・俺っ娘が頑張ってメイドに挑戦(その6)

「…………ん……んん……」
「【何だろ……すごく気持ちいいな……それにいい香りがして……】」
 パチッ…………
「おわっ!!」
 ガバッ!!
「び……びっくりした。そうだった。玲緒に耳掃除してもらってるうちに、眠くなっちまって……」
『スゥ……スゥ……』
 コク……コク……
「玲緒の寝顔……マジ可愛いな……起こすの、もったいないくらいだ。けど、まあ……こ のまま寝させとく訳にもいかないしな」
 ペシペシ……
「おい、起きろ。玲緒」
『ふぁ……んん……』
 ゴシゴシ……
「おはよう、玲緒」
『わわっ!! な、何故別府がここに――って、そうか。お前の――いや。ご主人様の、 お部屋だったな』
「ゴメン。その……我慢し切れなくて、つい眠っちまった」
『……ま、全くだ。あれほど寝るなと言ったのに…… その上、オレが何度叩いても揺さ ぶっても全く起きる気配もないし。こっちとしてはいい迷惑だ』
「悪い。けど……床には落とさないでくれたんだな」
『そ、それは……その……へ、変に打ち所を誤って、ご主人様の馬鹿な頭がますます悪く なっては、さすがのオレでも申し開きが立たないからな。何度やってやろうかと思ったが、 まあ、それだけはその、勘弁してやる事にした』
「サンキュー。何だかんだと言っても、玲緒は優しいな」
『馬鹿を言うな!! ご主人様がいつまでも起きないから仕方なくその……我慢していた だけで別に親切心とかその……そういった理由ではないからな!!(/////////)』
「それにしても、玲緒も良く寝てたな。やっぱりその……今日は疲れたのか?」

『フン。別にご主人様の世話をするくらい、大したことではない。単にその……午後の日 差しが気持ちよすぎて、つい、うたた寝してしまっただけだ』
「そっか。だよな。何でか知らないけど、午後の日差しって、浴びると眠くなるんだよな。 特に学校では」
『まあ、確かにそれは否定は出来ないな。ただ、お前の場合は気が緩み過ぎだとは思うがな』
「ふうん。それなら、今は玲緒も気が緩んでたってことだよな?」
『ば……馬鹿を言うな!! お前と一緒にいて気が緩むなど……』
「だってうたた寝しちゃったってことはそういう事なんだろ? いや、むしろ俺としては 玲緒がそこまでリラックスしてくれたのは嬉しい限りなんだが」
『ち、違う!! その……ご主人様の寝顔を見ていたら、つい引き込まれたというか、い や、その……』
「俺の寝顔見てたら安心しちゃったってこと?」
『そ、そういうわけではなくて……も、もういい!! ただ、別に気を許そうとした訳で はない。うっかり油断しただけだ!! 気分が良かったとか、そういう事ではないからな。 調子に乗るな』
「珍しいな。玲緒がここまでグダグダになるなんて」
『う、うるさい!!(////////) とにかく、もう終わりにするぞ。そろそろ時間だしな』
「ああ、そうだな。お疲れ様」
『では、オレは着替えてくるから――きゃあっ!!』
 ドサッ!!
「お、おい。どうした、玲緒?」
『イタタ…… あ、足の感覚が……』
「痺れたのか? まあ、アレだけ長い事、正座したまま俺の頭乗せてりゃあ痺れもする―― おわっ!?」
『どうした? 変な声を上げて』
「い……いや、その……言っても、怒らないか?」
『訳の分からない事を言うな。オレが何を怒るというのだ。言ってみなければ分からないだろう?』
「ああ。その、な……倒れた拍子にその……スカート……」
『へ?』
「中……見えてるぞ……(////////)」

