その2

タ「はぁ…………退屈だ。入院生活ってこんなに暇なもんなのか……あぁ、仕事溜まってんだろうな。やりかけのゲームも気になってきた……ぶつぶつ」
か「おーい。」
タ「……ぶつぶつ……」
か「さっさと戻ってきなさいバカ!!」
べちっ。
タ「ぶっ。なんだ、かなみか。いきなりデコピンとはヴァイオレンスなヤツだな……」
か「いきなりじゃないわよ。さっきからずーっと居たわよ」
タ「盗み聞きとはまたアナーキーなヤツだな」
か「あんた……ギブス生活2ヶ月じゃ足りないのかしら?」
タ「調子に乗ってました。」
か「てか、そろそろお昼食べてもらっていいかな?あたしも暇じゃないんだから。」
タ「あぁ、もうそんな時間か。」
か「んじゃ、口あけなさい。何からいく?」
タ「ん……じゃあ、玉子」
か「はい」
タ「むぐむぐ…………なぁ?」
か「何よ?」
タ「情けねぇな。俺」
か「あんたバカ?あんたの評価なんて、高校ん時からとっくに底値を割ってんのよ。今更情けないも何もないわよ」
タ「ひ、ひでぇ……」
か「それに、い・ち・お・う、良いことしてついた怪我なんだから、そんな細かいことウジウジ言わない」
タ「いま一応を滅茶苦茶強調したな」
か「さぁね」

か「あ、そうそう。」
タ「ん?」
か「明日なんだけどね、あたしもチカもお休みなんだ」
タ「ま、まさかアレか?俺はメシ抜き……?」
か「バカ。ここ、病院よ?んなことするはずないでしょ。」
タ「ほ。」
か「本気で心配してたの?バカなんだから」
タ「お前、ばかばか言い過ぎ」
か「あんたがばかばか言われ過ぎなのよ」
タ「お前、看護婦としてどうなのよ、これらの言動の数々は」
か「看護士よ。か・ん・ご・し」
タ「別に一緒だろ。それに、看護婦の方がロマンを感じるじゃないか」
か「アホくさ。」
タ「っせぇな。と、ごちそーさん。いつも悪いな」
か「い、いきなり何言ってんのよ。仕事なんだから当たり前じゃない!!」
タ「だな。」
か「ったく、ほら。熱計って……と、トイレは?」
タ「平気。」
か「ならいいけど、無理すんじゃないわよ?」
タ「あ、いや。今はマジで平気だから」
か「そ。ん……熱も無いわね、それじゃ、あたし行くから」
タ「あいよ」
か「あ。言い忘れてたけど、明日はリナ先輩が来てくれるから。」
タ「ん。」
タ(神野先輩か……なんか緊張するな。そういえば入院してから一度も見てないな。)
タ(結局高校の時は一度も声すら掛けられなかったからな……あの頃のオレはチキンだったぜ)
?「……」
タ(にしても、こんな格好で再会か……つくづく情けない話だ)
?「……なぁ?」
タ「おわ!?」
?「やっと気付きおったか」
タ「あ、貴女は?」
纏「尊から聞いておらんか?お主のリハビリの手伝いをする、纏じゃ」
タ「あぁ、貴女が。それより、何時から?」
纏「数分前じゃな。一応断っておくが、ノックもしたし、何度も声は掛けたのだぞ?」
タ「そ、それは失礼を」
纏「何、まぁ気にするな。本来ならリハビリはまだまだ先なのじゃが、二三確認したいことがあってな」
タ「なんでしょう?」
纏「まず、ギブスの先端に多少空間があると思うが、指は動くか?」
タ「あ、動きます!気付かなかったな……」
纏「ふむ。では、気付いた時は手を握って開いてと繰り返しているといい。握力が落ちると、何かと不便じゃからな」
タ「わかりました。」
纏「それから…………」
ふわ……っ
タ「へ!?」
タ(な、何故に背中に手を回すの!?)
纏「何を赤面しておるか。ほら、上体を起こせぬか?」
タ「え、あ、そ、そういうことか」
纏「何がそういうことかじゃ。全く」

