第11話『トラブル・トラベル―京都・観光編―」

修学旅行2日目。タカシ達は京都観光のために、再びバスに乗っていた。
天気は快晴。ポカポカと照りつける朝日がなんとも心地よく、京都観光への期待も相まって、皆の顔も自然とほころぶ。
だが、その中で1人、あからさまに不機嫌な顔で黙り込む人がいた。
タカシである。彼は窓際の席に座り、憮然とした顔で外の風景を眺めている。
その隣に、今日は尊が座り、タカシにあれこれ抗弁していた。
尊「昨夜は…すまなかった…その…早合点だったとは思う…許してくれ…」
タ「僕は別に怒ってなんかいないさ」と言いつつあからさまに不機嫌な口調で話を続ける。
タ「木刀で殴られたところが未だに痛くて湿布を貼ってはいるものの痛みが退くのは大分先だろうとか」
タ「あれから朝まで起きなかったから『付き合いの悪い奴』って他の先生方から睨まれたとか」
タ「そんなことは全然気にしちゃいないさ。うん全然」言いながらまた腹が立ってきたのか険悪なオーラが増した気がした。
尊「う…だからスマンと言っているだろうが…大体…あんな体勢になっていれば誰でも誤解するだろう」
タ「まあね。それは認めるけどさ」
タ「でもとりあえず話を聞くとかせめていっぺん深呼吸して落ち着いて考えてみるとかしてみてもいいんじゃないかな?」
尊「うぅ…」正論を吐かれ二の句が告げない。青菜に塩とばかりに、シュンとなって黙り込んでしまった。
しばらくタカシはそんな尊の様子を見ていたが、険しかった顔を緩め、尊に話しかけた。
タ「そんな顔をしないでくれ…まるで僕が悪者みたいじゃないか」
尊「だって…謝っているのに、大人気ないではないか…貴様は…」何処となく拗ねた調子で答える。
タ「まあ、確かにな。まあ、偶然と悪いタイミングが重なった不幸な事故だったと思うことにするよ」
タ「もう気にしてないから、そんな悲しそうな、寂しそうな顔をしないでくれ。僕まで悲しくなるから」
尊「許して…くれるのか?」
タ「ああ。だけど、木刀を持ち出す前にとりあえず落ち着いて考えよう。な?」
尊「ああ、これから気をつけよう」
タ「そうだな。これからしっかりすればいいさ」そういうと、タカシはにこりと微笑んだ。
尊「分かった」尊は、タカシに釣られるように笑顔になっていた。
タ「それだ。その顔だよ」
尊「…?」
タ「御剣は、笑ってる顔が一番可愛いってことさ」
尊「ななな、いきなり何を言うか!(//////)」
タ「ん?なんかおかしなことでも言ったか?」
尊「コレだから貴様は…いつもいつも何食わぬ顔で顔で私達をやきもきさせて…」
尊「お前のその様な言葉でどれだけの人間が心穏やかでいられないか…」
タ「…さっきから何を言ってるんだ御剣?」
尊「…やはり許せん!貴様のような奴は今ここで成敗してくれる!」
タ「御剣!?何故お前はおもむろに木刀を構えるっていうかさっきいっただろ!?先ず落ち着け!?」
尊「うるさいうるさい!天誅ー!」
バスの中であるにもかかわらず、木刀を持って尊はタカシに踊りかかっていた。
タ「痛い痛い痛い!誰か助けて!」必死にガードしながら悲鳴を上げるタカシ。
それを見ていたかなみたちは、
梓「まあ、今日のところは殴られとけば〜コレはタカシの方が悪いって」
リ「ま、当然の報いですわね」
勝「まあ、大人しく殴られとけ」
泉「せやせや。コレばっかは尊に同感やな〜」
纏「家電製品とかは叩くと直ると聞く。その性根も叩き直してもらうとよいわ」
ち「…自業自得…」」
か「まあ、いっぺん大人しく痛い目にあって懲りればいいんですよ」
タ「僕が何をしたっていうんだー!」悲鳴をあげるタカシ。
1−Bのほかの生徒はタカシの冥福を祈るしかなかった。
バスが目的地につく頃には、タカシはボロ雑巾のようになっていた。

