・俺っ娘が頑張ってメイドに挑戦(その3)

『ご主人様、食器洗いの方は終わりました。次は……何をすれば宜しいですか?』
「あー……ってもなあ。俺、メイドさんなんて雇った事も雇おうと思ったこともないしなあ。いまいちイメージが……」
『それでは困る。やることがないでは体験にならないではないか』
「むう……【性的なご奉仕なんつったら、さすがに半殺しにされたあげく、二度と口を利いてくれなさそうだしなあ……】」
『なら……そうだな。部屋の掃除でもさせて貰おうか? どうせご主人様の事だ。掃除なんてしてないだろう?』
「えっ!? あ、いや。それはいい。うん。いやー、俺、実は綺麗好きでさ。掃除はよくやってるから……あはは……」
『(ジーッ……)』
「う……(////////) な、何だよ? そんな、見つめるなってば」
『態度が怪しいな。まさか、女の子が家に来るから慌てて部屋を片付けたとか、そんなことはしていないだろうな?』
「え? あー、いや、その……」
『やはりそういう事か。オレがついでのこととはいえ、ご主人様の世話をしてやろうといっているんだ。なのに先に全部済ませてしまっては困るじゃないか』
「悪い。そういうとこまで気が回らなくてさ。普通に玲緒が家に来るって思っていろいろ片付けちまったから」
『まあどうせ、適当にモノをそこいらに放り込んだだけだろう。オレがもう一度、きちんとやり直してやる』
「け、けどさ。俺の部屋の掃除はいいって。確かにその……見た目の体裁取り繕っただけだから、クローゼットの中とかゴチャゴチャだけどさ。だから却ってその……あまりいじらない方がいいんじゃないかと……」
『どうせこの際だ。いっそ徹底的に整理した方がいいだろう。それとも何か? オレに見られてはマズイ物でもあるというのか?』
「あ……その、さ。問い詰めるような目付きでジーッと見つめるの、止めてくんない? 何か俺が悪い事をしてるような気になってくるからさ」

『それは、ご主人様の心にやましいものがあるからだろう? 何もなければそのような罪悪感に問われる事もないと思うが』
「おっしゃること、ごもっともで……」
『ハア…… 全くもう……安心しろ。オレもその……一応は、だな。男がそういう本やビデオを持っていることくらいは把握しているつもりだ。いちいちそんなことで軽蔑したりはしない。仮に見つけたとしても他の物と同じようにキチンと整理しておくから』
「そういってくれるのは有難いんだがな。やはりその、男としてはだな。同年代の女の子にそういうのを発見されるのは恥ずかしいと言うか……」
『恥ずかしいのなら、別にオレの傍にいなくてもいいぞ。お前がゆっくりしている間に、全部綺麗に片付けておいてやる』
「それはそれで後で死ぬほど恥ずかしい思いをするんだよな。結局見られたってのは痕跡で分かっちゃうし」
『いろいろと面倒な奴だな、ご主人様は。そんな体裁を取り繕うほど大した男ではあるまい』
「むう……今の一言は何気に傷ついたぞ。こう見えても俺は結構デリケートなのに」
『自分で言うな。そんなに繊細な神経なら、普段からもう少しオレに気を使って近づくのを遠慮しろ』
「ちぇっ。そんなに俺に傍にいられるのが嫌なのかよ」
『時と場合によるという事だ。オレが一人でいたい時に傍に寄ってこられるのは、正直迷惑極まりない。もう少し、空気というものを読んだ方がいい』
「玲緒は難しいんだよな。いつも孤独感のオーラを漂わせているから、声を掛けてからじゃないと判断出来ないんだよな」
『それはご主人様に雰囲気を感じ取る力が無いからだろう? 人のせいにするな』
「分かったよ。しかし、さっきから“ご主人様”って呼ばれていても、一向に敬われている気がしないんだよな」
『それは、ご主人様自身の人としての器が小さいからではないか? 立派な人間であれば自然と尊敬されるものだと思うが』
「メイドだったら、主人を敬うのは当然じゃね? いくらメイドの格好をして、仕事を完璧にこなしていても、心がこもってなければ、やってる意味がないと思うんだけど」
『…………そうか。そうだな。それは済まなかった』

