・ツンデレとクリスマスプレゼント その15

――あぁ…… 和むなあ……
 可愛らしいキャラクターの貯金箱やら、オシャレな目覚まし時計やら、プランターやら
その他、役に立つんだか立たないんだか良く分からないような品々に囲まれて、ボーッと
それらを見ていると、ようやく私の心も落ち着いてきた。
 どうやら私は、可愛い物系にはかなり弱いらしい。見ているだけで、頬が緩んで来るの
が感じられた。
――何なんだこれは? パソコンにくっ付けると腰振るだけの犬とか……意味あるのか?
あ、黄色いネズミ可愛いーっ!! ほ、欲しくなっちゃうけど、買ったらプレゼント買え
ないもんなあ……あぅぅ……
 他にも、全く無駄なお風呂用グッズの数々とか。ただでさえ長風呂な私が、ますます風
呂から出て来なくなっちゃいそうな感じがする。
――いい年して、私って子供みたいかも……
 そうは思っても、好きなものは好きなのだから。
――あ。この小物入れとかは結構シンプルでいいかも。
 何だか、自分の買い物をしているみたいで、ウキウキしてくる。
――と、いけないいけない。今はプレゼント選びをしているんだっけ。真面目に見ないと。
 しかし、聞いた話だと自分が欲しい物でいいという話だし、こういう可愛いもの系もあ
りなのかも。
 ふと、私は、こういう女の子が喜びそうな品を別府君が当たったら、どんな顔をするだ
ろうかと妄想してみた。意外に喜ぶ……なんて事は無いな。うん。きっとすっごく渋い顔
をするんだろう。

 「それでも……委員長がくれたものだしな。大事にするよ」

――とか何とか言ってくれたりとか…… ないないない。そんなの、あるはずないわよね。
 緩みそうになる顔を、ゴシゴシと擦って正気に戻そうとする。
――そっか……私のプレゼントが、別府君に渡る可能性もあるのか……
 これは少し、性根をいれて真面目に考えた方がいいかも。腕組みをして、私は首を捻った。

――うーん。別府君が好きそうなもの……ライダーとか、戦隊のおもちゃとか? それは
きっと喜ばれるだろうけど、もし他の人……友田さんとかに渡ったらシャレになんないし、
何より私がそういうのに興味を持っているかと誤解されちゃうだろうし。だからといって、
私の趣味に走り過ぎたら、フミちゃんや友田さんはいいけど、別府君や山田君は嫌がるだ
ろう。何より、山田君なんて、窓から投げ捨てそうだ。
 プレゼント選びも終盤に来て、今まで見たものを脳からひっくり返しつつ、私は思案を続ける。
――いっそお役立ちグッズとかは……まあ、よく分からない形のイマイチ用途も分からな
いようなオブジェとかはあるけど、私は別に欲しくないしな……
――別府君が喜ぶもので、なおかつ、私の趣味に合うものかぁ……

 「へぇ……いいな、これ。委員長、ありがとう」
 『す、捨てたり、ほったらかしにしたりとか……しないでよね。ちゃんと、その……大
切に使ってよ』
「当たり前だろ。委員長のプレゼントだもの。ていうか、何気にこういうのも欲しかっ
たしさ。宝物にするよ」

――なんてこと……言われちゃったりとか……
 そこで私は、ハッと正気に返る。
――ああ、もう!! 妄想止め止め!! 大体、別府君にプレゼント出来るって決まった
訳でもないのに

 ブンブンと頭を振って、思考をフラットに戻す。
 そこで私は、重大な事を忘れていた事に気が付いた。
 そう。今は、別府君と一緒だということを。
――ま、まずいっ!!
 私は慌てて後ろを振り向いて、別府君の姿を探した。あんなデレッとした、みっともな
い顔を見られたら、またからかいの格好の材料になってしまう。こうなっては別府君が見
ていない事を祈るしかなかった。

