第5話『仮初のロマンス』

とある日曜日、タカシは見知らぬ部屋で1人きりだった。
タ「ここ・・・どこだろうなぁ・・・」タカシが呆然と呟く。
そこはある建物の一室だった。
部屋には天蓋つきのベッドや、豪華な飾り付けがなされた家具、調度品。
どうやら、この部屋の主は相当な金持ちらしかった。
両手は身動きできないように縛られ、椅子に繋がれていた。
しばらくすると、ノックの後、誰かが部屋にははいってきた。
燕尾服に身を包んだ初老の男性だった。その仕草にはまるで図ったように無駄が無い。
セ「お待たせいたしました。拘束を解かせていただきます。非礼をお許しください」
タカシを縛っていた縄を解きながらセバスチャンはそう言った。
タ「貴方は・・・確か神野さんの家の執事の・・・」
セ「セバスチャンと申します」
タ「・・・本名じゃないですよね」
セ「・・・ふ。本名など、血塗られた過去とともに捨て去りました」どこか遠い目をしながらセバスチャンは呟いた。
タ「血塗られた・・・聞かなかったことにしておきます」
セ「私めから申しておきながらなんですが、それが御懸命でしょうな」
タ「・・・そうですか・・・で、何であんなマネを?」
タカシがそう聞くのも無理は無い。
休みの日だからと、タカシが出かけようとしたそのとき、いきなりクロロホルムを嗅がされ、拉致されたのだ。
セ「それは・・・」セバスチャンが気まずそうに話そうとしたその時だった。

リ「私から話しますわ。セバスチャン、もう下がってもよろしいですわ」
リ「貴方に用がありまして。こうして連れてきてもらったわけですわ」
タ「神野家では人を招待するときは問答無用で拉致するのがシキタリなのかい?」
リ「確実性の高い方法をとらせただけですわ」リナは皮肉にも動じずいけしゃあしゃあとそう答えた。
リ「本来なら貴方が立ち入る事叶わぬ私の寝室へ入る事が出来たのですわ」
リ「百万言を費やして感謝されてもおかしくはないというのに・・・その態度。恥を知りなさい」
タ「うわもう何処からツッコンでいいかわかんねぇ・・・とりあえずその感謝の言葉の一例を聞きたい」
リ「そうですわね・・・『偉大なる神野リナ様の部屋を拝見する事が出来て教悦至極に存じます』とかかしら」
タ「キミどこの某国の総書記?・・・まあいいや。で、用件はなんだい?」
リ「そうですわね。私とした事が貴方ごときと無駄話しすぎましたわ。・・・ああ神よ、時間を無為に浪費した私をお許しください」
タ「・・・本題に入ってくれないか?僕の堪忍袋の尾はここ最近やたらもろくなってる気がしてね」
リ「・・・辛抱の足りないところなど、まさに庶民ですわね・・・まあいいでしょう」
リ「用件と言うのは・・・」
タ「言うのは?」
リ「私の恋人になりなさい」
タ「はぁ!?」

タ「ここ恋人ぉ!?何で!?・・・生徒からの告白というのは男性教師が憧れることの1つではあるけれど・・・」
タ「このやり方はどうかと思うな・・・ムードってものを考えようよ」
リ「何勘違いしてますの?」リナは怪訝な顔つきをする。
リ「貴方には私の恋人のフリをしてもらいます」
タ「ああ・・・フリ、か・・・」タカシはどことなく意気消沈とした様子でそう言った。
タ「しかしまたなんで?」
セ「ここからは私めが説明させていただきます」
セ「お嬢様に、奥様が縁談を持ち込みまして。まあ、低の良い政略結婚というやつですな」
セ「ですがお嬢様はそれを拒否したのです」
セ「『自分の意に沿わない結婚はしたくない、恋人くらい自分で見つけられる』と」
タ「ほうほう、それで?」
セ「ですがその口上で縁談を断ったのがこれでもうン十回目・・・いい加減奥様も我慢ならなかったようで」
セ「『その割には良い相手の1人も見つけられないようではないの』」
セ「『所詮まだ若い貴方に理想の相手を見つけることなど出来はしない。現に誰1人殿方を紹介していないのがその証拠』」
セ「と、申されまして・・・」
セ「こうなるとお嬢様も売り言葉に買い言葉というやつで」
セ「『既に恋人なら居る。なんなら今度紹介してあげても良い』と・・・」
セ「しかしながら生憎お嬢様には恋人はおろか意中の相手すらもおりませぬ・・・そこで・・・」
タ「・・・僕の出番と、言うわけか・・・でもなぜ僕なんですか?」
リ「同級生に迷惑をかけるわけには行きませんわ」
タ「・・・僕ならいいのか・・・」

