・メイドツンデレを映画に誘ってみたら(その6)

「おー、ここだここだ」
『…………』
「おーい。芽衣?」
『…………』
「芽衣ってば」
『はい。何ですかタカシ様』
「いや、その……着いたんだけど」
『え……? え、ええ。どうやら、そのようですね。私の不手際で遠回りさせてしまって
申し訳ありませんでした。で、それがどうかしたのですか?』
「いや、別に。芽衣がボーッとしていて気付いていないみたいだったから声掛けただけだけど」
『私は別にボーッとなんてしていません。さっさと入りましょう』
「そうか。ならいいんだけど。にしても、随分と機械的なしゃべり方だよな。何か感情が
こもってないと言うか」
『失礼な事を仰らないで下さい。私がどのようなしゃべり方をしようが、タカシ様には関
係ありません』
「そっか。まあ、それについてはいいとしてもだ。芽衣」
『何ですか? たかが映画館に入るだけの事で何度も何度も人の名前を呼ばないで下さい』
「いや。その……いつまで、俺の腰を抱いたままなのかなーって」
『は?』
「もう、罰は終了してるんだけど」
『!!!!!!!(////////////) な……ななななな、何で一言、仰ってくれないんですか!!
酷いですよ、タカシ様は!!』
「着いたぞって声掛けた時に、軽く叩いて合図してから手を離しただろ。俺が解放したら、
真っ先に体を離すだろうと思ってたんだが。気付かなかったのか?」
『え……えええええ……そ、それはその……ちょっと、ボーッとしてて……気付いてたら
とっくに離れてますってば!!』
「あれ? 今、ボーッとなんてしていませんって言ったばかりじゃないか?」
『へっ!? えっと、あー、それはその……い、意識がその、タカシ様が正しい道を行っ
ているか、そっちの方に意識が行っていて、だからその、今の自分の状態には注意を払っ
ていなかったというか……』

「またそんな事を言って。映画館に着いたことにも気付かなかったくせに」
『あああああ……ええと、それは……』
「素直に言わないと、またペナルティを課すぞ」
『うっ…… わ、わかりました!! 確かにちょっと、ボーッとしてました。申し訳あり
ません!! こ、これで宜しいですね』
「ま、いいとしよう。ところで、俺が肩から手を離した事にすら気付かないなんて、一体
何を考えてたんだ?」
『そんな質問にお答えする義務は、いくらメイドとはいえありません。ですからお断りします』
『(タカシ様の御身体の感触に夢中になってなんて……そんな事、言える訳ないもの……)』
「何かさ。こういうのって、隠す方が余計怪しく思えるよね」
『そんな事はありません!! タカシ様が変な事をお考えなだけです!! 余計な勘繰り
は止めて下さい』
「そうか。芽衣がそういうならこの件についてはこれ以上詮索しないけどさ。あと、もう
一ついいか?」
『もう…… まだあるのですか?』
「ああ。いつになったら芽衣は俺を解放してくれるのかなーって」
『!!!!!!!(////////////) そ、そんな事、言われなくたってさっさと離れますからい
ちいち仰られなくても結構です!!』
 バッ!!
「そうか。何気に芽衣もこの状態が結構気に入ったのかと思った」
『そっ……そんな事ある訳無いです!! 有り得ません!! 冗談でもそんな馬鹿げた事
は仰らないで下さい!!』
「そか。そりゃあ残念。ま、冗談だったんだけど。でも、そんな風に顔真っ赤にして怒ら
れると、あながち図星だったりとか思ったりして」
『!!!!!(////////) ぜ、絶対にそんな事はありませんから!! 今日のタカシ様は意
地悪過ぎます。もう……知りません!!』
「あ、おい。ちょっと待てよ、芽衣」
『(ダメだ…… 何か今日は私、おかしい。もっとしっかりしないと。いつもの、毅然とし
て冷静なメイドの私でいないと……でないと…………ホントに、おかしくなっちゃうから……
それだけは、避けないと……)』

