第13話『トラブル・トラベル―帰宅編―』

タカシ達は、大阪のホテルを出発し、バスに乗る事10数分、大阪駅にたどり着いた。
そのまま新幹線に乗り、その後バスに乗ってVIP高校前、あるいは最寄のバス停や駅などで各自解散の予定だ。
新幹線に乗り込んで程なく、新幹線が動き出す。
旅行先で買ったものを見つめ、にやけている者。
旅の疲れが出たのか、ぐったりしているか、あるいは寝ている者。
旅の思い出を楽しげに語り合う者。
思い出に浸っているのか、それとも我が家のことを想っているのか、ぼんやりと車窓の風景を見ている者。
生徒たちは思い思いの行動に移りながら、旅行の最後の時間を過ごしていた。タカシはそんな生徒たちの様子を見て、微笑んだ。
タ(僕も学生時代はこうだったんだろうな…)旅行の終わりという状況が生み出す寂寥感も後押しして、感傷的な気分になる。
だが、次の言葉がタカシのそんな気分をぶち壊しにした。
か「なにをニヤニヤしながら黄昏てるんですか、気持ち悪い。新幹線に酔って頭がおかしくなりましたか?」
その言葉を寄越したのは、隣に座っているかなみだった。
タ「うるさいな、別にどうだっていいだろう。大人しく座ってろ」タカシは憮然とした顔で言葉を返す。
か「言われずともそうしますよ。まったく、私だって好きで隣になったわけじゃないんですから」
タ「…行きの時も思ったけど、僕の席の隣に座る人を決めるためにジャンケンまですることないだろ」
タ「そんなに僕の隣に座るのが嫌かい?皆イヤに気合が入っていたように思えるけど」
か「そりゃあ、年の離れたオジサンよりも、カッコいい男子や親しい女友達と座った方が楽しいですから」
タ「あーそうですか…でもオジサンはないだろ…地味にショックだ…」
か「だったら、もうちょっと元気だしたらどうです?そしたらお兄さんに格上げしてあげなくもないですよ?」
タ「そういうことか…最初から素直に元気出してくれって励ましてくれよ…」タカシは苦笑交じりのため息をついた。
か「別にそんなんじゃないです。単に先生がキモかっただけですから!自惚れないで下さい!」
タ「はいはい」タカシは再び苦笑した。
タ「しかしまあ、椎水も運がないんだな。2度も僕の隣なんて」自嘲気味に苦笑しつつタカシが言った。
か「逆です。運、よかったんですよ…」彼女は小さい声で呟いた。
タ「ん?何か言ったか?」
か「べ、別に何でもないですよっ(/////)」
タ「?なに顔を赤くしてるんだ?」
か「先生には関係ないです!そんなにじろじろ見ないで下さい(//////)」
タ「そうか…それにしても、結構いろんなことがあったな。この旅行は」感慨深げにタカシが言う。
リ「確かに、担任の教師に遅刻されるなんてとても貴重な経験、そうはできませんわね」
近くの席にいたリナが後ろの席から顔を出し、そう言いながら意地悪く笑う。
タ「う…神野か…」
リ「私も話に入れてくださらない?少々退屈しておりましたの」
か「…別に良いんじゃないの?」そう言いながらも、かなみの顔にはとても僅かではあるが、落胆の色が浮かんでいた。
タ「それじゃ、席を回転させるか」
そう言ってかなみを立ち上がらせ、自分も立ち上がると座席を回転させ、後ろの席と向かい合うようにした。
後ろの席にはリナと梓が座っていた。
タカシは梓を見て微笑ましいな、と思った。
梓は座席を限界までリクライニングさせ、爆睡していた。口の端から、微かに涎が垂れている。
小さい子供が疲れを忘れはしゃぎ回り、夜になるとゼンマイが切れたようにパタッと眠り込む事があるが、それと同じだ。
タ「まったく…コレじゃ子供扱いされてもしょうがないな…まあそこが可愛いんだけど」
タカシのその他意のない言葉に、かなみとリナが一瞬思い切り険しい顔をしたのだが、
