・MONSTER HUNTER TD 第13話


俺は今アルコリス地方正式狩猟地帯(森丘)のベースキャンプで一人釣りに励んでいた。
テントのすぐ裏側にある池にかかった桟橋に立って釣り糸を垂らし、
魚が食いかかるのをじっと待つ。
『ピシャッ!!』
魚が餌に食いついた瞬間竿を一気に持ち上げる。
見事にサシミウオが釣り針に食いつき、体をくねらせ抵抗の意を示している。
そんな餌に俺は釣られ・・・なんてこの魚は思ってたんだろうな。
嗚呼、なんて優雅なひと時なのだろう・・・
「ちょっとタカシ!アンタも手伝いなさいよ!!」
全く、カナミは空気の読めない奴だ。
「俺が手伝ったら意味がないだろ?自業自得って奴だ。我慢しろ」
俺がそう言うとカナミは渋々納品ボックスに巨大な卵を押し込んだ。
「全く、このハンターランクになってこんな作業をするなど考えてもいなかったぞ」
そういいながら纏さんが木々のトンネルをくぐり、ベースキャンプへと帰ってきた。
彼女も同様に両腕に巨大な卵を抱えている。
「ご苦労さん。だが、あと二つ納品しなきゃいけないからな」
「え〜!何よそれ!?」
「文句言うな!立ち入り禁止区域に不法侵入。普通なら牢獄行きだぞ?
これだけですんだのは奇跡だと思え」
そう、これは大長老が二人に下した処罰だ。俺だってどうせならこの二人には
何もしたくはないのだが、執権を乱用することは出来ない。
だが、必死で頼み込んだところ卵の納品と言う軽い処罰で許してもらえることになった。
大長老が話の分かる人でよかった。
「でももうクタクタよ・・・」
ふむ・・・確かに巨大な卵を抱えてきたのだ。疲れるのも無理はないだろう。
「じゃ、飯にするか」

先程釣り上げたサシミウオを木の棒にさし、火で直接あぶる。
しばらくすると魚から胃袋を刺激する香ばしい匂いが漂ってくる。
「それじゃ、いただきます」
こんがり焼けた魚にかぶりつくと、腹の底が満たされるような感じになった。
正直俺魚釣ってただけだけど。
「ねえ・・・」
魚に齧り付いていると、突然カナミが口を開いた。
「ん?」
「タカシはどうしてナイトになろうと思ったの?」
「俺の親父や周りの人間がそう望んでたからだ」
「そうなんだ・・・でも、タカシのお父さんはそんな人に見えなかったけど」
確かにジャンボ村にいる俺の親父は漁師をやっていて、ハンターとは割りと無縁な人だ。
「・・・実はジャンボ村の親父は俺の本当の親父じゃないんだ」
それを聞いた瞬間カナミの顔が驚愕の感情で満ちるのが分かった。
まぁ、無理もないだろうが・・・
「俺は確かにジャンボ村で育った。だが、実はリーヴェルの貴族階級の生まれなんだ」
リーヴェルとはシュレイド共和国の首都で、東シュレイド最大の都市だ。
「じゃが・・・どうして貴族の生まれなのに狩人などをやっておるのじゃ?」
「その家では長男以降に生まれた子供はハンターとして生きていくってしきたりがあるんだ。
それで俺はその家の次男坊、だから俺はこうやってハンターをやってる」
俺は一息飲んでまた口を開いた。
「俺の本当の親父も昔ナイトをやってたらしくてな・・・
親なら自分の子供をナイトにしたいと思うのは当然だし、おかしいと思ったことはないよ」
「・・・辛くないの?」
カナミが静かな口調で俺に問うが、俺は毅然とした口調で答えた。
「ない!俺はナイトに憧れてたし本当の親父がいると知った時は驚いたけど辛いとは
思わなかったよ。正直、薄々感ずいてたしな」
俺は骨と頭だけになった魚を投げ捨て、その場に立ち上がった。
「さ、質問タイムは終了!食い終わったらさっさと始めようぜ。
まだ時間はあるけど早めに終わらせたほうがいいだろ?」

