろうって。という事は、今は試されている時。
そんな風に考えると、俄然やる気が出てきた。
お弁当箱を広げて、おしぼりを手渡す。手を拭いて、1つ目を食べ始めた。
ドキドキの瞬間。どうかな・・・美味しいって言ってくれるかな?
そのまま2つ3つと食べ進める。あれ・・・何も言ってくれないって事は美味しくなかったのかな?
私の視線に気がついたのか、別府君が私に食べないのかって聞いてきた。
でもその前にいう事があると思う。何か自分から感想を催促するのって・・・ちょっと変だけど、
そのくらい言ってくれてもいい気がする。
『え?た、食べますよ。食べますけど・・・その・・・な、何か感想とか無いんですか?』
「あ、ゴメン。すっごく美味しいよ」
『言うのが遅いです。もうこんなに食べた後で・・・』
「それだけ美味しいって事だよ。言葉で色々言うより説得力あるだろ?」
『そ、そんなの・・・知りません』
確かに、感想を言うのも忘れちゃうくらい美味しく思ってくれてるなら・・・それはそれで嬉しい。
ちょっと考えてた事とは違うけど、ここまでは作戦通り。
自分で作ったサンドイッチを頬張りながら、次の作戦を思い描く。
食べ終わったら・・・デザート。デザートという名目の告白・・・かな?

「ふぅ、ごちそうさま。全部美味かった」
空になったお弁当箱を前に満足げな表情。しかし、そのまま何も言ってきそうな感じではない。
『え?もう・・・いいんですか?』
「は?」
『あ・・・その・・・た、足りたのかなって』
なんかこう言うと、まるで自分から食べて欲しいって言ってるみたいで恥ずかしくなってきた。
でも・・・本当にこれでお終いなの?満足しちゃったのかな?
「うん、十分」
『ほ、本当ですか?嘘ついちゃダメですよ?』
別府君は困ったような表情。もしかしてデザートっていう展開は私しか考えないの?
だって・・・普通は考えるでしょ?例え考えてなかったとしても、今日くらいは気を利かせて・・・
もっと私の考えてる事を当てて見せてよ。
「ん〜・・・食べろと言われればもっと食べれない事もないけど、この位で十分かな?」
『そ、そういう意味じゃなくて・・・その・・・えっと・・・』
どうしよう・・・自分から言うのは恥ずかしい。かといって、一旦言ってしまった言葉は
元にはもどせないし。
「なぁ、委員長。どういう意味だ?」
『そ、そんなの・・・私から言わせる気ですか?男として最低ですよ』
もう・・・神様の意地悪。せっかく私が頑張ってるのに、肝心の別府君がこんなに鈍感だったら
全然上手く行かないです。
「あ、あのさ・・・何となく何だけど」
『な、何ですか?』
「で、デザートって・・・ないの?」
諦めて逃げていたところに、さらに追い討ちを浴びせられた気分。
今更になって思いついちゃうの?それなら最初から思いついて欲しかったし、思いつかないなら最後まで
そうして欲しかったのに。
じっと見詰められると、気恥ずかしさでどうしたら良いのかわからなくなってくる。
どう見たって、私から言わせたようなもの。そんなはしたない女の子だなんて、絶対に思われたくない。
いつの間にか、絶体絶命のピンチ。策士策におぼれるっていうのはこういう事なのだろうか?
散々考えて、ある事を思い出す。今の状況を脱出できそうな秘策が。
『あ、ありますよ』
鞄の中に入れたお裾分けのみかんを取り出した。

「そ、そうだよな。やっぱりデザートとかは男から言った方がいいよな」
『そ、そうですよ。甘いものは別腹っていうじゃないですか?それなのに・・・』
二人でみかんを食べながら、ほっと一安心。けれど作戦は失敗・・・ガッカリです。
いつになったら、この試練は越えられるのかな・・・はぁ・・・。


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