リ「・・・というわけですわ。タカシ、私に協力なさい」
タ「どういうわけだよ・・・まあ、政略結婚の道具にされるのは可哀想だしなぁ・・・」
リ「聞き分けのよいところは褒めて差し上げますわ。それでは早速・・・」
タ「だが断る」
リ「!何でですのっ!?フリとはいえ私と恋人同士になれるのですわよ?光栄だとは思いませんの!?」
タ「いやまったく」
リ「なんですってぇ!ものの価値もわからぬ庶民はコレだから・・・」
タ「付き合ってられないよ。正直に事情を話して縁談を断れば良いじゃないか」
リ「・・・・・・・・・ッ!」正論に、リナは黙らざるを得なかった。
タ「それじゃ、僕は帰らせてもらうよ」
リ「・・・待ちなさい!セバスチャン!取り押さえなさい!」
タ「それで無理やり僕を拘束して恋人のフリをさせる気かい?」
タ「それで僕が素直に協力するとでも?・・・キミの母親の前で洗いざらい話してやろうかい?」
リ「くっ・・・」
タ「それじゃ、また明日。学校で会おう」そういうとタカシは踵を返し、帰ろうとする。
リ「・・・待って!」そういうとリナはタカシの裾を掴む。
タ「だから僕は・・・」そういってタカシは振り返り、硬直した。
リナが、泣いていた。
リ「お願い・・・ですわ・・・他に頼れる人がいないのですわ・・・」
リ「正直に言ったら・・・お母様の事です、私の意見など聞かずに無理やり縁談を持ち掛けられ、結婚させられてしまいます」
リ「この通りです・・・助けてください・・・タカシ・・・」涙の懇願。タカシの心は大いに揺れ動いた。
タ(・・・僕が頼りっていってもな・・・生徒の家族の前でウソをつくなんて・・・しかも恋人のフリだなんて・・・)
タ(僕と神野は先生と生徒・・・マズイだろ・・・それは・・・)
タ(でも・・・教師たるもの助けを求め泣いて縋ってくる生徒を見捨てていいのか?・・・いやしかし・・・)
しばしタカシは葛藤した。その結果。
タ「・・・解ったよ。1日だけ、恋人のフリをすれば良いんだろ?・・・ただし、今日だけだからな」
だが、それを聞いた瞬間、リナの様子が激変した。
リ「解ればよいのですわ!一般ピープルたる貴方は私の言う事に素直に従ってれば良いんですのよ!」
先ほどまでの様子は何処へやら。彼女は勝ち誇ったように笑いながら言った。
タ「・・・んな!?」あまりの激変ぶりに目を丸くするタカシ。そのとき、セバスチャンが懐に目薬をしまうのが見えた。
タ(嘘鳴き・・・やられた!)歯噛みするが時すでに遅し。
リ「さあ、協力してもらいますわよ!・・・それとも?男が、しかも聖職者たる教師が一度言った事を翻すわけないですわよね?」
タ「ぐっ・・・」
タ「わかったよ!協力すればいいんだろ!やってやるさ!」
タカシ半ば自棄になって叫んだ。

レ「・・・貴方がリナの恋人ですか?」
時間は移り変わり夜。タカシとリナ。そしてリナの母親であるレナと、机をはさみ、会話していた。
タ「はい・・・お初にお目にかかりまして光栄です」
リ「ほら、言ったとおり私には恋人がいますのよ。だから縁談を持ち込むのは・・・」
レ「ですが・・・おいそれと付き合うことを許可するわけにはいかないわ」
リ「・・・何故ですの!?」
レ「リナはこの神野家の一人娘。従ってその相手となる男はこの神野家を継がなくてはなりません」
レ「ですがその男・・・タカシといいましたか・・・」
レ「言っては何だけど、この神野家に相応しい男とは到底思えません」
レ「庶民の出である男となど・・・身分違いも甚だしい」
レ「それに教養のなさそうなその顔・・・我が一族の恥さらしとなること必死でしょう」
リ「そんな!私たちは愛し合っているのですわ!」
レ「たとえそうだろうと、その男では貴方を幸せに出来るとは思えませんね」
リ「でも・・・!」
レ「お黙りなさい。貴方たちには即刻別れてもらいます」
レ「貴方には神野家に相応しい教養にあふれた身分の釣り合う殿方を私が選んで差し上げましょう」
レナの仮借ない言葉。
だがその言葉が、タカシの心のどこかに火をつけた。