幸か不幸かタカシはその事に気付く事はなかった。
梓「ムニャムニャ…う〜ん…タカシぃ〜…」
タ「なんだ?寝言を言ってるようだが…」
タ「この様子だと、夢に僕が出てるのか…なんだか複雑な気分だな」
か「それは梓ちゃんが可哀想ですね」
リ「ええ、とても不憫ですわ」
タ「…お前ら、僕が何言われても傷つかないとでも思ってるのか?」
か「そんなことないですよ。ただ先生に気遣いする必要性をまったく、これっぽっちも感じないだけで」
リ「私のような高貴な生まれの者が貴方のような庶民に何を遠慮することがあるのです?」
タ「そうだな、君達にそんな質問をした僕がバカだった…お?まだ小久保の奴何か言ってるな…」
梓「…タカシぃ〜…のば〜かア〜ホ間抜け〜…」
タ「…永遠に眠らせてやりたくなってきたな…とりあえず一発殴ってもいいんじゃないかと思うんだがどうか?」
リ「寝言にいちいち突っ込んでどうするんですの…?それよりまだ何か言ってますわね…」
梓「ムニャムニャ…でもそんなタカシがす」
リ「てい」梓の鳩尾にリナの手刀が直撃した。
梓「モルスァ」梓はそれきりピクリとも動かなくなった。どうやら気絶したらしい。
タ「おい!?何をするんだ神野!?」
リ「気が変わりましたの。貴方の代わりに一撃、叩き込んでさしあげたまでですわ」
タ「お前なぁ…それより、梓は何を言おうとしてたんだ…す…す…?」タカシは首を傾げしきりに考える。
か「ひ、人の寝言なんだからどうでもいいじゃないですか!プライバシーの侵害ですよ!?」
タ「椎水、何を必死になってるんだ…?まあ、どうせ寝言だし別にいいか…」
寝言の内容を考えるのを止めたタカシを見て、リナと神野は、
((危なかった…))と安堵のため息を、タカシに気づかれないようそっと漏らすのだった。
タ「そういえば、他の5人はどうした?」
か「席の都合で別の車両にいますよ。今頃仲良く話してるんじゃないですか?」
リ「確か、隣の車両でしたわね」
タ「そうか…さぞかし賑やかだろうなぁ…」
タカシは隣の車両にいるちなみたちのことを考え、苦笑した。

一方その頃、隣の車両のちなみたちは―
ち「ふう…かなみちゃんたち…いいなぁ…」
勝「チックショー…かなみの奴、ジャンケン強すぎだろ!?」
泉「くぅ〜…運は金じゃ買えんもんなぁ…悔しいわ〜…」
尊「梓め…どうせ今頃眠りこけてるくせに…なぜジャンケンに参加したのだ…」
纏「まあ、残念ではあるが、コレはいい機会ではないかの?」
尊「いい機会とは、どういうことだ?」
纏「今タカシは別の車両じゃ。あ奴がおると話しにくい話題もあるじゃろう?」
泉「話しにくい話題?どういうこっちゃ?」
纏「先生についての話じゃ」
尊「タカシの事か?」
纏「そうじゃ…今更韜晦することもあるまい?儂らがあ奴に抱いている感情は、同じなのじゃから」
纏「ここは1つ、腹を割って語りあおうではないか」
纏「普段素直になれず、胸の内に留めてる思いを。すっきりするとは思わんか?」
纏「それに、らいばるがどういう風にあ奴のことを考えているか、気になるしの」
勝「ライバル?何のライバルだってんだよ?」
泉「せ、せや。センセの話でなしてライバルって単語が出るねん?」
纏「いまさら白々しいのう…なんのらいばるかじゃと?そんなの…」
纏「『恋』のらいばるに、決まっとるじゃろうが」
その言葉に、尊たちは硬直した。
硬直から解けた尊たちは一斉にまくし立てる。
泉「んななな、いきなり何をいうねんな!」
ち「…びっくり…」
勝「そ、そうだぜ。別にアイツのことなんか…なあ、尊」
尊「そ、そうだ。こ、恋のライバルということは、私たちがタカシのことが好きだと?ば、馬鹿馬鹿しい(//////)」
彼女らの言葉たちに、纏は呆れたと言わんばかりに深いため息をつき、
