・MONSTER HUNTER TD 第5話

「あー!もー!ムカつくのよ全く!!」
ドンドルマの大衆酒場に帰還したカナミは不機嫌そうに大声を上げている。
カナミの不機嫌になっている理由はクエストの獲物のせいだ。
雌火竜・リオレイア。大地の女王と呼ばれる強力な飛竜で、ハンターが成長するに従い
ぶち当たる大きな壁の一つだ。
イャンクックやフルフルに比べると体は大きく、そして攻撃はどれも強力で動きも俊敏。
半人前のハンターなら涙目である。
結局、分かりやすく言うなら意気揚々と狩りに行ったけど返り討ちにあったと言った所だ。
「何なのよ!ブレスを連続して吐いてくるし、尻尾で殴ってくるし・・・ほんと最悪!!」
「そんなに愚痴らんでくれ・・・悔しいのは俺も同じだ」
「分かってるけど気がすまないのよ!!!」
なんだかコイツ、何とかの憂鬱とか言う小説のヒロインに似てるな・・・詳しく思い出せんが。
とにかく長門は俺の嫁・・・・・・・
「大体あの尻尾がウザイのよ!あれさえなければだいぶ楽になるのに!!」
「まあ、落ち着けって。そんな状態じゃ何もできんぞ?」
「何よ!?ならあんたが尻尾をどうにかしてくれるって言うの!!?」
何故そうなる・・・全く脈絡が感じられないだろう。
「無茶言うなよ。俺は接近武器は使えねー。使えるのは弓までだ」
「何よ、使えないわね・・・」
オイ、怒るぞテメェ。
「だったらお前がハンマー以外の切断系武器使ったらいいだろ?」
「駄目よ。私はハンマー一筋って決めてんの」
「ハイハイ、分かりましたよ。でもさ、そもそも2人で挑むってのがおかしくね?
この装備だったら2人じゃ流石にキツイって」
今の俺の装備はイーオスシリーズ。カナミはクックシリーズといった所でどちらかといえば
結構中途半端だ。どこか決定力に欠けている。

「ん〜・・・でも知り合いで腕のいいハンターなんているの?」
「そう言われるとな・・・」
「やっぱりタカシは使えないわね」
「ほっとけ」
「なんだお二人さん。なんか悩み事か?」
ふと声のしたほうを見ると椅子に一人の若い男が座っていた。
彼―――――
ちょっと悪っぽいハンターでアベタカカズと名乗った。(実は知り合いである)
大き過ぎて使いにいヘルスティングを糸も簡単に使ってのける腕のいいハンターだ。
「ああ、アベさん。実はかくかくしかじかでしてね・・・」
「成る程。俺もいい男の頼みは聞きたいところなんだが残念ながらもう先客がいてな・・・」
彼の親指の方向にはガタイのいい男が三人並んでいた。全員ガンランス使いである。
「そうですか・・・・」
「今アイツがいたら力になってくれたかもしれないがな・・・」
「アイツって?」
カナミが話しかけるとアベさんは少しムッとした表情になったが、すぐに表情を戻して答えた。
「ああ、纏っていう太刀使いのハンターだよ。どこからともなく現れたんだが
1年ほど前ひょっこりと姿を晦ましちまったんだ。それから音沙汰無しさ」
「ああ、俺も聞いたことがありますよ。確か歳で言ったら俺らと同じ位だったような・・・」
「で、その纏って人は強かったの?」
「そうらしいな。俺は実際にパーティを組んだわけではないが一時期はギルドナイトに入るとも噂されたそうだ。
それに、この街に現れた時もレウスシリーズを着けていたんだと」
相変わらずアベさんはカナミに答えるときだけ不機嫌そうな答え方になっていた。この人は女が嫌いなようだ。
「決めたわ!その纏って人に会いに行きましょう!!」
「待てよ。まだその人がどこにいるかも知らないんだぜ?」
「ああ、それならメゼポルタ広場の南門を出てしばらくイッた所にある小屋に一人で住んでるって噂だ」
教えてくれるのは嬉しいですけど、そのイッたって言い方どうにかなりませんかね?アベさん・・・

「それじゃ行くわよタカシ!さっさと行かないと日が暮れるわ!!」
カナミはこれから遠足に行くかのようなテンションで歩き出している。
「オイ!ちょっと待てって!!・・・すいませんねアベさん。恩に着ます」
「なに、いいってことよ。それより今度や ら な「ありがとうございましたーー!!!」
俺は彼が全てを言い終える前にその場を後にした。