「うーん。次の上映時間まで一時間か。微妙な待ち時間だな。チケットだけ買ってから、
お茶でも飲みに行くか?」
『そういうお金の無駄遣いはよくありません。別に私は待つこと自体は苦痛でも何でもあ
りませんから』
「そか。まあ、芽衣がそういうならここで待つか」
『とりあえず、窓口で切符を買ってきます』
「ああ、いや。それは俺が行くからさ。芽衣はここで待っててくれ」
『何を仰るのですか。そういった雑務は私の仕事ですから。タカシ様こそここで大人しく
お待ちになっていてください』
「今日は俺が無理に誘ったんだから、芽衣は金のことも雑用も何も気にしなくていいって。
ただ映画を楽しむ事だけを考えてくれればそれでいいから」
『そうは参りません。タカシ様の世話をするのは私の役目ですし、タカシ様にお金を払わ
せるわけにもいきませんから』
「相変わらず固過ぎだぞ。芽衣は。俺が映画に誘ったんだし、生活費から無駄に金を使う
なってのは芽衣自身が口をすっぱくして言ってることじゃん。ましてや俺に付き合っても
らってる芽衣自身の財布からなんて論外だろ? とにかく、家に帰り着くまでは俺に従っ
て貰うからな」
『……それは、ご命令ですか?』
「それで芽衣が言う事を聞くなら、そう取ってもらっていい」
『分かりました。ハァ……』
「どうした? ため息なんてついて。不満か?」
『タカシ様はいつも、こういう時だけ命令権を行使なさるんですね。普段の生活では一切
命令なんてなさらないのに』
「芽衣は自分を犠牲にし過ぎるきらいがあるからな。こっちから命令して休むようにしや
らないと、どこまでも無茶するし」
『メイドですから、主人を……タカシ様を第一に考えるのは当然の事です。むしろタカシ
様が一般の高貴な方々とは感覚がズレている気が致しますが』
「そうか? それはあれだろ。高貴な方々っていうレッテル張りを芽衣が勝手にしてるだ
けじゃないか? そもそもお前だってうちの家族ぐらいしか知らないじゃん」
『そんな事はありません。ご親戚の方々ですとか、旦那様や奥様のご友人ですとか……』

「客として来てる時だけだろ? そんな表面的な物の見方だけで測ろうとするなよな」
『で、でも……使用人を映画に誘ったり、ましてやお金までご自分でお支払いする主人な
んてタカシ様くらいでは……』
「まあそうかも知れないけどな。それはそれでいいだろ。どっちかと言えば健全な10代の
付き合い方って感じで」
『良くありません!! タカシ様は時々、全く主人としての自覚を無くしてしまわれるの
で、私の方が困ります。もう……』
「分かった分かった。ところで、待ち時間の間何か飲むか? それとも映画が始まる直前
の方がいいか?」
『急に話を逸らさないで下さい。何でいきなり飲み物の話になるんですか!!』
「いや。もう今の話は完結したと思ったから。それともまだ続けたかったのか?」
『いえ、もう結構です。タカシ様とお話ししていると、何だか疲れますので』
「何かそれって酷くつれない言葉じゃないか。というか、そういう話題に持って行ったの
は芽衣だろうに」
『それはタカシ様に余りにも主人としての自覚がないものですから――』
「はいストップ。これ以上は無限ループになるからな。今日はこの話題は禁止。いいな」
『む…… 分かりました。タカシ様がそう仰られるなら、そのように致します』
「で、何か飲むか? 熱弁振るったから喉が渇いたんじゃないか?」
『私は別に熱弁を振るった覚えなどありません!! 仮にそう聞こえるとしたらそれはタ
カシ様がいちいち反論なさるからです』
「別に熱弁振るったからそれがどうこうって訳じゃないんだけどな。単に喉が渇いたかど
うか聞いただけなんだけど」
『それなら余計な事を仰らずに、きちんと焦点を絞って会話して頂かないと困ります』
「確かに。芽衣は簡単に違う話題に釣られちゃうからなあ」
『私のせいだと仰るのですか!! それはタカシ様が余計な事ばかり仰るからじゃないですか!!』
「ほら。またそうやって顔真っ赤にしてムキになってるし」
『真っ赤になんてなってませんしムキにもなってません!! 勝手な事ばかり仰らないで
下さい!!』
「分かった。悪かったよ。勝手な事言ってさ。で、何を飲むの?」
『……タカシ様。ご自分が悪いなんてこれっぽっちも思われて無いでしょう?』