――あれ……あれ?
 しかし、いくら周囲を見渡しても別府君の姿は無かった。と、いう事は、今の私の姿を、
彼は見ていないということだ。
――あ、危なかった……
 しかし、ホッとしてばかりもいられない。
『別府君……どこ行っちゃったんだろう?』
 もしかして、私が熱中しているのに飽きて、どこか行ってしまったのかもしれない。も
う高校生だし、はぐれることは無いと思うのだが、それでも私は気になって仕方が無かった。
 しかし、捜索は、苦労する事無く終了した。
『あ…… あんな所に』
 すぐ近くの、一番最初に通りがかったゲームコーナーの手前。そこに別府君がいて、周
りに子供も二人ばかりいる。
『何やってるんだろう? 別府君てば……』
 私は、一旦プレゼント選びを打ち切って、別府君の傍へと行く事にした。
 傍に近づくと、どうやら最新型ゲーム機の試遊機が置いてあり、別府君はどうやらそれ
に夢中になっているようだ。
『別府君』
 私が声を掛けると、彼はゲームをポーズ状態にしてこっちを向いた。
「あれ? 委員長。もうあそこはいいのか?」
 全く悪びれる様子の無い彼に、私はちょっと、ムッとした顔をして見せた。
『いつの間にかいなくなってるんだもの。探したわよ』
 すると別府君は、え?という表情をした。
「すぐ近くだからいいかなーって思ってたんだけど。そんなに探した?」
『べ、別に探したって程じゃないけど……ちょっと、びっくりしたから』
 そう言って抗議すると、別府君は申し訳なさそうな顔をして謝った。
「ゴメンゴメン。ちょっとさ。PS3があったから、遊んでみたくて。心配させちゃったな
ら、ゴメンな」
『そ、そんな……心配したって程でもないけど……』
 私はちょっと照れ臭そうに、視線を逸らし、俯いて答えた。その途端、別府君がいきなり叫ぶ。

「はい。ストップ!!」
『え? な、何よ……?』
 思いがけない言葉に、私はドキッとした。別府君はニコッと笑ってそれに答える。
「ダメだって。そこで下向いちゃ。さっき、俯くのは無しって言ったじゃん」
 うっ、と私は言葉に詰まる。恥ずかしいような、悔しいような、そんな訳分からない感
情がグワッと込み上げてくる。
『い、今のはその……ちょっと下向いただけじゃない。別に落ち込んで俯いた訳じゃない
んだし……』
 そう言って言い訳をするが、別府君にあっさりとそれを否定させた。
「ダメだって。委員長はすぐに顔を下に向けるクセがあるんだし。今日、俺と別れるまで
はそれは禁止な。さっき約束しただろ?」
『そ、そんな事言ったら、服装直したりするのはどうするのよ。下向かなきゃ出来ないじゃない!!』
 別に別府君がそんな事を言っているのでは無い事は分かっているが、腹立ち紛れに私は、
変な難癖を付けてしまう。そして、案の定、別府君から一蹴された。
「そんなトコまで揚げ足取るつもりは無いって。それに、別に罰則とか無いんだから、何
でもかんでも禁止するつもりは無いって」
『だったら今のだって……』
 別に俯いた訳じゃない。そう言い訳の足掛かりにしようとしたが、別府君に先を越され
て言われてしまった。
「今のは弱気オーラ出まくりだったって。俺のコト心配して無いなら、それはそれで自信
持ってそう言ったっていいんだしさ」
 私は、また言葉に詰まり、下を向きそうになる。しかし、それを必死で堪え、代わりに
別府君をキッと睨みつけた。
『わ、分かったわよ。こうやって……その……顔を上げてればいいんでしょ?』
「あんまり怖い顔で睨まれてもヤダけど……まあ、そういう事だな」
 ひとまず、納得した様子で別府君はコントローラーを手に取る。
「どうする? もう行くなら俺は別にいいけど」
 私の方を向いたまま、様子を窺うように別府君は言った。しかし、私はふと、視界に入っ
たゲーム画面が気になった。
『別府君……何のゲームやってたの?』

