・ ツンデレが裸にチョコ塗ってリボン巻いて「私を食べて///」って言ったら その1

事は、バレンタインの二日ほど前に遡る。
 私は、クラスの友人達とお弁当を食べていた。時期も時期だけに、当然話題はバレンタ
インデーの事となる。
「暎子はいーよねー。あげる彼氏がいてさー」
「えっへへへ。妬かない妬かない。美唯はどうすんの?」
「あたしは部活の先輩方に義理チョコ配らないと。っても、他の子達と共同なんだけどね。
でもそれだけって何かさみしー」
「友子は?」
「うーん。今年も特にいないなあ。あたしも寂しいバレンタインになりそうよ。とほほ」
「またまた。そんな事言ってぇ。知ってんだからね」
「な、何がよ?」
「同じ新聞部の山田君。しょっちゅう一緒にいるじゃない。彼にあげるんじゃないの? チョコ」
「な、何であたしがあんな奴にチョコあげなくちゃならないのよ。意味わかんないし」
「またまたまた。そんな事言ってあげるんでしょ? ど、どうせアンタなんて他にチョコ
くれる女の子なんていないだろうから、仕方なく恵んであげるわよ、とか言って、ホント
は本命チョコってオチなんでしょ?」
「うわー、それ、あるある♪」
「ねーよ。ていうか、アイツにそんな事する義理もないもん。それよか、敬ちゃんは?」
 それまでぼんやりとみんなの話を聞いていた私は、突然自分に振られて、えっ?と、顔を上げた。
「わ……私?」
「そうそう。敬子はどうすんのよ。バレンタインは。誰かあげる人とかいるの?」
 一斉にみんなの視線を浴びてしまい、私は困って下を向いてしまった。
「わ……私は別にそんな……特別な人とかいないし……」
 そう言うと、暎子はうーんと腕組みをして唸った。
「敬子は奥手だからなー。もったいない。敬子クラスの女の子からチョコ貰えれば、男性
諸君みんな感激の雨あられだってのに」
「そ……そんな事ないってば。変な事言わないでよ。もう!!」
 暎子がからかうので、私はちょっと頭に来て怒った。まーまーと制する横から、美唯が
口を挟む。
「え? それじゃあ敬ちゃんもチョコ無し?」
 私は躊躇いがちに頷こうとした。本当は、あげようかどうか悩んでいる人がいるにはい
るが、いちいちここで言う事でもあるまいと。
 しかし、私と一番付き合いの深い友子が、機先を制してその事に触れてしまった。
「あれ? 敬ちゃん、お兄さんにはあげないの?」
「へっ!?」
 動揺して思わず、私は変な声を上げてしまった。しかし、二の句を告げる前に詳しく事
情を知らない美唯が即座に食いついてきた。
「ええ〜っ? 敬ちゃんって、お兄さんいるの?」
「うっそぉ。知らなかったの、美唯。三年の別府先輩って有名じゃん」
 友子の言葉に、美唯がおっきな目をさらに丸くした。
「別府先輩って、あの? 陸上部のエースで、生徒会役員もやってる?」
「そうそう」
 友子と暎子の頷きに、美唯は絶叫した。
「うそーっ!! だ、だって敬ちゃんと別府先輩って全然似てないじゃん。どこがどう
やったら、スポーツ万能頭脳明晰容姿端麗の別府先輩と、引っ込み思案で、どんくさくて、
理系音痴で、運動神経ゼロの敬ちゃんが兄妹だっていうのよ!! 信じらんない!!」
 どうしてこうも人の欠点をつらつらとあげつらえるものかと。同意して頷く二人も二人
だ。こいつら本当に私の友達か?
