・ お嬢様な妹がメイドに挑戦してみたら その12
・ ツンデレ妹メイドが男の部屋を掃除したら その5

『最初は、単純に教えるだけのつもりが……特に、理奈ちゃんの事ですもの。貴志様に本
当に興味が無いのかどうか問い詰めるはずです。そして、証拠を見せろって話になって、
どうやってだよ、っていう貴志様の問いに、お兄様のその……下半身を見れば分かります
わ、って。当然貴志様のモノは大きくなってらっしゃるはずです。で、理奈ちゃんに詰ら
れるんですけど、そうしたら貴志様も、じゃあお前はどうなんだよ?って聞くんです。俺
のを確かめたんだから、お前のもチェックする権利あるよなって。仕方無しに股間を曝け
出す理奈ちゃんに、お前だって濡れてるじゃねーかと、突っ込む貴志様。その指がショー
ツの中に忍び込み、そしてお二人はどんどんエスカレートして行って、最後まで……』
 そこまで妄想トークを披露してから、瑛子は兄に詰め寄った。
『ダメですそんなの、ご兄妹でなんてっ!! 不埒です異常です背徳行為ですよっ!!!!』
「ドアホッ!!」
 ペシッと頭を叩かれ、瑛子は身を竦ませる。
「そんなことするかっ!! 全く……人を勝手に妄想の世界で変質者に仕立て上げやがって」
『でもでも、理奈ちゃんはそうじゃありませんもの』
 瑛子の言葉に、私はハッと顔を上げた。
『バッ……何をそんな…… わたくしが、おおお、お兄様にその……そんなふしだらな事
をするはず、あ、有り得ませんわ……』
 必死で拒否をするが、言葉に力は無い。そう言っている今でも、私の頭の中は瑛子の妄
想の先――私が兄に苛まれている妄想で満たされていた。
『お顔、真っ赤ですよねえ?』
 その言葉でパッと恥じらいが全身に広がり、ようやく妄想から現実に立ち返って私は瑛
子を怒鳴りつけた。
『貴女が臆面も無く変な事を口走るからですわっ!!』
 私の言葉に、うんうんと兄も頷く。
「まあ、生粋のお嬢様なら、顔を赤らめて当然だよな。むしろ平然と口走る瑛子の方が余
程恥じらいが無いとしか言い様がねえな」

『えええええっ!! そんなぁ……わ、私だって恥じらいは持ってますよぉ…… 酷い事
言わないで下さい。これでも、お二人の為を思って、その……恥ずかしいのを我慢して、
懸命に言ったんですから……』
「嘘付け。脳みそがエロに直結してるクセによく言うわ」
 兄の冷たい言葉に、瑛子はむくれて口を尖らせる。
『それは、理奈ちゃんだって同じですよ。ねぇ?』
 にこやかに同意なんか求めてきたので、私は激しくそれを突っ撥ねた。
『そんな事ありませんわっ!! あ、貴女と同列にしないでいただけます? わたくしが
お兄様とだなんてそんな……想像するにおぞましいことですわ……』
「だ、そうだぞ?」
 私と、兄の言葉に瑛子はさらに不満の色を露にした。
『そんなことないですよぉ〜。ううう……』
「大体だな。俺が理奈にちょっと18禁の物について教えてやるって言っただけで、どうし
てそこでエロ直結になるのか、お前の思考が分からん。別に二人きりで個人授業を行うと
言った覚えもないのに、最初っからそうと決めて掛かってるしな」
『でもでもでも…… それじゃあどこでそんな事教えるつもりなんですかぁ? そんな事、
人目に付くところで出来る訳ないと思いますけどぉ……』
「十分出来るだろ。本屋のエロ本コーナーにでも連れて行けば、ヤングVIPとの違いくらい一発だ」
『そんな酷い事をなさるおつもりでしたのっ!! お兄様は。鬼ですわ、悪魔ですわ』
 兄の言葉に、たまらず私は横から口を出した。そんな人目のある所でエッチな物を見せ
付けられるなど、恥の極みである。しかし兄だってそんなところで私に説明するなど恥ず
かしいとは思わないのだろうか? それとも、私一人で勝手に見ろという事だろうか?
――衆目の視線に晒されつつ、羞恥心を耐え忍んでエッチな本を見るなんて…… も、も
しかして、これが放置プレイとかいうやつなのでは……
 その光景を思い浮かべると、それだけで死にそうな思いがする。けれど、兄の命令だと
いうのなら、メイドという立場でもある以上、従わない訳にはいかない。
「また、何かおかしな想像してるだろ」
 兄の言葉に、私の思念は破られ、私はハッと兄を見た。