タ「そんなに・・・」
レ「何か?」
タ「身分身分って・・・そんなに身分が大切ですか!?」
タ「人が愛し合うのに身分なんか関係ない!」
レ「なら貴方がリナを幸せに出来るとでも?・・・思い上がりも甚だしい」
タ「自分が誰かを幸せにするなんて・・・自分だけが誰かを幸せに出来るなんて、そんなの、傲慢だ!」
タ「恋人同士って言うのは、互いに一緒にいることで、幸せになるものなんだ!」
タ「どっちか一方が与える物なんかじゃない!」
タ「身分の違いなんて・・・そんな古臭いアナクロニズム、僕は認めない!」
タ「それに・・・結婚は家のためじゃない。愛し合う2人がするものなんだ!」
レ「言いますわね・・・なら、それを証明して御覧なさい」
タ「証明?」
レ「そうです。貴方がリナをどれだけ愛しているのか。そして神野家に相応しい存在なのか、テストしてあげましょう」
タ「・・・わかりました。やってやろうじゃありませんか!」
レ「では、2人で部屋で待っていなさい・・・セバスチャン・・・準備に取り掛かります。ついてらっしゃい」
セ「畏まりました」
そういうと、2人は部屋を後にした。
後にはタカシとリナが残された。

リ「・・・どうしますの!?あんな事を言って!」
タ「いや売り言葉に買い言葉ってヤツで・・・」
リ「それにしたってもっと他にやりようが・・・コレだから庶民というものは・・・」
タ「それじゃ何か神野なら良い手が思いついたのかい?少なくともお母さんは聞く耳持つ気なかったみたいだけど?」
リ「それは・・・」リナは答えに窮し、口を噤んだ。
リ「しかし、試練とやらがどんなものか解らない以上・・・どうしようもありませんわね・・・」
タ「まあ、運を天に任せよう・・・ここでどうこういっても仕方ないし」
リ「能天気ですわね・・・まあでも」
タ「なんだい?」
リ「さっきお母様に食って掛かった時の貴方は・・・まあ・・・少しは様になってましたわ」
リ「少しだけ・・・認めて差し上げてもよろしくてよ・・・」
タ「そりゃどうも」
リ「も、もう・・・せっかくこの私が認めるといっているんですのよ?もうちょっと喜びなさい・・・もう貴方は・・・本当に・・・(//////)」
その時だった。ノックの音が扉から響いた。
セ「お待たせいたしました・・・案内しますのでついていただけますか?」
その言葉にリナとタカシは唯々諾々とついていった。

セ「ここでございます」大きな扉の前でセバスチャンがそういった。
タ「わかった・・・」ゴクリ。タカシは生唾を飲み込むと扉を開けてなかに入った。
その中を見て、タカシは愕然とした。
タ「こりゃまるで・・・裁判所じゃないか!?」
そう、その部屋は裁判所の法定を模して作られていた。こんな部屋など普通ありえない。
レ「第一の試練は詰問です。今回貴方はただ私の質問に簡潔に答えればいいわ」レナは裁判官の席に座ってそう言った。
レ「まあ、この内装は気分というやつかしら。テレビ局の大道具係を招集して急ピッチで作らせたのよ」
タ「金持ちの考える事は理解できないなぁ・・・」そうぼやきつつも被告人の立ち位置についた。
レ「リナはそこに立ちなさい」そういうと弁護人側の立ち位置に立たせた。
レ「では先ず軽い質問から・・・リナの好物は?そして嫌いな物は?」
タ「・・・!」いきなりわからない。生徒のプライベートな事情まで知っている先生など居るわけが無い。いたらいたでカナリ問題だが。
レ「どうしました?まさか恋人の食の好みすらわからないとでも?」
タ「はい・・・わかりません」
リ「タカシ!」リナが叫ぶ。だがタカシはかまわず続けた。
タ「僕がデートに連れて行って食事をご馳走することがあるんですが・・・」
タ「食べたいものはある?ときいても『何でも構いませんわ』と答えるばかりですし・・・」
タ「何を食べさせても気を使っているのか『おいしい』としか答えないもので・・・」
タ「正直、わからないんです・・・申し訳ありません」そういうとタカシは照れくさそうに頭を掻く。
レ「ふん・・・うまく切り抜けましたね・・・では次」
そういうとレナは次々と質問を繰り出した。
タカシはあるときは理屈を捏ね回してこたえ、あるときは先ほどのようにさらりとかわしてみせる。
こうしていくつか危なげなところもあったが、無事すべての質問に答えて見せた。
セ「では第2の試練の間へお連れします・・・まあ、事実上の最終テストですが」
そういうと、セバスチャンは2人を案内していった。

