・メイドツンデレを映画に誘ってみたら

「芽衣。明日、映画に行かないか?」
『……何ですか? 出し抜けに』
「いや。ちょっと見たいのがあってさー。もし良かったら付き合ってくれないかなって……」
『ダメですね』
「即答かよ。もう少し悩んでくれてもいいと思うんだけど」
『悩むまでもありません。私はメイドですから、タカシ様の映画に同行出来るような身分
の者ではありません』
「そろそろ、二人で一緒に暮らし始めて二年半だぜ。もう少しフレキシブルな考え方を持とうよ」
『タカシ様はフレキシブル過ぎるんです。家の中でならともかく、タカシ様の外出に、付
き添いではなくて同行するなど、以ての外です』
「付き添いとしてならいいって事?」
『よくはありませんが、御命令なら致し方ありません。ただし、一緒に映画に行くのとは
違います』
「……何が、どう違うんだ?」
『付き添いですから、映画の最中は私は外で待たせていただきます。無駄なお金を掛ける
訳には参りませんから』
「ああ。それじゃあダメだ。俺は芽衣と一緒に映画を見たいんだし」
『そうだと思いました。ならば、メイドとしてそのようなお誘いを受けることは出来ませ
ん。それに、明日はお風呂をキレイにしようと思っていましたし、お買い物にも行かなけ
ればなりませんから』
「風呂掃除なんて来週でもいいだろ? 買い物は映画の帰りに済ませればいい」
『そんな……タカシ様の都合で私の仕事に支障を来たされるような事は困ります』
「芽衣。お前は俺のメイドだよな?」
『そうですが、何か?』
「なら、自分の予定を変更してでも主人の為に尽くす事が第一じゃないのか?」
『むっ。それは正論ですが…… つまり、明日、私がタカシ様と映画に行くのは、私に対
する御命令ということで宜しいのですか?』

「本当は芽衣が素直に聞いてくれれば、お願い事で済んだんだけどな。俺は上から偉そう
に命令するのは好きじゃないし。けど、芽衣の正確は十分分かってるから、お願いなんて
生易しい言葉じゃ聞いてくれないだろうから」
『ハァ…… 分かりました。お風呂のお掃除は来週に変更します』
「それじゃあ、付き合ってくれるのか?」
『御命令とあらば仕方ないでしょう。私は、こういった強引なやり方で誘われるのは好き
ではありませんが』
「さっきも言ったとおり、俺も好きじゃあない。けど、それ以上に、芽衣と一緒に映画に
行きたいから」
『なっ!!(/////////////) バカな事を仰ってはいけません。私と映画に行きたいなど…… 私
を選ぶくらいでしたら、他に大勢お友達でも女性の方でもいるではありませんか!! 何
で私なんですか!!』
「何でかって言われても、この映画を見に行こうって決めた時から、誘うのは芽衣って決
めてたから」
『うぅ……(//////////) だ、ダメですよ。私はメイドであくまで使用人なのですから、その
ような事を考える対象にされては迷惑です』
「だから、そこをもうちょっとフレキシブルに考えないと。確かに俺たちは主人とメイド
の関係だけど、同い年で、同じ高校に通う同士であるんだからさ」
『それは、だから……近くにいれば、何かとタカシ様に不都合があった時に目が届きやす
いからというだけで父が決めた事でしょう? そんな事は主従の立場を超えるような行動
を認める理由にはなりません!!』
「まあいい。これ以上この話をしても堂々巡りだしな。とにかく、明日は一日、俺に付き
合って貰うから。いいな?」
『かしこまりました。タカシ様』
「うん。いい返事だ。これで明日は楽しくなりそうだな」
『……ところで、一つ聞いても宜しいでしょうか?』
「何だ?」
『タカシ様が見たい映画って……何なんですか?』
「ああ。これだよ」

『……【心の家路】 これってこの間、私が雑誌で見ていた映画じゃありませんか』
「そうだよ。芽衣も見たかったんじゃないの?」
『確かに興味はありましたけど、単館上映で渋谷のみだから行けるはず無いし、DVDでも
レンタルされたらって思ってましたけど…… もしかして、私が見たい映画を基準に決め
た訳ではないでしょうね?』
「ま、まさか。芽衣と話をした後で、ネットでその映画の事を調べたんだよ。そしたら俺
も興味出ちゃってさ。その……芽衣も見たそうだったし、それなら二人で一緒に行けばっ
て思って…… そういう事だからさ。別に芽衣の事だけ思って決めた訳じゃないから」
『(嘘ですね。タカシ様は何気に、腹芸が苦手だから困ります……)』
『分かりました。では、何時にお出かけ致しましょうか?』
「一日有意義に過ごしたいから、9時に家を出ようか?」
『……何だか、中途半端な時間ですね。タカシ様がそう仰るのでしたら、別に宜しいです
けど(と、言う事は、8時にタカシ様をお起こしすれば宜しいから、私は6時半に起きて洗
濯をして――)』
「芽衣。明日は、朝食とかは簡単なものでいいから」
『は?』
「洗濯もしなくていい。たまには8時くらいまで、ゆっくりと寝てろ」
『そういう訳には参りません。天気予報では、明日は晴天だそうですから、絶好の洗濯日
和ですし、タカシ様の朝食をおろそかにする訳には参りません』
「明日は一日、人込みの中を歩かないといけないからな。寝不足では困るし」
『わ、私は睡眠はたっぷり取ってますから大丈夫です。タカシ様みたいに2時くらいまで
起きてたりは致しませんから』
「とにかく、一日くらいぐっすり寝ろ。休みの日もきっちりきっちり時間通り過ごさなく
たっていいだろ?」
『タカシ様にとってはお休みでも、私にとってはお休みではありません。ここは私の仕事
場ですし、タカシ様にお仕えするという仕事は年中無休ですから』
「でも、ここはお前の家でもある。そうだろ?」
『そうですが、あくまで住み込みというだけで……』
「主人がそう言っているんだ。たまには目覚まし掛けずにぐっすり寝るのもいいだろ? 
万が一、8時になっても起きなかったら俺が起こしに行ってやるから」

『そ……それだけはお断りします!! 大体、いくら使用人とはいえ、女性の部屋に勝手
に入るのは失礼ですよ』
「分かってるよ。それは冗談だって。でも、まあそういう事で決まりな?」
『ハァ……全く、強引なんですから』

『(明日は……タカシ様と一日お出かけして、好きな映画を観れて…… 夢みたい。そんな
事……何だか、デートに誘われたみたいで…… デッ……デート!!(///////////) い、い
けないいけない。私ったら、メイドの身分でそんな事、考えるだけでもおこがましいのに
…… でもでもでも……楽しみ過ぎて、気持ちが抑えられない……)』


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