「いやいや。ちゃんと心の底から反省してるって」
『そうは見えません。どう見ても話を終わらせる為に取り繕っているとしか見えませんが』
「そんな事無いって。それより、芽衣が飲み物を何にするか答えてくれないと、俺も買い
に行けないんだけど」
『私は飲み物は今は特にいりません。別に熱くもないし喉も渇いておりませんから。お買
いになりたければタカシ様がご自由にどうぞ』
「そうか。じゃあちょっと買いに行って来るから、ここで待っててくれ」
『かしこまりました』
『(……はぁ……どうして私って、ああも意固地になってしまうんだろう。タカシ様が、私
なんかの為に一生懸命気配りをしてくださると言うのに…… ううん。分かってる。タカ
シ様が優しすぎるから、ついつい甘えて、ああやって反発してしまうって。いっそ、タカ
シ様があのように気を使われず、ただ命令するだけのご主人様だったら……そうしたら、
多分……こんな風に、思い悩む事も無かったのに……)』
 ピトッ。
『っっっっっひゃあああぁぁぁぁあああああっっっっっっ!!!!!』
「お待たせ、芽衣」
『なっ………… いきなり何をなさるんですかタカシ様!! 驚かさないで下さいもうっ!!
悪ふざけにも程があります』
「ゴメンゴメン。はい、これ」
『は? 何ですか、これ』
「何って、芽衣の分のジュース」
『私はいらないと言ったはずですが? タカシ様、私の言葉を聞いてなかったのですか?』
「聞いてたけど、俺からのオゴリ。もしいらなかったら捨ててもいいけど」
『簡単に捨てるとか仰らないで下さい。どうしてそうやって物を粗末にするような言い方
をされるんですか?』
「いや。もし本当に飲みたくないんだったら、無理して飲む必要はないかなって」
『だったら初めからご自分の分だけ買ってくれば宜しいじゃありませんか。どうしてそう
やって自分勝手な事をされるのか分かりません』

「あれだけ興奮してしゃべってれば、喉が渇かないはずないかなって思ってさ。無駄遣い
しないように我慢して芽衣は断ったんだろうけど、喉が渇いてる人を目の前にして自分だ
けがジュースを飲む訳に行かないしな」
『……………………(全部……見抜かれてるなんて…… タカシ様……私の事を、こんな
にも、しっかりと見ていて下さっているんだ……)』
「どうした? 芽衣。ポーッとした顔して」
『なっ……何でもありません。頂きます』
「飲んでくれるんだ。よかった」
『別に飲みたいから飲むんじゃありません。買って来てしまわれた以上、捨てるのももっ
たいないですから、仕方なくです』
「芽衣らしい言い方だな。まあ、本当は芽衣の喜ぶ顔が見たかったけど、飲んでくれただ
けでもいいや」
『なっ…… う、嬉しくも無いのに喜ぶ顔なんて出来る訳ありません!! そ、そんな無
理を仰らないで下さい……』
「あ。今、ちょっと顔が綻んだね」
『そんな事ありません!! 何でその……ふ、不機嫌なのに顔を綻ばせなきゃならないん
ですか!! 訳が分かりません』
「そんな事言って。ほら、またちょっと綻んだ」
『も、もう!! そんな事ばかり言って、私をからかわないで下さい!!』
「アハハ。ゴメンゴメン。怒るなって」
『フン。知りません!!』
 ジュー……
『む……このジュース……』
「何だ? 何か問題でもあったか?」
『味が薄いです。はっきり言って果汁の味がまるでしません。ただの色水ですか?』
「厳しい評価下すなあ。俺よか芽衣の方が味にうるさくないか?」
『タカシ様が無理矢理食事の席に同伴を希望されるので、舌が肥えてしまった事は否定し
ません。だけどこれは、仮に本家で働いていたとしても、もう少しマシな物が飲めると思
います』
「まあ映画館で売ってるドリンクなんてこんなもんだろ。俺は結構好きだけどな」

