・MONSTER HUNTER TD 第11話


活気の冷めないドンドルマの夜、カナミは部屋で一人ベッドに横たわり
一冊の本を目を食い入るようにして見つめている。
「今こそ彼女の怪盗としての力量が試される時である・・・終わり。
やっぱこれ面白いわね〜♪早く続き出ないかな」
彼女が読んでいた本は女怪盗が出る人気小説で、タカシに借りているものだった。
ちなみにこれは発行されたばかりの新刊であり、半ば無理やりタカシから奪い取ったものだ。
「けど何でタカシがこんな本持ってるんだろ?アイツこんなのに興味なさそうなのに・・・」
そう思いながらカナミは著者のコメントのページをパラパラとめくっていると
一枚の紙切れが本から落ちた。
「・・・?何これ?」
その紙切れと思ったものは羊皮紙の封筒で、中には手紙が入っていた痕跡があった。
「ハンターズギルドからタカシ殿へ・・・なんでギルドが?」
封筒には金色の龍の刻印が押されてあり、何やら高貴な雰囲気を発している。
「調べてみる必要がありそうね・・・」

「え、いない?」
「そうだニャ。ご主人ならついさっき出かけたニャ」
「それじゃ仕方が無いわね・・・」
「ところでどんな用件だったんだニャ?あとでご主人に伝えておくニャ」
「そう?実はこれなんだけどさ・・・」
カナミは先程の羊皮紙の封筒をとりだしメイの前に差し出した。
するとメイの目に焦りの色が現れ始めた。
「し、知らないニャ!そういえばお鍋を火にかけっぱなしだったニャ!」
「あ、ちょっと・・・」
返事を聞かぬうちにメイはドアを閉め、カナミが去ったことを確認すると
大きく溜息をついた。
「大変なことになっちゃったニャ・・・」

「ハァハァ・・・なんで皆この封筒を知らないのよ・・・・」
カナミの捜索の勢いはとどまることを知らず、ドンドルマの
立ち入り可能なすべての場所に赴いてはこの封筒のことについて訊ね回っていた。
挙句の果てにはメゾポルタ広場に集まるハンターにまで聞きまわっていたのだが
どのハンターも口にするのは「知らない」の一言だけであった。
「やっぱり本人が帰ってくるまで待つしか・・・」
「おお、カナミではないか!」
ふと声が聞こえた方向に振り向くと、そこにいたのは着物姿の纏のだった。
「あ、纏さん」
「どうしたのじゃ?こんなところで」
「それが、この封筒のことなんだけど・・・」
カナミの差し出した封筒を見た瞬間纏の顔が少し曇った。
「どこでこの封筒を手に入れたのじゃ?」
「実はタカシが貸してくれた本に挟まってたんだけど・・・」
それを聞いた纏は小さく溜息をつき、切り出した。
「儂の家で話そう。その手紙のことは少しだけ知っておる」
「ホント!?」
カナミはこの瞬間持つべき者は友だと心から思った。ただ、何故纏がここで
話そうとしないのか少しばかり疑問に思った。
纏の家に着いたカナミは早速封筒を纏いに差し出し、答えを待ったが
彼女の口から出てきたのは答えではなく質問だった。
「のう・・・これは本当にタカシの物なのか?」
「だってタカシから借りた本に挟まってたんだし、封筒にもタカシの名前が
書いてあるし・・・」
「そうか・・・あまり大声で言いたくないのじゃがそれはギルドの密書じゃ」
「み、密書!!?」
「そうじゃ。内容は分からんがとにかく重要なものである事は確かじゃ。ただ、
それが何故タカシの元にあるのかは分からんがの」
「こうなったら家宅捜索よ!!」
そう言ってカナミは立ち上がると纏を引き連れタカシの部屋へと急行した。
「お邪魔するわよ!!!」
カナミはタカシの部屋のドアを乱暴に開け、本棚やらアイテムボックスの中、
しいてはベッドの下などを探り始めた。
「何してるんだニャ!!?そんなことしたらメイがご主人に怒られるニャ!!」
「まあ落ち着くが良い」
「フニャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
纏はメイにマタタビを渡すと捜索に加担した。
「むむ!これは」
しばらくすると纏は本棚の本の隙間から何かを発見したらしく、テーブルの上に広げた。
「恐らくこれが中身の手紙じゃ。さっきの封筒とも大きさがあうぞ」
「で、なんて!?」
「・・・『夜の10時に集合』これだけじゃの」
「どこに集合か分からないじゃないのよ!!!!」
すると纏は満面の笑みを浮かべメイに詰め寄った。
「のう、タカシがどこに行ったのか教えてくれぬかの?」
「だ!駄目だニャ!!もしも言ったらクビにされちゃうニャ!!」
メイは首を左右に振って拒絶の意を示すが、纏は懐を探りマタタビをちらつかせた。
「まだマタタビはあるぞ?」
「ドンドルマの地下にいるんだニャ〜〜〜〜〜」
「地下?ドンドルマに地下なんてあるの?」
「噂では地下には牢屋や取調室があると聞いたことがある。何故タカシがそんなところに?」
「とにかく行ってみましょ」
カナミと纏はタカシの部屋を出て地下へと向かい、メイは二人のいなくなった部屋で
自分の無力さに打ちひしがれていた。

