その16 ハロウィン狂想曲

チンとオーブンが焼き上がりを伝える。そっと、ドアを開けると香ばしい匂いが部屋中に広がった。
焼き色も上々、かなりの自信作。
形を崩さないように、そっとお皿に移してテーブルに置く。
『ふぅ・・・これで・・・よし』
ディナーの準備は全てOK。あとは、パーティドレスに着替えるだけ。
自分の部屋に戻り、ドレスの入った袋を手に取る。
中身は見てないけど、演劇部の霞ちゃんが『一押し』と言って貸してくれた衣装。
どんな衣装だろう・・・魔女かな?それともミイラかな?
そう、今宵はハロウィン。幽霊や怪物、そしていたずらっ子が町を闊歩する日。
兄が帰ってくるまでまだ時間があるので、引き出しから昔の日記を取り出す。
パラパラとめくり、10年前のハロウィンを探は・・・あった、これだ。

[はろいんのひ にぃににいたずらたのしかった]

ふふふ、ハロウィンもやっぱり兄と一緒に過ごしたらしい。
目を閉じて、日記を胸の上に乗せる。二度三度と呼吸をすると、いたずらっ子の私に戻っている。

『んしょ・・・んしょ・・・これで・・・よしっと』
ガチャ
「ただいま〜・・・うわっ、ビックリした。何の格好だよ?」
『ねこまたちなみんです・・・にゃー・・・にゃー・・・』
「へぇ〜、ネコ耳に尻尾2本つけて猫又か。可愛いな」
『か、かわいいとか・・・いっちゃ・・・めー・・・です・・・ねこまたちなみんは・・・こわいのです』
「どの辺が?」
『・・・』
かぷっ
「うわっ、手、手を噛むな」
『ふししし・・・はむはむ・・・なのです』
「分かったよ、猫又ちなみんは怖いな」
『ふに・・・わかれば・・・いいのです』
「んで・・・そんな格好してどうしたの?」
『あ・・・すっかり・・・わすれてた・・・です』
「何を?」
『にぃに・・・とりっく・・・おあ・・・とりーと』
「あ、今日はハロウィンか」
なでなで
『うにぃ・・・なでなで・・・めー・・・なの』
「悪戯かお菓子・・・か。ちなみはどっちがいいの?」

『もちろん・・・おかし・・・です』
「じゃぁ、一緒に買いに行くか?」
『む・・・よういしてい・・・これは・・・いたずら・・・けってい・・・なの』
「そんな急には無理だよ?」
『もんどーむよー・・・です・・・』
こちょこちょ
「あはは、こら!くすぐる・・・あはっは・・・や、やめ・・・」
『ふふふ・・・くるしんでる・・・です・・・ざまーみろ・・・なのです』
「ちなみ!」
『ふぇ・・・?』
ぎゅ・・・
「どうだ?これで悪戯できないだろ?」
『ぎゅ、ぎゅっ・・・って・・・しちゃ・・・めー・・・ずる・・・いくないよ』
「お菓子買ってくるから・・・許してよ?」
『やだ・・・いたずら・・・しゅりゅもん』
「じゃ、ずっとこのままだな」
『しょうがない・・・じゃ・・・このまま・・・ずっと・・・ざんねん・・・なの』
「本当は、ぎゅってしてて欲しいんだろ?」
『ち、ちがうもん・・・いたずら・・・したいだけ・・・それだけだもん・・・ふ〜んだ』
「じゃ、俺からもトリックだ」
わしわし
『ふにゃぁ・・・わしわし・・・くしゅぐったい・・・いたずら・・・しちゃ・・・めー・・・なのぉ』

ガチャと玄関の開く音で甘美な回想から引き戻される。まずい、まだ着替えてないのに兄が帰ってきた。
急いで袋から衣装を取り出す。それを広げて唖然。
『う・・・そ・・・』
広げたそれは、まるで水着のような衣装だった。添えられた手紙にはこう書いてある。
『この衣装でお兄ちゃんを誘惑しちゃえ! ―かすみ』
あの・・・気持ちは嬉しいんだけど、ちょっと・・・方向が違うよ霞ちゃん!
天井に向かってそう思ったところで、替えの衣装が出てくるはずもない。
足音はどんどんと部屋に近づいてくる。どうしよう・・・どうしよう・・・。

