・メイドツンデレを映画に誘ってみたら(その9)

「おーい。芽衣!! 待てよ。待てったら」
『何ですかもうっ!! さっきから騒々しい。大人しく付いて来てください』
「いや、そうじゃなくてさ……もちろん用があるから呼んでるんだけど。とにかくちょっ
と止まれよ」
『(う…… 今、タカシ様の前で、どんな顔したらいいか分かんないのに……)』
『はい。止まりました。これで宜しいですかっ!!』
「……何でこっち向かないわけ?」
『何で私が、タカシ様の方を向かないといけないんですか?』
「むぅ…… 何か俺、悪い事したか?」
『別に何も。単にタカシ様の方を向きたくないだけですから、気になさらないで結構です』
「むしろ、超気になる言い方なんだが……」
『とっ……とにかく、用があるなら早く言ってください。こんな往来の中で立ち止まって
るなんて迷惑じゃないですか?』
「そう思うなら、隅の方とか移動しない?」
『さっさと言って下さいってば!! 一言二言では済まない用なら、後でお聞きしますか
らそう言って下さい』
「わ、分かった。あの……さ。腹減ったし、飯でも食いに行かないかって…… ほら。昼
時ももう過ぎた事だし、さ」
『またそうやって無駄遣いなさるようなことを仰って。家に帰ったら何か軽い物を作って
差し上げますから、それまで我慢なさってください』
「芽衣はお腹空いてないのか?」
『私は……別に平気です』
「どれどれ」
 ピタッ。
『なっ……!? 何をなされるのですかっ!! い、いきなり人のお腹に耳をくっ付けて!!』
「いや。芽衣の事だから、我慢してるだけで、本当はお腹が鳴ってるんじゃないかなぁって」
『何てことをなさるんですかっ!! お止め下さい、もうっ!! 失礼な事をしないで下さい!!』

「あ。今、お腹が少し鳴ったろ?」
『鳴ってません!! 勝手な事を仰らないで下さい。あと、早く耳をお腹から離して下さい!!』
「分かったよ。まあ、芽衣のお腹の音も聞けたし」
『鳴ってませんてば!! もうっ!! しつこいです。大体、こんな街中で変な事をしな
いで下さい。通り過ぎる人が皆見ているじゃないですか。恥ずかしい……』
「それは芽衣が大声で騒ぎすぎなせいだと思うんだ。うん」
『それもタカシ様が変な事をなさるからです!!』
「つまり、全部俺が悪い……と?」
『当然です!! まさか今までご自覚なさってなかったと言うんじゃないでしょうね? 
もしそうだとしたら、タカシ様の脳を疑ってしまいます』
「やっと、こっちを向いてくれたね」
『は?』
「いや。映画館を出てからさ。一度も俺の方を向いてくれなかったから、気になってたん
だ。もしかして何かマズイ事でも言ったかなって」
『そっ……それはその……えっと……(/////////)』
 クルッ
「ありゃ。また向こうを向かれちまった。どうしたんだよ、さっきから…… 何か俺の顔
を見たくない理由があるなら教えてくれないか?」
『タッ……タカシ様が、その……マズイ事を仰るのなんて、いつもの事ですから……その
……そんな事くらいで顔を背けたりはしません……』
「違うのか? でも、それじゃあ何でだ? 思い当たる事がないんだけど」
『べっ……別にその……気になさらないで下さい。わ、私の、その……気分の問題ですか
ら、ですからその……タカシ様のせいとかではないので、むしろ気にして欲しくないです』
『(まさかそんな……タカシ様に、“かけがえのない女性《ひと》”だなんて言われて……恥
ずかしくて、どんな顔していいか分からなくて、それでタカシ様から顔を背けてたなんて
……言えないもの……(//////////))』
「そう言われると、ますます知りたくなるのが人情ってもんだよな」
『ダメです!! そんな……その……絶対、気にしちゃダメです!! わ、私もその……
失礼な事をタカシ様にしてしまって申し訳なかったと思いますから、も、もうこの話は終
わりにしましょう。それよりほら。お食事に行かれるのではなかったのですか?』

「今は食欲より好奇心の方が……ていうか、芽衣は飯食いに行くの反対じゃなかったっけ?」
『わ、私は反対ですが、タカシ様がどうしてもと仰るのですから致し方ありません』
「確かに飯は食いに行きたいけど、その前に芽衣の答えが聞きたい訳だが」
『そんな事を仰っていると、お店が閉まってしまいますよ。もうお昼時は過ぎているんで
すし、早くしないと』
「うーん……確かにな。店が閉まるからって言うより、予約してあるからあまり遅くなる
のも迷惑だしなー」
『予約って……それじゃあ最初っから予定に入っているんじゃありませんか!! どうし
て早く言わないんですか!!』
「映画館を出てすぐに行くつもりだったのに、芽衣がさっさと行っちまうし、それに食事
には行きたくないって言うからさー。嫌なのを無理に連れて行くのもどうかと思って。予
約なんてキャンセルすれば済む事だし」
『べ、別に私が食事に行きたくないというのではありませんが、タカシ様の、その、ほい
ほい無駄遣いをする癖を何とかしようと思っただけで……そ、そこまで準備万端なのでし
たら、まあ仕方が無いかと…… と、とにかく早く行きましょう。予約してあるのに時間
に遅れたりしたらお店に迷惑じゃないですか。ほら』
「分かったよ。ま、さっきの答えは食事中にゆっくりと聞くとすればいいしな」
『それはお答えできません。あまりしつこく問い詰めなさいますと、プライバシーの侵害
及びセクハラに当たりますよ』
「やれやれ。まあ、俺も無理強いして聞くつもりはないけどね。会話の中からゆっくりと
引き出していこうかと。芽衣はガードが固いように見えて意外と隙だらけだし」
『止めて下さいっ!! そういう事を仰るようでしたら、食事中は一切タカシ様とは口を
利きませんからねっ!!』
「さて、どうだかな。とにかく行こうぜ。飯が待ってる」
『わ、分かりました……お供致します……』
「よし。それじゃあ、タクシーを捕まえないとな」
『わざわざタクシーなど使われるのですか? もったいない』
「店が恵比寿にあるんだよ。電車で行くと無駄に時間使っちまうからな。それとも、これ
も贅沢だって言うのかい?」

『無論です。けど……どのみち、タカシ様は言う事など聞いては下されないでしょうし、
お好きになさって下さい』
「あれ? もしかして、芽衣、拗ねてるのか?」
『そんな訳ありません。いい加減、タカシ様の行動を指摘するのに疲れただけです』
「ふうん……まあ、怒ってないならいいや。じゃあ、ちょっと待っててくれ」
『(タカシ様……何だか、楽しそう。私なんて、文句ばかりなのに……どうしてだろう? そ
れにしても……映画見て、お食事して、って……何だか、デートみたいだな。わ、私って
ば、何考えてるんだろう。メイドの分際で、そんな事、考えることすらおこがましいのに
…… でも、う……嬉しい……かも……(////////))』


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