「別府がすけすけ水着を好きだと知ったツンデレがお店に買いに行くとどうなるの?」

「こ、こんなのっ…」

それは、夏前のお昼時。
各地のデパートも少し早すぎる夏への衣替えを見せる。
一階の特設会場で催されている水着の大売出し。
その手前で彼女―――柊 千奈美(ひいらぎ ちなみは季節を二つほどすっ飛ばし、絶対零度で凍り付いていた。

「アイツ、なんてモノを夢みてんのよっ!」

それは彼女のクラスメイト、別府貴士による休み時間の発言を指す。

―――いやぁ、女の子なら透け透け水着だろ! 男の夢っ!

やれスクール水着だ、ビキニだ、パレオだのと非常にピンク色な会話が繰り広げられている中、一際大きな彼のその一言に、クラス中が水を打ったように静まり返った。
そして次の瞬間、喝采(主に男子)と罵声(主に女子)が飛び交う、それはもう、盆暮れ正月に冠婚葬祭を足して三乗し、地獄の釜で閻魔がヤケクソ気味に煮込んだような騒がしさだったという。

「こ、こんな…透けてるの…セクハラじゃないのぉ!」

その透け透け水着をまとったマネキンに向かって彼女は叫ぶ。
顔は耳まで真っ赤になりながらも、視線はしっかりとマネキンへ。
「これが…男の憧れ? 美貌の極み…?」
彼女がそこまで親の敵の如く、マネキン(というか水着)を睨みつけるのには理由があった。
以下は別府貴士が先の「透け水」発言後勃発した戦争の終わり際、意気揚々と教壇に立ち、行った演説の内容である。

―――全女子に告ぐ! 理解が得られないようなのでここで叫ぶ!
透け水、これは男の夢である! 美貌の極みである!
真に美しき女子ならばこれをいやらしいと思わず、見事に着こなし、具体的には八月の臨海学校に来いいい痛い!
こここれは煩悩なんかじゃないぞ! 違うってばぁ!
いててて! そこの女子! 椅子を投げるなぁ!
美の極致を見たいと思う芸術的探究心のいてぇ!
ぎゃああああ額割れたぁ!

…という馬鹿の戯言を教室の端で聞いていた彼女。
教室の喧騒をよそに、「馬鹿じゃないの」といつものように取り繕っていた彼女だったが、胸中にはその時、既にメラメラと闘争心が宿っていた。

―――いいじゃないの、美貌の極みと言われて黙ってらんないわっ!

そう呟き、街へ消えていった彼女を待ち受けていたものは、かくも厳しい現実。
ぶっちゃけAV女優専用機かと言わんばかりに透けに透けまくったこの水着は、どうみても一介の女の子が着ることを許されるものではない。
着た暁には担任、校長、両親PTA諸々を巻き込んだ大事件に発展すること受けあいだ。
美貌だの、芸術的探求心だのと美麗字句を並び立てても、目の前には―――エロ水着。
「ふんっ。やっぱりあの馬鹿の言うことはアテにならないわね」
―――そういい続けて三時間半、彼女はそこから動けずにいた。
去りかけては戻り、また罵っては去る。その繰り返し。
何処から見ても欲しがっていながら尻込みしているようにしか見えない。
「よろしければ、ご試着…」
「なによっ!」
「ひいい!」
店員がたまらず声をかけたのもごく当然の流れであった。
なお、この「声をかける→ 千奈美キレる →店員逃げる」のパターンは以後20ターンほど繰り返されるので割愛させていただく。
そして20ターン目の店員フェイズだった。

「あ、あんたもしつこいわね…どどどうしてもって言うなら……一度くらい着てあげてもいいわよ」
「は、はいいい…」

後にこの女性店員は涙ながらにこう語ったという。
―――あたし、もうどんなヤクザが着ても、平気でラメ入りのビキニパンツを押しうることができます!
「あ…ぐ…これは…なんて…卑猥っ」
「お客様、ご試着の具合はいかがでしょうか?
「覗くなっ!」
「ひいいいい!」

