・MONSTER HUNTER TD 第18話


タカシからの頼みごとを引き受けたブーンは病室から出ると小さく溜息をついた。
彼自身あまり人に物を頼まれるというのは好きではない性格のためか、あまり
乗り気ではないようだった。
「・・・ったく何で俺が伝言を伝えなきゃいけないんだ」
彼はブツブツと小言を呟きながら病棟の廊下を進んでいた。
すると、彼は不意に立ち止まって廊下の隅においてある大タルに向かって話しかけた。
ギルドの関係者ではない人間が見ると滑稽に見えるだろうが、関係者にとっては
日常的なことだ。
「よぉ、爺さん。調子はどうだ?」
「ついさっき知り合いからボウガンの強化を受けたところだ」
「知り合いって・・・ああ、あのレックスハウルを開発したとか」
「そうだ」
スネークは被っていた大タルを取ると、パイプに火を付け煙を肺一杯に吸い込んだ。
「ゲホッ・・・俺の前でタバコは吸わないでくれよ。全く、タバコ吸っていいことなんて無いだろ」
「そうとも限らんよ」
ブーンはパイプから上がる煙を手で払っていたが、何かを思いついたような顔をしてスネークに
訊ねた。
「そういえば、タカシの仲間は爺さんが捕まえたんだよな」
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「いや、実はこれからその二人に用があってね。けど俺顔を知らないからどんな人相なのか
聞きたくてな」
それを聞いたスネークはあごを手で触れ、考える動作をしたが少したって切り出した。
「金髪のギザミシックルと黒髪のナデシコだ」
「・・・・・・・・・・・・・ご協力どうも」
ブーンは渋った顔をしてその場を立ち去った。

ブーンはドンドルマの大階段を下りながらまずどこに行けばいいかを考えた。
正直このままアリーナにでも行って昼寝でもしていたいのだが一応彼自身も
ナイトの一人なのだ。仕事はきちんとしなければ示しがつかないだろう。
彼は少し考えた後とりあえずといった様子で大衆酒場に足を踏み入れた。
「(何だコリャ・・・)」
酒場に入ったブーンは真っ先にこう思った。
無理も無い。腕相撲をするためのタルの周りに何十人という人間が集まっていたからだ。
その群集はハンターだけではなく、中にはドンドルマの住人までいるようだ。
「はいはい、ちょっと失礼しますよ・・・」
ブーンはその群集を押しのけて腕相撲の見える位置へと立った。
するとそこにはブーンとは予想外であり期待通りの光景があった。
金髪のギザミシックルと黒髪のナデシコの女性が真剣な表情で腕相撲をしていたからだ。
両者一歩も譲らずといった状況で、腕は右にも左にもどちらにも動こうとはしない。
むしろ腕相撲の台になっている大タルのほうがギシギシと悲鳴を上げているのだ。
「いい?・・・この勝負負けたほうがタカシから手を引く。忘れないでよ・・・」
「上等じゃ・・・後で泣き言を言っても知らんぞ・・・」
ブーンは溜息をついてつくづく自分の幸運に感謝した。
「お二人さん。俺はギルドナイトのマウントフィールドって言うんだが、君達タカシ君の知り合いかい?」
「そうだけど・・・話なら後にしてよね」
「そうじゃ、儂等は今忙しいのでな・・・」
そう言うも二人の視線は全くブーンを見てはいない。完璧に腕相撲のことで手一杯だ。
ブーンは溜息をついてつくづく自分の不幸に落胆した。
彼はしばらく考え込んだ後、仕方が無いといった様子で切り出した。
「実は君達の仲間のタカシ君なんだが・・・・」
「「・・・・・・・・・・・」」
「任務の最中で大怪我を負って今病棟で治療を受けている」
『ベキィッ!!!!!』
ブーンがそう言った瞬間大タルが粉々に四散し、木と金属の部品がその場に落ちた。
「その話・・・」
「ちょっと聞かせてもらおうかの?」
「いいですとも」
ブーンは笑みを浮かべてつくづく自分の幸運に感謝した。