『!!!!!(//////////)』
 バッ!!
『い…………いやああああああっっっっっ!!!!! みみみ、見るなっ!! バカ者!!』
「いや……見るなと言われても……視線は釘付けな訳で……」
『こ、このスケベ――あうっ!?』
「どうした?」
『あ……足に感覚が戻って来て……やっ……い……』
「どれどれ」
 ツンツン
『やあっ!! あ、馬鹿っ……足を突付くな……ひゃん!! あう……』
「すげ……パンツ見えたのもエロかったけど……ミニスカのメイド服で悶える美少女って…… エロ過ぎて鼻血出そう……」
『バカッ!! み、見るな…… だから突付くなって……や……ああっ!!』
「いや。こんな機会滅多にないしな。せっかくだから堪能させて貰うわ」
『――っ!! この……ちょ、調子に乗るなっ!!』
 ゲシッ!!
「あいてっ!!」
『いい加減にしろ!! 人のコトを何だと思っているっ!!』
「たたた…… ゴメン。ちょっと悪ふざけが過ぎたな」
『悪ふざけで済むかっ!! 全く……こんなに恥ずかしい思いをしたのは生まれて初めてだ。』
「足が痺れて悶えるくらいなら、よくあることじゃね? そんなに恥ずかしがることでも ないと思うけどな」
『こ……こんな、格好で、しかも、お前に見られたのが問題なんだっ!! あんな恥ずか しいところを……正直、死にたいくらいだ……』
「いやいや。玲緒と一緒にいるようになってもう結構長いけど、今日の玲緒は抜群に可愛 かったぜ」
『【かっ、可愛いって……(////////)】』
『フン。どうせ欲情していただけだろう? お前の場合』
「そんなことないぜ。思わず見惚れちまったもん。いつものストイックな綺麗さもいいけ ど、今日のはまた格別だ。正直、この場にいれたことに無常の幸せを感じる」

『くだらない事を言うな。オレは逆に、今日ほどお前に殺意を抱いた事はないな。人が足 が痺れて苦しんでいる時に、逆に弱点を攻撃するなど、男の風上にも置けんヤツだ』
「人のウィークポイントを見つけたら即座にそこを突くべしってばっちゃが言ってた」
『どういうおばあさんだっ!! お前の家は代々そういう教えなのかっ!!』
「いや。今のは冗談。正直、玲緒には悪かったとは思っている。だがな。俺は謝罪はする が反省も後悔もしないぞ。足先を突くたびに悶える玲緒の姿のエロ可愛いこと……あ、や べ。思い出したらまた興奮してきちまった」
『くっ……(///////////) うう……もう……バカ!! 死ね!! このスケベ!! 全く、 これ以上お前には付き合っていられん。とにかく時間も時間だし、今日はもう帰るぞ』
「まだそんな遅くもないだろ。そう焦って帰らなくてもいいと思うんだがな。まあ、もう 仕事はいいけど、お茶でも飲んでゆっくりしていけよ」
『断る。これ以上変な事をされてはかなわないからな』
「もうしないって。俺を信用しろよ」
『信用出来るか。それにだな。これ以上長居をして、もしお前のご家族が帰ってきて鉢合 わせでもしたら、説明が面倒になるからな。変に恋人だとか誤解されては困る』
「そっかあ? むしろどこからさらってきたとか言われて犯罪者扱いされそうな気もするが」
『そうか。御家族もお前のことはさすがによく分かっておられるのだな』
「ほっとけ」
『まあ何にしろ、今日はもう疲れたからな。出来れば早く帰って休みたい』
「そっか。残念だな。ま、玲緒がそう言うんなら、無理に引きとめはしないけど……」
『そうしてくれ。では着替えてくる』
「あ、ちょっと待ってくれ」
『何だ? まだ何かあるのか?』
「一回だけ、その場でクルッと回ってみてくれないか?」
『……何故そんなことをしなければならない。意味が分からないが』
「いやあ。玲緒の可愛いメイド服姿も見納めだからさ。最後に目に焼き付けておこうかと思って」
『!!!!!(//////////) 出来るか!! この……バカッ!!』
 バタン!!
「むう……サービス精神の分からない奴め。でも……可愛かったな。もう一回見たいぜ ちきしょう……」

『それじゃあ、邪魔をしたな』
「いやいや。ま、これに懲りずにさ。また遊びに来てくれよ。別にメイドさんでなくても、普通に」
『フン。用事もないのにお前と遊ぶほど、オレは酔狂ではないぞ』
「そう言うなって。どうせ休日は一人で過ごすんだろ? だったら二人でその……まった り過ごすのもありだと思うんだけどな」
『一人の方が気が楽だ。お前といると息が詰まるからな』
「その割には最近、一緒にいる時間が長くなってないか?」
『う……うるさい!!(/////////) お前がいちいち付き纏ってくるから悪いんだ。そう言う のなら、来週からもう寄ってくるのは止めにして貰うぞ。オレは……オレは、その方が…… いいんだからな』
「分かったよ。でも、そんなにムキになる話でもないと思うけどなあ。普通に断ればいいのに」
『それはお前の誘い方に問題があるだけだ。なんかその……来いと言われているような、 そんな気がしてな。だからつい、断り方もムキになるだけだ』
「俺、そんなに強制的な言い方したかな? 普通に軽く誘ってみただけだと思うんだけど」
『お前がどういう気持ちで言ったかは知らんが、オレがそう感じているんだから、間違いはない』
「そうか。もしかしたら、ムキになってたのは俺の方かもな。まあ、別に無理にと言って る訳じゃないから、気が向いたらって事で」
『そうだな。気が向いたら、また来よう。まあ、恐らくそんな事はないと思うが』
「じゃあ。今日の成果がどれだけ出るか、楽しみにしてるぜ」
『楽しみにって……もしかして、お前、公演を見に来るつもりか?』
「そのつもりだけど。だってせっかく玲緒が舞台デビューするんだし、やっぱ見に行きた いじゃん?」
『止めろ。絶対見に来るな。いいか?』
「えー? 何でだよ。俺だって玲緒の演技を見てみたいのに」
『お前が来ると演技に集中出来なくなるからな。気が進まないとはいえ、手伝うからには キチンと自分の務めは果たしたい』
「それって……俺に見られると緊張してドキドキするとか、視線が気になるとかそういう事?」

