ツンデレが媚薬を使ったら その3

 部屋に戻ると、タカシは一人、問題集と格闘しつつうんうんと唸っていた。私の姿を見
ると、顔を上げてこう言った。
「よお。随分遅かったな」
『言っとくけど、太くもないし便秘でもないからねっ!!』
 咄嗟に、私はこう答えた。さっきの友香とのやり取りが頭を過ぎったからなのだが、タ
カシは不思議そうに眉を顰める。
「は? 何言ってんの、お前」
 そう真顔で聞かれると、途端に自分の言葉が恥ずかしくなり、私は顔を真っ赤にした。
『うるさいっ!! な……何でもないわよっ!! そんな事より勉強。手ぇ止まってるみ
たいだけどサボッてたんじゃないでしょうね』
「ちげーよ。どうしても分からん公式があるから、かなみに教えてもらおうと思ってたんだよ」
『だからってそこで止まってる事ないでしょ? 先の問題やってればいいのに。そういう
のを効率悪いって言うの』
 キッとタカシを睨みつけて私は文句を言った。それに対して、タカシも口を尖らせて言い返す。
「一応見たさ。けど、難しい問題多くてあっちもこっちもだと頭ぐちゃぐちゃになんだよ」
 私はハア、とため息をつく。
『全く、本当にバカなんだから。しょうがないわね。で、どこよ?』
 私はタカシの後ろに回り込むと、腰を下ろして肩越しに問題集を覗き込む。
「とりあえず、この問題なんだけどよ……」
 タカシの指した問題を見て、私は納得した。確かに、ちょっと数学が得意な人でないと
苦戦するような問題だ。しかし私はついつい、こう言ってしまう。
『何よ、こんな問題も解けないの? バッカじゃない? ちゃんと授業聞いてんの?』
「お説教は後で聞くからさ。とりあえず教えてくれよ、かなみ先生」
 このやり取りでちょっと気が逸れたのか、私はどうやら問題に集中して取り組む事が出
来た。一度タカシの後ろから離れて、ノートの切れ端で問題を解くと、再びタカシの後ろ
に戻って説明を始める。
『いい? まず最初に――』
 一つ一つ出来る限り分かり易いように教えていく。タカシもフンフンと頷きながら自分
でシャーペンを走らせる。
 しかし、私の意識は説明しながらも徐々にタカシへ、タカシへと逸れていった。

『【タカシの顔が……体が……こんな近くに……】』
 それから、ハッと思いなおして小さく首を振る。
『【いけないいけない……こんな事じゃ、また……】』
 ジュン、と股間が疼く。それを私は意識的に無視しようとした。
『あ、ちょっとストップ』
 タカシが間違った公式を書き始めたので、私は慌てて止めさせた。
「何だよ?」
『そうじゃないでしょ、バカ。さっき説明したじゃない。この式は……』
 私はタカシからシャーペンを取ってもう一度説明しようと身を乗り出した。その瞬間、
タカシの背中に私の胸が軽く触れた。
――――――――!!!!
 胸の先から刺激が走り、私の体がビクン、と反応する。私はもう少しで呻き声を漏らし
そうになったが、それを必死で押し殺し、体の動きを止めて静かに呼吸を整えた。
「どうした?」
 私の様子をおかしく思ったのか、タカシが僅かにこっちを向いて質問してきた。
『な……何でもないわよ!! 今教えるから、大人しく待ってなさいよね』
 何とか体が静まるのを待ったが、胸がジンジンするのはどうやら治まりそうにない。そ
れを待つわけには行かず、私はもう一度立て膝状態になると、タカシの後ろから公式を書
き込もうとする。
『【さっきみたいに……急に当てないように、気をつけないと……】』
 触れないようにすると、却ってぶつかった時に強い刺激が来るかもしれないので、私は
タカシの背中に最初から胸の先をゆっくりと当てる事にした。
『だから、この関数はさ……んと……図で書くとこうなる訳……だから……』
 説明しつつ、恐る恐る左の乳房をタカシの右肩に当てた。
『!!!!』
 僅かとはとても言えない刺激だが、今度は何とか我慢出来る。体を少し動かす度に、ブ
ラの中で、少しずつ乳首が硬くなっていくのが分かった。
『【タカシ……気付いちゃうかな? 気付くよね……ここまですれば……でも、お願いだか
ら……気付かないで……】』