タ「ふ…………くは。腕と脚が使えないと、やはり少し厳しいですね。」
纏「ふむ。では、少し持ち上げてやろう。ん……これでどうだ?」
タ「あ、な、なんとか……」
タ(纏さんの腕、あったかいなぁ……)
纏「顔が赤いぞ」
タ「う、す、すみません……」
纏「早く慣れてもらわんと、こちらも困る。」
タ「そ、そんなにいきなりは。無理ですよ……」
纏「ふむ。見た目よりもナイーブなのじゃな」
タ「見た目よりって」
纏「はは。すまぬ、ついな。それにしても、やはり若い者は体力があるな。これからは起きてメシを食せるぞ?」
タ「助かります」
纏「ふむ。今日はこれくらいにするか。では、またちょくちょく覗きにくるとしよう。」
タ「はい。ありがとうございました」
纏「何、これも仕事だ。気にするでない」
タ「はい」
纏「ではな」
タ(纏さんか……厳しいって話だったけど、優しい感じの人だったな。俺がこんな様だから、優しくしてくれたのかな?)

その日の夜。
タ「なぁ」
か「なによ?」
タ「纏先生って、どんな人?」
か「突然ね。まぁ、言うことはたまにキツいけど、凄く良い人よ。医師としても尊敬できるし」
タ「へぇ。」
か「どうしたのよ、いきなり」
タ「いや、今日初めて会ったからさ。」
か「あぁ、そういやあんたのリハビリ、纏先生が見るんだったわね」
タ「そゆこと」
か「で、結構言われちゃったわけだ?」
タ「いや。からかわれはしたけど、そんなには」
か「ふ、ふぅん……あんたが、あんまりにも情けないから優しくされちゃったんじゃないの?」
タ「お前、昼間と言ってること違うぞ?」
か「う、うっさいわね!!てか、とっととご飯食べなさいよ!!ったく……」
タ「なにカリカリしてんだよ……?」
か「カリカリなんかしてないわよ!!」
タ「わけわかんねぇ……あ、そういやさ、神野先輩って……」
か「っ〜〜〜!!」
タ「か、かなみ?」
か「何よ?」
タ「なんでもありません……」
か「ふん。」
か(何よ……さっきから他の人の話ばっかりして……バカ)
タ(な、なんか気まずいんですが……)
か「はぁ。じゃあ、あたし行くから」
タ「あの、その、ごめん」
か「ふん。何がよ」

タ「眠れねぇ……ったく、なんだっつうんだよ。かなみのヤツ……本当意味わかんねぇ……。」
ち「おこんばんは〜。」
タ「うぉ!?、ち、ちかさん。どうしたんですか?こんな時間に」
ち「いやさ、ちょっとちなみちゃんの事で相談」
タ「?」
ち「あぁ、ごめんごめん。名前わかんないか、君が助けた女の子。ちなみちゃんっていうんだ」
タ「あぁ、それで相談っていうのは?」
ち「いやね、君にお礼が言いたいらしいんだけど、君に恨まれてるんじゃないかって心配してるみたいなんだよね」
タ「はぁ。」
ち「で、君の意見を聞きにきたと」
タ「俺としては話し相手が来るのは大歓迎ですが」
ち「そっか、今の言葉、そっくりそのまま伝えるから」
タ「お願いします。あと……その……」
ち「ん〜?何かな〜?」
タ「あのこと、他の人には黙っててもらえてます……?」
ち「んふふ〜。どうだろうねぇ?僕、口が軽いから。つい言っちゃってるかもね」
タ「え…………?」
ち「あはははは。嘘だよ、う・そ本当。君はからかい甲斐があるよ」
タ「洒落になってませんよ……」
ち「はいはい。まぁ、言わないように気を付けるから、安心しなさい」
タ「お願いしますよ、本当に」

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