その19 秋の夜長に想う

宿題も夕食も済み、自室で音楽を聴きながら携帯ゲーム機を弄くる。
かれこれ何年もやり続けているダンジョン探索ゲームで、本来6人パーティで進めるところを
2人パーティで進めている。
もちろん、キャラクターの名前は「たかし」と「ちなみ」。
遭遇する敵を瞬時に倒して先進みボスの部屋へ。そして、ボスすらも1撃で倒して宝箱を手に入れる。
『う・・・また・・・ハズレ・・・』
中身にガッカリしつつ、町に戻ってセーブして電源を切る。
現実でも、ゲームみたいに二人で仲良くどこかへ行きたいなぁ。もちろんダンジョンに行くのは困るけど
お買物したり、ゲームセンターへ行ったり。
そんな風にしてたら、恋人同士に見られちゃうかな?
恥かしいけど・・・でも、今はまだ「ただの兄妹」だから、せめて他の人からはそう見えて欲しい。
いつか現実になった時の予行演習として。
そんな事を考えていたら、たまらなく兄の顔が見たくなった。けど、顔を見に行く事すら何かの理由が
ないと実行できない自分が恨めしい。『顔が見たかったから』って言うだけなのに。
寝るには少し早い時間だけど、音楽を止めてベットに入る。
冷えた布団がより一層に人恋しさを膨らませるような感じがして、居ても立っても居られない。
壁一枚隔てた向こうに思いの主がいるのに・・・素直に逢いにいけないもどかしさ。
結局昔の日記を取り出し、思い出の中の兄に逢いに行く事にする。
目を閉じて、空を飛ぶように記憶の空間を越えて、大好きなあの人の元へ・・・。

「ちなみ、もう良い子は寝る時間だぞ?」
『まだ・・・げーむ・・・やりたいです』
「ほら、そこセーブポイントだから。区切り良いだろ?」
『うるさい・・・ちなが・・・やるったら・・・やるの・・・』
「先に歯磨きしちゃうぞ?あ、その前に残ってたクッキー食べちゃおうかな?」
『め、めー・・・です・・・くっきー・・・ちなも・・・たべる・・・』
「じゃ、こっちきて食べようよ?」
『う・・・いま・・・いいとこ・・・もってくるです・・・』
「ったく・・・わがままだな。ほら、あーん」
『あ、あーん・・・』
「美味いか?」
『もぐもぐ・・・にぃにに・・・あーん・・・させられたから・・・おしくない・・・』
「そうかよ」
『で、でも・・・いま・・・て・・・はなせない・・・だから・・・しょうがない・・・あーん』
「俺にあーんさせられると、美味しくないんじゃないの?」
『で、でも・・・くっきー・・・たべたい・・・だから・・・』
「ったく・・・ほら、あーん」
『もぐもぐ・・・えへへ・・・』
「なんか飲むか?」
『んに・・・ぎゅうにゅう・・・が・・・いいです』
「じゃ、ゲームやめて台所いこ?」
『えー・・・』
「最後の1枚食べちゃおうかな?」
『め、めー・・・それ・・・ちなが・・・たべるの〜・・・まつです〜』

『ん〜・・・きょうは・・・げーむ・・・いっぱいしたし・・・くっきーも・・・おいしかった』
ぽふっ
『にっきも・・・かいたし・・・あとは・・・ねりゅ・・・だけ・・・ふぁ〜〜・・・くぅ〜・・・』
「ちなみ・・・って寝てるか。おやすみな、ちなみ」
『くぅ〜・・・くぅ〜・・・』

『(んに・・・なんか・・・おまた・・・あったかい・・・です・・・)』
がばっ
『ふぇぇ・・・や、やってしまった・・・です・・・どうしよ・・・どうしよ・・・』
とてとて
『にぃに・・・おきてる・・・?』
ガチャ
「うん?ちなみ?どした?」
『あ、あの・・・その・・・えっと・・・』
「どした?」
『んと・・・』
「ほら、ちゃんと言ってごらんって」
『に、にぃにが・・・ねるまえ・・・ぎゅうにゅう・・・のませるから・・・わるいです』
「は?」
『ち、ちなは・・・わるくないよ?だから・・・にぃにが・・・せきにん・・・とって・・・なの』
「あれ?ズボンは?」
『・・・』
「そっか、しょうがないな」
なでなで
『あ、あの・・・』
「何も言わなくて良いよ。着替えてお兄ちゃんの部屋においで?」
『はい・・・なのです』

「じゃ、電気消すよ」
ぱちっ
『にぃに・・・ちょっと・・・さむい・・・です』
「体、冷えちゃったかな?」
ぎゅ・・・
『ふぇ・・・ぎゅー・・・しちゃ・・・』
「嫌か?」
『・・・がまん・・・したげる・・・です』
「暖かい?」
『・・・(コクン』
「じゃ、寝ようか?明日はいい天気だから、お布団干そうな?」
『くぅ・・・』
「なんだ、もう寝ちまったのか。ふぁぁ・・・俺も寝るか・・・」