試着室の鏡には、ぴっちりと、そしてぴったりと、まったりと。
全自動男子勃起機と呼ぶに相応しい姿が爆誕していた。

「恥ずかしくて死にそう…やだ…」

女性らしい、丸みを帯び、それでいて引き締まった身体のラインは
ぴったりとした素材により、普段とは別次元の主張をしていた。
臀部の水着は食い込み、ランプ肉(学名・尻)が零れ出ている。
乳はゆるやかな丸みも、豊かな柔らかさもその密着性と通気性によって機密漏洩しており、裸の上にペンキを塗ったほうがまだマシなのでは、と思えるほどの開放具合である。
不覚にも(本人談)勃ってしまった乳首の突起部分さえ、余すところなく見て取れた。
先人曰く―――「馬中の赤兎、人中の千奈美…うっ、おちんちんが無双乱舞!」

「やめよやめよ。こんなの着て臨海学校なんて、変態の極みよっ」

そう言い捨て、水着を脱ぐべく肩紐に手をかけた時であった。
「―――あら、千奈美なにしてんのよ?」
「……ね、ねぇさん!?」
「千奈美ぃ。こんなところで何そんな変態衣装着てんのよ。 彼氏でも出来た? オナニー用? それともあたしを誘惑?」
「最初のは違う! 次のも違う! 最後のは断じてありえない!」
「つれないのねぇ」
「姉さんこそ、なんでこんなトコに、そしてピンポイントにあたしの居る試着室に居るのよ…」
「匂い?」
「あんたは獣かっ!」

柊 千夏―――千奈美の姉、その人であった。
性格は豪胆にして淫乱酒乱マゾでサド。一言でいうなら変人。
尚、現在千奈美の高校を卒業し、三駅隣の大学で女子大生を健康的に営んでいる。
本人曰く―――「やっぱ若い高校生の方がよかったかもぉ〜」

「まぁ匂いってのは嘘で、近くを通りかかったらあんたの『うあああー』とか 『きゃあ』とか『恥ずかしすぎるー』とか、『イくー』とかいう叫び声が聞こえたから、そりゃあ思わず姉さんヘルプユーよ」
「どさくさに紛れて変な叫びを捏造しないの。
で、恥も醜聞も省みず覗きを働きにきたと言う訳ね?」
「ミニにタコができました☆」
「死ねっ!馬鹿姉! 生憎だけど姉さんのヘルプは必要ないわ。あたしもう帰るから。こんなの買えないわよ…」
「あら、残念」

そう言って今度こそ肩紐に手をかけ、一気に脱ごうとする千奈美を姉は言葉でそっと制した。
「残念って何よ。こんな姉さんみたいな格好、あたしには無理よ…」
「あらあら、尚のこと残念ね」
「姉さん、ここ、こんなの…着たことあるの?」
「あるわよ」

自信たっぷりに言い切る姉に、千奈美の手は肩紐から離れる。
にやりと笑う姉に不信感を抱きながらも、千奈美は詳細を訊く事にした。
…透け水着のままで。

「あたしもね、高校時代臨海学校の水着に迷って、クラスの男子にアンケート採ったのよ」
「またとんでもないことを…で、どうなったの?」
「クラスどころか、学校中の男子を巻き込んだ大投票祭の結果、透け水がダントツ一位。
次点スク水。何も着ないってのが三位だったかな。あはは」
「…姉さん、お願いだからもう少し自分を大切にして……」

がっくりと肩を落とす千奈美をよそに、
千夏は高校時代を思い返すようにしてうっとりと反芻する。

「いやぁ、臨海学校ったらそりゃすごかったわよ。海辺ではあたしの周りを取り囲むようにして男子の一群。勃つわ勃つわ。 山でもないのに辺り一面、キノコタケノコ大収穫よ」
「ああ…もうやだぁ。この人と血が繋がってるの…」
「でもね」

そこで千夏は言葉を切り、両の手を千奈美の頬に添えて微笑んだ。
突然の姉の変わりように、千奈美はただ姉を見つめ返す。
「あたしが好きだった男の子。同じクラスのマサル君が、血気盛んな男子をガードするようにずっと傍にいてくれてさ。嬉しかったなぁ」
「……」
「いいもんよね、純愛」

