その6

初詣の後、先輩の案内で観光に繰り出した。のだが・・・。
『何?ここもお休み?元旦こそ稼ぎ時でしょ!』
神社仏閣ならそうかもしれないが、普通の博物館や記念館に元旦早々行く人は居ない。
いや、ここに1組いるか。
さっきから5箇所ばかり回っているが、どこも年末年始はお休み。僕はとっくに諦めているが
誘った当人はそれを認めようとはせず、次はあっち、ダメならこっちと連れまわされた。
「そろそろ休まない?」
『うっさい!まだどこも見てないでしょ!』
時計を見ると、もうすぐ12時。初詣が終わったのが9時前だったら、かれこれ3時間歩きっぱなし。
建物に入れなくても外観だけは見れたわけだし、周囲の風景だけでも結構楽しめた。
「あ、そうだ。そろそろお腹空いたから、名物とか食べたいな」
『名物?んー・・・じゃ、こっち』
何とか方向転換に成功。次の手を考えつつ、先輩の後を黙って付いて行った。

「ごちそうさまでした」
『本当はもっと美味しいお店があったんだけど・・・休みって』
一人納得いかないという顔でお茶を飲む先輩。確かに観光は楽しみにしていたのだが、それ以上に僕が
楽しみにしていたのは先輩と二人でぶらぶらできる事。であれば、別に観光地にこだわらなくてもいい。
僕の次の手は決まった。
「ね、次なんだけど」
『待ってよ。あーいう場所には、小学校の遠足でしか行ってないから思い出すのに時間かかるの』
「いやいや、観光はもういいよ」
意味分からないという表情の先輩。一方で僕はちょっとドキドキしている。なんせ、告白するのも初めて
なら、こんな事言うのも初めてだから・・・。
「その・・・観光は止めにして、遊びに行かない?」
『あ、遊びって・・・その・・・私とキミと・・・二人で?』
「僕達以外で他に誰がいるというのさ?」
『な、何よそれ?それじゃまるで』
「デートしたい」
先輩の顔が一瞬にして沸騰した。持っていた湯のみを落としそうになり、慌てて持ち直した。
そして俯きながら、一口二口とすする。
『そ、そんな事急に言われたって・・・わ、私にも心の準備ってものが』
「今の僕達はなんだっけ?」
『・・・こい・・・びと』
ちらっと上目遣いで小さな声で『恋人』と呟く。よっぽど恥ずかしいのか、僕の顔をちっとも見ようとしない。
ちらっと見てはまた目を逸らすというのを繰り返す。
『で、でも・・・観光しないと』
「義父さんにどこ行ったの?って聞かれたとき、ずっと観光してましたって言ったらどう思うかな?」
『そ、それは・・・』
僕自身、ちょっとズルい質問だと思う。けど、これくらい言わなきゃ先輩だって踏み切れないだろうし。
二人で出かけるなら「お土産の買物」ではなく「観光」でもなく「デート」がしたい。僕が思ってるだけ
ではなく、先輩にもちゃんと「デート」と認識してもらって二人で遊びに行きたい。
「ダメかな?」
『その・・・あ、あくまでもお父さんやお母さんに不自然に思われないためだけだからね?』
「という事は?」
『で、デート・・・してあげる』
「やった!」
『よ、喜ぶな!あくまでも不自然に思われないための演出みたいな・・・って、聞いてるの?』
「聞いてるよ、その辺は分かってるって」
『もう・・・そんなに喜んでバカみたい。たかがデート・・・本当に子供なんだから』
そんな大人ぶった言い回しをしている先輩も、表情が崩れないようにするのを精一杯堪えているようで
口元が緩んでしまうのを止められないでいる。なんだかんだ言っても、先輩だって嬉しいのだろう。
僕達はお店を出て、観光地ではなく繁華街の方へと歩き出した。