「まー驚くのも無理ないわね。あたしらだってたまたま知っただけだし。何か知らないけ
ど、敬子ってば、内緒にしておきたいみたいだし。だから、あたしもペラペラしゃべるの
は遠慮してたんだけどね」
「今、しっかりバラしたじゃない」
 恨みがましい目付きで友子を睨み付けると、彼女は苦笑いを浮かべて、まーまー、と手
で私を制した。
「で、どうなのよ? 当然あげるんでしょ?」
 好奇心で満々の友子から、私は視線を逸らした。
「あげないわよ」
「え? 何で何で? せっかくあんなにカッコイイお兄さんが家にいるっていうのに?
もったいないじゃない。あげなよ」
 暎子がそう言って勧めてくるが、私は断固として拒否した。
「あげないってば。何であんなバカ兄さんにチョコレートをプレゼントしなくちゃならな
いの。お金の無駄遣いよ」
 むっつりと不機嫌そうな顔で、私は答えた。しかし、暎子と美唯の二人は、顔を見合わ
せて首を捻った。
「兄妹だっていいじゃん。勘定には入れてないけど、あたし、弟にはあげるし。てか、う
ちの弟程度じゃ男の数に入らないけど、別府先輩なら立派に数のうちに入れるけどなー」
「そうそう。あげりゃーいいじゃん。お兄ちゃん、大好きって言ってハート型のチョコで
も差し出せば、きっと喜んでくれるよ。あたしなら、それだけでも満足だけどなー」
「冗談じゃないわよ。そんな気持ち悪い事、する訳ないでしょ」
 私は、きっぱりと断言して言った。
「みんな、勘違いしてるけどね。兄さんは外ではカッコ良く振舞っているかも知れないけ
ど、あんなの見せ掛けだけなんだから。マイペースでだらしなくて、不潔だし羞恥心って
物はないし……とにかく、私に迷惑掛けるだけで、最低なんだから」
「照れ隠しとはいえ、そこまで貶める事は無いのに」
 友子が、私の兄批判に鋭いツッコミを入れる。
「てっ……照れ隠しなんかじゃないわよ。今のは全部本当の事だし……」
「それだけしっかりお兄さんに注目してるって事よね。敬子は。まあ、愛情の裏返しって奴だ」
「違うってば!!」
 友子の言葉を必死で否定するが、そもそもこの子は、そんな事に聞く耳など持つ訳が無
い。無駄に言い訳すればするだけ、言葉尻を捕らえられて、突っ込まれるだけだ。
「はいはい。まあ、敬子としては確かに面白くないわよね。今日は別府先輩、朝からモテ
モテだろうし」
「毎年、一杯チョコを貰って来るけどさ。どこがいいのか、さっぱり分からないわよ」
 私は、ブスッとした顔で言った。
 しかし、友子の言う事は、実はその通りだった。毎年、バレンタインデーともなると、
兄さんはたくさんのチョコレートを貰ってくる。中には、私の手が届かないような高級な
物や、手作りの物もあって、私がどんなに頑張っても、結局それらの中に埋没してしまう
のが現状だった。
「またまた。本当は自分だって、先輩がカッコイイって自覚してるくせに。素直になれな
いのは、敬子の悪いところよ」
 友子がそうやって人の心にズケズケと踏み込もうとするから、ますますへそ曲りになっ
ているというのに。
「そんな事無い!! 兄さんがカッコイイなんてのは外見だけだもの。友子達がわかって
ないだけよ」
 私の強情さに、友子はやれやれと肩を竦めた。
「まあ、敬子がそれでいいっていうならいいけどね。でも、今年はちょっと、気をつけた
方がいいかもよ」
「気をつけるって……何が? 意味が分からないんだけど」
 そう聞くと、友子は得意気にフフンと鼻を鳴らした。これはスクープを手に入れた時な
んかの友子のクセだ。
「噂によればね。今年は、理沙先輩がマジで別府先輩を狙ってるって話よ」
「うっそお?」
「ホントにぃ?」