 まだ、強く押し当ててはいない。ほんの少し、先がツンツンと当たる程度である。意識
すれば気付くだろうけど今ならまだ、偶然で済むレベルだ。
『うん、そう…… だから……』
 何とか教えてはいるが、私の意識は完全に胸の方に行ってしまっている。しかも、気付
かないでと思いつつ、私は胸を離すどころか、徐々に強く押し当ててしまっている。
『【気付かれちゃう……けど……抑えられないよ……】』
 何だか、自分の体が自分じゃないみたいな、変な遊離的な感覚があった。心ではしちゃ
いけない、これ以上したら気付かれちゃう、恥ずかしい、バレたくない。そんな気持ちで
一杯なのに、体は快感を求めてどんどん大胆になって行く。必死に抑制しようとしている
のに、出来ない。言う事を聞いてくれない。もし、心の抑制を解いてしまったら、私はきっと、
発情した獣のようにタカシを求めてしまうだろう。
 ふとその時、タカシの手が止まっている事に私は気付いた。
『ちょ……ちょっと!! 何、ボーッとしてんのよ。出来たんなら、さっさと次の問題に
行かないと終わらないでしょ?』
「あのさ、かなみ……一応、やっぱ言った方がいいと思うから言うけどさ……」
 あれ? 何かタカシの様子がおかしい。もしかして――
 私がハッとするのと同時にタカシが言った。
「お前……気付いてないかも知れないけど……さっきから、胸……当たってるぜ」
 その瞬間、私はバッとタカシから離れると壁際まで後退し、胸を両腕でギュッと強く抱
き締め、キッとタカシを睨み付けた。
『あ……あああああ……アンタ、何意識してんにょよっ!! このスケベッ!!!!』
 当ててた自分の事は思いっきり棚に上げて、私はタカシを詰った。しかし、何とか強気
な態度でごまかしてはいても、自分の胸が緊張と羞恥でバクバクと音を立てて鳴っている
のは否定出来ない。
「ちょっと待てよ。何も俺が触った訳じゃないんだし、親切に教えてやったのにそりゃないだろ?」
 タカシの文句は重々承知の上だ。120%自分がスケベなのも良く分かってる。けれど、そ
れでも私は責任をタカシに押し付けざるを得なかった。
『自分から離れれば良かったじゃないのよ。どうせ感触を楽しんでたんでしょ? 変態!!』
 これも自分の事だ。私は単に、タカシに名前を置き換えて自分を詰っているだけなのかも知れない。

「……しゃーねーだろ。男なんだし。胸じゃなくたって、女の子が傍にいれば意識するって」
 ぶっきらぼうな口調でタカシは言った。
 その言葉に、私の心臓がドクン、と激しく一打ちし、さらにドクドクと大きな音を立てる。
『【タカシが……意識してくれてるの……? 私を……女の子として……】』
 今にも後ろから抱き締めたくなる衝動が私を襲う。かろうじて、ほんのギリギリのとこ
ろで残った理性が私を押し止めた。
『わ……わかったわよ……タカシがスケベだってのは良く分かったけど……あたしも不注
意だったから……気をつける……』
 顔を赤くして、タカシから顔を逸らす。
「お前さ。自分の席に戻れよ。とりあえず分かんなくなったらまた聞くからさ」
 タカシのたしなめるような優しい言葉に、私は首を静かに横に振った。
『ま……まだ、全問解けてないじゃない。とりあえず……その……出来るまでは、後ろの
方が面倒見やすいから……』
「いや。大丈夫だって。そんな事よりお前こそ古文やんなくていいのか? 知らねーぞ、
赤点取っても」
『あたしの事は心配しないでいいわよ!! 言っとくけど、あたしだって好きで見てあげ
てるんじゃないんだからね。あんたにいつまでもグズグズいられると迷惑だから、仕方な
く教えてんの。分かる?』
 タカシは、一瞬、複雑な目で私を見た。それはそうだろう。さっさと帰れって言うんな
ら、最初から勉強の約束なんかしなければいいんだから。しかし、すぐに思い直した様に
ため息をつくと、タカシは肩を竦めた。
「はいはい。それじゃあお願いするとしますか」
『むっ。か、感謝の気持ちが足りないんじゃない?』
「分かった分かった。頼むよ、かなみ。とりあえず機嫌直せって。な?」
『ふんっ!! バーカ』
 タカシを罵って気持ちを落ち着ける。うん。今の会話で大分治まったんじゃないか?
 しかし、安心するのは全然早かった。
 クチュッ……
 僅かな、湿り気を帯びた音が、私の股間からした。同時に、背骨を、槍で突いたような
快感が突き抜ける。

