第9話『トラブル・トラべル―出発編―』

ある日のHR。タカシは教壇に立つと、ニヤリと笑い、おもむろにこう叫びだした。
タ「1―Bの皆ー!」
その言葉に1―Bの生徒全員が何事かとタカシを見る。
タ「修学旅行へ行きたいかー!」腕を突き上げながら満面の笑みでさらに叫ぶ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」全員無言。絶対零度といってもい寒い空気が場を支配する。
タ「・・・死のう・・・」場の雰囲気に耐え切れなくなったタカシがおもむろに窓に近づく。
ちなみに下の学年の教室ほど上の階にあるため、ここは最上階に位置する。
1Fは教務、特別教室が軒を連ねているため、ここは4Fである。
人が死ぬには十分な高さだ。タカシは窓枠に足をかける。
泉「ちょっと待てやぁ!ギャグがスベったからて死ぬなや!」それを見た泉がツッコみつつタカシを制止する。
タ「とめるな・・・僕は教師失格だ・・・静・・・今行くよ・・・」
泉「前回あんな演出しといてそれかい!」
タ「いや、だって、ギャグが滑ったら教師失格だろ・・・これは僕のこだわりの1つだ」
泉「ドブに捨ててまえ!そんなこだわり!」
泉「立派な教師になるんとちゃうんかい!このアホ!」その言葉にようやくタカシが我に帰る。
タ「・・・解った。生徒を置いて死ぬなんてもっと教師失格だな・・・泉・・・ありがとう」
泉「わ・・・わかればええんや。別に、センセが死んでもどってことないけど、まだ借りを返してないからな。それだけやで!(//////)」
そういうとタカシは教壇へ、泉は自分の席へと戻った。その様子を見たちなみが、
ち「・・・何この寸劇・・・」と寒い目でぽつりとツッコんだ。

タ「・・・というわけで。来月はいよいよ修学旅行があります」
か「どういうわけよ・・・」というかなみの言葉をタカシは一筋の汗をたらしつつスルーして、
タ「と、とにかくっ。今から修学旅行のしおりを配るから準備してくるよーにっ!」
タカシが教壇に詰まれた小冊子―どうやらそれが修学旅行のしおりらしい―の束を手に取る。
タカシがしおりをクラスの前の席の生徒に渡して行く。しおりは後ろへと回され、一枚ずつ配布された。
しおりには、所持して行く必要のあるものや旅行の予定などが書いてあった。
勝「京都・大阪を3泊4日で行くわけか・・・なんていうか、ありきたりだな・・・」
タ「まあ、そういうな・・・旅行先としてメジャーな場所のほうが何かとやりやすいしな。はずれもないし」
勝「まあ、タカシが一緒なら別に俺は何処でも・・・」勝子が呟く。
タ「ん?庄田どうした?」
勝「な、なんでもねえよっ!(/////)」
梓「ボクは外国とかの方がいいなぁ〜」
タ「小久保・・・お前なぁ・・・。まあ、その案もあったんだけどな・・・」
タ「ほら、最近テロも多いだろ?PTAの人たちとか他の先生も心配なのさ」
リ「タカシも・・・心配なの?ボクたちに何かあったら・・・」
タ「心配に決まってるだろ?当たり前のことを聞くな」
梓「なら・・・別に国内旅行でもいいよ(//////)」タカシの言葉に、頬をほんのりと赤く染めながら梓がそう答えた。
タ「へ?お前にしちゃエライあっさりと引くんだな・・・どうした?」
梓「いいったらいいの!さっさと話を進めろバカ〜!(//////)」
急に怒り出す梓の様子にタカシは首を傾げながらもHRを進めるのだった。

そして旅行前日。
タ「いよいよ旅行前日だ。準備をしっかりして明日に備えるように」
タ「明日は7時出発だ。朝早いから早めに寝とけよ」
タ「遅れるんじゃないぞ?時間にあんまり余裕ないから置いて行くしかないんだからな」
その言葉にクラスの生徒は気の抜けた返事を返した。
旅行が楽しみで心ここにあらずといった感じである。
まあ、ほかならぬタカシも、引率の教師としての面倒な仕事はあったがやはり旅行は楽しみなので厳しくは言えなかったが。
家に帰っても興奮のあまり中々寝付けなかった。
タ(教師である俺がこんなにはしゃいでるなんて、とてもじゃないが生徒には恥ずかしくていえないな…)
そして朝。
タ「ふぁ〜・・・良く寝たな・・・さて、今何時かな・・・」タカシが時計を見る。
8:00。時計には総表示されていた。
タ「ふんふん・・・8時・・・・・・・・・!?」
タカシが硬直する。
時計の数字が意味する事ををようやく認識したタカシは事態の重大さに気づく。
遅刻。それもどうしようもないレベルの大遅刻。
タ「アーーーーーーーーーーー!」
タカシは往年のマコーレ・カルキン顔負けの大絶叫を放っていた