がばっ
「・・・マジで?」
『あー・・・にぃにも・・・おねしょ・・・です』
「ちなみ・・・お前、2回目か?」
『ち、ちなじゃ・・・ないもん・・・これは・・・にぃに・・・だもん』
「じゃ、何でちなみのズボンが濡れてて、俺のズボンは濡れてないんだ?」
『き、きっと・・・にぃにが・・・ちなに・・・かけた・・・』
「そんな事するならトイレにいくよ!」
『うぅ〜・・・ぐすっ・・・』
「わ、悪かったよ、大声出して」
『ふぇぇぇん・・・ごめん・・・なの・・・ちな・・・また・・・しちゃったの・・・ふぇぇぇ』
「あー、よしよし、そういう事もたまにはあるよな」
『ふぇぇぇぇん・・・にぃにの・・・ひっく・・・おふとん・・・ふぇぇぇぇん』
「こんなの干せば平気だから、な?」
『ぐしゅぐしゅ・・・おこって・・・ないの?』
「怒りはしないけど・・・起きれなかったの?」
『だって・・・』
「何?」
『おふとん・・・ぬくぬく・・・で・・・でたくなかった・・・』
「はぁ・・・そうですか」
『そ、それに・・・にぃにが・・・ぎゅー・・・してたから・・・でれなかった・・・です』
「じゃ、今回はおにいちゃんが悪かったってことで」
『も、もちろん・・・さいしょのも・・・いまのも・・・ぜんぶ・・・にぃにが・・・わるいです』
「はいはい。じゃ、着替えたら下のソファーで寝よっか?」
『はい・・なのです』
「・・・3回目はなしだからな?」
『あ、あたりまえ・・・です・・・そんなの・・・するわけない・・・』
「するわけないを今したじゃんか?」
『む〜〜〜・・・もう・・・しないもん・・・へーきだもん・・・ぷくぅ〜〜〜』
「わ、悪かったよ。信じるから・・・な?」

『にぃに・・・せまい・・・』
「さすがにソファーに二人は厳しいか?」
『もっと・・・ぎゅって・・・して・・・そうすれば・・・もうすこし・・・だいじょうぶ』
「うん」
『にぃに・・・』
「ほら、おしゃべりはそのくらいにして。寝ようぜ?」
『・・・』
「・・・」
『にぃに・・・ごめんなの・・・あと・・・ありがと・・・』
「ぐぅ〜・・・」
『ねちゃった・・・?』
「・・・」
『にぃに・・・だいすき・・・だよ?』
「俺も好きだよ」
『ふぇ!?・・・おきて・・・?』
「今のは寝言」
『そっか・・・びっくり・・・したです・・・おきてたら・・・たいへん・・・』
「・・・」
『にぃに・・・おやすみ・・・です』

目を開て、思い返す。やっぱりおねしょは恥かしい・・・しかも2回もって。
しかし、そんな思い出に浸ったら、余計に一人が寂しく思える。どうしようか悩んだ挙句、枕を掴んで
兄の部屋へ行く事にした。
ドア越しに聞こえるパソコンのキーボードを叩く音。・・・まだ起きてる、と思うと顔がにやける。
「こんな時間にどうした?」と聞かれた時の答えは3通り用意した。
勇気を振り絞って、ドアをノックして入る。
「こんな時間に・・・夜這いか?」
想定外の問いかけにあせる私。頭の中が真っ白になって、体は火照って。
しかも・・・なんで夜這いだなんて・・・半分あってるけど、そんな事出来るわけないのに。
兄は焦る私を見てニヤニヤしながら、ベットを指差す。
「先に入って暖めてくれよ。すぐ終わらせるからさ」
そう言って、再びパソコンへ向き直る。
長年一緒に住んでるんだし、私の行動なんてお見通しなんだろうけど、見透かされたようで面白くないな。
『だ、誰も・・・一緒に寝るなんて・・・言ってない・・・』
とりあえずの抵抗を試みた。兄は再びこちらを見て・・・視線をちょっと落として苦笑い。
「枕持って来てるのに、その言い草はねーよな」
恥かしさのあまり、兄の顔めがけて枕を投げつける。
『ま、枕投げ・・・ストレス解消に・・・た、ただ・・・それだけ・・・だから!』
枕は、とっさにあげた腕に当たって跳ね、ぽすっと音を立てて落ちた。
肩をすくめて、作業に戻る兄を、私はただ睨みつけるしかできなかった。

ベットの上には、二つの枕がこれからの二人のように寄り添って並んでいる。


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