纏「お主等は…まさか、自分の想いに他の人間が気づいていないと、本気で思っとったのか?」
纏「言ってはなんじゃが、おそらくは学校に居る1−Bに関わりのある人間はほぼ皆気づいておるよ」
纏「というか、気づいてないのはタカシ1人じゃ。まあ、あ奴は筋金入りの鈍感じゃしな」
纏「まあ、最初というのは言いにくいじゃろうし、言いだしっぺの儂から言わせてもらおうかの」
纏「儂は、あ奴の…タカシのことが好きじゃ」
纏「儂が風邪で倒れたとき、家には誰もおらんかった。祖父祖母が旅行で出かけていたからの」
纏「あ奴は、そんな儂を1人にしてはおけないと、学校を休んでまで、儂に付きっ切りで看病してくれた」
纏「風邪を治すと同時に、あ奴は儂の心を解きほぐした」
纏「それ以来、あ奴のことを考えると、愛しゅうて愛しゅうて、胸が締め付けられて、切なくなるんじゃ」
纏「…もっとも、こんな事、照れくさくてあ奴になど言えはせんがの(//////)」
纏「とりあえず、コレで終わりじゃ。次は誰が話す?」
尊たちは逡巡するかのように押し黙っていたが、意を決したように話を切り出す者がいた。
ちなみだった。
ち「…それじゃ…次は…私が」
ちなみは、ゆっくりと、小さめな声ではあるが、力強く、確かな声で語り始めた。
ち「…私も…先生の事…………好き」
ち「…私が…先生のこと…好きになったのは…大分前になる」
ち「…小さいころ…私は突然の雨にあって、雨宿りしてた…」
ち「…雨、全然止まなくて…途方にくれてたら…偶然通りかかった人が…自分の傘をくれたの」
ち「私が『でも…そしたらそっちが濡れちゃう』…って、いったらね…」
ち「その人は…『だけど、君は濡れない』って言ったの…」
ち「『…どうして?』って…聞いたら」
ち「『僕は、後悔したくないから』って…微笑みながら、それだけ言うと…雨の中を走って…いなくなっちゃった」
ち「…そのとき…私は…その名前も知らない人を好きになった。その気持ちは…今でも変わらない」
ち「だから…嬉しかった…その人が私のクラスの担任になったときは」
ち「…先生は、そのときのことなんてきっと…覚えてないと思う」
ち「…でも、いいの…その人は…別府先生は、あの時のままの…優しい人だったから」
ち「…もう一度言うね。私は…別府先生のことが…大好き」
尊「そうだったのか…」
纏「…そんなことがあったとはの。正直、驚きじゃ」
勝「一途なんだなぁ。お前」
泉「っていうかちなっちゃん、そんなに長いこと、しゃべれたんや…」
ち「私も…言ったよ?次は…誰?」
勝「じゃ…次は、俺の番だな」
勝「俺が音楽が好きなのは知ってるよな?」
その言葉に尊たちが頷く。
勝「お前らに話すのは多分、コレが初めてだろうけど」
勝「俺な…歌手になりたいんだよ」
尊たちは驚いた。まさかそんな将来の夢があったとは。
勝「この話を聞いた奴は、出来っこないって笑われた。ムカついたけど、俺もそう思ってた」
勝「こんな夢、叶うわけないってな」
勝「それでも、俺は未練がましく人気のないとこで、歌歌ってた」
勝「まあ、それがアイツの知るところになってな。当然、他の奴みたいに、笑い飛ばすに決まってると思ってた」
勝「だけど、アイツは…タカシは、笑い飛ばすどころか、俺の背中を押してくれた」
勝「俺の歌声が綺麗だって、そう言ってくれたんだ」
勝「歌手になんかなれっこないって思ってた俺に…もしかしたらなれるかも…そう思わせる魔法をかけてくれたんだよ、アイツは」
勝「アイツがいれば、俺は何でも出来そうな気がするんだ」
勝「俺もアイツの事が、好きだ。ずっと…一緒にいたい」
泉「魔法て…ショーちゃん、意外とロマンチストなんやなぁ…まあ、嫌いやないけど。そういうの」
ち「…今度…歌…聴きたいな」
纏「そういう事情があったとはの」
尊「夢か…私たちも、応援するぞ」その言葉に、ほかの3人も頷いた。
