ツンデレが媚薬を使ったら その2

 放課後。全力で家に帰ってきた私は、大慌てで着替えると、部屋の片付けをしてそれか
らお茶の準備をする。いつもはお母さんがやってくれるんだけど、今日はいないから、タ
カシを迎える準備は全部自分でやらなければならない。
 で、部屋を綺麗にしてティーカップも紅茶も準備して後はお湯を沸かすだけになると、
ちょっと私は手持ち無沙汰になった。そろそろ来てもおかしくないはずなのに、まだ連絡はない。
『何やってんのよ、あいつ……こっちから連絡しようかしら……』
 イライラしつつ携帯に手を伸ばそうとして、ふと思い出した。昼休みに友香から貰った薬の事を。
『素直になる薬……? 馬鹿馬鹿しい。そんなもんがありゃ、苦労しないっちゅーの。ねえ』
 誰もいないのに、誰かに問い掛けるように、独り言を私は言った。しかし、一度思い出
したものは容易に頭から去らず、私はクローゼットを開けると、ブレザーのポケットから
小瓶を取り出した。
『にしても……ラベルも何も書いてないのよね。一回に付き、一錠でいいのかな……?
って、私、何でこんな事考えてるんだろ……? どうせ効く訳無いのに……』
 それでも、私は気になって仕方が無かった。もし、万が一にでも、タカシの前で素直に
なれるんだったら……強がったりごまかしたりせずに、甘えたり出来るんだったら……
 その事を想像して、私はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
『き……危険な薬じゃないんだよね…… 友香から貰ったんだし……一錠くらいなら……
飲んだって……』
 キュッ、と瓶の蓋を緩める。もはや、私を止める理性は残ってなかった。流しに行き、
コップに水を注ぎ込むと、私は躊躇い無く薬を口に放り込んだ。しかも倍の二錠も。水を
飲んで、飲み干してしまってから私は不安になった。
『もしかしたら、一錠じゃ効かないのかなって思ったけど……飲み過ぎだったらどうしよう……』

 けれど、もう、後の祭りである。
 と、その時携帯の着メロが軽快に鳴り出した。私は慌てて電話を取る。
『もしもし? 今まで一体何やってたのよ、バカ!! アンタ相手に割ける時間なんて無
いって言ったでしょ?』
 ピンポーン。
 玄関のチャイムが鳴る。私は、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと玄関に行くとドアを開けた。
「よお。ゴメン、待たせちゃって」
 タカシが申し訳無さそうに笑いながら挨拶してきた。その顔を見た瞬間、私の胸がドキ
ドキと高鳴る。学校で、制服姿で見るのとはまた違うタカシの姿は、すごくカッコイイ。
けれど、その気持ちを押し殺して私は文句を言った。
『遅いっ!! 一体今まで何やってたのよ』
「いやー。たまたま廊下で担任に捕まってさ。ちゃんと真っ直ぐ帰れだの、ただ漫然と教
科書読んでたって勉強にはならないだの、説教が始まってさー」
 うんざりしたような様子で弁解するタカシに、私は鼻を鳴らして不満の意を表した。
『全く、タカシはあしらい方が下手くそなんだから。それより早く上がってよね。遅れた
分、取り戻さなきゃならないんだから』
「それじゃあ、お邪魔しまーす」
 タカシは玄関で靴を脱ぐと、勝手知ったる感じで家に上がって行く。その様子が、私に
は少々不満だった。
『【女の子の家に上がるんだから……もう少し、緊張してくれたっていいのに……】』
 と、その時、タカシが不意に聞いて来た。
「あれ? 今日、おばさんは?」
 タカシが来ると、うちの母親はいつもニコニコしながら廊下に出てきて世間話をする。
それが無かったから不思議に思ったらしい。
『んと……きょ、今日はその……友達とお食事なんだって出かけていったけど……』

