・ツンデレとクリスマスプレゼント その1

 日曜日。友田さんと約束したとおりに、私は駅で彼女を待っていた。
『それにしても……何考えてるんだろう?』
 以前、友田さんとフミちゃんと3人でショッピングに出かけた時に買った――というか、
薦められて半ば強引に買わされたというミニスカート。あれを今日、履いて来るように言
われたのだ。

 『委員長、まだ、あれ履いたことないでしょ。どうせ』
 『どうせって何よ…… まあ、確かに、その……まだ、一度も履いてないけど……』
 『日曜日にさ。あれ履いて来なよ。せっかく久しぶりにお出かけするんだし、ちょっと
はオシャレしてさ。ね?』

 言われるがままに履いて来たはいいが、何の意味があるのかさっぱり分からない。そも
そも、買い物の時にファッションショーよろしくいろんな服を着させられてあーでもない
こーでもないと、フミちゃんと二人で散々品評会をやったのに、今更みたいも何もないだろう。
『あー。やっぱり、履いて来るんじゃなかったかなあ……』
 スカートから出る脚を見て思う。スパッツを履いてごまかしてはいるものの、そうそう
脚の太さは隠せるものではない。
――やっぱり……似合ってないよね……
 思わず、ため息が出る。
――これでも、自分なりには頑張ったんだけど……なぁ……この格好……別府君が見たら、
どう思うかな……?
 やはり、想いはそっちに向かってしまう。もし、これが別府君とのデートだとしたら――
何か、すごく微妙な顔つきをされそうな気がする。で、その後で笑顔になって、可愛いと
か似合ってるとか言ってくれるんだろうけど……あくまで、礼儀として……
 そこまで考えて、私は頭を振って妄想を追い出す。
『いけないいけない。別府君と……デート……なんて、それこそ有り得ないもん……』
「俺がどうかしたって?」
 私の呟きに、覆いかぶさるようにして、別府君の声が聞こえる。私は慌てて、脊髄反射
的にそれを否定した。


163 名前:ツンデレとクリスマスプレゼント その1 2/5[] 投稿日:2007/12/24(月) 22:07:44.14 ID:aWTwNNq60
『別に、別府君なんてどうもしてないわよ――って……え?』
 自分の言葉で、あらためて私は、目の前の男の子をマジマジと見つめてしまった。
「え? 何だよ、一体。俺……何か、おかしいか?」
 当惑して、彼が聞き返す。私は、頭の先からつま先まで眺めて確認した。いや、あらた
めて確認するまでもないのだが、一瞬、自分の見た事が信じられなかったからだ。
『……別府君……よね?』
「当たり前だろ。他に誰だってんだよ? ていうか、委員長、寝惚けてる?」
 よほど私の様子がおかしかったのだろうか。別府君の問いに、私は慌てて首を振った。
『寝惚けてなんてないわよ。ただ、その……何で、ここにいるのか……不思議に思ったから……』
 そう言うと、彼は意外そうな顔をした。
「何言ってんだよ。クリスマスのプレゼント買いに行くからだろ?」
 私は思わず、ポカンと口を開けて彼を見つめてしまった。頭の中で、パズルのピースが
猛烈な勢いで組み上がって行く。何で、友田さんがわざわざ私におしゃれな格好をして来
るよう言ったのか、今、ようやく理解出来た。
「もしかして……俺が行く事、委員長は知らなかった、とか?」
 様子がおかしいのを感じ取って、別府君が聞いてきた。私は、小さく頷く。
『今、初めて聞いたわ』
 すると、別府君はペチッと額を叩いて大げさにため息をついた。
「ったく……千佳の奴ってば、何考えてんだか……」
 私は、内心密かに同意する。確か、前にもこんなような事があった気がする。私だって、
何度もやられれば、驚きも動揺もそうそうはしない。
 いや。動揺は……してる、か……
 表面上、冷静さを装う事は出来ているが、別府君の顔を見てからというもの、心臓の動
悸が早くなっているのは否定出来ない。
 だが、疑問に思うこともある。友田さんは確かに、人をからかったり驚かせたりするの
が趣味だけど、同じような仕掛けを二度も三度もやったりはしない。それとも、別にそう
いう意図があったんじゃないとすれば……
『……もしかして、別府君……最初から、友田さんと約束してた、とか?』
 思い当たる節があって、私は別府君に質問した。すると、彼はあっさりと頷く。


164 名前:ツンデレとクリスマスプレゼント その1 3/5[] 投稿日:2007/12/24(月) 22:08:04.65 ID:aWTwNNq60
「ああ。つか、俺と千佳は毎年プレゼントは一緒に買いに行くからな。俺んトコには、委
員長も一緒に行く事になったからって電話で連絡があったけどなぁ」
『……そうなんだ。何となく……分かった気がする』
「え? 分かったって何が?」
 私の言葉を、別府君が聞いて質問してくる。しかし、私はそれを拒んだ。
『何でもない。別に、別府君に言うような事じゃないし』
「分かったってのは、千佳が委員長に言わなかった理由だろ? そんな大層な理由なのか?」
『べ、別に大層な理由じゃないけど、個人的なことだから、いちいち人に言う事じゃない
し』
 しかし、私がいくら断っても別府君は聞くのを止めようとはしなかった。彼はもともと
好奇心の強い性質だから、何でも首を突っ込んで知りたがる傾向がある。
「なあ。それってさ。女同士の秘密、とか?」
『べ、別にそういうのじゃないけど……でもダメだから……』
 こういう時、サラリと嘘が言えないのが私の弱点である。自然ともったいぶったような
態度になってしまい、ますます別府君に興味を抱かせてしまっていた。
「だったら、そんなに隠さなくたっていいじゃん。てか、別に委員長がそう思ったってだ
けで、千佳から口止めされた訳じゃねーんだろ? 別に言ってくれたって問題無いと思う
んだけどな」
『と、とにかくダメなものはダメなの。そんなに気になるんだったら、すぐに友田さんが
来るんだから本人から直接聞けばいいじゃない。仲良いんだから。私に聞かないでよ』
 どうしても言えない、という思いが、私につい、強い口調にさせてしまった。私自身、
その言葉の棘に驚き、思わず口を押さえた。
「ご、ゴメン。気を悪くさせちゃって…… ちょっと調子に乗りすぎたな、俺」
 申し訳なさそうな顔で、別府君が謝ってきた。彼の態度に、私の方こそ済まない気持ち
になる。そもそも私の勝手な想像で、そこまで彼の気分を害する必要など、本当はないの
だ。かと言って、私の考えは絶対に口に出来るものでは無かったが。