 すると、別府君はチラリと画面を見やってから、また私の方を向いた。
「ああ。戦争ゲームだよ。こう……一人称視点で、銃持って敵を殺していくヤツ」
 私でも分かるように、ごく簡単に別府君が説明してくれた。
『ふうん……』
 何となく、その画面が気になって、私はジッと見つめていた。というか、これは本当に
ゲーム画面なのだろうか? 私は、全くと言っていいほどゲームはやらないので良く分か
らないが、見た感じだと、まるで本物のようにしか見えない。
「興味あるの?」
 そう聞かれて私はドキッとした。本当の事を言えば、別府君の興味がある物はとりあえ
ず知りたいと思っているせいか、無意識に画面に目が行ったのだが、そんな事は言えるは
ずもない。
『戦争ゲームとかは別に…… ただ、画面が綺麗だなって思って……』
「最近のヤツは3Dだから、相当綺麗だよ。ていうか、ゲームの中身より、そっちに力入れ
てる感もあるけど」
『ふうん…… 何か……良く分からないけど、凄いのね』
 それには私は素直に感心してしまった。何と言っても、私の中のテレビゲームなんて、
小さい時に親戚の家で見た、2頭身のキャラクターがピコピコ言いながら跳ね回ってる記憶
しかない。
 そんな事を思い出しながら画面を見つめていると、別府君が言った。
「ちょっとやってみせようか?」
 別に断る理由も無いから素直に頷く。
「よっしゃ。そんじゃあ、ちょっと見ててくれよ」
 そう言うと、別府君はコントローラーを構えて画面に向かった。その言葉が、何だか嬉
しげに聞こえる。もしかしたら、女の子の前だから張り切っているのだろうか? もし、
そうなら少し嬉しいかも。何故なら、私みたいなのでも、いい所を見せたい女の子、の対
象に入っているのだから。
 スピーカーから、爆発音と銃の乱射音が鳴り響く。
 別府君が扱うゲームの中の兵士は、順調に敵の兵士を殺しつつ、先に進んで行く。
『へえ…… 別府君。こういうの、上手いんだね』

 何とはなしに、私はボソッと小声で感想を漏らした。それを聞いて別府君は、こっちを
向いて、ニコッと笑う。何となく、嬉しそうに見えたのは、私の気のせいだろうか。
「まあ、好きだからね。バイト始めたのも、最初はゲームソフト買うのが目的だったし」
 私は、無言で別府君を見つめた。複雑そうな操作を簡単にこなしていとも簡単にゲーム
を進める彼の姿に、ちょっと見惚れてしまう。
「けど、最近はさ。本体そのものが高すぎて、こういう高画質なゲームは、ちょっと買え
ないんだよな。まあ、大学に無事に合格すりゃあ、もうちょっと割のいいバイトをして、
金溜められるかも知れないけど」
『ゲームばかりやってて、勉強おろそかになったりとか……しない?』
 何だか、ちょっと心配になって、つい余計な事を聞いてしまった。というのも、私自身
も、本を読んだりしていると、ついつい時を過ごしてしまう事があるから。
「ああ。あるある」
 説教臭い事を言ったにもかかわらず、特に気にする様子も無く、笑顔で返事をして来た。
「けど、さすがに最近は親がうるさくてさー。ゲームするならリビングのテレビで時間決
めてやれって言われて、自分の部屋から取り上げられちまったんだ。まあ、確かにその方
がいいんだろうけど、親に見られながらじゃ落ち着いて出来ねーしなあ」
 弱り果てたような口調で言う別府君が、ちょっとおかしい。
『でも……それって、自業自得のような気もするけど。別府君てば、遊び出すと止まらないから』
 普段の別府君の様子を思い起こして、つい、厳しい指摘をしてしまった。
「チャー…… 委員長、相変わらず厳しい事言うなあ……」
 右の手の平で両目を覆い、別府君は天を仰ぐ。
「まあ、確かに仰るとおりなんだけどな…… 今も、こうやって女の子ほっといてゲーム
してるし」
 そのまま、後頭部に手をやってボリボリと掻く。どうやらこの行為は、困った時の彼の
クセらしい。うん。親しくお付き合いさせて頂いてから――と言っても、あくまでクラス
メートの範囲だが――半年以上にもなるが、また新発見をしてしまった。こうやって、別
府君の事を一つ一つ知っていくというのは、ちょっとワクワクする。
『べ……別に、そんなの気にしないでいいわよ。待たせてた訳じゃないんだし……私は、
その……別府君が何してようが、大して気にしてないから』

「そ、そっか。そんならいいんだけどさ……」
 フォローするはずの一言に、余計な一言を付け加えてしまった。何で、こう私はいつも
いつも、反発するような事を言ってしまうのか。それも別府君に限って。
 案の定、彼は困ったような苦笑いを浮かべている。私は、聞こえないようにため息を付
き、彼から視線を逸らしてうつむ……いちゃいけないんだった。何気にこの縛りは結構厳しい。
「やってみる?」
 突然の提案に、私は驚いて別府君に視線を戻した。


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