 暎子と美唯が立て続けに叫び声を上げた。私も、ビクッと体を震わせる。心中、不安が
過ぎったのを自分でも自覚した。
「いや。まだ分からないけどさ。何か、今朝、理沙先輩が大きくて立派な紙袋を持って登
校してるのを見た人がいるのよ。先輩ってさ。結構露骨に別府先輩ラブじゃん。だから、
今年こそ告白するんじゃないかって噂も……」
 私は、心の中が不安で満たされるのを感じた。理沙先輩は、兄と同学年で、生徒会長を
している。かなりいい所のお嬢様で、才色兼備で男子生徒からも憧れの的で見られている。
兄とは前々からカップリングの噂が絶えなかった。
「そっかー。理沙先輩、美人だもんねー。別府先輩とはお似合いよね」
「ついに大物カップル誕生かー。あたしらには手が届かない話だけど、何かこう、聞いて
てもグッと来るものがあるよねー」
 まるで、もう理沙先輩と兄が付き合うことが決定したかのように語る二人に、私はムラ
ムラッと反発心が湧いた。
「そ、そんなのただの噂でしょ? まだ二人が付き合うって決まった訳じゃないんだし」
「お。焦ってる焦ってる」
 私の言葉に、得たりと言った表情で友子がツッコミを入れる。
「な、何で私が焦ったりなんかしなくちゃならないのよ。いい加減なこと言わないでよね」
 慌てて否定するが、そんなのは彼女に係ればどこ吹く風だ。
「またまた。気が気じゃないクセに」
 友子の揶揄に、私は噛み付いた。
「何で私が兄さんの恋愛事情をいちいち気にしなくちゃならないの? 別に、兄さんが誰
と付き合おうと勝手だもの。もっとも、その……理沙先輩の為を思えば、兄さんは止めて
おいた方がいいと思うけど……」
「気にしてないフリをしつつ、結局は口出してるじゃん。まあ、最愛のお兄さんが、よそ
の女に取られるとあっては、そうなるのも分かるけどね」
「全然分かんないわよ!! 兄さんなんて最愛でも何でもないし、理沙先輩がそれでいいっ
て言うなら、私は口出す権利なんて無いもの」
「フーン。戦う前から敗北宣言ですか。ま、そういっておけば、いざ取られても言い訳出
来るしね」
 全然私の話を聞かない友子に、私は苛立ちを募らせた。
「大体何よ。その敗北宣言って。別に私は理沙先輩と兄さんを取り合う気なんてこれっぽっ
ちもないんだから」
「それが敗北宣言って言うのよ。てか、戦う前から降伏って言うか。まあ、あたしが敬子
の立場でも、ちょっと厳しいかなあ」
 それを言うか、それを。確かに私は、理沙先輩に勝っているところは一つたりともない
けど、いちいち指摘しなくてもいい所を言うなんて、こんな奴友達じゃない。
「そこまではっきり言うこと無いじゃない。酷いと思わない? 二人とも」
 私は、しゃべるのを止めて傍観者側に回っていた暎子と美唯に聞いた。しかし、二人と
も友子の方を向いて、うんうんと頷く。
「ちょっとねー。正直、敬ちゃんじゃあ勝ち目はないわよねー。たとえ、愛情一杯の手作
りチョコを持って行ったとしても」
「敬子も可愛いけど、理沙先輩は別次元だからねー。敬子のチョコなんて、片隅に置かれ
て忘れ去られそう」
 コイツ等……本当に友達かと疑いたくなる。これだから女同士の友情なんて信用できな
い。さっきまで好奇心満々に煽っておきながら、一転、人を散々に貶めたり。
 余りにも悔しいものだから、私はつい、口を滑らせてしまった。
「別に……わ、私だって、その気になれば兄さんくらい……」
 その一言を、友子は聞き逃さなかった。
「お? ついに本音が出たわね。やっぱり、敬子はお兄さんラブなんだー」
 私は慌てて、火消しに掛かった。
「違うわよっ!! い、いまのはその……例え話よ。やろうと思えば、それくらい出来る
