・ お嬢様な妹がメイドに挑戦してみたら その11
・ ツンデレ妹メイドが男の部屋を掃除したら その4

『ズバリ、理奈ちゃん!! 今、エッチな事考えてたでしょ〜?』
『お、おおおおお、お黙りなさいっ!! ま、全く何を馬鹿な事を…… 何を考えてます の? お兄様とエッ、エッ……エッチな事など…… そんな事、考える訳ありません!! 貴女のような頭の軽い女と一緒にされては困りますわっ!!』
 ストレートに言い当てられて、私は激昂した。
『私、別に軽くありませんよぉ〜 こう見えても、純情なんですからぁ』
『嘘おっしゃい!!』
「嘘付け!!」
 瑛子のあまりにも間抜けな言葉に、私と兄は思わずハモッてツッコミを入れてしまった。 一瞬とはいえ、兄と思考がシンクロしたことに、私は嬉しさと気恥ずかしさを同時に覚えた。
『ヒドイですよぉ。二人して同時に否定するなんて。でも、やっぱりご兄妹なんですね。 こういう所でピタッと息が合う所は。羨ましいですよぉ〜』
 心底から羨ましそうに見つめられて、私は思わずプイッと顔を横に背けた。
『冗談じゃありませんわ!! ご……ご主人様と同じ事を言ってしまうなんて、その…… 最悪なことですもの……』
「別にいいじゃねーか。同じ事を同時に言う事くらい普通にあんだろ?」
 兄の言葉に、私は兄をキッと睨みつけると口を尖らせて文句を言い返した。
『良くありませんわ。ご主人様と同じ事を言うという事はすなわち、同レベルと見なされ てしまいますもの。そのような事、わたくしの誇りにかけて許されませんわ』
「そんな大げさなもんでもねーだろ? たまたま言葉が被るくらい、普通にあることだろ?」
『いいえ。余の人ならいざ知らず、ご主人様と被るということは、思考の回路が似通って いると見なされてしまいますもの。そのような事はわたくしにとって恥以外の何物でもあ りません』
「……………………」
 私から視線をそらし、兄は無言で眉間を指で押さえつつ、ため息をついた。
「まあいいか…… 理奈にどう思われようが、俺には関係ないしな」
『良くありませんわっ!!』

 兄の言葉に、思わず私は叫んでしまった。不安がサーッと全身に広がる。自分の罪を隠 そうとするあまり、つい厳しい事を言い過ぎてしまったのだろうか? 兄にどうでもいい 存在だと思われてしまったとしたら…… 自分の存在価値全てがこの世から消え失せてし まうような恐怖感に私は襲われた。
『駄目ですわ、そんなの…… 関係ないとか……そんなこと、仰らないで!!』
 そこまで言って私は、兄が思わずポカンとした表情で私を見つめているのに気付いた。
「どうしたの? お前……そんな、急に必死になって。訳が分からんのだが」
『あああ……うう……えっと、その…… ちちち、違います!! ご主人様にわたくしの 事を思って欲しいとかそういう事ではなくて……い、一応、わたくしがご主人様の傍にい る一番近い女性なのですから、その女性から不快に思われているという事実をもっと気に して欲しいと言う事であって、だから、その……そのようなことでは、いつまで経っても 結婚相手など見つかりませんし、それは、別府家の為にもならないからですわ!!』
「そうは言っても、お前じゃ世の中の女性の基準には当てはまらないし」
 その発言はさすがにザクッと胸に突き刺さった。私は兄からまともな女性とは見られて はいないのだろうか? 気絶したいほどの絶望とショックを何とか堪えつつ、私は鋭く兄 に噛み付いた。
『ど……どどどどど、わたくしのどこが世の中の基準に当てはまらないと申しますの っ!!』
「そもそも、たかが青年誌のちょっとしたエッチシーンを見ただけでエロ雑誌などと言い 出す辺りが普通じゃねえだろ。ウブだとか純情ってレベルじゃねーぞ」
『そ、そんなの仕方ないじゃありませんの!! ご主人様と違って、わたくしはその…… そんな低俗な雑誌に興味など……ありませんもの……』
 最後の方は、言葉が若干弱々しくなってしまったことは認めざるを得なかった。よくよ く考えてみれば、確かに性行為のシーンであったといえど、そこを際立てていた漫画でも なかったように思える。兄を追及するはずが結果的に自分の無知を露呈してしまった事に なってしまい、内心では恥ずかしくてたまらなかった。
「別に低俗って程でもないと思うが? つーか、興味なくても普通はそれくらいの区別付くって」
『そうですよぉ。理奈ちゃん、それはちょっと……世間を知らなさすぎなのでは……』
「お黙りなさいっ!! 脳みそピンク色の劣情丸出し女に言われたくありませんわっ!!」