『!!!!!』
 私は背筋をビクン、と反らしてそのまま固まった。再び胸が苦しくなり、呼吸が荒くなる。
「ん? どうかしたか、かなみ」
 気になったのか、タカシが振り向こうとする。ヤバ……今、振り向かれたら……バレちゃう……
『こっち見んな!!』
 タカシの動きがビクッて止まる。私はすぐに、追い打ちを掛けるようにタカシに言った。
『その……あたしの事をいちいち気にしないで、ちゃんと勉強に集中しなさいよねっ!! 
すぐ気が散るのは……タ……タカシの悪い癖……なんだから……』
「分かったよ。ったく、だからって、そんな厳しく言わなくたってよ……」
『何か文句でもあるの?』
「ないない。ちゃんと真面目にやるって」
 タカシが大人しく問題に復帰したのを確認して、私は声を漏らさないように注意しつつ
ため息をついた。
『【それにしても……何で……あんな刺激が……?】』
 私は、恐る恐る左手を後ろからスカートを捲って差し入れてみる。指先に、グチュッと
粘々した、ひんやりと濡れた物が当たる。
『【や……やだ…… もう、こんなに濡れ……ふむっ!!】』
 指を滑らせると、快感が全身に走る。自分の意思とは無関係に、快楽を求めて指先が滑る。
『【ダメ……や……指が止まらなっ!! ……いよ……ぉ】』
 タカシの目の前――いや、背後で、こんな事をするなんておかしい。恥ずかしくて死に
そうだ。なのに、私の指は快楽を求めて、勃起したクリトリスの上を優しくなぞった。
『【止めないと……止め……】』
「なあ、かなみ」
 ノートを見つめたまま、タカシが話し掛けて来た。同時に私の全身が凍りついたように止まる。
「ちょっとここも分かんないんだけどよ」
 その瞬間、呪縛から解き放たれたかのように、私の指が股間から離れる。私は、体を前
にずらし、タカシの背後ににじり寄った。
『ど……どこよ……?』
「これこれ、この問題」