『いけません。このような物、たまに飲むくらいならともかく、愛飲するようになっては
お体を壊されます。タカシ様の食生活を管理する身として、それは許す事は出来ません』
「またそうやって固い事を言って。芽衣の友達だってマックやミスドくらい行ってるはず
だし。お前も時間のある時は付き合ったりしないのか?」
『そういうのは時間の無駄ですから。第一、タカシ様の近くにいて、何かあった時にすぐ
に対処できる為という目的で一緒の学校に通わせて貰っているのですから、そのような行
為は勤務中に不謹慎だと思いますし』
「固い。固過ぎるぞ、芽衣。もっとこう、青春を謳歌しようとか思わないかなあ。学校行
くにもそれじゃあ楽しくないだろ?」
『楽しさを求めて学校に行っている訳ではありません。一つは先程申し上げたとおり、タ
カシ様を影でサポートする為。もう一つは自分の勉学の為です。一般の高校生はともかく、
私にはそれ以上は有り得ません』
「うーん。もう少し、年相応の行動や言葉遣いでもいいと思うぞ。うちにいる時はともか
く、外ではさ」
『余計なお世話です。そのような振る舞いは、私にとって何の益にもなりません』
「そうかな。素の自分を曝け出すのはなかなか良い事だと思うぞ。さっきもなかなかに可
愛らしかったし」
『は!? かかかかか、可愛いとか、何の事を仰っておられるのですか!! へ、変な事
を言ってからかうのは止めてください!!』
「いや。別にからかってる訳じゃないんだけど。さっきさ。いたずらして、芽衣のほっぺ
にジュース当てたろ? あの時の仕草が何か普通の女の子っぽくてすごく可愛かったなっ
て素直にそう思ったから」
『う…………(//////////) へ、変な事言わないで下さい!! それに普通の女の子っぽいっ
てどういう意味ですか!! まるで普段の私が普通っぽくないと言わんばかりではありま
せんか!!』
「あー、いや。その……普通っぽくないって言うより、何て言うかさ。年齢より背伸びし
てるイメージがあって。別にそれが良くないって言ってる訳じゃないんだけど」
『メイドとしてお仕えしている以上は仕方がないではありませんか。別に私の好みで大人
びた対応をしている訳ではありません』

「それは分かってるよ。ただ、何て言うのかな。芽衣はオフの時がないからさ。いつもメ
イドモード全開で、気を緩めないって言うか。だから、ああいう振る舞いも時には良い事
なんじゃないかっていうか……」
『何を仰りたいのか、話が良く見えません。もう少し簡潔に要点をまとめてお話し頂けないかと』
「うん。まあ、少なくとも俺にとってはいいもの見れた、って感じ?」
『全っ然反省してないじゃありませんか!! 本当にどうしようもない人ですね。タカシ様は!!』
「あー、いや。反省はしてるよ。後悔はしてないけど。芽衣のあんなにも可愛らしい姿が
見れたんだし、満足だ」
『!!!!!(/////////) し、知りません、もうっ!! 本っ当にバカですね。タカシ様は!!』
 ガタッ。
「あれ、どうしたんだ芽衣。急に立ち上がったりして」
『ちょっと用事がありますので。すぐに戻りますから大人しくここで待っていて下さい。
宜しいですね』
「ああ。トイレか」
『どっ……どうしてそう、はっきりと仰るのですかタカシ様は!! 人がわざわざぼかし
て言っているのですから、そこは空気ぐらい読んでください!!』
「別にいいじゃん。トイレくらい気にしなくたって」
『男性は気になさらなくとも、女性は気になるんです!! 本っ当にタカシ様はそういう
所が鈍感なんですから。将来、おく……(ズキッ)』
「ん? どうかした?」
『っと……何でもありません。(……何だろう? タカシ様に、将来奥様が出来る事を考え
たら、急に胸がズキッとして……) とにかくタカシ様は、今後いろんな女性と接しなけ
ればならないのですから、そういったデリカシーをもう少しきちんと学んでください』
「分かったよ。で、早く行かないと漏らすんじゃないか?」
『ばっ……バカな事を仰らないで下さい!! ち、ちっとも分かっておられないではない
ですか!! そういう発言がダメだと言っているんです!! それに私はそんなに切羽詰っ
ていません。水分を取ったので、映画の前に一応と思っただけです!!』
「わ、分かった分かった。俺が悪かったから、とにかくさっさと行って来い。な? 大人
しく待ってるから」

『言われなくても行って参ります。タカシ様が余分な事を仰るからいちいち返事しなくちゃ
ならないんじゃないですか』
「もう分かったから、そう絡むなって。な?」
『いまいち信頼がおけませんが、分かりました。くれぐれも隠れて驚かそうとか、変な事
をお考えにならないよう、宜しくお願いします』
「一日に二度も同じ仕掛けはしないから。俺もつまらないし。それだけは信頼していいぞ」
『それは何ですか? 何か別のイタズラならすると、そういう事ですか?』
「違う違う違う。怖い目で見るなって」
『いまいち信頼がおけませんが、分かりました。それでは行って参ります』
「ああ。そう急がなくていいからな」


『ハァ……また言い過ぎちゃったな。どうしてこう、私ってば、ダメなんだろう。せっか
く、タカシ様が可愛いって言って下さったのに…………』
(「芽衣のあんなにも可愛らしい姿が見れたんだし――」)
『(可愛い姿……可愛い…………かわいい………………………(//////////))』


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