「言っとくがな。書店のエロ本コーナーってのは、別に他の本と隔離されてる訳じゃねー
からな。一瞬、表紙をチラ見するくらいなら、他の本探してるフリしながらでも十分に出来るぞ」
『そ……そうでしたの……』
 思わず私は、ホッと胸を撫で下ろした。
「まあどうせ、お前の事だから、エロ本コーナーって言ったら、それ専用の隔離ブースが
確保されてて、中には際どいエロ本がいっぱい置いてあるのでも想像したんだろーが」
 別に面白がる風でもなく、当たり前のように兄に言われ、逆に私は恥ずかしくなって反論した。
『そっ……そこまで具体的な想像はしていませんわっ!! 大体世の中がおかしいんです
のよ。エッチな本と普通の書物を一緒くたにしておくなんて、荒廃している証拠ですわ』
「一緒くたじゃないぞ。一応棚くらいは分けてある。けど、雑誌コーナーだと、傍に車や
スポーツ誌があったり、真裏に文庫本が置いてあったりとか、小さな本屋になればカオス
になってくけどな」
 まともに反応されて、私はそれ以上言うべき言葉を失った。しかし、本屋といえば、た
まに掘り出し物を探しに都内の大型書店に行くくらいで、欲しいと決めたものならば最初
から美衣に買ってくるよう指示を出せば良かったのだから、知識が無くても仕方ないでは
ないか、と、私は別に責められた訳でもないのに自分の中で、ああだこうだと弁解の言葉
を探った。
「まあ、お前の想像通りの所に連れて行ってほしければ、レンタルビデオ屋にするか? エ
ロビデオコーナーなら、キチンと隔離されてるし、思う存分味わう事が出来るぞ」
『別にそのような物、み……み……見たくもありませんわっ!!』
 からかうような兄の言葉に、思わず真っ赤になって怒鳴り返してしまった。私は一体、
兄にどのように見られてしまったのだろう。もしかして、エッチに興味のある、はしたな
い妹だと思われてしまったのだろうか?
『でも貴志様。さきほど、貴志様が仰られたやり方だと、それはそれで危険だと思うのですが』
「何がだ? 素知らぬフリして通り過ぎれば、いちいち理奈の行動を観察してでもない限
り、そう気付かれないと思うぞ」
『でもでも、理奈ちゃんの事ですもの。きっと初めて見る男女の痴態に見入ってしまって、
絶対立ち止まって、じっくり眺めてしまうに決まってます』

『そんなことは致しませんっ!!』
 瑛子に向かって思いっきり怒鳴ると、彼女はキャッと両手で耳を塞いで体を竦めた。今
日、何度目か分からないツッコミにいい加減疲れ、私はハアハアと荒い息をつく。
『それは瑛子。貴女のことでしょう? 全く、自分の尺度でわたくしを測るのはいい加減
お止めなさい』
『えぇ〜 わ、私はそんな事……は、恥ずかしくて…… それでしたら、いっそ買ってし
まった方が……』
『その方が、余程恥知らずですわっ!!』
 全く、可愛い子ぶっているのか、単にスケベなのか。私には瑛子の考えている事が良く
分からなくなってきた。そもそも、最初は弱気とかいう設定じゃなかったのだろうか?
『全くもう……』
 私は、兄と瑛子を代わる代わる睨みつけて呟いた。
『二人して、わたくしを馬鹿にするような言動ばかり言って…… お兄様も瑛子も、わた
くしを何だと思ってらっしゃるのかしら……』
 呆れてため息をつくと、二人は声を揃えて同時に言った。
「『世間知らず』」
 そして二人は、一瞬、パッと顔を見合わせてから、瑛子はみるみるうちに顔を真っ赤に
染めて、兄から目を逸らした。
『ももももも、申し訳ございません!! 貴志様と同じ事を口走ってしまうなんて…… 
ああ、でも、私もここまで貴志様のお心を掴む事が出来るようになったんですね。何年も
お仕えしてきた甲斐がありました。何かもう感激です……』
 今にも昇天しそうな瑛子を見て、兄が私に聞いてきた。
「……さっきのお前もそうだが、俺と同時に同じ事を言うって、そんなご大層な事なのか……?」
『わっ……わわわ……わたくしにとっては、その…… くくく、屈辱以外の何物でもあり
ませんけどねっ!!』
 ちょっとドキドキしながら私は、兄に冷たく言い放った。全く、兄の鈍感ぶりにも呆れ
たものだ。私達の態度を見れば少しは察してくれても良さそうなものなのに。それから、
動揺しかけた心を落ち着かせて、本来の話題へと話を戻す。

