・ツンデレとクリスマスプレゼント その2

「フン……フン……て、それは分かるけどさ。こっちはどうするんだよって、二人で? え、
いや、俺はいいけどさ……」
 どうやら、友田さんは来れないらしい。別府君の様子を見るに、ちゃんとした理由があ
るのは間違いないようだが、そうなると、今日、プレゼントを買いに行くのは私と別府君
の二人だけってことになってしまう。
――二人っきりで!?
 私の全身が一気に、熱であぶられたように熱くなった。心臓がバクバクと音を立てるの
が感じられる。
――ふ、二人っきりでなんて、ダメよそんな……デートみたいなコト……って、デート!?
 その言葉は、熱く燃え上がった私の心に油を注いだような感じで、もうどこからか火が
そのまま吹き出そうな、そんなくらいにまでなってしまった。
――別府君とデートなんて、そんな、そんな……そりゃ、二人きりで一緒に帰ったりとか、
ちょっとお茶したりとか、そのくらいならあったけど、でも、一日中二人でなんて、そん
な……あああああ……
 頭の中が同じところをグルグルグルグルと駆け巡る。デートの中身とか、そんなものは
一切考えられなかった。ただもう、成り行き上とはいえ、別府君とデートになってしまっ
たという、その事実が、私の頭の中を全て支配していた。
「委員長、委員長」
『え? きゃっ!?』
 ツンツンと突付かれて、私は思わずビクッと体をよじらせた。視線の先に、別府君のちょっ
と困った表情が入る。
「悪い。何か考え事してる最中に邪魔して」
 躊躇うような彼の態度に、私は慌てて手を振ってそれを否定した。
『べっ、別にたたた、その、大した事考えてた訳じゃないから!! で、その……何?』
 そうやって聞いてはいても、頭の中はこれから……というより、今のこの状況で頭が一
杯でボーッとしている。
――これから……別府君と……デートなんだ……
 どう見ても、私なんかじゃ釣り合わないほどカッコいい。うん。こんな人と隣り合わせ
に肩を並べて歩けるだけでも信じられないって言うのに。
「その……何か、千佳の奴、急用が出来て来れなくなったらしいんだ」
 別府君の言葉に、私は小さく頷いた。
『うん。電話……その、別府君の様子で大体分かったけど、でも、何で?』
「ああ。何でも詳しくは言わなかったけど、兄貴絡みらしいから、まあしょうがないかなって」
『そうなんだ……』
 私は小さく頷いた。ちなみに、別府君のお兄さんと言うのは、大学生で友田さんの恋人?
である。良くは知らないのだが、理系の学生と言うのは忙しいらしく、会える時間が少な
いので友田さんがそっちを優先すると言うのなら仕方ないのかも知れない。
――で、でも、そのせいで私たちまで……ううん。私にしてみれば願ってもない幸運なん
だけど……こんな急にだなんて、心の準備とか全然してないし……服装だって、もっとも
っと時間を掛けて、ってまあ、私がおしゃれしたところで馬子にも衣装なんだけど、それ
でも、せめてマシな状態に……
「で、どうする?」
 別府君の問いかけに、夢見心地な私の考えが破られる。
『ふぇっ!? な……何が?』
「だからさ。千佳が来れないって言うんなら、俺たち二人だけになっちゃうだろ? 委員
長はいいのかなって思って」
『なっ……何で、そんなこと聞くの?』
――私に言わせるなんて、酷すぎる。ただでさえ、恥ずかしくてしょうがないのに、別府
君と二人っきりでいい、なんてそんな言葉、口に出せる訳ない。はっきり言ってイジメだ。
 しかし私は、ここで思い直した。
――別府君は、きっと全く意識してないから、だからきっと、そんなつもりはないんだろ
うけど……
 しかしやはり、私の口から一緒にいたい、とか、そんな言葉は出せなかった。
――もっと、きっぱりとリードしてくれればいいのに……
 そう思いつつも、やはり、時には無神経なまでになっても、私のことを気遣ってくれる
彼だからこそいいのかも知れないと思い直したりもする。
 別府君は、質問に質問で返したにもかかわらず、ちゃんと考えて、答えを言った。
「いや。だからさ、そもそも委員長がプレゼントにどんなのを持っていけばいいか分から
ないって言ったから、千佳がアドバイザーになるって言ったんだろ? だけど、その本人
が来れなきゃ、意味なくねって思って」