俺たちは今その纏と言う人が住んでいると噂される小屋の前に並んでいた。
「ここで合ってんだよな・・・?」
「ここしか無いでしょ。ほら、サッサと行くわよ」
俺は試しにドアを二回ノックした。
「すいませーん。誰かいませんか?」
中から返事が無い。どうやら留守のようだ。
「居ないみたいだな・・・どうする?帰るか?」
「う〜ん、居ないんじゃ仕方が無いわね・・・・」
俺たちが半ば諦めていたころ後ろから声が聞こえた。
「なんじゃ?お主等儂に何か用か?」
「貴女が纏さん?」
カナミが訊ねると彼女は上機嫌に答えた。
「おお、そうじゃ。こんな所で立ち話をするのも客人に失礼じゃしの。中に入ると良い。茶でも出すぞ」
彼女に勧められて家の中に入ると何とも変った様式をしていた。
どうやら玄関で靴を脱ぐらしく、そこから先には畳が敷かれている。
その畳の上には低い足のテーブルが置かれており纏さんが先程入れたお茶が白い湯気を立てていた。
「いただきます・・・・・・って苦!!!!」
お茶を何の警戒を持たず口に含んだカナミは思わぬ不意打ちを食らったようだ。それを見て纏さんは
まるで悪戯が成功した子供のように高々と笑い声を立てている。

「ハハハ!そうじゃろう。お主等にとっては少々苦いかもしれんの」
「これ、薬草茶ですね?」
俺が訊ねると纏さんはキョトンとした表情で答えた。
「なんじゃ、お主知っておるのか?」
「はい。確か薬草を干したものを茶葉に使ってるとか・・・もしや纏さんはシキ国のご出身で?」
「ほう・・・何故分かったのじゃ?」
「このお茶はシキ国の物ですし貴女のような綺麗な黒髪は見たことがありませんからね」
「おだてても何も出やせんぞ。そういえばお主等は何故ここに?」
「ああ、そうだった。纏さんは腕の立つハンターだと聞いたのでそのお力添えをして貰いたくて・・・」
「何じゃと・・・・?」
彼女の眉がほんの少しだけ動いた。口調も先程とは違い少し威圧感がでている。
「イヤ・・・ですから力を貸していただこうと・・・・・」
「帰れ!!!!!!!!!」
「「!!!???」」
俺が全てを言い終わる前に彼女はテーブルをバンと叩いた。その衝撃でお茶の入った湯のみが倒れ
中から緑色の液体が畳の上へと零れ、濡らした。
「でも・・・・その・・・」
「ここから出て行けといっておるのじゃ!!分かったら早く帰れ!!!」
「「ハイィ!!」」
彼女有無を言わさないといった様子で、俺とカナミは逃げるようにその家を後にした。
もうすでに時間は大分経っており、夕焼けであたり一面真っ赤に染まっていた。
「何だったのかしら・・・あの人」
カナミは訳が分からないといった様子で俺に話しかけた。
「すごい剣幕だったな・・・また同じように頼みに行ったら斬られそうだ」
「でもどうしてあんなに怒ってたのかしら?」
「俺らには分からん理由でもあるんだろうな・・・とにかく今日明日はゆっくり休もう。どうするかはそれからでも良いだろ」
「そうね・・・・」



