・MONSTER HUNTER TD 第8話


纏は今起こった出来事に動揺を隠せなかった。
リオレイアが猛スピードで纏に迫っている。あの巨体と激突すれば一溜まりも無い。
何故?リオレイアに一番近かったのはタカシだ。纏はリオレイアに何もしていない・・・・
「避けろ!纏!」
タカシの怒号交じりの一言で纏は我に返った。
――――そうだ、考えている暇は無い。避けなければ―――
纏は即座に身を翻し、リオレイアの突進を回避すると、体勢を立て直し刀を抜いた。
『フゥウゥゥゥゥゥゥ・・・』
リオレイアの荒い吐息が漏れると同時にカナミが叫んだ。
「タカシ!!何でリオレイアがこっちに来てんの?!!」
その声からは動揺の色が露になっていて、カナミ自身の表情からもそれが見えた。
緊張から顔がこわばり、ハンマーを持った手は微かに震えていた。
「説明は後だ!とにかく今は奴を倒すことに集中しろ!!」
タカシはカナミの問いかけに答えると高台を陣取り、へヴィボウガンを腰の位置で構える。
そのボウガンの木製フレームとオイルの香り、ずっしりとした重量感がタカシに自身をつけさせた。
「纏さん!アンタは尻尾の切断をやってくれ!カナミは部分破壊を頼む!!」
「承知した!!」
纏はタカシの指令を承諾し、実行しようとするが・・・
「嫌よ!!何であんたなんかの指示に従わなくちゃいけないの?!」
カナミの返答に纏は一瞬あっけに取られた。何故このような状況で拒否をするのか判らなかったからだ。
戦闘において指示をする人間は必要不可欠だ。
更に、指示を出す役目はどちらかといえば剣士よりも後方から状況を観察でき、的確な判断を
行えるガンナーの方が向いている。
それに彼の判断は正しい。武器の特性を踏まえていて拒否をする要素は無い。
しかし、カナミはタカシの指示ということで拒否をしたのだ。
「自分勝手な行動すんなって言っただろーが!死ぬぞ!!」
「別にアンタなんかに心配されなくても大丈夫よ!」
そう言うとカナミはハンマーを振り上げ相手に向かって直進していく。
「やああああぁぁぁ!!!!」
叫び声と共にハンマーは獲物の体に食い込み、肉を抉る鈍い音が響いた。
「・・・しゃーねー・・・纏さん!!俺が援護するから早く尻尾の切断を!!」
タカシはカナミの行動に少々苛立ちを覚えたが、出来るだけ今の状況に集中しようとした。
指示を出す身ならばその状況に臨機応変に対応しなければならないからだ。
タカシの指令を聞いた纏はリオレイアの側面に立ち、幾つもの棘の生えた尻尾に攻撃を与えていく。
彼女の斬破刀が一撃一撃切り込むごとに青白い電流と赤黒い血液が辺り一面にほとばしった。
タカシはスコープを覗き込み、リオレイアの急所を的確に狙撃していく。
『ギャアアアアァァァァァァァ!!』
あまりの猛攻にリオレイアは苦痛の叫びを上げ、後ろによろめいた・・・が、リオレイアは体を反転させ
その丸太のように太い尻尾を纏に叩きつけると同時に短い悲鳴が漏れた。
「ぐわぁ!!!」
衝撃に耐え切れなかった彼女は地面に叩きつけられ、血の混じった痰を吐いた。
「纏さん!!キャッ!!!」
カナミもリオレイアの頭突きを真正面から食らい、吹き飛ばされてしまう。
『グオオオォォォォォォ!!!!!』
猛攻から逃れたリオレイアは地獄の底から響いてくるような雄叫びを上げた。
その太い脚で地を蹴り、口から紅蓮の炎を漏らし、真っ赤に充血した目を三人に向けると
灼熱の火球を三発連続で放ち、三人の間に大きな境界線を作った。
正に状況が一瞬にして反転した。
纏とカナミはリオレイアの激しい猛攻の前に近づくことが出来ず、タカシは遠距離からボウガンで狙撃をするも
激しい怒りを露にし、アドレナリンが泉のように溢れ出してくるリオレイアの前には意味を成していなかった。
「・・・チッ・・・この状況ではどうにもならんぞ!」
纏の声には苛立ちが混じっていて、焦っているようにも見えた。
「俺が何とかして隙を作るからその間に攻撃してくれ!!」
タカシはそう言うとリオレイアの頭に集中的に攻撃を加えていく。
すると放った弾がリオレイアの頭の甲殻を破壊し、それにより一瞬獲物は怯み攻撃が途切れた。
「カナミ!今が攻め時じゃ!!」
「ええ!」
二人は獲物目掛けて走り出し、両手の武器を大きく振り上げた。
だがその時だった。リオレイアは脚を後ろに一歩出すと地面を大きく蹴り上げ、宙を大きく一回転した。
サマーソルト尻尾攻撃・・・リオレイアの繰り出す攻撃中で最も殺傷能力が高く危険な業だ。
その攻撃を真正面から受けたカナミと纏は宙高く放り出され、二人の体は地面に強く叩きつけられた。
何とか立ち上がったカナミと纏はリオレイアによって冒された毒の影響でとてつもない吐き気に襲われた。
顔は血の気が引いて真っ青になり、体力が徐々に失われていく。
カナミは震える手で腰のポーチから解毒薬を取り出すと、一気に飲み干した。
気分は少し楽になったが、落ち着いている全く暇などなかった。
リオレイアは地面を蹴り、叫び声を上げながらカナミ目掛けて走り出していたのだ。
――――いやだ!来ないで!死にたくない!!・・・――――
カナミの頭の中は死の恐怖で埋め尽くされ、動くことが出来ない。目に涙を浮かべ震えるその姿は
先程まで恐れを知らず攻撃を加えていた猛者とは正反対だった。
――――カッ!