 一瞬、私は方程式がただの記号の羅列に見えて戸惑った。こんなことじゃいけない。私
は顔をゴシゴシと擦って意識を問題へと振り向ける。
『全く……授業、ちゃんと聞いてたの? これはね――』
 私の説明を、タカシがフンフンと聞く。何とか説明出来たものの、こんな事じゃマズイ。
これ以上効果が強くなってきたら、何も考えられなくなってしまうかもしれない。
 タカシが問題を解き始めると、私の意識はタカシへと振り向けられた。タカシの顔が私
のすぐ傍にある。タカシの匂いが私の鼻を付く。そばにいるだけで、タカシの体の熱が私
に伝わってくるようだ。
 そう。体が――熱い…… 体の奥が火照り、全身へと広がっている。クスリの影響もあ
るのだろうが、タカシの傍にいる事で、さらに体が熱を帯びているのだろう。
『【ちょっと、冷やさないと……このままじゃ熱でフラフラして……】』
 けれど、部屋から外に出る気にはなれなかった。タカシの傍から離れるのが惜しくて仕
方なくて、私は別の方法を考えるしかなかった。
『【ちょっと……体に風を通すだけで……涼しくなるなら……】』
 私はは襟口を指で摘むと、前後に揺り動かして中に風を送り込んだ。汗ばんだ胸元に空
気が入り、若干涼しさを感じる。けれど、ダメだった。この程度では、全然、体の火照り
は消えてくれない。
『【下からだったら……冷える、かな……】』
 私はブラウスの裾を持つと、ゆっくりとパタパタと扇いで中に風を送った。送り込まれ
てくる空気は涼しかったが、同時に風の動きが敏感になった肌を刺激する。最初はゆっく
りだった扇ぎ方も、無意識のうちに徐々に激しくなって行った。
「なあ、お前さっきから何、後ろでもぞもぞやってんだ?」
『こっち見ないでって言ってるでしょ!!』
 私の動きを不可解に思ったタカシが、振り返ろうとする動きを見せたので、私は鋭く制
止の言葉を放った。タカシはビクッとして動きを止めたものの、納得行かないように不満
を漏らした。
「さっきから後ろ向くな、向くなってしつこく言ってるけどよ? 何やってるんだ?」
 ギクッとして私は言葉を詰まらせる。一瞬返答に困ったが、よく考えてみれば、単に体
に空気を送り込んだだけだ。やらしい事は何もしていない。
『ちょ……ちょっと暑かったから……その……あ、扇いでいただけよ』

「それだけ? なら、別に後ろ向いたっていいんじゃ――」
『ただでさえ集中力のないアンタが後ろ気にしだしたら、勉強にならないでしょ? だか
らさっきからそう言ってるじゃないの。何度も言わせないでよね』
 タカシの言葉を遮って私は何とかごまかす為の言葉を羅列する。タカシはこっちを向く
事はしなかったが、どうも釈然としない様子が窺える。それはそうだろう。どう考えたっ
ておかしいのは私の方だもの。
 さらにまずい事に、風が当たった事でむしろ私の肌が刺激されてしまい、止めた途端に
ますます体が熱を帯びてしまった。それだけじゃなく、胸が刺激を求めて疼きを更に強め
てしまっている。もし一人なら、躊躇うことなく上半身裸になって胸を揉みしだいているだろう。
『【一人なら……上半身……裸に……】』
 急に服を脱ぎ捨てたい誘惑に駆られ、私は首を振って自分の考えを否定した。いや、し
ようとした。
『【今なら……この位置なら……タカシからは……見えないし……】』
 ゴクリ、と私は唾を飲み込んだ。甘美な誘惑が脳を冒す。
『【ダメ……タカシがいるのに……そんな……もし、間違ってタカシがこっち向いたりしたら……】』
 正常な脳みそがそう考えてブレーキをかけようとする。しかし、もう一つの、エッチな
方の私の脳みそがこう反論する。
『【裾をまくるくらいなら問題ないわよ。戻すまで一秒と掛からないんだし】』
 ダメ!! ダメダメ!! 誘惑に押し流されそうな正常な脳を必死で働かせようとする。
だが、しかし。
『【まくるくらい…… そ、そうよね。それに何も胸まで出さなくたって、お腹だけなら、
万が一の事があったって……】』
 ふと気が付くと、私の左手は既にブラウスの裾を掴んでいた。ちょっとまくると、すぐ
にお腹が露出する。
『【う、うん…… このくらいなら……いや、もうちょっといけるかも?】』
 ゆっくりと私の手が上に上がり、少しずつ、上半身がその白い素肌を晒していく。
『【大丈夫……大丈夫……まだ……】』
 ほとんど下乳の辺りまで裾が持ち上げられた。お腹は既に全部出ている。それでも私は
手を止めようとはしなかった。乳房を迂回するようにして裾を上げると、最後に胸の上を
スッと左から右に横切る。ブラジャーに包まれた私の胸が、その瞬間一気に露出した。


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