次の部屋は、相当に広い部屋だった。
天井が高く、豪華なシャンデリアが吊り下げられ、端にはオーケストラの一段が沸きに控えていた。
タカシとリナはそれぞれタキシードとパーティードレスに着替えさせられていた。
レ「次はダンステストです。私たちともなるとパーティーなどに出席する機会も多いのです」
レ「まあ、庶民であるあなたにテーブルマナーや礼儀作法を知れというのも無理な話」
レ「せめてパーティーで踊るダンスくらいは女性をリードできなくてはね」
レ「ここでリナとダンスを踊ってもらいます。いいですね」
リ「・・・・・・・」一般庶民であるタカシにダンスの心得などあるはずも無い。
そう考えてこの試練にしたのだ。コレばかりは舌先三寸ではどうにもならない・・・リナは途方にくれた。
だが一方のタカシはというと、
タ「わかりました。行こう、リナ」そうこともなげにいうとリナの手をとり、部屋の中央へと歩き出す。
リ「・・・タカシ!貴方ダンスのことなんてわかるんですの!?」
タ「だって踊らないと君は意に沿わぬ結婚をさせられるんだろう?ならキミのために踊るしかないじゃないか」
リ「そういうことではなくて!踊れるんですの?言っておきますがクラブとかで踊るものとは違うんですのよ!?」
タ「わかってるさ。君は踊れるんだよね?」
リ「勿論ですわ。私を誰だと思っていますの?」
タ「ならよかった。しっかりついてきてね」そういうとタカシはにこやかに微笑んだ。
リ「い・・・言われなくとも!(/////)」そのタカシの顔をみて、リナの顔が紅潮する。
そして音楽が流れた。ワルツの優雅な響きが奏でられる。
そして踊りが始まった。
驚いたことに、タカシは見事にリズムに乗ってステップを軽やかに踏み、リナをリードし始めた。
それは中々に洗練された踊りだった。それを見たレナがほう、と感嘆の吐息を小さく漏らす。
リ「貴方がこんなに踊れるなんて・・・どこで習ったのかしら?」
タ「昔社交ダンスが流行った時期があったろう?僕もブームに乗っかって少しやってた時期があったのさ」
タ「・・・まあ、レッスン料が馬鹿にならないし、勉強もあったからブームが終わったら止めたけどね」
リ「そうでしたの・・・少々貴方を見くびっていたようですわ・・・」
タ「そういってもらえると高いレッスン料を払った甲斐があったな」
リ「まあ。やはり庶民は庶民ですのね」といいつつも、リナの顔は笑っていた。
リ(こうしていると・・・まるでお父様と踊っていたときの事を思い出しますわ・・・)
昔、ダンスの相手をよくしてもらっていた、男性として、そして父親としても尊敬している父。
いまは海外出張が多く、疎遠になってはいるが、その想いは変わっていない。
リ(案外、この男は拾い物なのかもしれませんわね・・・)
2人は音楽が終わるまでの間、つつがなくダンスを踊り続けた。
その様はまさに、恋人同士が楽しげに踊っているように見えた。

タ「どうでした?中々のものでしょう?」
リ「コレでお母様も私たちのことを認めてくれますわよね!?」
レ「確かに予想外だったこと・・・貴方を少々見くびっていたようですね・・・別府タカシ」
レ「ですが」
タ&リ「まだ何か!?」
レ「今までのは適正を調べるためのもの。今から愛し合っている証を見せてもらいましょうか」
タ「・・・と、いいますと?」
レ「2人とも、今すぐに口づけをなさい」
リ「!なななな、お母様、いきなり何を!?」
タ「口づけって・・・キスですか!?」
レ「そうです。愛し合ってるのでしょう?ならそんなこと、造作もないでしょう?」
タ&リ「う・・・」
レ「さあ。それとも、ここにきて出来ないとでもいいだすのですか?」
2人は、とりあえず向かい合った。
リ(くくく口づけなんて・・・そんな・・・タカシと・・・信じられませんわ・・・)
頬が紅潮し、動悸が激しくなる。だが、不思議と嫌悪感はなかった。
リ(で、でもこのままでは縁談が・・・しかたないですわ、口づけをするしか・・・)
リ(・・・はっ!何故そう簡単にアイツとの口づけをうけいれているの!?アイツとキスだなんて・・・キスだなんて・・・)
リ(・・・そうですわ。そうしなければ結婚させられてしまうのですわ・・・それに比べれば小さな犠牲。そういうことなのですわ)
リ(そう、これは犠牲、代償。仕方なくする行為ですわ。そうに決まってます!)
そう自分を無理やり納得させると目を閉じる・・・
もう、心臓の鼓動が最高潮に達しようとしていた。
その時だった。