「あ……いや、その。そこまで謝らなくてもいいんだけどよ……」
『いや。その点だけはご主人様のおっしゃる通りだと思う。たとえ誰が言ったことであれ、正しい意見であれば、オレは率直に反省するぞ』
「そ、そっか。そう言われると何かこそばゆいけどな。まあ、気持ちを込めるのは今からでも遅くはないんじゃね? 演技でもいいからさ」
『分かった。これからは気をつけよう』
「【何か……そこで素直に出られると……調子、狂っちまうな……】」
『とりあえず、部屋まで案内しては貰えないだろうか? あと……やはり、掃除の最中は出来る限り外に出ていて欲しい。作業効率が落ちる』
「ぬ…… まあ、その、仕方ないか」
「【エロ関係の奴はともかくとして……アレ……は、大丈夫だよな。多分……】」

『なるほど。確かに見た目の体裁はキチンと整えてあるようだな』
「だろ? だからさ。簡単に掃除機掛けて、家具の埃を払ってくれればそれでいいからさ」
『で、散らかっていたものは何でもかんでもこのクローゼットに適当に押し込んだと』
「まあ、その……そういうことだな。開けると物が落ちてきて怪我するかもしれないからさ。やっぱここは後で俺が――」
『ならば、今日はここを重点的に片付けるとするか。そうでないとご主人様の事だ。すぐに元の散らかった部屋に戻すに決まっている』
「いやあ。ちゃんと片付けるからさ。だから――」
『どうやらなかなかやりがいがありそうだな。さて、では始めるとするか』
「玲緒。少しは俺の話も――」
『いい加減観念しろ。オレもせっかくご主人様のお部屋を掃除したというのに、また元の木阿弥に戻っていたのでは、何の為に掃除をするのだか分からなくなるからな』
「どうせすぐに汚くなるのに……」
『維持する努力くらいしろ。全く……オレに敬意を求めるのはもっともだが、ならばご主人様も少しは労働するものに対して感謝の気持ちを持って欲しいものだな。口先だけではなく』
「分かった。とりあえず、クローゼットの中を整理することについては何も言わん。ただし、一つ条件がある」

『何だ? その条件というのは』
「やっぱりさ。自分の部屋だけに、配置は自分が使いやすいようにしたい。だから、クローゼットの整理をする前に、必ず俺を呼んでくれ。分かったか」
『……分かった。それはもっともな意見だな。約束しよう』
「それじゃあ、ま、任せたぞ」
『その前に、ちょっと一つ聞いていいか?』
「な、何だよ?」
『勉強机の上の写真立て。何故伏せてあるのだ?』
「あ、いやその……それはだな……別に伏せてあるっていうか、今は特に使ってないから置きっ放しになってただけで……」
『見てもいいか?』
「あ、ああ…… 別にいいけど、何も飾ってないぜ?」
『…………確かに、な。だが、写真立てなら写真を飾らなければ意味無いだろう? 何でこんなものをわざわざ机の上に置いてあるのだ?』
「貰い物なんだけどさ。えーと……その、使わないんだけど、しまう場所が無くてそのままにしてあっただけで、それ以外に特に意味はないぜ。ホ、ホントだからな」
『【変だな……別府の態度といい、何か言葉どおりには受け取れないが…… まあ、追及しても仕方ない……か…… 今聞いた以上の言い訳は出て来ないだろうし……】』
『分かった。変な事を聞いて済まなかった。申し訳ないが、しばらくはリビングでゆっくりしていてくれ』
「了解。そうさせて貰うよ」

 〜一時間後〜

 ジャーッ!! キュッ、キュッ……
『ふう……これで大体、終わったな。さて残るは……クローゼットの中か……』
 ジーッ……
『【別府のヤツ……随分と、見られたくない様子だったが……本当の所は何を仕舞い込んだんだろうな……ちょっと中を開けて見てみるか……?】』