「ねぇ・・・何か変じゃない?」
飛竜の巣穴までたどり着いたところでカナミが口を開いた。
「ん、何が?」
「ここにいるのが私たちだけじゃない気がする・・・」
「儂も同感じゃ・・・何かがここにおる・・・」
何かがここにいるって言ってもね・・・そこら辺にあるのはモンスターのフンやら
骨だとか岩だとか大タルだとか・・・・・・大タル?
「なあ、あれなんだと思う?」
俺は壁の近くに鎮座している大タルを指差した。
「何って・・・大タルじゃないの?」
「ああ、ごくごく普通の大タルじゃな」
この二人は天然なのかそれともあの大タルが異常なのか・・・
俺はホルスターからリボルバーを取り出すと激鉄を下ろし、照準を大タルに合わせ引き金を引いた。
『バァン!!』
鈍い音を立ててリボルバーから発射された弾丸は直進し、大タルの金属製の縁に直撃した。
「大タルの縁を狙った確実な射撃・・・なるほど、いいセンスだ」
声がしたと同時に大タルが宙に舞い、中から人がでてきた。
突然の出来事に驚きを隠せないカナミと纏さんは口を開けて放心しているようだ。
「爺さん・・・なんでここにいるんだ?」
「ここにいることが俺の任務だからだ」
中からでてきた老人は落ち着いた様子で俺たちに歩み寄ってきた。
「な、何故お主がここにいる!!?」
纏さんがすごい剣幕ではやし立てる。
それより、その質問はさっき俺がやったぞ?
「纏さん、知ってんのか?」
「知ってるも何も、儂等を捕まえたのはこの男じゃ!」
ああ、そうだったのか・・・
そりゃ運が悪いもんだな。この爺さんの前じゃどんなことやったってすぐにお得意の
体術であっという間にねじ伏せられる。
「俺の名前はスネークだ。よろしく頼むぞ」
「ちょっと待て。何名前を教えてるんだ?」
「俺はもう顔を知られてる。どっちにしろ同じことだ」
おいおい、普段の秘密主義はどこに行ったんだか・・・
「大体、任務って一体なんだ?」
「お前を監視することだ。さぼってないかどうか調べるためにな」
「誰に頼まれた?」
「トモコだ」
またアイツか・・・全く俺はアイツの頭の中を一回覗いてみたいね。
もっとも、人の頭の中を覗けるのはトモコ自身なんだが・・・
「あの・・・悪いんだけど早く行かないと・・・」
すっかり空気になっていたカナミが俺達に話しかけた。
カナミの目には少々恐れの色があり、それがスネークに向けられていることはすぐに分かった。
「心配すんなよカナミ。こんな顔だけど基本的にいい奴だか・・・(メメタァ)らぁ!!」
「一言余計だ・・・」
スネークの拳が俺の背骨に直撃し、とてつもない振動が伝わってきた。
手加減しているのが分かるが、正直カナミのパンチより痛い。

『ギャアァァ!!』
断末魔の叫びが短く響き渡り、我が物顔でその場を占拠していたランポスは全滅した。
「とりあえずあともう少しでベースキャンプだな」
「タカシ、これが終わったらメタペットで何か奢りなさいよ」
「おお、いいかもしれんの」
ちょっと待て!俺に奢らせるつもりか!!
「出来るわけないだろ!?一応刑罰の最中なんだからさ!スネークも何か言ってやってくれ!」
「久しぶりに奢らせてもらうか・・・」
スネーク!何があったんだ!?スネーク!スネエエエエク!!
『ギャアアアアアアア!!!!』
突然空気が割れるほどの咆哮が響き渡り、俺達は空を見上げた。
「リ、リオレウス・・・」
纏いさんの口からその名前が出たと同時に、オレとスネークはボウガンを構えた。
恐らくあのリオレウスはこの卵の親だろう。
「俺達はここでリオレウスの足止めをする。二人は早くベースキャンプに戻れ」
「ちょっと!たった二人であんな奴の相手・・・「二体」・・・?」
口を挟んだスネークの言葉にカナミは眉をしかめた。
「ギルドナイトの正式採用試験ではリオレイアとリオレウスの二体を二十分以内に討伐しなくてはならない。
与えられる武器も装備も貧弱、無論遂行するのは一人だ」
「それも最初の試験でそれだからな。今となっちゃリオレウス一体ぐらいで驚きはしないよ」
そういってる間にもリオレウスは地面へと降り、攻撃の姿勢を構えてくる。
「さっさと行け!その卵落としたら奢りは無しだ!」
「分かったわよ!」
そういって二人は卵を抱え、このエリアを後にした。
オレの持っている武器はへヴィボウガンで、スネークの持ってる武器はライトボウガンだ。
普通なら俺がアタッカーなのだが、スネークの持ってる繚乱の対弩は正直サポーター向きとは言えない。
「俺が援護するから爺さんが攻撃してくれ」
「好きにすればいいさ」
スネークはそう言いながらボウガンに弾を込めた。
コイツを追っ払ったらせめて割り勘ぐらいにしてほしいもんだな・・・
そう思っていると、リオレウスは大きく咆哮を上げながら俺らに向かって突進してきた。
「「ショウタイムだ!」」


前へ  / トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system