「何でよ!ちょっとくらい通してくれたっていいじゃない!!」
「ですから!ここに入るには許可証が必要なんです!お引取りください!」
またもや足止めを食らったカナミのストレスは限界点まで達していた。
ただ、立ち入り禁止の場所に通せと言われて通す輩もいないだろう。
「そうだ!この中にタカシって奴いる?」
「残念ながら職務上お答えすることは出来ません。お引取りください」
入り口を警備しているガードもそうそう引きはしない。
それを見かねた纏は懐から睡眠袋を取り出して、粉塵をガードにばら撒いた。
「うわっ!何を・・・・zzz・・・」
「フン。まだまだ未熟じゃの」
「とりえず・・・先に進んでみないと・・・」
カナミはガードのポーチから鍵を抜き取ると、鍵穴に差込みドアを開いた。
「それじゃ、おじゃましまーす・・・・」
「中にも見張りがいるかもしれないしの。十分注意したほうが良いな」
地下へと繋がる階段を下りると、そこには幾つもの扉がある廊下があり、
その廊下は少し松明の明かりがあるだけでとてつもなく薄暗かった。
二人は慎重に廊下を進んで行き、いくつか角を曲がったところでカナミが言った。
「そういえば、どうしてタカシはここにいるの?」
「そう言われてみればそうじゃな・・・彼奴はここにいる理由など無かろう」
『チャキッ!』
突然金属の塊が纏の後頭部に突きつけられた。
「動くな」
二人に戦慄が走り、その場から動けなくなる。
「両手を挙げろ」
カナミと纏を束縛する男の声は、深く冷静で、威厳に満ちていた。
「クソッ」
纏は振り返って男の腕を掴み、倒そうとするが逆に腕を掴まれ床に叩きつけられてしまう。
「ハハッ、まだまだ未熟だな」
男は纏に馬乗りになり、尚も彼女の後頭部にリボルバーを押し付け、微笑み混じりに言い放った。
その男は頭にバンダナを巻いた八十歳位の老人で、顔に掘り込まれたシワがその経験深さを感じさせ
左目に付けたアイパッチの黄金の龍の紋章はその男がギルドナイトであることを証明している。
「どうしたんですか!?」
騒ぎを聞きつけたガードがカナミたちの元へと歩み寄った。
「侵入者だ。取調室に連行しろ」
結局カナミたちは成す術なく、手かせをはめられ拘束されてしまった。
「一言言っておく。敵地に潜入する時はどのように身を隠すかが重要だ。
通路の真ん中を堂々と歩いていては怪しまれるぞ」
男はそう言い残して薄暗い廊下を後にした。