っていう……」
 友子は、私の言い訳を疑わしげな目で見つめていたが、やがて、残りの二人の方を向い
て聞いた。
「どう思う? 仮に、理沙先輩がライバルで無かったとして、敬子が別府先輩を落とせる
と思う? 妹でいつも傍にいるっていうアドバンテージを生かしたとしても」
「無理ね」
「あー、無理無理」
 二人とも、即答で答えるなんて酷すぎる。もう、絶対友達付き合いなんて止めてやる。
「まあ、やっぱり敬子は地味だもんねー。魅力が無い訳じゃないけどさ。今のままじゃ
ちょっとね。もう少し女を磨けば、もしかしたら行けるかも。それでも理沙先輩には勝て
ないだろうけど」
 次々と追い討ちをかける友子を睨み付けて私は怒鳴った。
「もういいわよっ!! 別に私が兄さんを落とすなんて有り得ないんだから、そんな事話
したって無意味なだけだもの」
 クルリと背を向けてしまった私の背後に、友子がそっと近寄る。
「でもさあ。そんな敬子でも、一発逆転の必殺技があるのよ。聞きたい?」
「聞きたくないわよそんなものっ!! どうせロクでもないことでしょ?」
 両手で耳を塞ぐと、友子がいきなり、開いた両脇を指でツンッと突付いた。
「にゃああっ!! ななな、何するのよっ!!」
 脇から背中に、ゾクゾクッと悪寒が走り、私は思わず耳から手を離すと、両腕をしっか
り体にくっ付けて、文句を言いつつ振り向いた。
 その瞬間、友子がガシッと私に抱きつく。
「つかまえたっ。さあ、これで両腕はもう使えないわね。友ちゃん直伝の、どんなイケメ
ンでも一発で落とせる必殺技、聞いて貰うわよ」
「は、離してよっ!! そんなの興味ないんだから!!」
 私は、友子を振り払おうともがいたが、友子の方が力が強いのか、一向に離してはくれ
なかった。
「ダメダメ。敬子には、嫌でもちゃんと聞いて貰うんだからね」
 どうやら、友子は意地でも私に必勝法とかを聞かせるようだ。こうなっては、抵抗する
より、とっとと聞き流した方が手っ取り早いかもしれない。
 私はため息をついて言った。
「分かったわよ。そんなの、興味なんてないけど……聞くだけなら聞いてあげるから」
「任せなさいって。この通りにすれば、例え別府先輩にどんなライバルがいようとも、敬
子に靡く事間違い無しよ」
「だから兄さんは関係ないってば。そもそも兄妹なんだし…… もういいから、さっさと言って」
 もったいぶる友子に、苛立ちを込めて急かす。友子はもっともらしく咳払いなんてして
から、耳元で囁くように言った。
「だからね。こう……全裸になって、全身にチョコを塗ってさ。それからリボンを巻きつ
けるの。それで、潤んだ目付きで、『私を食べて……』って。こう言えば、敬子でも、別府
先輩を落とせること間違い無しよ」
 私は、驚きの余り背筋がビクンと跳ねた。その動きに私を抱き締めていた友子の腕が緩
む。咄嗟に私は立ち上がり、友子の方に振り返ると、彼女を思いっきり睨みつける。
 心臓はバクバクと大きな音を立てて脈打ち、自分でも顔が真っ赤になってると判るほどに熱い。
 一方で、暎子と美唯は大盛り上がりだった。
「きゃーっ!! そ、それってばさいっこう。うん。それなら色気のない敬子でも、間違
いなく男を落とせるわよ。正直、理沙先輩にも勝てるかも」
「やだ…… 普段大人しい敬ちゃんが、そんな大胆な事を……っていう、ギャップが最
高!! やってみて。是非!! あたしが相手でもいいからさ。お願い!!」
「バッ……バカバカしい!! する訳無いでしょ!! そんな事!!」
 私は必死でそれを拒否した。兄さんの前でそんな事なんて出来るわけない。恥ずかしく
て、多分耐えられない。