勝「サンキュな。…さて。俺も言ったぜ?次は誰だよ?」
泉「あーもう…言うしかないって空気やんか…なら先にラクになるわ」
泉「次、言わせてもらうわ」
そういうと、泉は語りだした。
泉「昨日の事といい、センセには返しても返しきれへん恩があるんや」
泉「都合があって詳しくは話せへんけどな」
泉「まあ、だから好きになったか?って言うと、ちょっと違うねんけどな」
泉「センセは筋金入りのお人よしや。ついでに変わり者で、お節介や」
泉「ウチらの事考えてるとき、いっつも自分の事なんかスポーンと頭の外に出てしもてる」
泉「でも、そんな時のセンセは、めっちゃオットコ前やねん」
泉「なんていったらええんやろな?あの頼りない顔してたセンセがものっそい、エエ顔するねん」
泉「その顔初めて見たとき、胸がキューンってなったわ。いや、それは今もそうかも知れへんけど(//////)」
泉「はっきり言わせてもらうわ。ウチは…センセのことがめっちゃ好きやねん」
泉「…うわ、恥ずっ!めっちゃ恥ずいやんかコレ(//////)」
泉「まあ、撤回するつもりはあらへんけど…」
纏「同感じゃ。確かに、他人のために一生懸命になってるとき、あ奴は一番良い顔をしよる」
尊「うむ…確かに」
ち「その気持ち…分からなくもない」
泉「次、みーちゃんの番やで?さっさと言ってラクになったらどうや?」
尊「いや…私は…」渋る尊に皆の視線が集中する。
尊「ううっ…分かった。言う、言うからじっと見るのは止めてくれ」
尊「とはいうものの、話すことなどそうないぞ?まあ、それでもいいなら…」
泉「ぐだぐだ言わんとはよ話せや」
尊「分かっている!今話す」
尊「タカシの奴と来たら…普段は情けなくて、どこか間が抜けてて、先生としてどうか、と思うのに」
尊「いざというときは、とても優しくて、強くて…」
尊「といっても、腕っ節が強いとか、そういうわけじゃない。心が…強いんだ」
尊「アイツは…大会で負けた私を、体育館で待っててくれて、」
尊「責めるわけでもない、慰めるわけでもない。ただ一言『おかえり』って言って、優しく迎えてくれたんだ」
尊「そのときばかりは…私も堪えきれず泣いてしまったよ」
尊「アイツはそんな私を、何も言わず、優しく抱きしめてくれた」
尊「私は一生忘れない。あの時の…アイツのあたたかさを」
尊「アイツになら、私は自分の全てをさらけ出せる気がする。私の弱さも、何もかも、全部」
尊「私はタカシのことが好きだ。その気持ちに偽りは無い。いや、嘘などつけるものか」
纏「タカシ云々以前に、お主が人前で泣くとはのう…初耳じゃ」
尊「う、うるさいっ!忘れろ…(//////)」
泉「『話すことなんてそう無い』なんてゆーてたくせに、結構語るやんか〜」
ち「…誰でも…好きなものには饒舌になるってことだね…」
尊「く…私は今恥を知ったぞ…(//////)」
纏「全員、話し終わったのう」
泉「いや、まだやろ」
尊「そうだな…かなみとりなと梓にも聞かねば」
纏「そうじゃな…この際じゃ、あいつらにもぶっちゃけさせるか」
泉「…無理して若者言葉使おうとせんでええがな…ま、そういうことならウチが呼んでくるわ」
そういうと、泉は隣の車両へと向かった。

タカシたちは、隣の車両へと繋がるドアが開く音を聞いて、目を向けた。
そこには泉が立っていた。
タ「…難波、どうした?」
泉「センセに用があるわけちゃうわ。自意識過剰やで?思春期に入りたてのガキやないんやから」
タ「…何で僕と目を合わせようとしないんだ?」
泉「う、うるさいわ!どうでもええやろ、そんな事!」
泉(…あんな話した後でまともに目ぇ見て話すなんて出来るわけないやろ…恥ずかしい(//////))
タ「まあ、良いけどさ…で、何の用なんだ?」