『いや、それはダメだ。クローゼットの整理をする時は、アイツを呼ぶ約束をしたからな。オレが勝手にここを開けるのはそれを破る事になる』
『【呼ぶのは整理をするときだろう? ちょっと開けて中を見てみてすぐに閉めれば約束違反でもないし、アイツに気付かれもしないはずだ……】』
『しかし、それは、その……何と言うか、アイツの意図を知っていて、言葉の裏をかくと言うのは、信義にもとる好意ではないか。オレはそういうのは好きじゃない。やはりここはちゃんとアイツを呼ぶべきだ』
『【けど……それだと、恐らくもう二度と、ここを見る機会は失われてしまうだろう。こんな事でもない限り、オレが一人で別府の部屋に入るなんて、有り得ないだろうし……】』
『…………………… ハッ!! い、いかん。このような誘惑に負けるわけには…… 例えアイツにバレなかったとしても、こんな裏切り行為をしてしまっては、オレは……アイツに顔向け出来なくなる……』
『【なら、何故……オレは、アイツを呼びに行けないのだ? そんな事を思ってはみても、結局オレは……中を見たいだけなのではないか?】』
『いや……それは、その……確かにそれはその通りだが、しかし……』
『【いっそ開けて見ればいい。そうすれば、気持ちも落ち着いて、アイツを呼びにいけるのではないか? ザッと中を見ても、すぐに閉めてしまえば、アイツのいう見られたくないものなど、見つける暇もないだろう。そうすれば、約束を破ったとまでは言えまい】』
『く…… しかし、そんなのは自分に対してもアイツに対してもごまかしでしかないのではないか?』
『【なら、すぐに呼びに行けばいい。このままでは徒に時間を浪費するだけだぞ?】』
『……………………ハア………… オレは……心根の弱い人間だな。済まない、別府。ほんの少し、開けるだけだ。どうも……そうしない事には、体が動かないらしい』
『では……開けるぞ』
 ガタッ
 ドサアッ!!
『きゃあっ!! び……びっくりした…… 全く、開けただけで崩れるような仕舞い方をするな!! もう……』

『それにしても……いかに適当に詰め込んだか分かるな、これは。放っておけばこのまま雪崩を打って崩れてくるかもしれん。ここはいっそ……全部出してしまった方がいいだろう。どうせアイツは自分の使いやすいように整理したいと言っていただけだからな。出すだけなら……オレ一人でも、問題ないだろう』
『どれ…… まずは、落ちた漫画から整理するとするか』
 パラパラ……
『……にしても、別に普通の漫画ではないか。まあ、可愛らしい女の子が出すぎだと思うが。オレの趣味には合わんが、別に隠す必要もあるまい。では、次はこっちを……』
『何だ、これは? おしかりCD? 変わった趣味があるな、アイツは。女の子に罵られたい趣味でもあるのか? 確かにそれは普通とは言えないな。他も……何だ。アニメ絵のジャケットのCDが多いな。なるほど。自分の趣味を知られたら、オレに軽蔑されるとでも思っているのか。意外と可愛いな、アイツも』
『それにしても……この程度の事で恥ずかしがるとは思えないが…… ん? あの箱……  そうか。上の棚か。そうだな。何も隠すのはオレに対してだけってことではないだろうしな』
『どれ…… うん。このくらいの高さなら、何とか台を使わなくても取れそうだ。よっ……んしょ……んしょ……け、結構重い……けど、もう少し……』
 グラッ
『えっ!? わ……たっ…………!! きゃああっ!!』
 ドスンッ!!
『いったあああああ…… び、尾?骨打った……たたたたた……』
 トントントントントン……
『し、しまった!! アイツが――』
 ガチャ
「おい、どうした? 玲緒――」
『あ…………』
「…………………」
『いや……その……これは…………』
「ちょっ……何だよ、これは。クローゼットの中整理する時は呼ぶ約束だったろ?」
『だ、だからな。これはその……イタッ!!』

「お、おい。大丈夫か?」
『だ……大丈夫だ。ちょっと、尻を強く打っただけだから……イタタ……』
「そうか。けど無理すんなよ? 尾?骨だって骨折するんだからな」
『多分……そこまでじゃないと思う。うん。何とか立てそうだ……』
「そっか。なら良かった。まあ、それはそれとしてよ……」
『な、何だ……?』
「どういうことだよ? 勝手に整理しないって約束だったろ?」
『ち、違う!! これはだな、その……扉を開けたら、積んであったマンガが崩れてきて、それで、まあその……直そうかと思ったんだが、放っておくと他のも崩れてきそうだったから、それでだな、いっそ、先に物だけ全部出してしまおうかと……』
「まあ、確かに適当に詰め込んだからな。崩れやすかったのは認めるけど……でも、何で最初に開けたんだ?」
『それはだな……と、とりあえず中の確認をするくらいならいいかなと……ど、どんな状況なのか分からないと、ほら。その……段取りの付けようもないし……』
「なるほど。でも、俺を呼んでからでも良かったんじゃね?」
『ク、クローゼットの扉を開けるくらいなら別にいいかと思っただけだ。お前が隠したいのは知っているが、その……そういうものはパッと見程度では分からないだろうと思っていたし……』
「なら、せめて物を出す前に呼んでくれても良かったじゃん。全部一気に崩れて来た訳じゃないんだろ?」
『…………それは……確かにそうだな。済まなかった』
「う……まあ、その……謝るなら、いいけどよ。てかさ。玲緒ってそういうとこは素直だよな。割り切ってるというか、客観的に物事を見れるというか」
『理由はどうあれ、約束を破った事実には変わりはないからな。変な所でごまかそうとすれば、逆にお前に弱みを見せる事にもなりかねないし』
「ちぇっ。でも、たまにはそういう弱い玲緒も見てみたいけどな」
『オレは他人に弱みを見せるのは嫌いだ。特にお前には絶対に見せたくない』
「はいはい。で、何で勝手に整理を始めようと思ったわけ? 理由が知りたいんだけど」
『その事についてはもう謝っただろう? これ以上追求するな』