一方その頃、かなみたちは、新幹線の駅へと向かうために観光バスに乗り込んでいた。
梓「こなかったね・・・ったく何やってるんだよタカシぃ〜」そういう梓の言葉にもいつもの元気さが無い。
尊「まあ、アイツの事だ・・・大方興奮して寝付けなくて寝坊した・・・と言うところだろうな・・・馬鹿者め・・・」
泉「アイツが居なきゃ修学旅行の料金の元なんて取れへんわ・・・どうにかならへんのんか?」
纏「今高瀬先生が連絡しとるとこじゃが・・・あのうつけ者が・・・どれだけ皆に迷惑かければ済むのやら・・・」
ち「・・・自分で言っておきながら遅刻なんて・・・最低・・・」
か「あ・・・高瀬先生、タカシ先生と連絡取れたみたい。高瀬先生?よろしかったら電話の内容教えてくれませんか?」
高「ああ、そうね・・・クラスの皆には言っておかなきゃいけないわね」
高「『何とかなるかもしれない。新幹線の発車時刻には間に合わせるから心配しないでください』だそうよ」
か「何とかなるって・・・どうするつもりなのかしら・・・」
勝「そういえば、1人足らなくねえか?」
ち「そういえば・・・リナちゃんが居ない・・・」
か「確か遅刻はして無かったって言うか、乗り込む前に見たよね?」
尊「ああ、確かに居たな・・・そういえば最後まで乗り込んでいなかったような・・・はっ!?」
そこまで言った尊はある可能性に気づく。
纏「もしやあ奴・・・」纏も眉をひそめる。
勝「・・・間違いねぇ!リナのヤロー抜け駆けしやがった!!」
心底悔しそうに勝子が怒鳴った。

一方その頃。タカシは・・・
タカシは急いで学校へと向かったが、案の定もぬけの殻だった。
修学旅行の日は多くの先生が引率として付き添うため臨時休校となるのだ。
タ「うわ・・・やっぱりもういないよなぁ・・・教師になって最初の修学旅行に遅刻で欠席なんて・・・」
タ「すまん静・・・俺はダメ教師だ・・・」地面に膝をつきがっくりとうなだれるタカシ。
?「自覚がおありの様ね。その反省ぶりに免じてこれ以上責めるのは許してあげてもいいですわよ」その言葉にタカシが振り向く。
タ「リナ!?お前なんでここに居るんだ!?」
リ「勿論、修学旅行に遅刻したダメ教師を送るために待ってあげたのですわ。感謝しなさい」
タ「そりゃありがたい・・・でもどうやって?」
リ「それはもちろん・・・セバスチャン!」リナがそういうやいなや、
セ「は、ここに」セバスチャンが音も立てずにリナの横に控えていた。
セ「時間がありません、タカシ様、車にお乗りください」
タ「あ、ああ・・・」言われるがままにタカシはセバスチャンの後ろにあったリムジンに乗ろうとする。
その時、携帯の着信音が鳴り響いた。液晶画面を見る。高瀬先生だ。急いでタカシは携帯に出る。
タ「あ、高瀬先生・・・とんだ醜態を見せてしまってスイマセン・・・」
タ「何とかなるかもしれません。新幹線の発車時刻には必ず間に合わせるので心配しないでください」
高『分かりました。私はともかく、生徒たちも心配してましたよ?今後このようなことがないようにお願いしますね』
そういうと、電話が切られた。
リ「電話は終わりましたの?それならさっさと乗り込んでくださらないかしら」
リ「貴方のせいで私まで遅刻するわけには行きませんから」既にリムジンに乗り込んでいたリナがそう言った。
タ「ああ、すまない・・・」その言葉にタカシはそういいつつリムジンに乗り込む。
タ「お待たせしました。セバスチャンさん、お願いします」
セ「了解しました。必ずやお嬢様とタカシ様を送り届け、執事(バトラー)としての勤めを果たす所存です!」
そういうと、セバスチャンは勢い良くアクセルを踏み込んだ。