突如辺りが激しい閃光に包まれ、その光を直に受けたリオレイアはその場で目を回してしまった。
「いったん引くぞ!!」
タカシだ。タカシの投げた閃光弾が間一髪のところでリオレイアの動きを止めた。
彼は高台から降りると、カナミをかかえ、纏と共に岩のトンネルを通ってその場を後にした・・・・

「気分は良くなったか?」
ベースキャンプでタカシは二人に訊ねた。
「ああ・・・先程に比べるとマシじゃ・・・」
纏の声にはあまり張り合いが無かったが、顔色は先程よりも幾分良くなっていた。
ただ問題はカナミのほうだった。
「カナミ、お前はどうだ?」
「・・・・・・・・・・」
この調子だった。先程のショックがよほど大きかったのだろう。
ベースキャンプのベッドの上で塞ぎ込み、口を聞こうとしなかった。
タカシはカナミの隣に座ると口を開いた。
「・・・カナミ。さっきリオレイアが迫ってきたときどう思った?」
「・・・・・なんでそんなこと聴くの?」
「質問を質問で返すな。どう思った?」
その声には『二度目は無いぞ』と言っているような気が込められていた。
「・・・・死ぬかと思った・・・」
「そうか。もしも俺があの時助けなかったらどうなってたと思う?」
それを聴いたときカナミの表情の少し怒りの色が露になった。
「何?私に恩でも着せようって言うの?」
「いや、そうじゃないよ。もしもあの時俺が見殺しにしてたらどうなってたって聞いてんだ」
タカシの言った言葉にカナミは背筋に何か冷たいようなものが通った気がした。
彼の口からこのような言葉が出るなど主っても見なかったからだ。
「俺は岩のトンネルを通る前にこう言ったはずだ。『絶対に自分勝手な行動をするな』って。
だがお前はそれを破った。正直あれで死んでても自業自得だ・・・」
その言葉にカナミは言い返せなかった。彼女は確かに約束を破ったが、一番の原因は
彼の語調が余りにも冷たかったからだ。
「それと、纏さん・・・」
「な、なんじゃ!?」
「どうして指示に背いたカナミを止めようとしなかったんだ?」
「そ・・・それはお主が早く尻尾を切れといったから・・・」
「ああ、確かに俺はそう言った。けどそれはただの言い訳だ。
カナミを止めようとすれば何時でも止めれただろう?」
纏は俯いて先程までの自分の行動を悔やんだ。
確かに止めようと思えば止めれた。しかし、纏は自分のことで頭がいっぱいだった。
「いいか?パーティで行動中は仲間内での連携が取れてないと駄目だ。
仲間が間違った行動をしているのならば全力で止める。それがパーティの基本だ。
いざという時には指示に背いてでも仲間を助けなきゃいけない時もあるしな」
そう言うとタカシは纏とカナミのちょうど間の位置に立った。
「まぁ、色々酷いこととか言っちゃったけど、俺は二人のことを信用してる。
実際俺は仲間を見殺しにしたりしないし、小さなことで一々責めたくもないしね。
ま、二人の身に何かあったら不安で仕方ないわけよ、俺は」
微笑み混じりのタカシの言葉は先程のような刺々しさは無かった。
彼の表情も穏やかで優しさのに溢れており、その顔を見た纏とカナミは心が熱くなるのを感じた。
「べ、別にアンタに心配されたくも無いわよ・・・(///)」
カナミのいつもの憎まれ口にタカシは微笑んだ。
「それくらい言い返せるようになったらもう大丈夫だな。さて!作戦会議だ」
タカシは落ちていたヒョイと棒切れを拾い上げ、砂の上に大まかな図を描いた。
「作戦はさっきと大体同じだ。カナミは頭へ集中的に攻撃を、纏さんは尻尾の切断を。
ただ、攻撃をするときは相手の隙を突いて攻撃するように。下手に突っ込むとさっきと同じになるぞ」
「隙を突いてって・・・どんな時に?」
タカシはカナミが反論せず質問してきた事に少しばかり喜びを感じた。
そして微笑みながらタカシは図を書きながら答えた。
「主にブレスを吐いてる時や突進の後だな。基本的に相手の真正面に立つな。奴の攻撃は前に広いから
すぐにでも突っ込んでくるぞ」
そう言うと今度は纏の方を向いて言った。
「それと、次はコソコソする事は出来んぞ。纏さんの着ている装備は奴らには刺激が強すぎるからな・・・
さっき気づかれたのはその鎧の特性だな」
それを聞いた纏はハッとした表情になった。
「そうじゃった・・・すっかり忘れておった・・・」
