最終話

宇宙世紀79年12月30日。遂に明日は最終決戦ア・バオア・クー宙域での戦闘だ
長かった戦争も明日で決着が付くのだ、軍全体の士気も最高潮になっている。
だが、たった一部隊。TD部隊だけが黒いカーテンで覆われたような雰囲気であった


タカシの戦死…


彼はいつの間にか部隊のムードメーカー的な存在になっていた。彼の死を惜しまない者は誰一人としていない。
特に数人の少女達にとっては何よりも大きい存在であった為にその影響は計り知れないものがあった

〜ブリッジ〜
友『艦長、もう休んではどうですか?後は私たちでやりますから』
リ『え!?ああ、ごめんなさい…なにかしら…』
友『もう、今の艦長は酷すぎです!とっとと休んでください。』
覇気が全く感じられないリナに対して休むように提案する友子。一見キツイ言い方のようだがリナを気遣っての発言だ
リ『ええ…ごめんなさい…そうさせてもらいますわ…』
そう言い残しブリッジをフラフラとした力無い移動で出て行くリナ。艦長が出て行ってもブリッジ内の雰囲気は相変わらずだ
友『この部隊もおしまいかもしれないわね…』
誰の耳にも届かなかったその声は、皆の想いを代弁するかのような内容だった

〜ちなみ部屋〜
ち『…タカシ…』
ちなみは自室のベッドで毛布を被ってうずくまりながら、ある人物の名前を呼ぶ
ち『…タカシ…』
以前はこの言葉を口にするだけで何故か安心できた。まるで魔法の言語
ち『…タ…カシ……タカシ…タカシ…』
だが今は言葉を放つ度に胸を締め付け続ける呪いの言語。でもその言葉を繰り返し続ける
これを止めたら自分が自分じゃなくなりそうだから…
ち『……タ…カ…シ……』

〜梓部屋〜
彼女は部屋に写真を並べてひたすら見入っていた
梓『ボクとタカシって、ずっと一緒だったんだね…』
並べた写真には赤ん坊の頃や子供の頃からタカシが士官学校に入るまでの写真と最近撮った二人の写真がある
梓『勝手に…ずるいよ…』
彼女の描く過去と未来には常にある人物がいる。今後もこの写真は増えていくはずだったのだが…
梓『ボクは…どうすればいいんだよ……バカシ…』
彼女の瞳から溢れた雫が写真に映る男性を濡らす。だが写真は何も語らない…


〜格納庫〜
作業を続ける一人の少女。彼女は予備機である陸ジムを弄り続ける
最初は何も無くなったタカシ機のハンガーをずっと見詰めるだけだった。
だが、目に見えない何かに押しつぶされそうになり何か身体を動かさないと気が済まなかった
勝『チクショウ…チクショウ…』
気付けば予備機はタカシ好みのセッティングに成り果てている。
勝『帰ってくるって…言ったじゃねえか…』

〜医務室〜
尊『…………』
彼女は軍医だ、戦死者を看取ったのも一人や二人ではない。だが、こんな気持ちになるのは初めてだ
尊『医者が心病とは…皮肉なものだな…』
自分を守るといった彼、ずっとずっと守られてきた自分。最後まで奴は他人を守っていた
尊『だったら…自分自身を守らんかっ……』
拳を握り締めて振り上げるが行き先が何処にもない。まるで彼女自身の感情を表すが如く…

〜タカシ部屋〜
主無き部屋、だがこの一室に人影が一つ
か『タカシの部屋…』
彼がいなくなってまだ2日も経っていない。むせ返るようなタカシの匂いがかなみの胸を抉る
か『バカ…本気で大バカ…』
テレビの元スイッチは入ったまま、寝巻きが散らばったまま、ベッドも乱れたまま
タカシの存在だけが切り取られたかのような空間
か『…う…うぅ…』
彼女はその場にへたり込み、床にあった彼のシャツを力の限り抱きしめながら嗚咽を漏らす





〜次の日〜
現実は無情である。彼女達は軍人である以上今日の決戦に参加する義務があった
宇宙基地を発進したTD部隊は前方に敵大部隊を確認する
彼女達は戦わなくてはならない。

リ『それでは全機、発進して下さい』
命令と共に発進していく3機のMS。いつもなら勢い良く前線に飛び出していくのだが今回はそれが無い
無理も無いだろう。士気が低すぎる
結局前線を突破してきた敵機を迎撃する役目を担うことになる
彼女達は普段の十分の一も実力を発揮できていない。それほどまでに彼の存在は大きくなっていたのだ
前線の味方が押され始めてきた。このままでは彼女達が最前線に出なくてはならない。
今の彼女達にとってそれは自殺行為だった。このままでは拙い

纏『取り込み中のところすまんの、少しお邪魔するのじゃ』
突然の衛星間通信、ブリッジのモニターに大きく纏指令が映し出される。こんな時に一体何の用だろうか
纏『先日そちらに補給物資を送っておいた。そろそろ到着する頃じゃろうから受け取るがよい』
確かにレーダーを見るとこちらに向かって飛んでくる物体がある
リ『お言葉ですが指令、補給物資なら後ほどに…』
纏『いや、これは「今」お前さん方が必要な者じゃ。反論は許さん』
リ『失礼ですが…中身は…?』
纏『ふふ…人間じゃ!!』

まさか…

友『艦長、補給物資のコンテナ到着しました!!ってあれ?』
友子が振り返った先には誰もいない空っぽの艦長席のみ。艦長が向かった先は言うまでも無いだろう
友『やれやれ、これよりしばらく友子が艦長代理を行いまーす』
そう言う彼女も頬の綻びが止まらない