走り始めてしばらくたったが、セバスチャンが顔に難色をにじませる。
セ「むぅ・・・・」
リ「どうしたんですの?セバスチャン?」
セ「思ったよりも時間がかかりましてな・・・このままでは間に合わぬやもしれません・・・」
タ「そんな・・・どうにかならないんですか!?」
リ「良い年した大の男がうろたえるんじゃありませんわ」
タ「いやでも・・・不安にならないか?」
リ「セバスチャンのことは全面的に信頼しておりますもの。それに・・・」
タ「それに?」だがその言葉の続きを言う前にセバスチャンが会話に割り込んできた。
セ「会話中申し訳ありません。ですが、間にあわせる方法がないわけではありません。それを御報告しようかと」
リ「構いません。その方法で頼みますわ」
タ「ああ、こうなったらなりふり構っていられないしな」
セ「では・・・少々荒っぽい運転になりますが、よろしいですかな?」
タ「へ・・・?」タカシはその言葉に言い様のない嫌な予感を覚える。
リ「構いませんといったはず。セバスチャン、早くなさい」
セ「かしこまりました」そういうと、セバスチャンは運転しながら器用にハンドルをレーシング仕様のものに付け替え、
カーオーディオや空調装置の操作盤がついているところの脇についている赤いボタンを押した。
後ろから機械音がする。後ろを見るとエアロウィングがせり出していた。
直後、急に座席が沈み込むような間隔。サスが下がり、車高が下がっているのだ。
他にもいくつもの機械音。タカシのいやな予感がますます大きくなった。
タ「これ・・・どっかで見たことがあるような・・・そうだ!映画「TAXI」シリーズだ!・・・ってことはまさか・・・」
セ「そのまさかです。タカシ様。ふふふ・・・久しぶりに本気を出して走れそうですな・・・」
タ「いや・・・ちょっと・・・安全運転で常識の範囲内での運転を心がけてくださいよ!?」
その悲鳴のようなタカシの言葉はセバスチャンの耳にもう届かないようだった。
セ「ふふふふふ・・・こうすると昔を思い出しますな・・・」
セ「さあ、レッドゾーン、突き抜けるぜ!」
そういうとセバスチャンはすさまじいシフトコントロールとともにアクセルを全開に踏み込んだ。
タカシはセバスチャンの頭上でパキィィィィン・・・!と小さな種子が弾けた様に見えた。
瞬間、すさまじい加速による強烈なGが搭乗者に襲い掛かる。
タ「うわぁぁぁぁぁ!セバスチャンさんキャラ変わってますよぉぉぉぉぉ!?」
セ「黙ってな!舌をかむぜぇ!?」
タ「うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
すさまじいGに耐え切れず、タカシの意識が闇に閉ざされた。

―あら、また来たの?
その言葉にタカシは意識を覚醒させる。いつの間にか船室に立っていたようだ。向かい側には例のごとく静の姿が。
タ「静・・・って事は僕はまた臨死体験をしてるのか・・・なんでこんな何回もこんな体験をしなきゃいけないんだか・・・」
―ご愁傷様。っていうか時間がないからちゃっちゃと戻ってもらうわね。
タ「静!?なんかこの前と扱いが違わないか!?なんていうかぞんざいっていうか!?」
―だって、めんどくさいんだもの。
タ「いやちょっと!?前回あのノリだったのに今回のその態度はないんじゃないかなぁ?」
―うるさいわね。さっさと戻りなさい。
その言葉ともに、タカシの『足元』に扉が出現する。
タ「静・・・まさかコレって・・・」
―この方が手っ取り早いじゃない。一気に川の中にいけるわよ?
タ「いやちょっとまってもう少しムードってもんがっていうかこの前は船の縁からカッコよく飛び降りたじゃないか!?」
―問答無用。
その言葉とともにバクン、と音を立ててタカシの足元の扉が開いた。無論、タカシは落下する事となった。
タ「ひどいや静ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」悲鳴が徐々に小さくなり、やがて消えた。
―まったく。仮にも私が好きになった男なんだから、もうちょっと頼もしくなりなさい・・・
その様子を見ていた静はそう言いながら優しく微笑んだ。

タ「・・・・・・・・はっ!?」タカシがあわてて身を起こす。それを見たリナが、
リ「あら、ちょうど良く目を覚ましましたわね、もうそろそろ到着ですわ。何とか間に合ったようですわね」
タ「そうか・・・しかし、死ぬかと思った・・・っていうか死にかけたのか僕は・・・もうジェットコースターなんて怖くないぞ・・・」
セ「申し訳ありません、少々ハシャギすぎたようですな」
タ「少々なんだ・・・」
リ「まったく、あれしきの事で気絶など・・・情けないにも程がありますわ」
タ「そういうなよ・・・まあ、駅に入ろう」
リ「そうですわね。早く行きましょう」
セ「行ってらっしゃいませ、お2人共」セバスチャンのその言葉を背に、タカシとリナは駅へと足を踏み入れた。
駅の構内を歩きながら、タカシはおもむろにリナに聞いた。
タ「なあ、何で神野はあんな運転をしていた車に乗っておいてケロリとしてるんだ?」
タ「それにさっきも聞いたがセバスチャンさんがああいったとき少しも不安にならなかったのか?」
リ「言ったでしょう?私はセバスチャンを信頼していますもの・・・それに」
リ「貴方が居るのに何を不安になる事があるのかしら?それに、折角の貴方とのドライブ中に気絶など出来るものですか(//////)」
だがその言葉がタカシの耳に入る事はなかった。新幹線の発車を知らせるベルが鳴り響いたのだ。
タ「まずい!走るぞ神野!」そういってタカシは荷物をしっかり握り締めると走り出した。
リ「・・・まったく、無粋なベルですわね!」リナはそう悪態をつくと、タカシの後を追い始めた。
新幹線には何とか間に合ったが、タカシはかなみたちの壮絶なダメ出しと罵倒に遭い、
まだ旅行が始まってないというのにHPバーを死ぬ寸前まで減らされる事となった。


前へ  / トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system