第二話「あおいそら」

「はぁ・・・」
俺は、今日数百回目になるであろうため息をついた。
「なんだよ、元気ねーじゃん。せっかく彼女できたのにw」
「おまえな・・・いっぺん死ぬか?」
もちろん山田は、明らかな悪意を持って俺に言葉を吐いている。
・・・今回の罰ゲームの概要は、今朝決まった。
予想外にも、千奈美に俺の告白が受け入れられてしまったため、罰ゲームは続行。
そして、普通に一週間恋人を演じ、その後ネタばらし、という流れになった。
・・・俺としては、今すぐにネタばらしして千奈美に謝りたかった。
こういうのは、時間が経てば経つほどやりにくくなるに決まっている。
・・・もちろん、山田はそれを見たくてこんな筋書きを書いたのだろうが。
「さ、タカシ君。昼休みだ。ラブラブで食事してこいwwwww」
(やっぱ殺そうかなこいつ・・・)
だが、結局は敗者の弱み、俺は逆らえずに委員長の席へと向かった。

[]

「よ、いいんちょ」
「・・・・・・」
告白にOKしたわりには、千奈美の態度はこれだ。
相変わらずの近づきにくい雰囲気。
「なーいいんちょ。一緒に飯食おうぜ」
「・・・」
千奈美は、伏し目がちに俺を一瞥すると、すぐに目を逸らす。
そして、カバンの中から何かを取り出した。
クールな千奈美のイメージからは程遠いピンクのナプキンに包まれた弁当箱。
しかし、その大きさは女子が一人で食べる量ではないように見える。
「・・・・・・」
千奈美は俺を一瞥すると、黙って立ち上がり、すたすたと教室の扉へ向かう。
「あ・・・あれー・・・?」
俺は、どうしたらいいのかわからず、ポカーンと千奈美の背中を見ていた。
と、千奈美が扉の前で振り返り、呟く。
「・・・・・・こないの?」
「え?あ、ああ・・・」
・・・一緒に行くつもりだったのか。
俺はまったく彼女の考えを把握出来ず、ただただ翻弄されるのみであった。
[]

「・・・これ」
中庭のベンチに腰掛けると、千奈美は弁当箱のフタを開けて俺に差し出した。
「え?弁当俺の分もあるの?」
「・・・・・・」
千奈美は黙って頷いた。
これは・・・いよいよやばいことになってきた。
いきなり手作り弁当とは・・・千奈美は、本気で俺の事を・・・
・・・いやいや。今は物珍しくてやってるだけさ。一週間もすれば、向こうから愛想を尽かすに決まってる・・・
「じゃ、じゃあいただきます・・・」
俺は、色とりどりの弁当箱の中から卵焼きを口に運ぶ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ぐえ・・・激しく甘ったるい・・・
千奈美は、感想を求めているのか、伏し目がちに、じっとこっちを見ている。
しかし・・・この味はお世辞にもおいしいとは言えないぞ・・・

[]

「・・・えーと」
「・・・まずいのね?」
「え・・・いや・・・」
千奈美は、しゅんとした表情で俯く。
「・・・・・・ごめんね。似合わないことして・・・」
擦れてよく聞き取れない声で、千奈美は言った。
その悲しそうな表情は、俺の心に深く突き刺さった。
「ば・・・馬鹿言うなよっ!」
俺は覚悟を決め、弁当箱を持ち上げる。そして、一気に中身を平らげた。
まずいはずなのに・・・不思議と、彼女が一生懸命作る姿を想像したら、おいしく感じる。
異常に甘いのはどうしても否めないが。
「うまいよ。てか、女の子に弁当作ってもらえるなんて初めてだから、文句なんて言うわけないし!」
「あ・・・」
千奈美の顔が、一瞬だけ綻ぶ。
「・・・うそばっかり」
「う、うそじゃないって!まあ、変に甘いのは確かだけど・・・」
「・・・・・・そう」
千奈美は、呟いて空を見上げた。その顔は、いつもの無表情な彼女ではない。
・・・少しだけ、笑みを浮かべているように見えた。
「今度からは・・・お砂糖は控えめにするわ」
「お、おう・・・」
今度・・・か。
俺は、千奈美と一緒に空を見上げた。
俺はいったいこれから、どうすればいいんだろうか。
彼女の差し出したポットのお茶が、少しだけ、苦い・・・


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