数時間後。タカシ達は午前中の予定を終え、談笑しつつ、昼食をとっていた。
梓「金閣寺ってホントに金色なんだね〜ピカピカですごかった〜♪」
纏「正確には北山鹿苑寺金閣じゃがな。にしても…もっとマシな感想を言えんのか…」
梓「だって、そう思ったんだから別にいいじゃん」その言葉に纏はあきれたようにため息をつく。
纏「…まあ、お主の様な子供に風情とか趣とかワビサビとか、そういうものをを解れという方が無理かの…」
梓「むき〜!子供扱いするな〜大体纏ちゃんだって同い年じゃん〜」
纏「精神年齢のことを言うておる。外見に中身が追いついておらんのじゃ」
梓「む…あ、でもそれ言うなら纏ちゃんはおばさん臭いよね〜いや、おばあさん?」
纏「…人が気にしている事を…そういうことを言うからお主はガキだと言うのだ…」
梓「なんだと〜!?」
纏「なんじゃ、文句でもあるのか?」
顔を寄せ合い、睨みあう2人。とたんに険悪なムードが漂い始める。それを見たタカシがあわてて制止に入る。
タ「よさないか2人とも。周りには他の客もいるんだぞ?」
纏+梓『うるさい!』2人がタカシに一喝する。
タ「うっ…」思わずひるんでしまうタカシ。
勝「おいおい…その程度で引き下がるなよ…情けねえな…」
タ「うるさいな、これからだよ、これから!」気を取り直すと、先ずタカシは梓に話しかけた。
タ「小久保」
梓「何さ?」
タ「誰にだってコンプレックスの1つや2つあるだろう。お前だって子ども扱いされたりしたら怒るだろう?」
梓「まあ、そりゃあそうだけどさ…」
タ「だったら、他人に対しても傷つけるような言葉は控えろ。自分が嫌な事を人にするんじゃない」
タ「その程度、出来ないようじゃ、いつまでたっても子ども扱いされるぞ。分かったな?」
梓「ほ〜い…」
纏「その通りじゃ。タカシ、よくぞ言うてくれたの」
タ「纏、お前もだ」
纏「なっ…」
タ「小久保は素直な感想を言っただけだし、人の価値観なんて十人十色だ」
タ「お前が素晴らしいと思った物を、他の人間が否定したりその良さを分からなかったとしても、安易に非難したり否定するな」
タ「むやみに敵を増やすだけでロクな事がないぞ。分かったか?」
纏「…分かった…」
タ「よし、2人共、素直な事はいいことだ(ナデナデ)」
梓「あぅ…頭を撫でるな〜(//////)」
纏「な…何をするのじゃ、梓なら別じゃが、儂は頭を撫でられても嬉しくもなんともないぞ(//////)」
そうは言っているものの顔が緩むのを抑えられない二人。まったくもって説得力がなかった。
タ「まあまあ、いいじゃないか」そういいつつ2人を撫でていたタカシだったが、
タ「………………!?」急に殺気を感じて体を硬直させた。
殺気が伝わってくる方向を見ると、かなみたちが睨んでいる。怒りがオーラとなって陽炎のように立ち昇っているように見えた。
タカシは震える声で恐る恐る聞いた。
タ「あ、あの…キミタチ?何をそんなに怒っているのかな?」
か「先生こそ、何してるんですか?生徒にベタベタと…セクハラですよ?」
ち「…変態…」
勝「説教はともかく、頭を撫でる必要はねぇだろ?調子に乗るんじゃねえっての」
リ「女性に気安く触るなど…うらや…汚らわしいですわ!」
泉「まったくや。こんの色魔が。慰謝料請求されてもしかたないで?」
尊「節操がないというのは教師云々以前の問題だな…話にならん!」
タ「頭撫でたくらいで何でそこまで言われなきゃ…(ギロリ!)…ナンデモアリマセン」
か「とにかく!これ以上一緒にはいられません!午後の自由行動はは私たちだけで行きますから!」
タ「いや…元からそうだろ…?普通先生がついていったら自由行動にならないし」
か「と…とにかくっ!先生はついてこないでくださいねっ!」
タ「わかったよ。まあ、楽しんでこい」
タカシのその台詞を言い終わらないうちにかなみたちは行ってしまった。
タ「まったく…何をそんなに怒ったのかな…?」
首を傾げるタカシ。それを見ていた高瀬は、
高「鈍感も度が過ぎると罪ね…」と呟いた。
クラス全員、同感だった。

自由時間中は何か緊急事態でもない限りは、教師も手が空く。
まさに教師にとっても生徒にとっても羽を伸ばす絶好の機会と言うわけである。
タカシもその時間でどこかに行こうとは思うのだが、いざとなると何処へ言ったらいいか分からない。
タ(有名な神社や仏閣、寺院とかは午前中に言っちゃったしな…さてどうする?)
タ「まあ、ぶらぶら歩きながら考えるか」そう1人ごちると、当てもなく歩き出した。
ただ歩いているだけでも、やはり京都は歴史ある街である。
風情ある古きよき町並みが、心を癒してくれるような気がする。
タ(学生時代は見てもなんとも思わなかったんだけどな…やっぱり年なのかな?)心の中で自嘲気味に呟く。
しばし歩いていると、突然声がかけられた。
?「何処に向かっているんどす?」
タ「ん?(京都弁?…にしちゃ何かおかしいな…?)」
その声に振り向くと、それは舞妓さんの一団だった。8人もいる。どの舞妓さんも、色鮮やかな着物に身を包み、とても綺麗だった。
その中の1人が、タカシに話しかける。
舞「実は、道に迷ってしまいましてな、案内してもらえませんやろか?」
タ「え!?そんなこと言われてもな…僕も旅行で来ただけだから、あまり分からないんですよ…」
舞「…そんなこと知ってるわよ」と、ポツリと呟く。
タ「…今なんて?」
舞「いえ、残念だ…と言ったんどす」
タ「そうでしたか。まあ、それでも何か力になるかもしれません」
タ「ここであったのも何かの縁。一緒に行きましょう」
舞「ふふ…ナンパどすか?」
タ「いえいえいえいえ、そんなつもりは滅相もありませんよ(//////)」顔を赤らめつつ必死に否定するタカシ。
舞「冗談どす…それじゃ、御一緒させてもらいます〜」
こうして、タカシは舞妓(?)の一団をつれ、京都の町並みを歩き出した。

