#3.相談

午後の授業は、もの凄く短く感じられた。
これまでのもやもやは完全に吹き飛んだ。
でも、今度のもやもやは何か違う。色で例えるならピンク色。
(・・・何なんだろう、コレ・・・)
ピンクのもやもやは、心の中で激しく渦巻いている。

放課後。あの事件から丸一日。
「タカシッ!一緒に帰ろう!」
朝のテンションが嘘のようだ。元気いっぱい。
「あぁ、ゴメン!今日は早めにバイト行かなきゃなんないんだ!悪いッ!」
「あ、そ・・・そう・・・しょうがないわね、頑張ってよッ!」
「悪いな、それじゃ!」
下駄箱からローファーを取り出し、素早く上履きから履き替えて走り去っていく。
「・・・・・・残念」

ん?『残念』?
これまでも誘ったのに断られた事は何回もあった。
でも、『残念』なんて、そんなに思ったこと無かった。
いつも、『バカタカシ』程度だった。
今、『バカタカシ』だなんて思わなかった。
ホントにどうしちゃったんだろ。

「・・・どうしたの?かなみ」
自分の名前が耳に入り、、ふと後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、親友のちなみ。
「ちなみ?」
「・・・かなみってば、今すっごく変だったよ」
変?頭を抱えて悶えていたアタシが変?
うん、変だったね。
「あのさ、かなみ、お昼に山田君から聞いたんだけど・・・タカシと何かあったの?」
「・・・ッ!」

時は溯って、昼休み終了のチャイムが鳴る数分前。
「(;^ω^)・・・・・・一体なんだったんだお」
教室に戻ってきた山田は、牛丼を食べ終えてからしばらく考え込んでいた。
「(;^ω^)あの仲の良かった2人の重苦しいふいんき・・・」
「( ^ω^)ここは2人の共通の友達・・・ちなみちゃんに聞いてみるお!」
「( ^ω^)ちなみちゃん!ちょっと聞きたい事があるお!」
「・・・!な、何・・・?山田君・・・?」
「( ?ω?)あれ?どうしたお?何だか顔が真っ赤だお?」
「・・・な、何でもないよぉ・・・!で・・・話したい事って・・・?もしかして・・・!」
「( ^ω^)実はタカシとかなみちゃんの事についてだお」
「え・・・?あぁ、そうなの・・・私てっきり・・・」
「( ?ω?)てっきり何だお?」
「な・・・何でもないってばぁ・・・早く本題を・・・」
「(*^ω^)テラモエスwwwwとりあえず、話したい内容というのは・・・・・・」

「・・・と言う事。」
他愛もない話が含まれているが、それは置いておこう。
「山田ってば余計な事を・・・」
ホントは内心、山田には感謝していた。
今の心のもやもや、正直ひとりだけじゃどうしようもない。
古典的な方法だが、誰かに相談でも出来れば全然違うだろう。
「で、タカシと何かあったの・・・?私でよければいくらでも相談に乗るよ?」
2人は薄暗くなった道路を並んで歩きながら話す。
「ありがとうちなみ・・・」
何を話そうか。まずは事実を伝えようか。
「実は昨日、タカシと喧嘩しちゃって・・・まぁ、今日仲直りできたんだけど・・・」
これはもう自己解決した事だ。
「でも、さっきの様子を見ると、悩みは別な事のように思えるんだけど・・・?」
そうだね。すぐ分かっちゃうよね。
でも、こっちは自分でも全然整理できてないんだ。
自分の中で、自分に対する、明確な解答が見つからない。
「・・・あのね、自分の中に、よく分からないものがあるの。」
「よく分からない・・・?」
「これまでは無かったのに、今日になって急に出てきたの。
それは、アタシの頭の中をグルグルと駆け回って、アタシの思考を停止させる。
これって・・・何なのかな・・・?」
「・・・・・・間違いなく・・・恋愛感情だと思う・・・」
その言葉を言われて、かなみは顔をうつむかせる。
「や・・・やっぱり・・・そ、そうなのかな・・・・・・なんでいまさらアイツなんかに・・・」
頭を抱え込む。時折通る車の排気音も耳に入らない。
「多分・・・『いまさら』だからなんだと思うよ。」
ちなみが小さくつぶやく。
「え?」
「かなみとタカシは小さい頃からずっと一緒にいたから・・・
お互いのこと・・・まるで・・・家族のように思ってて・・・
毎日毎日・・・一緒にいる事が当たり前だから・・・
その・・・『好き』っていう感覚が・・・埋もれちゃって・・・
だから・・・はぁぅ・・・ッ!ご、ごめん勝手な事言っちゃって・・・」
・・・かなみはうつむいたまま返事をしない。
「か・・・かなみ・・・・・・?怒った・・・?」
数秒の沈黙の後、かなみが顔を上げた。
顔が、笑っている。最高の笑顔だ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ちなみ・・・ありがと。」
「・・・いえいえ・・・親友の役に立てれば・・・」
数歩歩いた後、かなみは立ち止まり、心の底から叫ぶ。
「あァーッ!タカシのバカッ!アタシをこんなんにしやがってぇぇぇ!!」
・・・。ちなみは呆れ顔が元に戻らない。
電線に留まっていたカラスが全て逃げていった。周りの人にも間違いなく聞こえてたんじゃないか。

「それじゃあね、かなみ」
ちなみの家の前で立ち止まって話す2人。
空は赤みがかった紫色をしている。
「・・・ひとつだけ聞きたい事があるんだけど」
「・・・・・・なに?」
「ちなみ、山田の事好きなんだよね?」
ちなみの顔が真っ赤に燃え上がる。
「な、な、な・・・・・・・・・・・・うん・・・大好き・・・・・・」
「よし、じゃあ一緒にガンバろうね!」
かなみが右手を掲げる。
「・・・?」
「ハイタッチよハイタッチ。ほーら」
「・・・・・・たーっち」
2人の右手が軽く音を立てた。
「じゃあね!また学校で!」
走っていくかなみの足音が、夕空とちなみの心に響いた。


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