そこまで言って、千夏はにっこり微笑む。
屈託の無い、純粋な姉の笑顔に、千奈美もまた、はにかむように笑った。

「ま、その夜はマサル君と激しくセッ―――」
「うああああん! ねえさんきらい!」

そう言って水着のまま飛び出しそうになり、自分の格好を省みてしゃがみ込む。
美談にされかけていたが、寝ても覚めても地球が何回回ろうと、透けてる水着がエロ水着であることに変わりはない。

「別にもてたいわけじゃないのよ…。ただ、アイツをあっと言わせてやろうと…」
「恋?」
「違うっ! ただ…いつもあたしを馬鹿にしてるから…せめて」
「ふふ、まったく。負けん気の強いところは、やっぱりあたしの妹よね」
「ああ、否定したい…否定したいよ…」
「いいわ、その水着、とりあえず買いなさいよ。お金、出したげる」
「え?」

突然の宣言に、千奈美は目を丸くした。
エロ水着とは言え、それなりの値札は付いている。
そんなことは知らんとばかりに、千夏は財布から札を取り出し、 ひらひらと振ってみせた。
「いいからいいから。女は度胸。なんでもやってみるもんよ!」
「別に…こんな…こんな水着で」
「すいませーん! これ買います!
 私の可愛い妹、柊 千奈美がこれ買います!」
「うあああ、姉さん!?」

そうして、何故か集まってきたデパート店員総出陣で見送られた帰り道。
右手にぶら下げた買い物袋を睨みながら、千奈美は姉に問いかけた。

「…何のつもり?」
「別に。妹の幸せを願う姉の愛でしょ」
「こんな水着で、人の目を引きたくないわよ…」
「普通の水着と両方持っていきなさいよ。 それで気に入らなかったら他のに着替えれば良いでしょ」
「……」

千奈美は夕暮れに映える姉の横顔をじっと見つめた。
能天気でいい加減な姉。
その真意を探ろうとして、いつもの笑みではぐらかされる。

「釈然としない?」
「うん…」
「いいの、それでも。 あんたの試着室での困った顔見たら何かしてあげたいって思ったから。
それだけよ、姉の気持ちってのは」
「姉さん…」
「妹が可愛いの。だからなんでもしてあげたい。駄目かな?」
「……」
いつもそうだ―――千奈美は思った。
普段はどうしようもない程ちゃらんぽらんな癖に、 自分が困ってる時には必ず助けてくれる。
女としてはさておき、姉としては100点だと、最高の姉だと思っている。
そんな姉の好意を無下にする。そんなこと、千奈美には出来るはずも無かった。

「臨海学校から帰ってきたあんたが、笑顔であること、祈ってるわ」
「…姉さん」
「ふふ、話は終わり。さ、早く帰ってご飯にしましょ」
「……うん」

そうして話は終わる。
夕暮れ時、オレンジに染まる姉妹は同じ歩幅で歩く。
妹の片手にはエロ水着。そして空いた片手は姉の手を。
家の屋根が見えてくる。母が作る夕食の匂いに混じりながら、千奈美は聞こえないように呟いた。
幼い頃からの感謝も込めて、妹らしい呼び方で。

「…ありがと、おねえちゃん」

次回!

それは男の夢か。それとも夏の陽炎か。
煩悩と性欲が交差する臨海学校に舞い降りた、エロ水着。

「うあああ…死ぬ…死ぬ! 恥ずかしくて死ぬぅ…」

赤面率100%の千奈美に襲い掛かるキノコタケノコ大収穫!

「何やってんだよ、見栄張って…そんな水着着て」
「あんたが着ろって言ったんでしょぉ!ばかぁ!」

そしてまるで出番の無かった別府貴士に見せ場はあるのか。
ポロリはあるのか!? 千奈美は素直になれるのか!?

「一応例は言わせて貰うけどね!」
「…べ、べつに、あんたのことなんか…」
「ど、ど何処見てんのよばかぁ!」

そして姉と同じ道を辿って、夜には18禁なのか!?
血は争えないのか! どうして破瓜の血が流れるのか!?

次回「透けた水着とふたりの夏 ?10」


―――え、別府のエノキダケが千奈美のアワビにかくれんぼ!?


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