タ「まあ、京都の町の構造はそれほど複雑じゃない。何とかなるでしょう」
タカシはあっけらかんと言う。根が楽観的なのだ。
タ「とりあえず、京都駅にでも行きますか。とりあえずそこまで行けば何とでもなりますよ」
舞妓さんはその言葉に静かに頷くと、しずしずと歩き出した。
しばらく歩いていたが、タカシは妙に落ち着かない気分だった。
タ(それにしても綺麗な娘さん達だなぁ…)
タ(かなみたちもこれくらいおしとやかだったらなぁ…僕もやりやすいのに…)
舞「それにしても、その顔、どこかで見たことがありますなぁ…どこかでお会いしたような」
タ「え?いやそれはないでしょう。貴方たちみたいな人をそう簡単に忘れるはずは…」
舞「そうでっしゃろか…?毎日の様に会ってるような気がするんどす…」
タ(いきなり何を言いだすんだろう?今日会ったばかりだって言うのに…)
舞「まだ…わからないんどすか?」
タ「わからないも何も…今日あったばかりでしょう?」
舞「本当に…?」
タ「はい。本当ですとも」
舞「…ぷっ」いきなり舞妓さんの1人が吹き出した。それにつられるように舞妓さん全員が大笑いする。
さっきまでのおしとやかな様子は何処へやら。破顔一笑とはこのことだ。
?「あはははは…タカシってば全然気がつかないし〜もうボク我慢できないよ〜♪」舞妓さんの1人がそういってきた。
タ「その声…その喋り方…まさか、小久保か!?」
梓「あったり〜♪気づくの遅すぎなんだよバ〜カ♪」
タカシは唖然となった。
タ「まてよ?って事は他の舞妓さんたちも…」
か「そういうことです。しかし今日会ったばかりって…生徒を前にしておきながら…あはははは♪」
リ「ふふ…まったく…見る目がなさすぎですわね。品性を磨いたらどうですの?」
ち「…大成功」
勝「ホント、結構バレねぇもんだな…まあ、タカシは気づかなすぎだけどよ…はは」
尊「…ふ、精進が足らんな」
纏「まったくじゃ…多少化粧して着飾ったくらいで…」
泉「うろ覚えの京都弁やったけど、ケッコばれないもんやな〜まあ、タカシやしな」
皆笑いすぎて涙が浮かんでいる。
まさかここまで化けるとは。タカシは驚くしかなかった。
タ「いや…今回ばかりは僕の完敗だな…まったく気づかなかった…」
泉「まったく、ダメな教師もいたもんやな〜ま、お詫びになんか奢れや。それでカンベンしたるわ」
その言葉にかなみたちが頷く。
タ「わかったよ…はぁ」財布が大分軽くなることを想像して、タカシはため息をついた。
タ「結局そうなるのか…君たちだけで行こうとしたのはそういうことか…やられたなぁ…」
尊「そんな事よりも、私たちを見て何か言う事があるのではないか?」
タ「へ?…う〜ん、気づかなくてゴメン、かな?」
リ「違いますわ」
タ「…コレからは、もっと注意深く生徒を見ます?」
勝「ぜんっぜん、的外れだな」
タ「何が食べたい…とか?」
纏「はあ…どうしようもない奴じゃの…」
か「綺麗だなーとか、可愛いよーとか、そのくらい言えないんですか?もう…」
ち「…気が利かない…」
梓「オトメゴコロって奴を理解してないんだから、タカシは〜」
タ「なるほど、そういうことか…はは」
リ「何がおかしいんですの?」
タ「いや…」
タ「君達に初めてあったときからそんなこと分かりきってたから」
タ「そんなこと今更言うまでもないかな?って思ったのさ、ゴメン」
タ「いまガイドマップ見たんだけど、近くに美味しいあんみつが食べられる茶屋があるんだ。そこに行こう」
そうすまして言うタカシの傍らに立ち尽くしながら、かなみたちは耳まで真っ赤になっていた。


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