#5.永遠

重い荷物を2人で分担して帰路に着く。
「ただいまー・・・って誰もいないか」
「え?おばさんとかは?」
「それが今日はお父さんと2人で遊びに・・・な、何考えてんだろね!アタシ達を2人っきりにして・・・」
「安心しろ、ソレだけは無いから。・・・多分」
真顔で返答するタカシ。ちょっぴりガッカリ。
「それじゃ、ちゃっちゃと料理しちゃいますか」

タカシが黙々と野菜を切っていく間、アタシはお肉の下準備。
小さく切って、タカシの切った野菜と一緒に買ってきた赤ワインに漬け込む。
ローストビーフのほうは塩やら胡椒やら擦り込んで放置。

「2人きりの共同作業・・・まるで・・・」
小声でつぶやく。タカシに聞こえないように。

しかしいきなりする事が無くなり、ふと赤ワインが目に入る。
何となくコップに注ぎ、一気に飲み干す。
「・・・ヒック」
少しだけなのに、全身が火照ってくる。

「・・・ッ!」
タカシの方からいきなり声がした。
蚊の鳴き声みたいな声だったが、かなみの耳にはしっかりと聞こえた。
「ん?どうしたの?」
「ん、あぁ、ちょっと指切っちまった・・・」
見ると、タカシの人差し指から微量の鮮血が出ている。
「ったく、何やってんのよ・・・マヌケ」
「まぁ、これくらいならほっといても・・・」
ぱくっ。
「って・・・お、おい・・・いきなり何すんだよ」
かなみの柔らかな唇が、タカシの傷口を包み込む。
「なにって・・・止血にひまっへんれひょ・・・」
舌で指を愛撫しながら喋る。
「ちょwwwもういいよ、じゃないと俺の理性が・・・あぁっとブロッコリーが茹であがりましたから離して!」
ぱっ、と指を引き抜く。指と唇の間に粘性の糸が一瞬引き、すぐに消えた。
「あ・・・」

酒の勢い?とはいえ、ズイブンと大胆な事をしてしまった。
肉を炒めているタカシの頬が少しだけ赤く見える。
アタシは多分もっと赤いだろうけど。
「あ・・・あのさ・・・アタシ、何かすることある?」
恥ずかしさを堪えながら声を出す。
「んー・・・それじゃあ、じゃがいもの皮剥いてくれない?」
デコボコしたじゃがいも、包丁じゃ皮、剥きにくい・・・
アタシの事だからなおさらだ。
「んしょ・・・んしょ・・・」
・・・難しい。
この芽ってどうすればいいんだっけ?
とりあえずそのまま切る。
不揃いで無骨な形に切られたじゃがいもがあまりにも可哀相だ。がじゃいも。
「・・・あぁーもう見てらんない!」
焼きあがったローストビーフをホイルに包み終えたタカシが見かねてかなみの元に来る。
「じゃがいもってのは芽を取んなきゃダメなんだよ・・・クドクド」
かなみの横に立ちながら色々文句をつける。
「う、うるさい!そこまで言うんならアンタがやってよ!・・・アタシ見てるから」
「はいはい・・・ほら、こうやって・・・」
すっ、とタカシに近づく。
「・・・なんのつもりだ?」
「ち、近くじゃないとよく見えないじゃない・・・」
「・・・でも、僕包丁持ってますし、近いと危ないですよ」
「あ、そ、そうだね。じゃあこれくらいでいいでしょ!」
足を数センチだけ動かす。
「まだ近いけど・・・まぁいいか」
想い人が隣にいること。それだけで幸せだ。