『大体、二人揃ってわたくしのことを世間知らずとは、どういう了見ですの? 確かにそ
の……性的なことに関しては少々知識が浅かったのは、認めざるを得ませんわ。けれど、
それだけで全てを推し量るのはどうかと思いますけど』
「だって……なあ?」
 兄が瑛子に問い掛ける。と、彼女は夢から覚めたように、ハッと兄の顔を見上げた。
『ふぇっ!? ななな、何でしょう?』
「いや。瑛子が世間知らずだって話」
 瑛子はしばし、キョトンとするような目で兄を見据えていたが、それからハッと気付い
たように顔を僅かに上げて、それからコクコクと頷きながら同意した。
『え、ええ。それはもう、そうですよね。うん』
 そんな彼女をジト目で睨みつけつつ、私は口を尖らせて文句を言った。
『たかが、多少性的な部分に疎いからといって、一般常識すら欠如している貴女に言われ
たくありませんわ』
『ええ〜っ!! そんな言い方、ヒドイですよぉ〜 少なくとも、理奈ちゃんよりは世間
の事について知っていると思いますけど……』
『お黙りなさい。どうせ、今、ボケーッとしていたのだって、お兄様との良からぬ関係を
妄想していたのでしょう。全く、メイドの分際で、身の程知らずにも程がありますわ』
 私の言葉に、瑛子は一瞬、ウッと言葉を詰まらせた。自分で言うのも何だが、そこのと
ころは残念ながら瑛子と思考回路が似ているのか、彼女の考えている事が大体予測出来て
しまう。それは私自身、反省すべき所だ。改めなければ。
『……だってだってだって……貴志様と思考がシンクロしてしまったんですもの…… 
ハァ…… 何かもう、それだけでも幸せですぅ……』
 とりあえず、あっちの世界に行ってしまったおバカなメイドは放っておこう。私は、兄
に向き直ると、不満そうに睨みつけた。
『と、とにかく!! 多少の事で世間知らず呼ばわりされたくありませんわ。お兄様、そ
の言葉、撤回してください』
「だってお前、一般的な本屋とかも全然知らなそうじゃん」
 サラッと言い返され、私は言うべき言葉を無くしてしまった。

「買い物っつったって、高級ブランドショップか大手百貨店くらいだろ? 学校は上流階
級のお嬢様学校をエスカレーター式に上がっていっただけだし。箱入り娘まっしぐらの人
生を送って来たんだし、そう言われても仕方ないだろ」
 確かにそう言われれば一言もなく、私は沈黙したままだった。しかし、私はそこでふと
気付いた。偉そうな事を言っているが、兄だって別府家の人間なのだ。確かに既に社会に
出ているとはいえ、私とそう変わらない道を歩んでいたはず。反撃の糸口を見出した私は、
嬉々として、そのことを追求しに掛かった。
『お……お兄様だって、その点は変わりないのではありませんの? 多少わたくしより物
を知っている程度で、偉そうにおっしゃらないで頂きたいですわ』
 しかし、兄はあっさりとこう答えた。
「俺はお前と違って出来の悪い道楽息子だからな。世間一般の知識には割りと詳しいんだ
な、これが。始終屋敷を抜け出しては遊びに行ってたし。まあ、別に褒められたものじゃ
ないけどな」
 そう言われて私は思い出した。子供の頃から兄は、外の世界に憧れ、特に中学に通うよ
うになってからは、メイド達の目を盗んでは一人で外へ出かけていた事を。
『ズルイですわよ。そんな……悪い事をして得た知識で自慢なさるなんて……』
「別に自慢してる訳じゃないけどな。けどまあ、俺はちょっと遊びすぎた感はあるけど、
理奈は逆に知らなさすぎだろ。この年で、まともに一人で街を歩いた事もないってのは、
ちょっとなあ……」
『べべ、別にそんな、その……出歩く機会が無いだけで、別にわたくし一人で、十分に外
出くらい出来ますわ』
「そうかあ? そんな事言ったって、外出時はいつも運転手付きの車で、必ずお付がつい
てるだろ? 経験も無いのに無理だろ?」
『お兄様だって……今はお車でお出かけなさいますし、瑛子を連れて出かけられるではあ
りませんの。一緒ですわ』
 僅かばかりの抵抗を試みる。もはや負け試合は確定的な状況ながら、それでもなお、私
は自分が世間知らずの箱入り娘であることを素直に認めたくはなかった。
 しかし、私の言葉はあっさりと兄によって切り返された。
「俺の場合は車ったって、自分で運転してるしな。それに……」
 一度言葉を切り、兄はチラリと横目で瑛子を鬱陶しそうな目で見つめた。

「お付きってな。コイツ、勝手に付いて来るんだよ」
『はい。おデートです』
 胸を張って自慢げに瑛子が言うものだから、何だか腹立たしくなって、私は反射的に瑛
子の鼻先を指でピシッと弾いた。
『いったああああああい!!!!! な、何するんですかぁ〜……』
 泣き声を上げる瑛子に、フンと鼻を鳴らして私は不機嫌そうに顔を横に逸らした。
『メイドの分際で主人とデートなどと言うからですわ』
『ちょっとした冗談ですよ〜…… そのようなことくらいでやきもちを焼かれないでくだ
さいってばぁ……』
 鼻を押さえながら抗議する瑛子の言葉に、私は身の内がカッと熱くなった。何もそんな、
兄の前でやきもちなどと言う事は無いのに。
『だっ……誰がやきもちなど焼いていると言うの? ふざけた事を言わないで貰えないかしら』
「まあ、それはいいとしてだ」
 私の反論は、割って入った兄によって、あっさりと遮られた。
「ま、確かに別府家の時期当主たるもの一人でうろうろ出歩くと言うのも、さすがにこの
年になると世間に対してもあまり宜しくないらしくてな。仕方なくコイツを連れて行って
る訳だが……今日は理奈。お前に付き添ってもらうぞ」
 その、突然の兄の命令に、私は一瞬、訳が分からずに全身を硬直させた。


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