『そ……そこまで言わなくてもいいじゃありませんかぁ…… ていうか、何で私だけ……』
 不満気な瑛子をさらにキッと睨み付けると、彼女はキャッと身を竦ませて兄の傍に近寄 りその背後に隠れた。
『な……何をメイドの分際でお兄様に庇って貰おうとしているのっ!!』
『い……今は理奈ちゃんだってメイドじゃありませんか〜 立場は同じですよぉ』
『お黙りなさい!! 貴女とわたくしとではメイドはメイドでも格というものが違いますわ』
 そう。私がメイドになったのはあくまで兄に献身的に奉公する為である。何も瑛子の同 僚になった覚えなど微塵もない。だというのに、ちょっと人気があるからと言って調子に 乗っている彼女を私は苛立たしげに見据えた。
『貴志様ぁ。さっきから、酷過ぎると思いませんか。これでも私だって女の子なのに……』
 その言葉に私はカッと頭に血が上ったが、私が何か言うよりも早く、兄が肩越しに瑛子 を見て言った。
「分かった。分かったから離れろ、鬱陶しい」
『ええ〜……そんなぁ。庇っては下さらないんですかぁ?』
 哀願する瑛子に兄は冷静に言い返す。
「理奈のいう事もそう間違ってる訳じゃないしな。つーか、四捨五入すれば30って年で女 の子って言われてもなあ」
 その言葉にはさすがの瑛子も堪えた様で、フラッと体をふらつかせて兄から離れた。
『貴志様までそんな事を……ヒドイですよぉ……あううううう……』
 兄はそんな瑛子を見てため息をついた。
「ったく……どうしてこうも、俺の周りにはロクな女がいないんだか……」
 その言葉に、私は即座に反応した。
『聞き捨てなりませんわ、今のお言葉。瑛子はともかく、わたくしを捕まえてそのような 事をおっしゃるなんて、お兄様の分際で許せませんわ』
「じゃあ聞くがな? メイド志願をしたはいいが、朝は暴力を振るい、メシはまともに作 れず、掃除をするどころか部屋中を荒らすような妹のどこがまともな女なんだ?」
 立て続けに並べられて、思わず私は言葉を無くした。確かに兄の言うとおり、私のした ことといえば、ブランドに特注したメイド服を着たことだけである。
『……りょ、料理の件はその……少なくともちゃんとやろうとはしましたわ。他のはその ……おに、いえ、ご主人様がスケベだから悪いんです』

「朝立ちは生理現象だし、青年誌にそれをスケベだの品性下劣だの変態だのというお前の 精神構造の方がどうかしてるって。全く……こうも知らなさ過ぎだと、逆にお前の方が心 配になってくるぞ」
『別にご主人様に心配していただく事はありません。正直いって大きなお世話ですわ』
 強気に答えたつもりだが、気落ちした気分を隠す事は出来なかった。呆れられてしまっ たのだろうか? その不安が私の胸の中で大きくなっていく。
 と、その時兄が意外な事を口にした。
「そうは言っても兄妹だしな。妹がこうも世間知らずだとさすがに問題だし…… いっそ、 俺が教えてやろうか?」
 一瞬、私は兄が何を言っているのか理解出来ず、絶句した。
――お兄様が……教える……何を……? 何をって……この場合は……性的な事……です わよね……?
『お兄様が……わたくしに!?』
 ようやく私が言われた事を理解した。その瞬間、心臓が早鐘のように鼓動を打ち始める。 ――お兄様に……性教育の手ほどきを……
 即座に私の中で妄想が加速する。
――あの本より……さらにエッチな本を見せられるのですわ……そして……本だけではな く……実践的な手ほどきまで……どうしましょう……兄妹なのに……そんな事になったら わたくし……
 全身が痺れるような感覚に襲われ、頭がボウッとなる。もう少しで兄に倒れ掛かりそう になったその時、別の叫び声が私を現実に引き戻した。
『ダメーッ!!』
 兄に冷たくあしらわれて舞台から退場したはずの瑛子が、大声を上げて兄に縋り付いて 来た。
『たたたっ、貴志様っ!! い、いけませんそんなの……ご兄妹でなんて……幾らなんで もそれは人の道に反してますっ!!』
「ちょ、ちょっと待て瑛子!! お前……何か勘違いして無いか?」
 さすがの兄もたじたじとなって瑛子を抑えようとするが彼女の勢いは止まらなかった。