コンコン
「ちなみ、いるか?」
『い、いる・・・けど・・・開けちゃ・・・ダメ』
「何でだよ?」
『ま、まだ・・・着替え中・・・だから』
「じゃ、台所で待ってる」
そう言い残すと、足音は遠ざかって行った。とりあえず衣装は着てみたものの、やっぱり恥ずかしい。
さらに言えばサイズが合っていなくて、胸の辺りがスカスカしている。
これ・・・上のほうから見られたら、丸見えなんじゃ・・・?
兄の方が身長高いから、もし近寄ったら・・・。考えただけで、体が熱くなってきた。
こんな調子じゃ、まともに話もできないかも。で、でも・・・霞ちゃんの言うとおり、逆に
兄からって可能性も・・・。
なんだかイケナイ妄想をしちゃいそうなのを、ぐっと堪えて台所へ向かう。後は何とでもなれ、だ。

台所へ付くと、兄は椅子に腰掛けていた。まだこっちには気が付いていないので
そっと近づいて、手で目を覆い隠す。
「お、何だよ?」
『最初に・・・言っておく・・・』
「え?」
『こ、今回の・・・服は・・・手違い・・・だから・・・質問とかは・・・受け付けないから』
「は?何だよそれ?」
『返事は?』
「はいはい、わかったよ」
そう言うと、するりと私の手を抜けて、こちらを向く。
「えっと・・・?」
『さ、サキュバスちなみんです・・・ソウルフィスト・・・ソウルフィスト・・・』
足先から顔までじっくりと見ていく兄。うぅ・・・やっぱり恥ずかしい。
「なんつーか・・・エロいな」
『え、エロいのは・・・バカ兄の方・・・痴漢・・・変態・・・変質者・・・覗き魔』
思いつく限りの言葉で罵倒したものの、一向に体の火照りが消えない。
ドキドキしてくるし・・・体は熱いし・・・もう、頭がグルグルしてきたよぉ。
「お決まりのセリフは言わないのか?」
その言葉で、ちょっと正気に戻る。お菓子をもらって、私の自信作の料理を褒めてもらえば
なんとかいつもの私に戻れるかもしれない。
『い、今から・・・言うところだったの・・・えっと・・・トリックオアトリート』
う〜んと考え込む兄。しばらく経ってから・・・にやりと笑ってこう言った。
「サキュバスから悪戯したいって、非常に魅力的な響きなんだが」
爆発したかと思う位、顔が赤くなった。悪戯・・・いたずら・・・イタズラ・・・はわわわ。
頭の中では、兄にえっちは悪戯をする妄想が駆け巡る。
「あはは、顔赤いぞ?」
『う、うるしゃい・・・誰のせいだと・・・もってりゅ・・・』
自分でもわかる位、呂律も回らない。はぅぅ、気絶すんぜんだよぉ。
じっと兄の顔を睨んでいると、くすっと笑った。人がはわわってしてるのを楽しんでるのだろうか?
「ちなみ、洗面所に行って顔洗ってきな?落ち着くから」
そう言って、タオルを手渡してきた。
私はそれを乱暴に受け取ると、ツカツカと洗面所へ歩いて行く。これ以上かっこ悪い所見せられないしね。

顔を洗って、少しクールダウン。着替えてこようかと思ったけど、この格好にも慣れてきたし
もったいないから着ている事にした。あと、霞ちゃんには明日お説教をしてやろうと思う。
台所へ戻り席へ付くと、兄から紙袋を手渡された。
『これは・・・?』
「トリートの方」
袋の中身はお菓子が一杯入っていた。これで悪戯は出来なくなってしまったようだ。
何か、ちょっぴり残念・・・って、何考えてるんだ私!
いただきます、といって兄は料理を食べ始めた。私も追って食べ始める。
「このかぼちゃパイ、美味しいな」
『私が・・・作ったんだから・・・美味しいのは・・・当たり前・・・』
兄が褒めてくれるのを嬉しく思いつつも、口からは照れ隠しの言葉しかでていかない自分を
やっぱり恨めしく思う。

テーブルの上があらかた綺麗になったところで、兄が近寄ってくる。
「美味しい料理のご褒美だ」
そういって、兄は頭を撫でてくれた。
『当然の・・・報酬・・・受け取ってやる』
私はしばらくされるがままを楽しんでいた。しかし、ピタリ手が止まる。
「お前・・・ブラつけてないのか?」
再び体が熱くなる。そして、そのまま兄に抱きつく。
『ば、バカ兄・・・み、見るな・・・』
「わ、分かったから離せよ」
『は、離れたら・・・見える・・・そんなの・・・無理だから・・・』
もう今日はこのままずっと居ようと決めた。だって・・・それを言い訳に一緒に寝れるもんね。
困った顔をする兄をそのまま布団に引きずり込む。そういえば、今の私はサキュバスなんだから
ある意味当然の行動だよ?な〜んてね、えへへ・・・。


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