狭くて薄暗い取調室の中でカナミと纏は永遠にも思える時間をすごしていた。
ガードの話ではギルドナイトが直接尋問をするらしく、ナイトが到着するまで
目隠しをされた状態で待っていなければいけなかったのだ。
「ねえ・・・どうしてナイトが取調べをするの?」
「儂にも分からん。別にガードがやってもよさそうじゃが・・・」
「そこ!静かに!」
ガードの一喝で二人は口を噤んだが、内心落ち着かなかった。
一体自分たちはどうなるのだろうと思うととても平常心ではいられない。
その時、遠くからブーツの音が近づいてくるのが聞こえてきた。
その音はこの部屋の前で止まり、今度は鋼鉄製の扉が二回ノックされる音が聞こえた。
するとガードは扉に着いた小窓を覗き、「今開けます」と言ってドアノブに手をかけた。
どうやらナイトのお出ましのようだ。
ギィッという重たい音がして扉が開き、一人の男が入ってきた。
「遅れてすまなかった」
男はそう一言だけ言葉を発し、カナミ達の方へと目を向けた。
「何で連行されたんだっけ?」
「立ち入り禁止区域への不法侵入です。ここまでの過程でガードが一人眠らされています」
男は「フ〜ン」と返事を返し、ガードの肩に
「これからギルドナイト流の尋問をするけど、見るか?」
「け、結構です・・・」
男は笑いながら「そうか」と言っていたが、カナミ達の背筋は一瞬にして凍りついた。
「ご苦労だった。今日はもう帰ってもいいぞ。あとは俺に任せてくれ」
「ハ!!」
ガードは男に敬礼し、手かせの鍵を渡して部屋を後にした。
男はガードが完全に立ち去ったのを確認すると徐々にカナミに近づいていった。
このせいでカナミの心臓はこれまでに無いほどに跳ね上がった。
さっきこの男が尋問をすると言った時、ガードの声は明らかに怯えていた。
ここで何をされてもおかしくは無い。おまけに目隠しをされていて状況が把握できない上に
手かせをはめられ身動きをとることも出来ない・・・
『ガチャッ』
「へ・・・?」
突然カナミの腕についていた重たい金属の塊が外れ、自由になった。
男は纏の手かせも外し、そしてカナミ達と机をはさんで向かい側の椅子の腰掛けた。
状況を理解できないまま彼女達は目隠しを外した・・・
「「タカシ!?」」
「シッ!でかい声を出すな。ガードが来るかもしれないだろ?」
またもや彼女たちは混乱した。尋問をするといっていたナイトの人間が自分たちを解放し、
そのナイトが自分たちのよく見知った人間だったのだから。
「取り合えず、これから事情聴取を行うから椅子に・・・」
「ちょっと待って!何でアンタがここにいるのか説明してよ!」
「ギルドナイトの命令に逆らうのか?分かったら早く椅子に座れカナミ」
その言葉にカナミはたじろいだ。彼の言葉には迷いはなく、自信と誇りで満ち溢れている。
彼は普段のタカシではない。ギルドナイトと言う組織の一員なのだ。
「すまないな・・・いくらお前でもひいきをすることは許されないんだ。この状況だと
身分が低かろうと高かろうと同じ扱いをしなきゃならない。それがナイトの掟だ」
彼は申し訳なさそうに言うと、事情聴取を始めた。
「それじゃ、どうして二人はここにいるんだ?」
二人は答えられなかった。ここに来るまでにタカシの家を引っ掻き回し、
ガードを眠らせ鍵を奪い、そして最後はギルドナイトの老人に捕まるということをしてきたのだ。
下手なことを答えるとタカシを怒らせかねない。
「まぁすぐに答えられるとも思ってない・・・ん?」
なにやら部屋の外で足音が聞こえてくる。その音からすると走っているようだ。
そして音が部屋の前で止まったかと思うと、勢い良く扉が開け放たれた。
「ハァイ!タカシ君ただいま!」
その部屋に入ってきたのは幻とも言われるキリンシリーズを身に纏った二十歳くらいの女性だった。
「ああ、トモコか。今帰ってきたとこか?」
「さっき長老様に報告して来たとこ。そしたらタカシ君がここにいるって聞いたから」
「どーでもいいからさっさと離れろ。今は取り調べ中だ」
トモコは小麦色の褐色肌をべったりとくっつけ、タカシに頬をすり寄せている。
当然のごとくカナミと纏の腹の中に何かが煮えたぎっていた。
殺気の篭った視線に気づいたトモコは二人に目を移した。
「あれ?もしかしてこの二人って例の・・・」
「ああ、そうだ。カナミと纏さん。俺の仲間だよ」
するとトモコはにやりと笑って見せ、「フ〜ン」と言って意地悪げな表情を浮かべた。
「ねえ、この二人の事情聴取。私にやらせてくれない?」
「別に構わないが・・・いいのか?」
「お安い御用よ。あ、あとタカシ君は部屋の外で待ってて。終わったら呼ぶから」
トモコはそう言って椅子に座り、タカシは部屋を出て行った。
唯一つ、タカシが部屋を出る間際に言った「嘘をついても無駄だぞ」と言う言葉が
カナミ達の心につっかかっていた。
「さて、軽く自己紹介しときましょうか。私はトモコ。タカシ君と同じギルドナイトのメンバーよ」
このときカナミ達はトモコの恐ろしさを知るよしもなかった・・・


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