・MONSTER HUNTER TD 第6話

「来た来た・・・おーい!こっちだ!」
彼はアリーナのホールに陳列された椅子に座りながら彼女、纏に
手を振りながら呼びかけた。
「一応来てやったが・・・一体何をするのじゃ?もう話しても良いじゃろ」
纏は椅子に座りタカシに問いかけるが、タカシは「まあこの歌聞いてから話すよ」
とあしらい歌姫の歌声に耳を傾けていた。
その歌声は石壁で作られたホールに美しく響き渡っていたが、まだ何をするとも
言われていない彼女にとってはそれはただの雑音でしかなかったようだ。
しばらくすると辺りが一気に暗くなった。どうやら歌姫のステージは終えたようで、
タカシは大きく背伸びをすると纏に離しかけた。
「歌姫の歌は聞いたことあるか?良いもんだよね。とくに・・・・・」
「そんなことはいい。それよりも、儂をここに呼び出して何をしようというのじゃ?」
彼女は彼の話を途中で遮り、はっきりとした口調で訊ねた。
「ああ、それは付いて来れば分かるからコイツにサインしてくれ」
そう言うと彼はズボンのポケットから一枚の紙切れを差し出した。
「なんじゃ?これは・・・・・」
「婚姻届」
彼がそう言うと纏は何とも冷めた眼で彼を見た後、「帰る」といってその場を立ち去ろうとした。
「わーーー!!冗談だよ!冗談!!」
「フン・・・そんな下らん冗談を言うやつは嫌いじゃ・・・・」
「悪かったよ・・・こいつは大闘技場の立ち入り許可書だ。今からそこに行くから署名が必要なの」
「最初からそう言えばいいものを・・・・・」
彼女はペンを受け取り、紙へと署名した。
彼はその紙を受け取ると、ホールの左側にある受付のカウンターに差し出すと同時にポケットから
何かを取り出して受付嬢に見せた。
受付譲と彼は話をしている様子だったが、纏には彼等が何を話しているかは聞こえなかった。
「スマン、ちょっと遅くなった」
彼は申し訳なさそうに纏の元へと戻った。
「遅いぞ。女性を待たせるとは男の風上にも置けんの。ところで、あそこの女子と何を話していたのじゃ?」
彼はためらい、言葉に詰まった様子だったがすぐに纏は呆れたような顔になった。
「さてはお主、口説いておったな・・・・」
「ち、ちげーよ!」
彼は反論したが、纏の軽蔑したような視線はタカシに深々と突き刺さっている。
「もしや儂をここに呼び出したのも口説くためだったのではないだろうな・・・・?」
「だから違うって言ってるだろ!?」
「フン、まあいい。もしも儂に手を出してみるがよい。すぐに切り捨ててやるぞ。もっともお主の様な
軟弱物には到底無理そうじゃがな」
彼女は挑発するような口調でタカシに言う。その眼には自信があふれており、弱みなどは感じられない。
「言うじゃないか・・・朝は眼に涙を浮かべてたって言うのにさ・・・・・」
「・・・な!!今すぐ忘れろ!いいな!!?でないと切り落とすぞ!!!(/////)」
彼女の顔は真っ赤になり、昨日とは勝るとも劣らないほどの剣幕だった。
「わーったから早く行こうぜ。じゃないと日が昇っちまう」
彼はそう言うとそのまま大闘技場の入り口に向かって歩き出し、彼女はそれに不機嫌そうに着いていった。