「と、いうわけなのさ」
ブーンは自分がここに来た経緯と今のタカシの状況をカナミと纏に話して聞かせた。
最初は緊迫した(殺気の篭ったと言ってもいいだろう)表情を浮かべていた二人だったが
話していくうちにその表情は柔和な物になっていった。
「全く、タカシのやつめ心配させおって」
「そうよ、大怪我っていっても案外たいしたことないんじゃない」
二人の言葉はなかなか厳しいものがあるが顔は微笑んでいてタカシの無事を
喜んでいるようでもあった。
「そういえば、二人はいつタカシに告白するんだ?」
突然の奇襲にカナミと纏は目を丸くしてブーンの方を見た。とうのブーンは不敵な笑みを
浮かべておりどのように答えを返すかを楽しんでいるようだった。
「え、ちょっと待ってください。私何もタカシのこと・・・」
「トモコから聞いたよ。タカシのことが好きで好きで堪らないんだって?」
ブーンがそういった瞬間カナミは身体が急に熱くなるのを感じた。
真実なのだがそれを素直に受け入れることが出来ないのが彼女であり、
案の定彼女は顔を真っ赤にして言い放った。
「ち、違います!!べ別にタカシのことなんて・・・(//////)」
カナミが必死で否定するのを見て纏が咎めるようにしていった。
「カナミ、否定しても何も良いことは無いぞ?本人の前だけでなく他人の前でも
素直になれないのでは意味が無い」
「それじゃ、君は?」
「儂か?儂はタカシのことを愛しておる」
ブーンは纏の心意気に深く感心したが、同時に疑問も生まれた。
「じゃ、なんでタカシに告白しないんだ?」
「それが・・・本人を前にするとどうにも上手くいかんでの・・・(//////)」
それを聞いたブーンは上機嫌な笑いを上げた。
「そうかそうかwwwまあ、だからトモコが面白がるわけだな」
カナミと纏は顔を見合わせてトモコのことを思い出した。
二人は他人の恋に介入する人種はどうにも苦手だった。無論、心を読まれて
しまうなど尚更のことである。
「でもよかったよ。二人みたいな人がトモコの友達になれてさ」
「どういうことですか?」
カナミの問いにブーンは落ち着いた口調で話し出した。
「二人はもう会ってるから知ってると思うが、トモコはあんな能力を持ってるせいで
無理矢理ナイトに入れさせられたようなものなんだ。だからまともに友達なんか作れなかった
からな・・・アイツにとって友人といえばタカシくらいだったよ」
「マウントフィールド殿とトモコとはどういった関係なのじゃ?」
「俺はトモコのたった一人の家族だ・・・」
二人は内心成る程と思った。褐色の肌と白髪はブーンとトモコの大きな共通点だ。
見ていると精神が不安定になってくるグリーンの瞳も似ているといえば似ている。
「正直俺はトモコをナイトに入れることはしたくなかった。ナイトに入るってことは普通じゃ
無くなるってことだ。生まれたばかりに母親を亡くしたアイツをこれ以上孤独にさせたくなかった」
ブーンの口調に自分には何も出来なかったという悲しさと、トモコを思う優しさとで満ち溢れていた。
「妹思いなんですね・・・」
カナミがそう言うとブーンは呆気に取られた様子で言った。
「妹?俺には妹はいないぞ」
「え、でもトモコは家族の一人だって・・・」
それを聞くとブーンは壊れたように笑い出し、それをこらえるようにして切り出した。
「いやスマンスマン、そうか・・・やっぱ俺そんなに若く見えるのか」
「どういうことじゃ?」
纏の質問にブーンは一呼吸置いて言った。
「トモコはな、俺の娘だ」
「「ええええええええええええ!!!!?」」
「俺はこう見えても56歳。今年で57だな」
満足げに言うブーンにカナミと纏は驚きを隠せないようであった。
兄妹ならまだしも親子なのだ。もっぱら彼の外見は30代前半。20歳のトモコと比べる