『勘違いなんてしてませんよぉっ!! だだだ……だって、その……理奈ちゃんに教えるって 言うのは性的なことでしょう? わ、私もこれでも別府家のメイドです。ご主人様が 冥府魔道の道に進まれるのを黙って見ている訳にはいきません!!』
 私の心の内を見透かされたような彼女の言葉に、私は動揺して食って掛かった。
『ばっ……ばばばばば……馬鹿を言うのはお止めなさい!! どど、どうして私がご主人 様なんかとそのような……かかか、神に誓って有り得ませんわっ!!』
 ほぼ同時に、兄も声を荒げてツッコミを入れた。
「アホかーっ!! 何考えてんだお前。いくら俺でも、妹なんかに手を出すかっ!! そ のくらいの常識は弁えてるし、大体何ですぐに肉体関係になるんだよ。ただ、俺は世間で 18禁と呼ばれてるのがどういうのか教えようと思っただけだ」
『うぅ〜……また二人してそんな、同時に責めないでくださいよぉ』
 しかし私はここでふと、兄の態度を疑問に思った。タイミング的に、今の兄のツッコミ は瑛子が言ったほぼ直後である。私が先に言わなかったら、もっと早かったかもしれない。 と言う事はつまり……
――お兄様には、私を抱こうという気が毛頭ない?
 いやいやいや、と私は軽く頭を振って考え直す。兄妹なんだからそれは当たり前の事だ。 そんな事を妄想する自分の方がおかしいのは分かっている。
 けれど、こうも思う。普通は兄とは言え、妹が女らしくなってきたのならそれなりに意 識くらいはするのではないか? さっきといえ、今の発言といえ、兄はまるで私を一人の 女性としては見てくれていないような事を言う。
――お兄様……理奈だって、もう十分成熟した女性なんですのよ……
 自分で言うのも何だが、胸だって大きい方ではないとはいえ、男性から意識して見ても らえるくらいには膨らんでいると思う。プロポーションだって細く、しかも痩せすぎに見 られないようギリギリのバランスを保っている。それが常に、兄の目線を意識してのこと だと言うのに…… 肝心の兄が全然意識してくれていなかったのかと思うと、失望感で胸 が一杯になる。
『そんなことありませんよぉ』
『きゃあっ!!』
 突然、ニュッと瑛子が私の前に顔を出してきて、驚いた私は悲鳴を上げた。
『貴志様が理奈ちゃんに女性を意識しないなど有り得ません。安心なさってください』

 自信満々に瑛子は私を見つめて言った。
『だっ……誰が心配など…… 安心も何も、そんなこと気にもしてませんわ』
 強気に私は答えたが、内心ではまだちょっと胸がドキドキする。全く、どうして瑛子は 私の心の内を言い当てることが出来るのだろう? この妙な鋭さはある種の恐怖すら覚える。
「ちょっと待て、瑛子。理奈は妹だぞ? 普通、妹に対して変な感情など抱くと思うか?」
 不満そうに兄が聞き返す。と、瑛子はクルリと兄に向き直ると、兄の真ん前に立って顔 を寄せ、逆に質問した。
『じゃあ貴志様。理奈ちゃんとご一緒にお風呂に入れますか?』
 その問いに、さすがの兄もグッと一瞬言葉に詰まった。しかし、少しの間考えてから、 顔を逸らして兄は答えた。
「そ……そんなの、この年になって兄妹で入るわけねーだろ? それは弟だったとしても 同じ事だ」
『温泉とかに行かれたら一緒に入りますよね? それに一般の人ならともかく、我が家の お風呂はちょっとした健康ランドくらいの広さはあるじゃありませんか。それならご兄弟 で入られたとしても何の不思議もないはずです』
 珍しく理論的に責められて兄は返答に困った。またしばらく無言で考えた後で、兄はた どたどしく答える。
「お、俺自身は理奈に対して何とも思ってなくてもよ。理奈にしてみりゃイヤだろ。一応 その……年頃の娘なんだし。それとこれとは別だろう? それにお前だって女なんだから、 男性と風呂になんか入りたくないだろ?」
『あ、ほらほら、その発言。やっぱり貴志様は理奈ちゃんの事を意識してらっしゃるじゃ ないですか〜 良かったですね、理奈ちゃん♪』
 瑛子は私に向けて満面の笑みを浮かべながら言った。
『べ……別に、ご主人様にどう思われようが、その……わたくしの知ったことではありませんわ』
 そうは言ったが、少しでも兄に女性として見てもらえるのならば、それは嬉しくてしょ うがない。気恥ずかしさで私は堪えきれずに下を向いた。
『そんなに照れなくてもいいじゃありませんか。御無理をなさらず、嬉しいなら嬉しいと はっきり申し上げた方が貴志様も喜びますよ。ねえ?』
「俺に同意を求めるなっ!!」