「で、どうするのじゃ?いい加減に説明しても良いじゃろ」
満天の星空が輝く大闘技場の真ん中で彼女は今にも痺れを切らしそうな勢いでタカシに問いかけた。
「それじゃ、これを受け取れ」
「・・・?これは刀か?」
彼女は受け取った刀を不思議そうに見てタカシに問いかけた。
「これでどうするのじゃ?」
「俺と一対一で勝負しろ。手加減はいらないぞ」
彼は自分の持った刀を鞘から抜くと真剣な眼差しで彼女に話したが、それを聞いた彼女はあっけにとられた
様子でタカシに問いかけた。
「・・・お主今何と言ったのじゃ?」
「聞こえなかったのか?俺と勝負し・・・・グフォオッッ!!!!」
彼が言い終わる前にすでに纏はタカシの頭を刀で叩いていた。その衝撃に耐え切れずタカシはその場から
2メートルほど離れた場所に飛ばされてしまった。
「・・・・・纏さん・・・不意打ちは卑怯ですよ?まだ俺話してる途中だったじゃないですか」
彼は蹲り頭を両手で抱えながら必死に抗議を試みた。
「何を言うのかと思えばふざけた事を抜かしおって・・・・お主は儂をなめておるのか?」
「いや、俺は本気ですとも・・・って纏さん!どこ行くんだ!?」
彼女は大闘技場の出口へと足を進めていた。
「帰るのじゃ。こんな所に居ても時間の無駄だと分かったからのう」
「ハンターに戻りたいんじゃなかったのか?」
「お主と刀を交えて一体何になるのじゃ?残念ながら儂はお主の様な軟弱な男に興味は無いのでな」
彼女は足取りを緩めるつもりも無く、そのまま出口へと進んでゆく。
「これに懲りたら儂の前に姿を現すでないぞ?」
彼女はタカシにそう言い放ったのだが、言われた当の本人からは返事が帰ってこなかった。
「どうしたタカシ!!返事ぐらいせぬ・・・・か・・・・?」
彼女の振り向いた先にはタカシは居らず、そこにいたのは異形のモノだった。
幾つもの爪が生えた強靭な羽、燃え滾る炎のように赤い巨体、まるで雲ひとつ無い空を写し取ったかのような
蒼い瞳・・・ハンターの畏敬の対象である空の王者がそこにいた。
「リ・・・リオレウスじゃと!?何故こんなところに・・・それより!」
彼女は辺りを見回しタカシの姿を探る・・・いた。
彼は大闘技場の壁にぐったりともたれかかっている。恐らくリオレウスにやられたのだろう。
纏は鞘から刀を取り出し、構える。彼女の防衛本能が自然とそうさせたのだろう。
タカシは動くことが出来ず、大闘技場の出口は締まっている。この閉鎖された空間では正当な判断だろう。
しかしそれから彼女は動くことが出来ない。相手に切りかかろうともせずその場にじっと佇む・・・
「(クソッ・・・何をしておるのじゃ・・・このままではやられてしまう!さっさと動かぬか!!)」
彼女は自分の体にそう言い聞かせるも、全く動かない。額からは大粒の汗が浮かび、呼吸は徐々に荒くなっていく。
するとリオレウスは挑発するかのように2・3度鳴いてみせる。
まるで『かかってこい!どうした、怖いのか?』と言わんばかりに・・・
「ッ!!儂をなめるなァァァ!!!」
纏は鬼の形相でリオレウスに駆け寄り刀を振りかざす。その姿には先程のように震える姿は全く感じさせない。
「でりゃああああああ!!!!」
彼女の刀はリオレウスの頭を捕らえ、一直線に落とされる・・・筈だった。
リオレウスは刀が振り下ろされるよりも早く頭を纏に叩きつけ、その衝撃に耐え切れない彼女の体は
遠くに放り出されてしまった。
彼女は立ち上がり、姿勢を戻すも遅かった。
リオレウスの口にはメラメラと炎が燃え上がり、そして灼熱の球を纏目掛けて解き放った。
「(しまった!)・・・ッ痛!!」
先程の衝撃で彼女は足をくじいてしまい、その場から動けない。
火の玉はとてつもない勢いで纏へと進んで行き、それが近づくたびに纏の体は徐々に乾いていく。
纏は目を瞑りその炎を受け入れる覚悟をした。『今更何をしてももう遅いと』いった表情がその顔からは見える。
しかし、その火の玉は纏の目の舞でフッと姿を消した。まるで風船が割れるかのように。
纏はあっけに取られた。一体何が起こったのか彼女には何も解らなかった。
「ハハハハ!!よっし!合格だ!」
声のした方を向くとそこには、先程まで項垂れていた男が手を叩きながらこちらに向かって来ていた。
「合格って・・・どういうことじゃ?!これは・・・・・」
動揺している纏を見たタカシは一本取ったといった表情で話し出した。
「ああ、紹介が遅れたな。コイツは俺のペットのリオだ」
タカシはそう言うと空の王者の頭に手を乗せこれでもかと言わんばかりに撫で回した。
撫でられる方も喉をゴロゴロと鳴らし、満足げな表情をしている。先程の凛々しさは全くもって無かった。
「ペットじゃと・・・?まさかお主!儂をはめたな!!」
纏がそう言うとタカシは微笑みながら返した。
「けど、小鹿のように震える纏からは卒業できただろう?」
纏はハッとした表情で手に持った刀を見つめた。
「言っただろ?纏さんみたいな人間を何人も見てきたって。そういう人ってのはもう直らないとか
すぐ悲観的になるんだけど、きっかけがあるとすぐに直っちゃうんだよ」
「フン、分かったようなことを言いおって・・・お主の様な楽天家には儂の気持ちなど解るまい」
タカシはそれを聞くとズボンを上げ太腿を露にした。そこには大きな傷跡が一直線についていた。
「12の時にドスランポスに負わされた傷だ・・・この傷を負ったとき俺は本気でハンターをやめるかと思った・・・・」
よほど大きかった傷なのだろう。そこの部分は肉が盛り上り、色も赤くなっていた。
傷を見せたときは少し顔が暗くなったが、すぐいつもの笑顔に戻った。
「でも俺は現にハンターを続けている。よほどの事でもない限り人間は立ち直れる生き物なんだよ」
「お主にしては正論じゃの・・・」
「ハハ、よく言われるよ」
しばらく静かな時が流れた。決して気まずいわけではない。今この時を楽しもうと口を開かないだけだ。
少したってその静寂がやぶれた。その静寂を破ったのは纏だった。
「のう、聞いても良いか?」
「んあ?」
「何故お主は儂にここまでしてくれるのじゃ?いくら自分が同じ目にあったからとはいえ
ここまでするのは少し変じゃ・・・」
タカシはそれを聞くと少し恥ずかしげに頬を掻いて答えた。
「約束したんだよ」
「約束じゃと?」
「そ、さっきも言ったとおり俺は本気でハンターをやめるかと思った。でもさ、俺の知り合いのハンターの
人が必死で励ましてくれてんだ。リハビリも手伝ってくれたし、一緒に狩りも行った。
それで、俺は傷が完治したときその人にお礼を言おうとしたらその人なんて言ったと思う?」
タカシは少し微笑みながら纏へ訊ねた。それを聞くと纏は首を横へと振り、それを見たタカシは
またも微笑みながら答えた。
「『もしも君が私に感謝しているなら、その言葉は喜んでいただこう。けれどその心は
今までの君のように苦しんでいる人々のためにとっておきなさい』って。だから俺はその言葉に従ったまでなんだよ」
その言葉を聴いて纏は心底感心したように笑みを含めながら言った。
「その知り合いのハンターとやらは結構な人格者じゃのう。一度会ってみたいものじゃ」
「無理だよ。俺が15のときに亡くなった・・・」
それを聞くと纏は少し申し訳ない気持ちになった。そして一言「スマン」と言った。
「纏さんが謝る必要はないよ。それに、その人を良く思ってくれるだけで俺は嬉しいよ」
それを聞いて纏は少し胸が熱くなるのを感じた。もっとも、纏はそれが何かは気づいていないようだが・・・
「さってと、そろそろ帰りますか」
「なんじゃ?もう帰るのか?」
纏がそう訊ねるとタカシは不満げに答えた。
「ああ、明日は朝早くからレイア狩りだ・・・本当はもうちょっと休みたかったんだけど」
「せいぜい死なない程度に頑張ることじゃな」
「ありがとよ。それより・・・ほれ」
タカシが手を差し出すと纏はあっけに取られた表情でその手を見つめる。
「なんのつもりじゃ?」
「なんのって・・・家まで送ってくよ」
「いや、そうじゃない・・・その手は何だと言っておるのじゃ」
「足くじいてんだろ?夜道を手負いの女が一人で歩くのは危ないぜ?」
それに対して纏は皮肉っぽく答えた。
「お主と帰ったら逆に襲われそうな気がしてならん。一人で十分じゃ」
「人の好意は素直に受け取っとくもんだぜっと!!」
そう言って彼は纏を背負い、出口へと向かって走り出した。
「何をするのじゃこの戯けが!!さっさと降ろせ!!(//////)」
「だが断る!!俺には約束を果たさないといけない義務があるんでね。悪いが付き合ってもらうよ」
「そんなの知らん!!降ろさんとたたっ斬るぞ!(////)」

