十二

風がおさまった。
幻想的な風景は一瞬の間のことで、辺りは再び穏やかになっている。
そんな、どこまでも続く花達の中、かなみはそのどれよりも静まっている。

「……」

ふわりと、優しく花がゆれた。
そして気がつくと腕の中には、愛しい人の姿。

「か……、かなみ?」
「………………ばか」

てのひらが行き場をなくしてさまよっている。
その下で、かなみの肩は小さくふるえていた。

……泣いて、る?

「……かなみ?」
「…………っ」

抱きしめてくる手に力がこめられる。きついくらい。つよく、つよく。
もう離すもんかとばかりに。

「…………返事が遅いのよ、ばか」

そしてようやく上げられた顔には、あふれ出した笑顔と、なみだ。
それを見て、さまよっていたてのひらが行き場を見つけた。
抱きしめる。愛しくて抱きしめる。
抱きしめる手に力をこめる。きついくらい。つよく、つよく、つよく。

「……タカシ、ちょっと、きつい」
「わ、わるい」
「……もう、ばかなんだから」

ほおを軽くふくらませてにらんでくる。

「だから、わるかったって」
「……まったくもう」

でもそれもすぐに崩れて、

――――ちゅ

「…………!!」
「…………えへへっ。……しちゃった」
「かなみ……」

また、抱きしめられる。

「ずっと、護ってよね」
「……ああ」
「ずっと、ずっとだよ」
「……ああ」
「もう、絶対に」
「……ああ、絶対に」

――――離さない

そうして、二つの影は一つになった。
花びらは舞う。二人を祝福するように。ひらひらと、ひらひらと。
一度離れた二人が、もう二度と離れないように。ひらひらと、ひらひらと。


前へ / トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system