泉「かなみちゃんにリナに梓〜ちょっとウチ等のトコまで来てくれへんかな?ちっと用があるねん」
か「…いいけど、用って?」
泉「ちょっとここじゃアレやねん。早よきてや」
リ「…なんでしょう?それに梓さんは今きぜ…寝ておりますわよ?」
泉「とりあえず引っ張って連れてきて〜」
か「なんだってのよ…しょうがないなぁ…」
リ「なんで私がこんなこと…」2人はそう言うとで梓を引きずりながら隣の車両へと向かった。
泉「あ、センセは来るなや?来たら…」
タ「来たら?」
泉「罰金&殺ス」
タ「…何をしようとしてるんだか…まあいいや。騒ぎすぎて他の客に迷惑かけるなよ」
泉「はいはい、それじゃな〜」
タ「なんなんだ一体…まあ、静かになったことだし、寝るか…疲れたしな」
隣の車両で何が話されてるなど知る由もないタカシは、静かに目を閉じたのだった。

か「で、何なの?」
泉「その前に梓を起こさんとな」
尊「そうだな…ハッ!」尊は梓に活を入れて、無理やり意識を戻した。
梓「うう…何?何なのさ一体」
リ「何か用事があるらしいですわよ。で、用とは何ですの?」
纏「ああ、その事じゃが…」
纏はコレまでの話の内容とそこにいたるまでの経緯を掻い摘んで話した。
か「…!な、何て話してるのよ!そ、それに私は先生の事なんか…」
リ「私が何であんな庶民の事なんか…」
梓「うん。わかった。話すよ」
か「梓ちゃん!?いきなり何を!?」
梓「だって、皆も話したんでしょ?それに、タカシに言うわけじゃないんだし、隠すこともないじゃん」
梓はそうあっけらかんと言うと、語り始めた。
梓「ボクは昔女の子らしくない、って先生にからかわれたことがあったんだ」
梓「その所為で、クラスの皆にも苛められたんだ」
梓「タカシも、同じだと思った。口には出さないけど、ボクの事女の子らしくない、変な奴だって思ってるって」
梓「でも、違った。タカシは『自分らしく、活き活きとしている子が好きだ』って、そういってくれた」
梓「タカシは、ありのままのボクを受け止めてくれたんだ」
梓「だから、ボクはタカシのことが大好き!」
梓「世界で一番、大好き!」満面の笑みを浮かべながら、梓はそうはっきりと言った。
纏「…ストレートじゃのう。いっそそこまではっきりと爽やかに言われると、気持ちが良いのう」
勝「…なんでそこまでいえるのに本人には言えねえんだかな…まあ、言われてもこまるけどな」
梓「ほい、次はリナちゃん、かなみちゃん、どっち?」
リ「…なんでそんな事話さなくてはいけませんの?それに私は…」そこまで言ったところで、リナの言葉を尊が遮った。
尊「…フッ。由緒正しき高貴な神野家とやらは、隠し事をして皆の追及から逃げ回るのがモットーなのか?」
尊「とんだセレブもあったものだな」
リ「言いましたわね!?」
リ「…分かりました。そこまで言うなら言いましょう。神野家の人間は逃げも隠れもしませんわ!」
リ「以前、タカシに彼氏のフリをしてもらったことがありましたの」
リ「しかたかったんですわ!そうしないと無理やり見合い話を持ちかけられるところだったんですから」
リ「タカシは、庶民にしては見事に私の恋人を演じてくれましたわ…まあ、結局バレたのですけれど」
リ「でも、そんなことは問題ではないのですわ」
リ「タカシは、一生懸命、私の恋人たろうとしてくれました。他でもない、私の事を思うがゆえに」
リ「そこまでされては、少しは認めてさしあげようと思っただけですわ」
リ「私の、傍に居ることを」
泉「…で、アンタはセンセのことが好きなんやどうなんや?はっきり言えや」
リ「……好きに決まっているでしょう!」
リ「何とも想わない男を傍におきたいと思うわけがないでしょう!?もう…(//////)」
勝「最初からそう言やいいのによ…まだるっこしい奴だな…」