――言える訳ない…… 別府君も来るって言ったら、多分私が断るだろうって友田さんが
思ったからだなんて。


165 名前:ツンデレとクリスマスプレゼント その1 4/5[] 投稿日:2007/12/24(月) 22:08:27.06 ID:aWTwNNq60
 そしてそれは間違いではない。私なんていたって別府君に気を使わせるだけだし、現に
空気を悪くしてしまっている。本当に私ってば、いるだけで相手を不快にさせてしまう。
本当にダメな子だ。
 私が黙っているので、普段あれだけおしゃべりな別府君も口を閉ざしてしまっている。
何かここはフォローを入れた方がいいとは思うが、何て言えばいいのだろう。
『あ、あの……別府君?』
「ん? 何? 委員長」
 ヤバイ。考えがまとまる前に話しかけてしまった。私は脳みそを必死でフル回転させて
言葉を探す。
『その……やっぱり、気にしてる?』
「気にしてるって……さっきの事か? そりゃ、まあ……委員長を、怒らせちまったし……」
 その言葉は、むしろ私の心にチクリと痛みを感じさせた。というか、フォローしようと
思っているのに、お互いの痛いところを同時攻撃してどうする。私は、勇気を出して言っ
た。
『そっ……その……そんなに、気にしないでいいから』
「え?」
 別府君が聞き返す。私は、勢いでそのまま一気に言葉を続けた。
『だから、さっきは……別府君がしつこいから、ちょっとイラッと来たけど、でも、もう
いいから……その……私も、別に怒ってないから……』
「そっか。良かった。何かさ、ずっとムスッとした顔してたから、何て言えば許して貰え
るか、考えてたんだぜ」
 別府君がホッとしたように笑顔を見せた。それにしても、私、そんなに不機嫌そうな顔
だったんだろうか?
『別に……普通にしてたつもりだったんだけどな』
 そう呟くと、別府君が慌てて弁解を始めた。
「違うって。委員長がそんな、不機嫌そうな顔だったっていうか、俺の方にやましさがあ
ったからそう見えただけで、だから委員長はそんなに気にする必要は無いって」
 一生懸命否定する別府君が何だかおかしくて、私は小さくクスッと笑ってしまった。
『いいわよ。別に気にしてないし』


166 名前:ツンデレとクリスマスプレゼント その1 5/5[] 投稿日:2007/12/24(月) 22:08:49.87 ID:aWTwNNq60
「そうかなあ。ま、委員長がそういうならいいけどさ」
 別府君はイマイチ納得がいってないようだった。と、いうことは、私が小さく笑ったの
は気付かれなかったのか。よく、私はいつもムスッとしてるってからかわれるが、どうや
らこんなところでも影響を及ぼしているらしい。気をつけないと、別府君を不機嫌にさせ
てしまうかもな。
『ところで……友田さん、まだ来ないわね』
 いつまでも引きずる話題でもないので、私は話を変えた。というか、この微妙な空気を
変える為にも、是非とも来て欲しかったのだが。
「そうだな。まあ、まだ二分程あるけど、たいていは、十分前には来る奴だからなあ」
 急に話しを変えたので、一瞬戸惑ったようだったが、すぐに別府君も同意する。
『電話してみたら? 何か都合が悪くなって遅れるとか……』
 私がそう提案すると、別府君は首を捻った。
「うーん…… 考えにくいけどなあ? まめに連絡して来る奴だし。まあ、ちょっとして
みるか」
 そう言って別府君が携帯をコートのポケットから出した時、彼の携帯が軽やかな着信メ
ロディを鳴らした。
「お? 噂をすれば千佳からだ。何だアイツ。遅れるってんなら、普段散々言われてる分、
めちゃくちゃ嫌味言い返したるぞ」
『それは、別府君がしょっちゅう遅刻してるからでは……』
 私はつい、余計なコトを口にしてしまった。後悔するよりも早く、別府君が反論してく
る。
「学校はよく遅刻するけど、待ち合わせはちゃんとしてるぞ、俺」
 ヤバイ。気分悪くさせたかな、と私は後ろめたい気分になる。が、弁解する暇もなく、
彼は電話に出てしまった。
「もしもし、千佳か? って、ハローじゃねえ。何やってんだよ。もう時間だろが。は? 委
員長なら、今、一緒だけど。それがどうしたんだよ?」
 別府君の声が途切れる。友田さんの話しを聞いているようだ。と、急に別府君が大声を
出した。
「来れない!?」
 私は思わず、肩をビクッと竦めて、別府君の様子を伺った。


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