「でも、敬子が理沙先輩に勝てるとしたら、もうそれしかないのよ。勇気を出して、頑張れ!!」
 グッと声に力を込め、励ますように友子がいう。
「冗談じゃないわよ。もう……付き合ってられないわ!!」
 私は、憤然として怒鳴ると、みんなに背を向けた。
「あ、ちょっと!! 敬子!!」
 友子だか暎子だかが引き止める声がしたが、私は聞こえないフリをした。
――これ以上、こんなところにいたら……他に、どんな事を言われるか分かったものじゃ
ないもの
 三人に対する怒りより、兄への想いを抑えきれなくなりそうな自分に不安を抱き、これ
以上ボロが出ないように、私は足早に教室を去ったのだった。


――兄さん……私を……私ごと、全部食べて……お願い……
 キーンコーンカーンコーン
 チャイムの音で、ハッと、私は、ふしだらな妄想から我に返った。お昼休みの友子の言
葉が耳について離れない。
――全く……友子ってば、どうしてああいうスケベな事ばかり言うのかしら。ハァ……
 妄想を振り払おうと、図書室で読書をして帰ろうと思ってもみたのだが、むしろ妄想は
膨らむ一方だった。
「ハア……帰ろっと……」
 家の引き出しに、兄さんに渡すチョコは一応準備してある。私は料理はそうでもないが、
お菓子作りが得意でないので、買ってきたものである。もっとも、義理チョコのつもりで
渡すんだから、豪勢過ぎるのも良くないけど。
 私は、小さくため息をついて本を棚に戻すと、カバンを持って図書室から外へ出た。
 ちょうど、その時だった。
「あれ? 敬子じゃないか」
 背後からの声に、私は驚いて振り返った。
「にっ……兄さん?」
「よお」
 私の視線の先には、にこやかに笑って手を振る兄――別府貴志の姿があった。
「兄さん!! なっ……何でこんなところにいるんですかっ!! きょ、今日はその……
部活の方はどうなさったんですか!!」
 突然姿を現した兄に心を乱し、私は思わず詰問口調でしゃべってしまった。しかし、兄
は特に気にする様子もなく、返事をしようとした。
「ああ。それは――」
「わたくしが、お呼び立てしたからですわ」
 兄の言葉に割り込むようにして、それまで後ろに控えていた女性こと神野理沙先輩が、
口を出してきた。
「ちょっと生徒会の仕事が立て込んでて……それで、無理を言って貴志さんにお付き合い
いただいたの? ねえ」
「ああ。でも、まあこれも仕事の内だし。それに、おかげでいつもより少し早く帰れるわけで」
 親しそうに語る二人を見ると、何だかとても胸が痛い。
 その時、私は気付いてしまった。兄の片手に、大きな紙袋がぶら下がっているのを。
「まあ、せっかくだしお前も一緒に帰るか? どうせ同じ家に帰るんだし」
 兄の誘い。だけど、今はちっとも嬉しくない。
「それはいいですわね。私、まだ敬子さんとは余りお話したことがありませんし。そうだ。
もし良かったら、少し寄り道して、お茶でもご一緒なさらない? せっかくの機会ですし……」
 冗談じゃない。そんな事…… 仲良く二人でいる姿を見せ付けられるなんて、御免だ。
「せっかくですけど……」
 震える声で、私は答えた。唇を、ギュッと噛み締める。
「え?」
 理沙先輩が、不思議そうに聞き返したが、私は構わずに答えた。
「せっかくの、お誘いは有り難いのですが……私、兄さんとなんて帰りたくありませんから」
 そう言い捨てると、私はクルリと背を向けた。
「あ、おい。敬子!!」
 兄が慌てたように私を呼ぶ。しかし、私はその言葉など聞こえなかったかのように、そ
の場から駆け去っていった。


トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system