リ「うるさいですわね…それより、後はかなみさん?アナタだけですわよ」
か「え!?あ、いや…私は…その…」
か「私は…別に…アイツの…タカシ先生の事なんて…」
泉「…まあ、大体予想はしてたけどな」
纏「早く言わぬか。往生際の悪い奴じゃ」
勝「そうだぜ。まったく、はっきりしねえやつだな」
ち「…今更…隠し通せるわけないでしょ?」
リ「この私が折角先に言ってあげたのに、何を躊躇うのかしら?」
尊「気持ちは分かるが、さっさと言ってしまえ。言わずに切り抜けられると思うな」
梓「人間素直なのが一番だよ?まあ、タカシには私たちも素直になれてないからあんま強くは言えないけどさ」
全員の視線がかなみに集中する。
か「いや…だから…私は…」
しばらくかなみは目を盛大に泳がせ、うろたえていたが、
ぷちん。音を立てて、かなみの中の『何か』が切れた。
泉「…なんの音や?」その言葉には答えず、かなみは火がついたように、
か「…ええ、そうですよ!そうですとも!私も先生の事が好きよ!大好きよ!」
か「寝てもさめても先生のことを考えてる自分がいるわよ!」
か「気がついたら先生のことを目で追ってて」
か「先生が居ないと、勉強とか手につかなくなって」
か「先生が他の女の人と居るだけで、切なくてたまらない気持ちになるのよ!」
か「…あの日、先生が私を命がけで守ってくれたときから、私の中で先生の存在がどんどん大きくなった」
か「ダメ教師で、何処か情けなくて、間抜けで、鈍感な人だけど」
か「…そんな先生を、好きになっちゃったのよ!」
か「どうしようもないくらい、好きになっちゃったの!悪い?!!」
泉「…逆ギレかい…まあ、ホンネ聞けたからエエか…」
尊「真面目一徹に見えて、情熱的なのだな…」
勝「最初からそう言やいいんだよ。ったく、お前だってタカシにぞっこんなんじゃねえか」
ち「…おまけに、誰よりもやきもち焼き」
リ「内に溜め込むタイプなんですのね」
纏「梓に負けず劣らずストレートな物言いじゃなぁ。笑いが止まらんのう」
梓「急にまくし立てるんだもんな〜びっくりしたよ!」
か「う…うるさいわね!もう良いでしょう!?私、自分の席に戻るから!(//////)」
リ「梓さん、私たちも戻りましょう。抜け駆けするかもしれません」
梓「そうだね!油断タイ的火がぼうぼうってね♪」
リ「…何かおかしいような…」
か「…しないわよッ!」かなみは梓とリナに一喝した。

かなみたち3人は、隣の車両へと戻っていった。
隣の車両に戻ると、回転させた筈の座席が元に戻っていた。
タカシの席を覗き込む。タカシは穏やかな寝息をたて、熟睡していた。
梓「…席に着こう。なんだか馬鹿らしくなってきちゃった」
リ「そうですわね…寝てたら、どうしようもありませんしね」
か「だから何もしないってば…」ため息混じりにそういうと、かなみは自分の席に着いた。
横を見る。自分の想い人の横顔が目に入る。
か(まったく…そんなんじゃ梓ちゃんの事なんか言えないじゃない…)
そう心の中で1人ごちると、苦笑する。
しばらくぼんやりと座っていると、
ドサ。
寝相の所為か揺れの所為か。
タカシの頭がかなみの肩にもたれかかる。
か(…!な、うわわ、いきなり何なのよ!?(//////))
かなみの顔が耳まで赤く染まる。
か(無理やりどかしちゃおうかな…でも)
肩のタカシを一瞥する。
タカシはかなみの肩で規則正しく寝息を立てている。
そのあまりに無防備な顔に、怒りが雲散霧消していく。
か(…まったく、仕方ない人なんだから)
か(先生、お疲れ様)
か(しばらく、そうしているのを、許してあげます)
そうかなみは心の中で1人ごちると、タカシに向かって優しく微笑んだ。


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