「お? ちょっと困ったね?」
『うるさい!! そう言ってオレから弱みを引き出そうとしても無駄だ。お前を呼ばなかったのは、これ以上崩れないようにしようと考えていて、その……そこまで頭が回らなかっただけだ』
「ホントかよ。物色しようとか思ってたんじゃなくて?」
『するか。お前の持ち物になど、興味はない』
「だったら、何で上の棚に入ってるものまで下ろしたんだよ。あそこは崩れる事はないだろ?」
『ついでだ、ついで!! と、とにかく、その件に関してはオレが悪かったから、もういだろう。ほら。お前も来た事だし、とっとと整理を始めるぞ』
「つーか、玲緒」
『何だ。まだ何かあるのか?』
「今日の自分の立場、何だったか覚えてるか?」
『馬鹿を言うな。覚えているも何も、って……あ……』
「さっきから、完っ璧に言葉遣い、忘れてねーか?」
『クッ………… そ、そうだな。大変失礼致しました。ご、ご主人様……』
「【俺には弱みを見せないとか言っておきながら、結構あたふたしてんじゃん。まあ、そういうとこも可愛いけどな】」

『ああ。そういえば、箱の中身を散らかしてしまったな。まとめておかないと……と、いうか、こういうのは全部一緒くたでいいのか?』
「わわっ!! そ、それは俺がやるから!! 触らなくていいから!!」
『気にしないでください。というか、オレは気にしないが』
「無理。つーか、そうやって淡々と扱われると、ますます恥ずかしくなるから」
『【巨乳物……女子高生に……姉もの……女教師…… こうやって見てみると、大体アイツの興味が分かるな。オレの胸は……どうなんだろうか? クラスの女子には形がいいと羨ましがられているが……アイツの好みからするとまだ小さいか……? って、何を考えているんだ、オレは!!(//////////)】』
「どうした? 何か動きが止まってるけど」
『いや。べ、別に。少し別の事を考えていただけです』

「実は結構興味あるとか?」
『!!!!!(/////////) バカを言うな。言っただろう? オレはご主人様の物には興味がないと』
「まあ、あんまりジロジロ見ないでくれ。もう半分以上開き直ったけど、それでも玲緒にそんな風に俺の物を見られるのは恥ずかしいから」
『淡々と扱うのも恥ずかしいのに、吟味されるのも恥ずかしいのか。なかなか難しいな。ご主人様の要求に答えるのは』
「つーか、そういうのは俺がやるから。玲緒はそっちのマンガを本棚の方に戻してくれ」
『これはいいのか? クローゼットの方ではなくて』
「ああ。それはいいよ。もう隠す意味ねーし」
「【玲緒は淡々としてっからわかんねーけど……やっぱ、オタク趣味の男って嫌いなのかな……まあ、バレちまったから、もう仕方ねーけどよ……】」
『ん? 何だこれは……写真……?』
「へっ!? ちょ、ちょっと待て。それはこっちによこせ!! 見るな!!」
『なっ……!?(/////////////)ボフッ!!』
「っちゃあ……遅かったか……俺の人生オワタ……」
「【やっべえええ…… 写真立ての写真。玲緒が来てから気付いたんだよな…… 速攻で手近なマンガに隠したんだけど……却って仇になっちまったか……】」
『どっ……どういうことだ、これは!!』
「どういうことって……」
『この写真だ!! なな……何でオレの写真が……その、こっ……こんな所に入っているんだ……?』


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