「何、心配すること無いよ。長いこと着込んでると鎧ごとの特性とか忘れちゃうことが多いから。
気づかなくても別に不思議じゃないさ。さてと・・・」
するとタカシは砂の上に書いたリオレイアの図の上に棒を深々と突き刺した。
「ショウタイムだ」

「カナミ、纏さん・・・回復薬の残量は?」
「残念ながらもう無いぞ・・・・」
「私もゼロ・・・」
三人は洞窟へ入る入り口の前で立ち往生していた。
作戦は功を奏し、リオレイアに強大な攻撃を与え後一息というところまで来ていた。
尻尾の切断も完了し、破壊可能な場所は全て破壊した。
ただ受けた損害も多く、回復弾及び回復薬の残量が全て底を尽きてしまったのだ。
「言っておくがもう回復の援護は出来ないからな」
「解っておるわ・・・何もお主に期待しておるわけではないのでの」
「言ってくれるじゃないの・・・」
タカシは纏の顔をチラリと見ると、次はカナミの方に視線を移した。
「カナミは大丈夫か?」
「私よりも自分の心配したほうがいいんじゃないの?」
それを聞くとタカシは微笑んだ。(無論キャップを被っているため表情は見えないのだが。)
「さて、行きますかね・・・」
三人は洞窟に入ると案の定リオレイアはいた。
元は何だったかも解らないほどの大量の骨のベッドに体を預け、大きな寝息を立てている。
頭の甲殻は剥がれ落ち、切断された尻尾は血は止まっているものの、真っ赤な肉が露になっていた。
洞窟の出口近くでタカシはボウガンを構えスコープを覗き込んだ。
標的はリオレイアではない。その辺りにいるランポスだ。
回復薬が無い今の状況では相手に気づかれないうちに爆発物を仕掛け、起爆する方法が一番安全だ。
しかし万が一ランポスがリオレイアを起こしてしまったら全てが水の泡になる。
「(慎重に・・・焦るな・・・)」
標的は3体。素早く狙撃すれば気づかれること無く倒せる。
――― 一発、二発・・・
弾丸は見事に命中し、激しい金切り声を上げて二体のランポスは絶命した。
残り一体。それはリオレイアの手前にいて、弾が外れたらリオレイアを起こしてしまう・・・
『バシュッッ!!』
ボウガンは口から火を吹き、弾丸を吐き出した。
「あ・・・」
その弾丸は外れることなくランポスに命中した・・・が、その弾丸は事もあろうかランポスの体を
貫通し、リオレイアへと命中した。
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
場の空気が一瞬にして凍りつき、カナミと纏の視線はタカシに深々と突き刺さった。
「・・・・・・・・テヘッ♪」
「「タカシイイイイイイィィィィィ!!!!!!!」」
タカシの弾丸で目を覚ましたリオレイアは三人に向かってとてつもない速さで迫ってくる。
「どーすんのよ!起きちゃったじゃないのよ!!!」
「落ち着け。まだ慌てるような時じゃない・・・・ザ・ワールド!時よ「止まるわけなかろうが馬鹿者!!」」
纏からの突込みを受けたタカシは心底不機嫌そうにボウガンに弾を込めた。
「ちょっとくらい冗談言ってもいいだろっ!」
そう言いながらタカシはボウガンの引き金を引くと、弾丸はまっすぐリオレイアへと直進していき
リオレイアのすぐ手前で弾が三つに分裂し大爆発を引き起こした。
『ギャアアアアアアアァァァァァ』
弾が命中したリオレイアは地を揺るがすほどの叫びを上げ、巨体を地に沈めた。
力尽きたリオレイアの体は爆発のせいで所々から煙が上がり、体のあちこちから血がドクドクと流れ出している。
「あらら・・・思ったよりも弱ってたのね」
タカシはリオレイアのすぐ傍によって頭をボリボリと掻いた。その語調からは残念と言った感じが伺える。
「まあ倒せたから・・・・って纏さん、カナミどうした?」
「タカシ、流石にリオレイアを倒したことはすごいと思うわよ・・・」
「じゃがの・・・こんな終わらせ方をしてただですむと思う出ないぞ・・・・」
二人は拳を鳴らしてタカシにじりじりと歩み寄る。
「あれ?なんかデジャ・・・アッーーーーーーーー!!!」
結局彼はリオレイアにやられた時以上に怪我を負ってドンドルマに帰還した。


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