まずは先輩が『ここにしよう』と言って入ったのがボウリング場。定番のデートスポットかもしれないが
記念すべき初デートに行く場所として相応しいか微妙な気がする。もしかして、ボウリングが好きなのかな?
そうであれば、向こうに戻った時も誘ったら喜んでくれるかな?
そんな事を考えていると、先輩が嬉しそうにボールを持ってきた。
『ね、見て見てこれ。私があっちに行く前に使ってた良く使ってたボールがまだ置いてあったの』
「常連だったの?」
『昔は遊ぶところが無かったからね。最初にここができた時は、みんなでしょっちゅう行ってたわ』
なるほど、そういう事か。僕の住んでるところは、それこそゲーセンもあったし、カラオケもあったから
選択の余地があったけど、先輩は遊ぶところがここしかなかった訳か。
昔の知り合いにあったかのようにはしゃぐ先輩。しかし、その顔はレーンに立った瞬間消えた。
なんと言うか・・・上手いとかそういうレベルじゃない。投げるフォーム、ボールの軌道、ピン
アクションのどれもが明らかに周りの人と全てが違う。ストライクを取っても、さも当たり前のように涼しい
顔で戻ってくるし。普通なら『やった〜』とか嬉しそうにするはずなのにな・・・。
『どうしたの?キミの番だよ』
「はぁ・・・ストライクばっかりだから、順番くるの早いね」
『昔は1時間投げ放題とかあってね。ストライク取ると、その分一杯投げられるから練習したの』
「そうなんだ」
『まぁ、ボールもレーンのクセも分かってるしね。ここでなら、誰と勝負しても負ける気がしないわ』
その言葉でピンと来た。せっかくなんだし、デートらしくちょっと賭けなんかしても面白いかも。
1ゲームで勝負したら絶対負けるから、1投勝負でならチャンスもあるかもしれない。
「じゃぁさ、何か賭けて勝負しない?」
『勝負?キミと私の実力じゃ、賭けが成立しないわよ』
「1投勝負でどう?これなら、僕にも勝てる見込みあるでしょ?」
『そこまで言うなら勝負してあげるけど・・・何を賭けるの?』
「僕が勝ったら・・・ここで、ほっぺにちゅーして」
『はぁ?な、何よそれ・・・だいたい、こんな人の大勢居るところでできる訳無いでしょ!』
「負けなければいいだけじゃない?」
『そ、それはそうだけど・・・じゃ、じゃぁ、私が勝ったら・・・何でも言う事聞きなさい』
「それは賭けるものの大きさが違いすぎるんじゃ?」
『良いでしょそのくらい。負けなければいいだけよ』
僕の言葉を逆手にとり、強引に賭けを成立させられてしまった。まぁ、負けた所で別に何を失う訳でもない
からいいか。けど、ちゅーはして欲しいので、最大限の集中力をもってボールを投げる。
上手く1番ピンのちょっと横に当たったのだけど、惜しくも端っこのピンが1つ残ってしまった。
『9ピンね。ちょっと燃えてきたわ』
残ったピンを倒しスペアにして戻ると、先輩が不敵な笑みを浮かべてボールを掴んだ。
何故かこの時点で負けた気がした。美しいフォームから繰り出されるボールは、すべてのピンをなぎ倒す。
・・・やっぱり負けた。
『ま、これで格の違いってものがはっきりしたでしょ。人間としても』
「ボウリングでそこまで言うか?」
『当たり前。さーって、何してもらおうかしら』
「あ、あんまり変なのは無しだぞ?」
『そうね・・・うん、あれにしよう』
「あれって?」
『それは後ほどのお楽しみ。ささ、投げた投げた』
僕に一体何をさせるつもりだろう?表情から読み取ろうとしたが、先輩はちょっとだけ赤くなった顔でニコニコ
しているだけなのでさっぱり分からない。結局ボウリング場を出るまで特に何も命じられなかった。

続いてやってきたのはカラオケ。ここも定番のデートスポットであるが、何よりも狭い部屋で二人きりに
なれるのが嬉しいところ。今朝、先輩があやうくボロを出しそうだったのをフォローした分の特別報酬も
まだ貰ってないし。
とは言え、楽しいばかりではない。僕は歌うのが上手いわけでもないし、知ってる曲と言えば、アニメとか
ゲームで使われている曲ばかり。つまり、普通の人と行くカラオケはかなり苦手。
仲間内となら多少下手でも盛り上がれるし、曲だってみんな知ってるし、似たようなのばかり歌うから問題
ないのだけど。
ちょっと憂鬱になりつつ部屋に通される。飲み物を注文して、さてどうしたものかと考えていると、先輩が
僕にビシッと指差した。
『さっきの何でも言う事聞いてもらうのここで使う』
「は?いいけど・・・」
『えっとね・・・最初の1時間は私が歌うから。キミは一切喋るの禁止ね』
「え・・・喋るのも?何で?」
『へ・ん・じ・は?』
「う、うん・・・良いよ」
予想外の罰ゲームだった。僕としては歌わないのは問題ない、むしろ好都合なのだけど、これが一体何のか
理解できない。
もしかして、某ネコ型ロボットのアニメに出てくるガキ大将みたいにひどいオンチなのかとも思った。けど
先輩に限って、そんな事を強制するような人ではないはず。
理由も分からないまま、先輩のワンマンショーは始まる。歌いだし・・・普通、ちょっと一安心。
サビの部分でこっちをチラッとこっちを見たりもされたが、1曲目は特に何も無く終了。
ますます意味が分からない。そのまま2曲目、3曲目と進むが、依然として先輩の意図は分からないまま。
歌っている歌だって、曲調も様々だし、共通点があるとすればラブソング――。
「あっ」
思わず出てしまった声に先輩からジロッと睨まれた。僕の推測が正しいなら、この曲は次のフレーズでこっちを
見るはず。先輩の方をじっとみていると、予想どうりこちらをチラリと見た。
そうか、そういう事か。先輩は歌詞で『好き』とか『愛してる』見たいな言葉が出た時にこっちを見ている。
つまり・・・素の状態では恥ずかしくて言えない言葉を、歌に乗せて僕に伝えようとしているのか。
意図が分かればこっちのもの。先輩がこっちを見るタイミングで、こっちもニコッと笑ってあげると、恥ずかし
そうな表情でちょっとだけ笑ってくれた。僕が先輩の意図に気が付いたのも伝わったかな?
それから残り時間、二人してニコニコというよりはニヤニヤしながら先輩の歌を聞いていた。
『ふぅ・・・1時間終わり』
「お疲れ様」
『途中からニヤニヤして・・・気持ち悪いじゃない』
「だって嬉しいから」
『へ、変な奴。ずっと人の歌を聴いてて嬉しいなんて・・・』
「じゃ・・・そろそろ僕も歌って良い?」
『い、良いわよ。私は・・・もう満足したから』
僕もお返しに思いつく限りのラブソングを歌う。もちろん『好き』とか『愛してる』の歌詞の時は先輩の顔を
見るのも同じで。
歌っている最中にチラリと見た先輩の顔は、凄く嬉しそうにニコニコ・・・いや、もうニヤニヤという感じ。
結局、二人してずっとニヤニヤしながらのカラオケとなった。

カラオケから出た後、どちらから言出だした訳でもないが、お互い手を繋いでいた。
気持ちの次は体が繋がった・・・そんな感じだった。


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