〜2日前〜
?「う〜ん」
全身の痛みに目を覚ます。とてつもなく長いこと眠っていたような気もする
?『やっと目覚めおったか…愚甥め…』
良く知った声が聞こえる。ここは何処だ?天国か?
?『残念ながらお主は生きておる。さっさと起きんか!』
?『指令指令、こんな時は、こうすんです!!』
スパーーーーーーーーーン!!
タ「ぐぎぇ…って空気嫁ーーーーーーーー!!」
ハリセンの乾いた音と共に俺は目を覚ます。目の前にいるのは纏さんと泉さんだ
タ「で、状況を説明してくれるんでしょうね」
纏『そうじゃの、まずお主の機体はコックピット部が恐ろしく頑丈じゃ。大気圏突入なんぞ簡単にこなすわい』
マジかよ、どうやら俺は流れ星にならずに済んだようだな
泉『で、緊急用のパラシュートで不時着したコックピット部をウチが回収したってこっちゃ』
タ「でも俺、またまた全身骨折っぽいんですけど」
今の俺は頭部以外をギブスで固定され、さらに担架に括り付けられている状態だ
纏『まあ話は後じゃ、お主にはまた宇宙に逝ってもらうぞ』
タ「字が違います字が!!って何処につれてくんですかーーーーーーー!!」
俺は担架ごと黒服のお兄さん達に運ばれていく。そしてとある乗り物らしきものに押し込まれた
タ「俺の記憶が正しければこれはHLVとかいうものじゃありませんか?」
HLV…大気圏内もしくは大気圏外から打ち上げや降下を行う為のものだ。通常ならMSとか積むんだけどな
纏『それからこのHLVは特別製での、早く到着させるためにブースターを増設しておる。その分負担も大きいと思うが頑張るのじゃぞ』
通信を介して聞こえてくる宣告

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

タ「カウントダウン入ってるし!!逃げられないし!!全身骨折だし!!主人公だし〜〜〜〜〜!!」

謎の絶叫を残しながら宇宙で待つ人の元へと飛んで行くタカシ
纏『行って来い……タカシ…』



〜TD艦内〜
HLVのブースターやら何やらはここまでで分離されていて、コンテナのみが到着した。
格納庫のコンテナに押しかけてくる艦長と軍医と整備長
そして今、コンテナが開かれる
リ尊勝『『『タカシ!!!!!』』』
タ「え〜っと…お久しぶり?」
一斉に抱きしめようと飛び掛る三人、彼は避けれない。尚タカシは全身骨折中だ
タ「イデデデデデデデデデ!離れろ!!イダいマジでやめてーーー!!」
我に帰りタカシから離れる三人。プイっと顔ごと目線を逸らすのも忘れない
タ「とりあえず尊さん。アレをお願いできます?」
尊『分かった。いつもより強めで逝くぞ』

バキボキバキャボキャメキャ

タ「ふう、直った。……次は出撃だ。勝美!予備機で出るぞ!!」
勝『分かった。速攻で準備するぜ!!』
喜び勇んで飛んでいく勝美。何故か彼女らはタカシの出撃による不安など何処にも無かった
タ「リナ、ありがとな」
リ『へ?』
タ「あの時俺の我がままを通してくれてさ、リナがあの命令を下すのは辛いって分かっていたんだけどな」
あの命令とは他でもない部下を捨て駒とする先の戦闘での命令だ
リ『当然ですわ…借りは大きいのですから長い時間を懸けて返してくださいね////』
勝『お〜い、タカシ!!こっちはOKだ!!』
タ「よし、それじゃみんな、行ってくるぜ!!」

コックピットに乗り込むと懐かしい使い慣れた操縦系統。へへ、最後まで陸ジムかよ。
それも悪くない

タ「別府タカシ、陸ジム行きまーす!!」



〜戦場〜
タ「かなみ、ちなみ、梓!!俺だ、タカシだ。これより戦線に参加する!!」
か『え!?タカシ!?』
ち『…!?!?…嘘…!?』
梓『ホ、ホントにバカシなの!?』
三機そろって驚愕する。それもそうだ、いきなり戦死者が湧いてきたのだから
タ「細かい話は後だ。今はとにかくこいつらを蹴散らすぞ!!」
三人『『『了解!!』』』
三機はこれまでとは別機のような動きを見せる。もう大丈夫、彼女らエネルギーの源がいるのだから……

なぜだろう… なんでだろう…

か『バカで…』

ち『エッチで…』

梓『甲斐性なしで…』

リ『鈍感で…』

勝『危なっかしくて…』

尊『頼りないのに…』

近くにいるだけで… 傍にいるだけで…
こんなに… こんなにも…


『チカラが溢れてくる…』



タ「よし!皆、行くぞーーー!!」
タカシ機を筆頭にMS隊が続く。前線から撤退してきた部隊と入れ替わり劣勢をあっという間に挽回して押し込んでゆく
いつか彼が言った言葉「突撃を命令する者は必ず安全な場所にいる」だが彼は違う。
タ「全機、突撃ーーーーーーー!!」
自らが先頭に立ち部隊を率いる。どちらの上官に仕えたいのかは聞くまでも無いだろう
タ「俺は…みんなといる限り……無敵だーーーーーーー!!」














宇宙世紀0079年12月31日……ア・バオア・クー宙域での決戦は連邦の勝利に終わった。
翌日、終戦協定が締結。こうして一年戦争は終わりを告げたのだった…
尚、戦争は終結したが、とある男性兵士の伴侶をめぐる戦争は終わっていないことを追記しておく
記録によれば彼は一年戦争終結の3年後に軍を退役している。
また、彼と同時に数人の女性兵士も退役しているが関連性は不明のままだ。


THE END


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