と兄妹のほうがしっくり来るというものだ。
「いや昔を思い出すな・・・昔はタカシの親父のライアンズ・ビップ、それにあの
有名なクリス・ハンターとその妻エレミア・デレースとナイトでパーティを組んでたんだ」
その瞬間カナミは釣り餌に食いついた魚のようにブーンの言葉に食って掛かった。
「お父さんとお母さんを知ってるんですか!?」
カナミがそう言うと纏とブーンはあっけに取られた表情でカナミを見た。
「失礼だけど・・・・君、フルネームは?」
「カナミ・ハンターです」
カナミがそう言うと、ブーンは頭をかいて独り言をもらし始めた。
「ったく・・・タカシの奴・・・なんで黙ってたんだよ・・・トモコも教えてくれればよかったのに」
ブーンはしばらくすると覚悟を決めたようにしてカナミに言った。
「すまないね。君のお父さんの葬儀には用事があって出席出来ていないんだ・・・
だから君を見たのも今日が初めてだ。二人の子供がドンドルマにいると聞いたがそうか・・・
君だったのか・・・」
そう言ったブーンの目は旧知の仲を見た時の様な懐かしさがあった。
「俺がさっき言ったとおり、君のお父さんもお母さんもナイトの隊員だった。
お父さん・・・クリスの方は結婚してナイトを辞めてからもハンターをやってたけどね」
カナミはなんだか不意に嬉しくなっていた。昔は病弱でベッドに寝たきりだったカナミは
狩りに出かける父親との時間があまりなかった。だから、自分の父のことを知っている
人がいるのが嬉しかったのだ。
「お母さんは今も元気でしてる?」
「最近は故郷に帰ってないので顔は見ていませんが手紙では元気だっていってました」
「そうか。だったら是非一度帰ってみるといいよ。昔話でも聞かせてくれるだろ」
ブーンがそう言うとカナミは頷いて心の中にいつかジャンボ村に帰ろうという決心を抱かせた。
その横で纏は思い出したようにして言った。
「そういえば、タカシの父上もナイトの一員だったと・・・」
「ああ、ライアンズね・・・正直俺はアイツはアイツのことあんまり好きじゃないんだよな」
「何故じゃ?」
「それは俺の口から言いたくは無いね。それじゃ、今日はこれでお開きとしますか」
そういって立ち上がったブーンを纏とカナミは止めようとしたが、ブーンは視線で『これ以上
俺からは聞くな』と言ったのでカナミと纏はそのまま彼を見送ることにした。
「あ、そうそう。あまりタカシに冷たくしてやるなよ?アイツかなりの鈍感だからな。
少しは素直にならないと気づいてはくれないぜ?」
「余計なお世話です!!(/////)」
高らかに笑いを上げるブーンをカナミと纏は赤面しながら見送った。

「なんだよ、もう日が暮れてやんの・・・」
ブーンは大衆酒場から出ると小さな声でぼやいた。
太陽が殆ど沈みかけており、夕焼けの後ろから夜の空が迫ってきている。
ドンドルマの随所に明かりが灯され、昼間よりも静かな時間が流れようとしていたが、
相変わらず大衆酒場からは陽気な音楽が流れている。
「あれ?パパどうしたの?こんなところで」
ブーンが目をやると、そこには数々の食材の入った袋を手にしたトモコがいた。
恐らくすぐそこの食材屋で買ったものだろう、中にはまだ生きた魚まで入っている。
「ちょっと野暮用があってな」
「ふ〜ん・・・それじゃ、これから用事が無いなら帰ってご飯にする?」
ブーンは自分の仕事がもう無いことを確認するとトモコの提案を快諾した。
「それじゃ、夜道は危険だから帰るまで護衛してもらいましょうか騎士殿?」
「了解いたしました。お姫様」
そのやり取りに二人は笑みを浮かべ、帰路へ足を進めた。


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