「タカシ、町に行くわよ。ついてきなさい」
「は! しかし何のご用事ですか? 買い物でしたら使いの者を……」
「いいから黙ってついてくる!」
「は!」
(タカシと一緒に町を見て回りたいだなんて、言えるわけないじゃない……)
「あ、それから」
「なんでしょう」
「『お忍び』なんだから、私を『姫』って呼ぶのは禁止よ」
「承知しました」
(ふふ……。タカシは何て呼んでくれるかな)


「タカシ、あのこじゃれたお店は何かしら」
「あれはカフェですね。お茶やお菓子を口にしつつ、のんびり過ごす為の場所です」
「のんびり……ね。私の性には合わないかな」
「お嬢様のお好きなベリーのタルトもあるようですが?」
「! さぁ、タカシ。のんびりタルトで過ごすわよ!」

「姫……現金ですな……」


「へぇ……変わった香りのお茶ね」
「お嬢様が普段お口になさるものは城……お屋敷で定められた特別な物ですからね。
 それらは庶民の手には届かないものですが、逆にこういったものが珍しく感じるのかもしれませんね」
「そうね。でも、私これ好き。タルトも美味しかったし」
「ご満足なさったようで何よりです。お嬢様」
(でもなんで『お嬢様』なのよ。それじゃ大して変わらないじゃない!)
「別に、名前で呼んで欲しいってわけじゃないんだからねっ!」
「お嬢様?」
「え? あ、ななななんでもないわよ」
(小さい頃は普通に接してくれたのに……。タカシにとって、私はやっぱり『お姫様』でしかないのかな……)


「んー! 今日は楽しかったわ。ありがとね、つきあってくれて」
「いえ、とんでもないございません。姫のご要望を可能な限り叶えて差し上げますのも私の務めですから」
(そうよね……。タカシはあくまで近衛騎士としてついてきただけなのよね)
「ねぇ、タカシ。タカシにとって、私は何?」
「かなみ姫は私が全力を賭してお守りする……」
「そうじゃなくて! 私は、タカシの友達じゃないの?」
「とんでもありません。お友達などと、そのような身分違いな立場にはございません。姫に命じられました通り、私は『家来』でございます」
「……。そう。そうよね。馬鹿なことを訊いたわ」
「姫?」
「なんでもないわよっ! じゃあね!」
「あ……」
(馬鹿っ! タカシの馬鹿! 子供の頃、いつまでも友達だって約束したじゃない! それなのに……!)


「タカシ殿」
「はい。……ああ、姫のおつきの……」
「じいとお呼び下さいませ。それはさておき、一つお尋ねしてもよろしいですかな」
「なんでしょう」
「姫様のお気持ちにはお気づきですか?」
「……」
「幼少の頃タカシ殿と出会って以来、姫様はあなたをずっとお慕いしておられたようでございます。
 姫様はあのように素直になれないお方ですが、今でもあなたを……」
「……わかっています。ですが……」
「タカシ殿……」
「だって、仕方ないじゃないですか! かなみは姫で、俺は所詮平民上がりの騎士だ! 俺だって……」
「タカシ殿……」
「俺だって、ずっと好きだったんだ。でも……」
「そうでしたか……」
「……。失礼します」

「じいの出る幕ではなさそうですな……」


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