 抗議の声を上げる前に、兄が瑛子に突っ掛かった。
「大体、俺が言ってるのは単に女性全般に対する気遣いって奴だ。下心とは訳が違うぞ」
『じゃあ、水着を着けていれば大丈夫なんですね?』
「あー、まあそうだな。風呂に水着ってのがそもそも俺的には許せないからすることは ねーと思うけど、別に水着姿なら――」
『わたくしは反対ですわっ!!』
 咄嗟に私は兄の言葉を遮って叫んだ。兄と一緒に風呂などと……例え、水着を着けてい たとしても、恥ずかしさに耐えられそうもない。いや。私の水着姿を見られるのも恥ずか しいが、それ以上に兄の水着姿を見るなど、想像しただけで頭がのぼせそうである。そも そも、男性の水着など、ほぼ裸に等しい訳で、兄のそのような姿、まともに見ることなど 出来ないだろう。
「だ、そうだ。といっても今のは例え話だから本気にされても困るけどな。しかし、そこ まで即答されると、さすがに兄としてもちょっとなあ……」
『たっ……例え話だとしてもそんな……ご主人様の前に素肌を晒すなど……そんな事で来 ませんもの……』
 嫌だと叫んでしまった以上仕方がないが、兄を傷つけてしまった事を自覚して私の言葉 はすぼんだ。どうして、ここ一番、ポイントを稼がなければならない時に私の心はいつも マイナス方向へと動いてしまうのだろう。兄に聞かれないよう、私は小さくため息をつく。
『大丈夫ですよぉ。貴志様。理奈ちゃんの場合、嫌なのではなくて、単に恥ずかしがって おられるだけですから♪』
 にこやかに瑛子がフォローを入れる。
「そうか? 俺には正直に嫌がっているだけのように見えるぞ?」
 瑛子の言葉を否定しようとする言葉を、グッと飲み込み、私は黙っていた。ただでさえ 兄に不快な思いをさせてしまったというのに、ここで追い打ちを掛けてしまっては関係修 復は難しくなる。
『そんな事ないです。さっきの否定っぷりからみても、理奈ちゃんは絶対に貴志様を男性 として意識しておられるに決まっています。これは女の勘です』
 ストレートに瑛子に指摘され、私は顔に火照りを感じつつ俯いた。
『ほら。この態度、間違いありません』

『ちちちっ……違いますわよっ!! ご主人様とはいえ、わたくしのお兄様ですのよ。ど うして、お兄様にそのような気持ちを抱いているなどと言うの? むしろ瑛子がそれを望 んでいるとしか思えませんわ』
 少しの間無言でいた事がどうやら効果があったようで、私は自分としては比較的冷静に、 兄への想いを否定する事が出来た。自分に嘘を付いているのは良く分かるが、ここで瑛子 に言い負かされれば、下手をすると兄との距離が遠のきかねない。
「まあ、俺も理奈の意見と同じだ。それはお前の思い込み……っつーか、趣味の問題なん じゃないか?」
 私と兄、二人にきっぱりと否定されてなお、瑛子は不満そうに口を尖らせた。
『違います!! 私の好みの問題じゃありませんってば。私の勘は当たるんですから。お 二人とも、逆に兄妹だからと、お互いに意識なさらないよう努力してるだけのようにしか 見えません』
 その言葉は私には図星だったが、さっきから散々指摘されているので今更動揺したりは しない。それより兄の態度が気になる私は、チラリと横目で兄を盗み見た。が、兄は諦め たようにため息をついただけだった。
「つまりあれか? 瑛子は俺の言う事が信用出来ないと、こういう訳か?」
 そう言われて、さすがの瑛子も申し訳無さそうに体を縮めた。
『いえ。そういう訳ではないんです…… 貴志様は紳士でいらっしゃいますから、余程の ことでもなければ、妹君を意識される事はないと思います。けど、お二人で性のお勉強な どなされば……男女の事ですもの。何が起こるか分かりません』
「何が起こるって言うんだよ?」
『もちろん、その……過ちですよ』
 キュッ、と拳を握り締め、瑛子は兄から顔を逸らして言った。


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