『ちっ……違う!! そういう事ではなくて、と、とにかくお前は見に来るな。あとそれ から、クラスの他の人間に俺が演劇部に協力していることも言うな。いいか。約束だぞ』
「他の奴らには言わないけどよ。俺としてはすごく不満なんだが……まあ、玲緒がどうし てもっていうなら……」
『どうしてもだ。分かったか?』
「よし、分かった」
『珍しく聞き分けがいいな。いつもそうであってくれれば、オレも苦労はしないのだがな』
「まあな。それに今日は、俺の為にいろいろと尽くして貰ったし」
『きょ、今日の事は、別にお前の為にやった訳ではないぞ。オレがメイド役を演じる為に は実際に体験してみる事は必要だと感じたから、自主的にやったまでの話だ』
「理由はどうあれ、世話になったからな。感謝してるぜ。その……サンキューな」
『礼を言われる筋合いなどない。まるでお前の為にオレがメイドになったみたいで、その…… 困るからな……』
「そこまで気にする必要ないじゃん。それだけの事をしたんだし、お礼くらい素直に受け てくれてもさ」
『そういう訳ではない。その……礼はむしろ、オレの方が言うべきではないかと……思っ てな……』
「は?」
『えっとだな。その……別府。今日はその……オレの為に一日、つっ……付き合ってくれ て助かった。あ……ありがとう……(///////////)』
「……………………」ポカーン
『なっ…… 何だ、その鳩が豆鉄砲食らったような顔は!! オッ……オレが礼を言った ら……おかしいのか……?(/////////////)』
「い、いやその……不意打ちだったからさ。だって、玲緒が、こんな風に俺にお礼を言っ てくるとは思ってなかったから」
『そ……それとこれとは別だ!! オレだってその……頼みを聞いてくれたことに関して は……きっ……キチンと感謝する。だがな。それだからといってお前に気を許したとか、 そういう訳ではないからな!!(///////////)』
「うーむ。その一言がなければ良かったんだがなあ」
『うるさいっ!!(/////////) と、とにかくそういうことだからな。分かったか?』

「ああ。玲緒からの感謝の気持ち、素直に受け取っておくよ」
『!!!!!(///////////) じゃ……じゃあ、そういうことで、オレは失礼する。またな』
 ダダダダダーーーーーッッッッッッ!!!!!!
「…………か……可愛いじゃねーか。むしろその……俺の方がドキドキしちまったぜ……(///////)」

〜エピローグ・某喫茶店にて〜

 カランコロン……
〔へい、らっしゃい〕
『やはり……ここにいたか……』
「よお。今日はお疲れ、玲緒」
 ツカツカツカツカ……ダン!!
『おい、別府!! どういうことだっ!!!!』
「どうした、血相変えて。未来の大女優が形無しだぜ?」
『からかうなっ!! この嘘つきが!!』
「嘘つき? 俺がか」
『そうだっ!! 今日の発表会……絶対に見に来ないと約束したじゃないかっ!! それ がなんだ。きっちり最前列で見ているとは……ふざけるにも程があるぞっ!!』
「別に俺、見に行かないなんて言ってないけどな」
『またそういうことを……オレははっきりと聞いたぞ。オレが来るなと言ったらお前は分 かったと返事をしたではないか』
「ああ。分かったって言うのは、玲緒が俺にどうしても見に来て欲しくないというのは分 かったという意味だ。俺自身は行かないとは一言も言っていないし、約束したとも言って ないぞ?」
『くだらない屁理屈をごねるな!! この卑怯者が』
「自分でも卑怯だと言うのは良く分かっている。けど、俺はどうしても玲緒がメイドの演技を立派にやり遂げるところを見たかったんだけど……」
『むっ。な、何だ? 急にニヤニヤして……気持ち悪い奴だな』
「いやー。見事な名演技だったぜ。死体役」
『うっ…… うるさいっ!! お前にオレの役をとやかく言われる筋合いなどはない』