 そう言われて、私は考え込んでしまった。確かに、そもそもは友田さんと二人で行くつ
もりだったのに、その当人が行けなくなってしまい、行く予定のない別府君と一緒と言う
のはおかしな話かもしれない。
――でも……
 私はチラリと別府君を盗み見た。
――せっ……せっかくの……チャンスなのに、中止とかそんなのは嫌だ。
『べ、別府君はその……どうなの?』
「へ?」
 この期に及んで卑怯な私は、またしても彼に答えを投げ返してしまった。
『その……別府君は、今日……中止にしたい?』
「いや。俺は別にどっちでも……つーか、その、委員長がいいって言うんならその方がい
いけど、どのみちダメでも一人で行こうかなとは思ってるし」
 あっさりと返ってきた答えに、何だか気の抜けた思いがする。私と一緒の方がいいと言
うのは、社交辞令の類だろう。けれど、どちらでもいいと言われてしまった以上は、私が
自分で決断する、というか、答えを言うしかない。
 私は覚悟を決めて、勇気を出して答えた。
『わっ……私も、その……一緒でも…………かっ、構わないけど……』
 いい、と言えず、構わない、と言ってしまう辺りが自分の心の弱さだと痛感する。しか
し、別府君は何故か、ホッとしたように笑った。
「そっか。良かった。俺は、その……委員長と一緒の方が良かったから」
 その言葉に、私の胸がズキンと痛んだ。嬉しくて死にそうな言葉に、私の心は舞い上が
りそうになる。
――いやいや、ちょっと待て、私。あれは多分一人よりは二人の方がいいってだけで、別
に私じゃなくても、例えばフミちゃんや山田君とかでも同じ事を言うんだろう。うん。そ
ういう意味だと思う。というか、私だから、何て思い上がりも甚だしいし……
 いつものように、理性が喜びに水を差す。けれど、それでも今の私の喜びが減じる事は
なかった。少なくとも、こんな私でも一緒にいた方がいいって思ってくれてるんだから、
今はそれだけでも十分だ。
 しかし、私は照れ隠しについ、余計な事を言ってしまった。
『わっ……私は別にその……せっかくここまで出てきたんだから時間がもったいないし……
それに、来週だと、もうギリギリになっちゃうから余裕を持っておきたいって、ただそれ
だけだからね』
 口に出してから、またすぐに私はどうしてこんな事を言ってしまったのかと後悔する。
せっかく良さ気になった雰囲気を壊してしまうと言うのに。
 だが、別府君は素直に言葉どおりにそれを受け取ってくれた。
「確かにそうだよな。ったく千佳の奴……もっと早くに連絡しろっての。なあ?」
『ま、まあ……急に決まったんなら、仕方ないんじゃない?』
 私は思いもかけず、友田さんを擁護した。私だって、別府君と会う為だったら同じ事を
するかも知れないし。それに、私だって二人っきりだなんて今後二度とないかも知れない
機会なんだし。
「そっか。まあ、委員長が気にしてないんだったらそれでいいけど」
 どこかぶっきらぼうな口調で別府君が言った。それから、笑顔になって私に言う。
「とにかく、そういうことならもう行こうぜ。いつまでもここにいても時間の無駄だしな」
『うん。それじゃあ……』
 私が頷いた時、バッグの中の携帯が鳴った。
『あ。別府君。ちょっと待って』
 私は慌ててゴソゴソとバッグから携帯を取り出す。
――メール? 誰からだろ。
 メールなんて後からでも良かったが、何となくその場で私は開いてみた。
――友田さん? 何だろ?
 送り主が友田さんであることが気になりつつ、私は本文を読んでみる。

[やっほー。今日は約束破ってゴメン(-人-) でもでも、委員長的にはその方がいいでしょ? 
タカシと二人っきりで、デ・エ・ト、だもんね(*´∀`*) やっぱりお邪魔しちゃあマズイ
かなあ、なんちて゚。(*^▽^*)ゞ いやー。羨ましいねぇ。憎いよっコイツゥ( *^)/☆(+。+*)キャッ 
んじゃ、まあ、報告楽しみにしてるよーっ。休み明けに、フミちゃんと二人で洗いざらい
白状させるからね。覚悟しておくよーに。ぢゃあ、頑張ってねーっ!! p(#^▽゚)q ファイトッ]

 私は、携帯を握り締めたまま、フルフルと小刻みに体を震わせながら、その場に立ち尽
くしていた。


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