 そう言いながら、ふと頭を過ぎるのは、よくある恋愛ドラマのワンシーン。今日……パ
パもママもいないの……というセリフ。本当の事を言っただけなのに、何故か自分から
誘ってるような感覚を覚え、私は身震いした。
「食事? 飲みだろ、どーせ。全く、あの年で一晩飲み明かせるんだから、おばさんすげー
よな。とても40代とは思えん」
『全くよ。ちょっとは子供の身にもなって考えろっての』
 タカシの反応に、ちょっとがっかりしつつ、私も相槌を打つ。そうよね。普通はそれだ
けよね。いちいち言葉一つに反応したり、しないよね……
『タカシは先上がって待っててよ。そんな訳だから、あたしがお茶淹れなくちゃならないから』
「悪いな。気を使わせちゃって」
 タカシに感謝されて、嬉しさと気恥ずかしさの感情が交じり合う。そして、私はまた、
捻くれた返事を言う。
『気にしないでよ。別にアンタのためだけに淹れてる訳じゃないんだし』
「へーへー。でも、ま、かなみの手を煩わせちゃってるんだし、お礼言ってもバチは当たらないだろ?」
 笑顔で言う彼に、私は舌を突き出した。
『むしろ百回言っても足りない位よーだ』
 タカシは明るく笑って階段を上っていった。誰もいない私の部屋に、タカシを入れる事
が気になったのはいつからだろうか。冗談でエッチな事を言っても、決して下着を漁った
りしないことは信頼しているけど、それでもちょっと恥ずかしい。タカシはどう思っているのかな?
 そして、お湯を沸かそうと、ヤカンを火に掛けた時だった。

――――ドクン……
 あれ?
 違和感に気づき、私は首を傾げた。
 何となく、体が熱い。皮膚がザワザワする気がする。
 風邪かな、と最初は思った。何となく、風邪の引き始めの時と似たような感覚があったからだ。
『【やだな……こんな時に……せっかく、タカシが来てくれたのに……】』
 ふと、妄想する。私の体の不調に気づいて気遣ってくれるタカシ。大したことないと言
い切る私を無視し、おでこに手を当てる。熱があることに気づいて無理矢理ベッドに寝か
せ、看病してくれる。それもいいかな、とか不埒な事を考えてしまう。
 ピィーーーーーー!!!!
 ヤカンからけたたましく音が鳴り、お湯を沸いた事を教えてくれる。ハッと現実に立ち
返り、慌ててガスの火を止めた。
『んんっ!!』
 手をガス台に伸ばした時、僅かに動いただけの胸の先端がジクッと感じ、私は胸を腕で抱えた。
『あれ……ブラの位置がおかしいのかな……?』
 ずれてワイヤーでも擦れたのかと思い、直そうとした瞬間、ゾクリという感覚が乳首の
先端から胸に、上半身に広がり、私は思わず背筋を伸ばし、嬌声を上げる。
『ひゃうっ……!!』
 それから、ハアハアと荒い息をついて、テーブルに片手を付いた。ジンジンした疼痛に
も似た感覚は、まだ続いている。
『やだ……何なの、これ……?』
 さすがにこの感覚そのものは、私でも分かる。自慰行為で、タカシを思いつつ、指で乳
首を弄った時の感覚。だけど、何で今、しかもたかが体を少し動かしただけで……

『【え……?】』
 その時、私は思い出した。素直になる薬。もしかして……いや。間違いない。でもこれ
は……この感じはそう……間違いなく……
『ゆ……友香のバカ……素直になるって……た……単に、エッチになるだけじゃ……』
 薬を渡した時の、友香の笑顔を思い出す。彼女の事だ。全部知ってて渡したに違いない。
『ど、どうしよう……二錠も……飲んじゃった……』
 今から、お茶を持って、タカシの所に行かなくちゃならないのに。不安が、かなみの背
筋を寒くする。もしも、ううん。もしかしなくても、タカシの前で痴態を見せてしまった
ら……恥ずかしくて、生きていけない……
 ふと気が付くと、私は両脚をギュッと閉じて、落ち着かなげにそわそわと動かしている
のに気づいた。股間が、痒みを覚えて疼いている。
『と……とにかく……お茶を持って……行かないと……タカシ、待ってるし……』
 既に乳首は勃起しており、体を動かすと、ブラジャーが擦れて感じてしまう。
『我慢しなきゃ……タカシが帰るまで……何とか……』
 不安に慄きつつ、私はお盆を持つと、タカシの待つ自室へと向かうのだった。


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