翌日、俺は纏さんの家の前にいた。どうにも昨日のことが突っかかっているためだ。
ドアをノックしようとすると、どこからか彼女の声が聞こえてきた。裏庭からのようだ。
「フン!!フン!!セイ!!!」
彼女は裏庭で木刀をブンブンと振り回していた。その振りは荒々しく、乱雑だった。
「ハァ・・・ハァ・・・クソッ!!!!」
彼女は木刀を地面へと叩きつけた。
「物は大切にしなさいってお母さんに教わらなかったのか?」
俺がそういうと彼女は驚いた様子で振り向いたがすぐに落胆した表情を見せた。
「お主か・・・何故ここに来たのじゃ?」
「二度と来るなとは言われて無いしな。まあ、暇だったから来ただけだよ」
「昨日とは随分と態度が違うのぉ・・・それにあの女はどうした?」
「ああ、カナミね。今日は俺一人だよ。別にクエストの誘いに来たわけじゃないしね」
「フン・・・なら言っておこうかの。あの女共々もうここに来るではないぞ」
彼女は木刀を拾い上げるとスタスタと家の中に入ろうとした。
「なら最後のお別れになるかもしれないからちょっと質問していいか。なんでハンターやめたの?」
彼女は立ち止まって振り向いた。
「何が言いたいのじゃ?」
「質問に質問で返すとテスト0点になるんだってお母さんに教わんなかったか?
もう一度聞く。何でハンターをやめた?」
「お主には関係の無いことじゃ。それに、儂は一度もハンターをやめたと言っておらんぞ」
「言ってなくともここ1年は全く狩りに出ていないのは事実だろ?」
「何故それが分かるのじゃ?」
彼女がそう言うと俺は家の中に入っていった。
「ちょっと待て!何を勝手に入っておる!」
「まあ、待てって。まずこの刀だ」
俺は部屋に立てかけてあった刀を取った。
「この刀、主に狩りに使ってたみたいだけど全然血の痕が付いてない。それに纏さんからも全然
血の臭いがしなかったしね」

そういって彼女は赤い跡ができるくらいの強さで俺の頬を叩いた。正直無茶苦茶痛いが・・・
「ハッハ〜ン・・・そういうわけね・・・」
「何がじゃ・・・」
「アンタのその左腕だよ。大きな痣がある。見たとこそれがハンターをやめた原因だろ?
俺の推測だが、恐らく骨折だな。モンスターの体当たりや頭突きのせいか・・・」
「何故わか・・・ッハ!」
彼女は自分の言ったことに気づいたようで慌てて口を閉じた。
「図星か。まあそんな人間を何人も見てきたが、原因はそれだけじゃないだろ?
良かったら話してくれないか?俺にできることならなんでもするぜ」
そう言うと彼女は小さく笑い始めた。
「どうした?」
「いや、のう・・・可笑しいのじゃ」
「可笑しい?どうして?」
「当たり前じゃろう?見ず知らずの男が見ず知らずの女に何でもするといっておるのじゃ。
これ以上可笑しいことがあるとは儂は思えんがの」
そのまま彼女は笑い続けたが一区切りすると顔をこちらに向けた。
「いいじゃろう。話してやろう。お主は一角竜は知っておるの?」
「ああ、モノブロスだろ?知ってるとも」
「ある時儂は自分の力を試すためにそいつに戦いを挑んだのじゃ」
「それでやられてしまったと・・・」
「その通りじゃ。奴の頭突きが儂の左腕をへし折ったのじゃ。ドンドルマに帰ったときは
すでに感覚がなくなっていた・・・それで傷が直った後は必死に修行を重ねたのじゃ。
もっと強くなるためにな。それで左腕の感覚は戻り全てが元通りだと思ったのじゃが・・・」
彼女は俯いてしまって言葉には先程のような力強さは無くなっていた。
「いざ相手を前にすると刀を振れぬのじゃ・・・・・何度やっても足がすくんで動くことができぬ・・・・
また同じように怪我をしてしまうのではないかという恐怖でな・・・
だから儂はこの世界では生きていけぬと悟ったのじゃ・・・・」

「成る程ね・・・それで、纏さん。アンタはそれで満足してるのか?」
彼女は涙ぐんだ目でキッとこちらを睨んで言い放った。
「満足しているわけが無かろう!!!儂は悔しいのじゃ!!相手を前にして小鹿のように震える
事しかできない自分が嫌で嫌で仕方が無いのじゃ!!!!」
「それじゃ、まだ剣を振りたいんだな?」
「ああそうじゃ!儂はまだ狩人として生きていたい!!・・・だがどうにもならんのじゃ・・・・・・・・」
俺は蹲っている彼女の肩に手を乗せた。
「・・・・・今夜ドンドルマのアリーナに来い。勿論強制はしない。だが、もう一度ハンターとして
生きていきたいなら来ることを勧める。結論はアンタしだいだ」
「一体なにをするのじゃ?」
「それは来てからのお楽しみだ」
俺はそう言うと立ち上がり、玄関の扉に手をかけた。
「いきなり押しかけてすまなかったな。邪魔したよ」
「ああ、ちょっと待ってくれ!」
「どうした?」
「その・・・お主、名は何と言う?」
「・・・・・タカシだ」
俺は答えるとその場を後にした。今夜は忙しくなりそうだ・・・・


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