笑いながら女を背負い走り続ける男と、その男の背中の上で文句を言い続ける女・・・
その奇妙な光景はしばらくドンドルマの街で話題になるのはまた別の話。

「(タカシか・・・不思議な男じゃ・・・・)」

翌日、ドンドルマ・大衆酒場―――――

「結局2人だけですか・・・」
「仕方ないでしょ?他の人は来ないって言ってるんだから」
タカシの不満げな問いかけとは反対にカナミの声はやけに上機嫌だった。
「まったく、弾丸だって安くないんだぜ?こんなこと毎回繰り返してたら赤字だ」
「アンタの財布の中身なんて興味ないわよ。それより、とっとと行くわよ」
カナミが出発口に出ようとすると後ろから声が聞こえた。
「少し待たれい。そこの御二方」
声のしたほうに振り向くとそこにいたのは紅蓮の装備に身を包んだ纏の姿だった。
「纏さん?!どうしてここに?!!」
タカシが問いただすと纏は冷静に答えた。
「儂が暇だったから来ただけじゃ。それとも、何か文句でもあるのか?」
「いや・・・無いけど」
「それよりも、お主等の狩りに同行させてもらえるかの?先日は無礼をしてしまったお詫びも兼ねての」
「私は別にいいわよ!ね、タカシ?」
カナミは愛想良く答え、タカシもそれに釣られ承諾した。
「それじゃ、よろしく頼むぞ」
纏はカナミに握手を求め、カナミも共に握手で返す。
「私はカナミ。よろしく」
纏はカナミと握手をすると、今度はさし出したタカシの手にビンタで返した。
「昨日のこと、許したわけではないぞ」
タカシがあっけに取られていると、纏はタカシの耳元でそう呟いた。
「あらら、嫌われちゃってるみたいね」
カナミがおちょくる様に言うとタカシはその場にへたりこんだ。
しかし二人は気づいていなかった。纏の頬がうっすらと紅くなっていたという事を・・・


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