「・・・よっし!これでやっと完成だ!」
シチューを2人で交代で混ぜつづけ、いい感じに煮詰まった。
時計を見ると、すでに10時を回っていた。

「それじゃ、改めて誕生日おめでとう、かなみ」
「あ・・・ありがと・・・」
目の前に並べられた料理を目にし、我慢していた感情が爆発する。
・・・ぐぅ〜
「あ・・・」
「・・・ぷっ!何腹鳴らしちゃってんだよ!」
「しょ、しょうがないでしょ!アンタの料理がすっごくおいしそうなんだから・・・」
「分かった分かった。そいじゃ、どうぞ」
「いただきまーす・・・」
特製ソースがかけられたローストビーフにナイフを入れる。
十二分に染み込んだ肉汁が溢れ出し、さらに食欲をそそる。
「んっ・・・・・・・・・」
旨みの凝縮された肉汁と西洋わさびの辛味が口の中で混ざり合う。
「おいしい・・・すっごく。今まで食べた中で一番美味しい!」
「お褒めの言葉、どーも」
夢中で食べ続けるかなみをタカシはじっと見つめる。
「・・・な、なによジロジロ見ちゃって!・・・」
「いや、ホントに美味そーに食べるから、俺も食べたいなー・・・なんて」
「・・・それならそうと言ってくれれば良かったのに・・・ほら」
シチューをすくい、タカシの前に差し出す。
「お?もしや『あ〜ん』してくれるのか?」
「そうよ!何か文句でも!?」
「いやいや、文句なんか・・・」
「ほらッ!口開けなさいよ・・・」
・・・ぱくっ。かなみのスプーンがタカシの口に突っ込まれる。
「・・・うんうめえ。自画自賛になっちゃうけどな・・・。ところでこれ、間接キスだよな?」
その言葉を聞いた瞬間にかなみの顔は真っ赤に燃え上がった。
「バババババカじゃないの!?そんな事で喜ぶなんて!子供みたい!」
「・・・でも、こんな事で顔真っ赤にしてるかなみはもっと子供みたいだぜ」
「うるさぁーい!もう知らない!」
タカシの口に入ったスプーンを使って、シチューをかっ込んでいく。完全な間接キスとなりました。

食事を終えた2人は、ソファーに並んで座り、テレビを見ていた。
ブラウン管には黒いレザーを身に纏った男が腰を振っている姿が映されている。
「ギャハハハハハ!!何だよこいつテラワロスwwwwww」
腹を抱えて笑うタカシとは真逆に、かなみはうつむいたままだんまりしている。
「・・・どうしたかなみ?まさか腹でも壊したか?」
かなみはゆっくりと口を開く。ノトーリアスB・I・Gにも悟られない早さで。
「・・・・・・アタシ、今すっごい幸せだよ」
かなみのその言葉に、タカシの笑いがピタリと止まる。
「へ・・・?いきなりどうした?」
「アタシ今すっごく幸せなの!アンタが隣にいて!アタシがその隣にいて!
・・・でも!この前のアレで・・・この幸せを・・・壊してしまうかと思って・・・ッ!」
かなみの瞳から大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。
「かなみ・・・俺が・・・お前を嫌いになるとでも思ったか・・・?」
タカシは泣きじゃくるかなみをそっと抱き寄せる。
「え・・・?タ、タカシ・・・」
「かなみ・・・ずっとずっと、好きだった」
タカシの腕の力が強まる。それに比例して、かなみもタカシを強く抱き返す。
「バカァ・・・そんな事・・・早く言ってよぉ・・・アタシだって、アタシだってアンタの事ずっと好きだったんだから!」
「かなみ・・・ずっと・・・一緒だッ!」
涙と鼻水でぼろぼろになった顔を引き寄せ、唇を重ねる。
「─────ッッ!!」
テレビから、今年最高のヒットを記録した恋愛映画の主題歌が聞こえてきた。

「・・・遅れたけど、これ、誕生日プレゼント」
ポケットからピンク色の紙に包装された小箱を取り出し、かなみに渡す。
「これって・・・指輪・・・?って、アンタこれまさか婚やッ!」
「落ち着けって、俺たち高校生だろ。これはあれだ。ペアリングってヤツだ、ホレ」
首から下げたチェーンの先についたリングを見せる。
サイズが違うが全く同じモデルのリングだ。
「ででででもこれって・・・・・・恋人同士が持つものでしょ!?」
「そうか、それじゃ俺と付き合ってください」
「・・・・・・はい、こちらこそよろしくお願いします・・・これでいいわね!」
「あぁ、ありがとうかなみ。大好きだ」
2人は再び口づけを交わす。
永遠にも感じられる時間。時が止まったような感覚。
全ては、あなたがそばにいるから。

-fin-


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