「いやいや。純粋に言ってるんだって。あれだけ見事に表情を崩さずまばたきもしないな んて、なかなか出来るもんじゃないって。けどよ」
『けど、何だ』
「いや……その……クッ……アッハハハ……ハハハハハ……」
『笑うなっ!! なっ……何がおかしいんだっ!! 言ってみろ!!』
「だってよ……メイドの役作りのためとかいって……俺んちでやったの……意味ねーじゃん……」
『やかましい!! その……大体、人が精一杯やった役を笑うとは失礼にも程があるぞ』
「いや、すまん…… けどよ、こないだの玲緒の奮闘っぷりを思い出したらさ……急に笑いが……」
『思い出すなっ!! あの事はその……忘れろ。いいな?』
「無理。絶対無理。俺の中では青春の甘いメモリーとして永遠に刻み込んでおくから」
『なっ……ななななな……(/////////) 何が青春の甘いメモリーだっ!! そんなもの、お前には必要ない!! 今すぐに忘れろ!! でないとオレがお前の頭をカウンターに打ち付けて記憶喪失にさせてやる』
「ちょ…… まて、落ち着け玲緒!! そんなことしたって無理だから。絶対忘れないから止めろ」
『黙れ!! 大人しくしろ!!』
〔やかましいぞ、てめーら!! 客が来たんだから少しは静かにしろってーの!!〕
「え? 客。珍しーな。客なんて普段俺らしかいないと思ってたのに」
『別府の言とはいえ、それは確かだな。正直、余程の物好きでなければ来ない店だと思っていたが』
〔おめーらはもう来んな。と、そうだ。いらっしゃい〕
〈ああ、いたいた。鷹橋さん〉
「演劇部の……部長?」
〈ええ。別府君も、今日は見に来てくれてありがとう。ウチの劇は楽しめた?〉
「まあ、それなりに。何より玲緒が見たかったから」
『やかましい!! 別府はしゃべるな。で、何の用だ? オレはあくまで今回限りという約束だったはずだが』
〈それがさー。劇が終わってから、あの死体やってた女の子誰?って問い合わせが殺到しちゃって。もうこうなったら鷹橋さんにはウチの部の救世主になってもらうしかないのよ〉

『断る。もともと手伝う義理などないしな。演劇部がどうなろうと、オレの知ったことではない』
〈そんなこと言わないでさー。2週間一緒にやってきた仲間じゃない〉
『たかが2週間程度で仲間呼ばわりするな。そもそも仲間などオレには必要ないし迷惑だ』
「協力してやればいいじゃん。俺も玲緒の演技、もっと見たいしさ」
『やかましい。外野は黙っていろ』
〈サンキュー、別府君。てか、別府君も一緒にやらない?〉
「俺もか?」
〈そう。もう企画も出来てるのよ。メイド探偵シリーズって。お金持ちが道楽で探偵を始めるんだけど、全然ダメダメで、でも彼の傍に付いているメイドさんが優秀で、どんどん事件を解決しちゃうの。しかもメイドはツンデレ。これ、二人がコンビで主役やれば絶対に受けるわ。そうすれば、活動も認められて予算もがっぽがっぽ。ね、いいでしょ? お願い〉
『じょ……じょじょじょじょじょ、冗談じゃない!!!! 誰がそんな別府となど……ふざけるのもいい加減にしろ!!』
〈ふざけてなんかいないわよ。大真面目な話だもん。ね、別府君はどう?〉
「俺は玲緒がヒロインやるんなら、やってもいいけど。つーかやりたい」
『くっ……この馬鹿が……オレはゴメンだ。そんな話』
〈別府君はああ言ってるんだしさ。ねえ、お願い〉
「いいだろ、玲緒。一緒にやろうぜ。また俺んちでメイドの役作りやってもいいし。てか、俺も今度は付き合いじゃなくて主人としての役作りをきちんとやらないといけないしな」
『やっ……役作り……(//////////) オ、オレはその……もうやらんぞ、あんな事。にっ……二度とやらないからな!! いいか。絶対にだ。絶対にやらないからなっ!! 分かったなっ!!』

〜おしまい〜


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