タ「・・・もう、止めましょう」そういうと、タカシはレナに向き合った。
リ「・・・タカシ?」
レ「どうしたというのです?」
タ「幾ら教え子が意に沿わぬ結婚をするのを防ぐためとはいえ、無理やり唇を奪うなど、できない」
タ「キスは・・・ホントに好きな相手とだけかわす、誓いのようなもの・・・僕は、それを汚したくない」
タ「申し訳ありません。全て、嘘です。茶番なんです」
タ「ですが・・・おこがましいのは承知で、言わせていただけないでしょうか」
レ「まだ何か?」
タ「もう少し・・・リナさんを結婚させるのは、待っていただけませんか?」
タ「学校の生活をもう少し続けさせてあげたい。立派に卒業させてあげたいんです」
タ「学校での経験と思いでは、一生の財産になりうるものです」
タ「お願いです・・・まだ彼女は人生経験が足りないだけなんです」
タ「こういうのもなんですが、彼女は素敵な女性だと想いますし、もっとそうなるでしょう」
タ「きっと、良い男性とめぐり合えると、思うんです」
タ「だから、それまで暖かく、見守ってはくれませんか?」
タ「家のためとか出なく、彼女の幸せのために」
レ「何を言うかと思えば・・・安っぽいヒューマニズムですね」
彼女の言葉は無情なものだった。
レ「私たちともなれば、結婚は個人の感情で左右されるものではありません」
レ「ひいてはその結果が一族全体に大きな影響を及ぼすのです」
レ「まあ、貴方のような小市民には解らないでしょうが」
タ「・・・・・・・」タカシは反論の言葉が見つからず、黙り込む。
だが、レナはさらに話を続けた。
レ「・・・しかしながら。確かにリナの気持ちを無視し続けたというのは親失格と謗られてもしかたないですね」
レ「・・・解りました。縁談を持ち込むのはしばらく止めにしましょう」
レ「少なくとも貴方が卒業するまでは、何も口出ししないことにします」
リ「お母様・・・本当に良いの!?」
レ「彼の生徒への愛情に免じて、です」
リ「やりましたわタカシ!褒めてあげますわ!」
タ「ほんと・・・どうなるかと思った・・・」タカシは深い安堵のため息を漏らすのだった。

もう外は既にとっぷりと日が暮れていた。それを見てタカシは帰宅することにした。
タ「・・・それじゃ、この辺で失礼します。神野、それじゃまた学校でな」
リ「タカシ・・・あの・・・その・・・少し貴方を過小評価していたことを詫びますわ・・・」
リ「そして今日は、助かりました・・・」
タ「なんだ。神野にしては殊勝だな」
リ「も、もう・・・すこし褒めてみれば・・・図に載らないでほしいですわ・・・」
リ「あと・・・聞きたいことがありますわ」
タ「何だい?」
リ「頼んだとはいえ、何故ここまでしてくれたのですか?」
リ「とっくに投げ出しても、おかしくないのに・・・」
タ「なんだ。そんなことか・・・」
タ「先生が困っている生徒を見捨てられますか。僕はキミ達を不幸にしないようにする義務がある」
タ「幸せになるかどうかは、本人しだいだけどね」
リ「貴方という人は・・・ホント、お馬鹿なんですから・・・」
タ「そうだな。馬鹿かもしれない」
リ「まあ、そういう馬鹿なら、迷惑を考えなければ居てもいいですわよ」
タ「そうかい。それはどうも」
リ「後・・・まあ、お礼として・・・一回くらいになら食事に付き合っても・・・よろしくてよ?(//////)」
そういってタカシを見やる。だが既にタカシは町に向かって歩き出していた・・・とうぜん話なんか聞いちゃいない。
リ「フ・・・フフフ・・・私の話を最後まで聞かず帰るとは良い度胸ですわ・・・」リナからどす黒いオーラが立ち上っているような気がした。
リ「セバスチャン!」そういって手を差し出す。
セ「は、コレですな」そういうとリナの手にあるものを渡す。それは鞭だった。
リ「ふふふ・・・私に釣り合う男になるようにこれから調教して差し上げますわ!」そういうやいなやリナは走り出した。
夜の街にタカシの悲鳴がこだました。


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