第14話「はじめての…(前編)」

12月。小鳥遊町にも冬が訪れ、肌を刺す冷たい風が吹き付けるようになった。
そんな中、この町にある唯一の高校である小鳥遊高校。
そこの制服の赤白青のトリコロールカラーのブレザーに身を包んだ俺は、学校からの帰り道、とぼとぼと歩いていた。
スポーツ刈りの髪に童顔気味の顔。俺の外見を説明するなら、その程度の言葉で事足りる。
要は1つの学校に一人は居る典型的スポーツ少年。それが俺だ。
と、名前を言ってなかったか。
俺の名前は九重 八郎太。つい最近パシリからレストラン『Bird Nest』の非常勤従業員に格上げされた。
呼び名が変わっただけの様な気もするけど。
「どうすっかなぁ…デートなんてした事ねえよ…」俺は溜息をつき途方に暮れる。
そう。俺は明日、デートに行く。相手は、同店でウェイトレスとして住み込みで働いている七々名 奈那。
1年前まで同じ孤児院で育ってきたアイツを、俺は気がついたら…好きになっていた。
つってもまだ告白してないし、周りの人間にも隠してる(間違いなくあのクサレ店長にはバレてるが)。チキンと呼ぶなら呼べ。
そんなアイツが先日、失恋した。奈那のヤツ、今は普通に働いているけど、きっとショックを受けているに決まってる。
アイツはああ見えて健気だから、皆に心配をかけないよう、何でもないように振舞っているに違いない。
そう思った俺は、少しは気晴らしになるかと、勇気を振り絞って「今度の休みに一緒に街に出かけないか」と話を持ちかけたんだ。
クリスマスシーズンになって休み日が無くなる分、その休みを取らせてもらえるらしい。土日に休めるのはそういう理由からだ。
その程度で『勇気を振り絞って』なんて大げさだって思うかもしれないが、俺はその時清水の舞台から飛び降りるような気分だった。
奈那は2つ返事でOKしたが、そこからが問題だった。っつーか、テンパってた俺は完全に失念していた。
さっきぼやいた言葉の通り、俺には『異性とデートをする』と言う経験が全く無かった。
奈那と遊んだ経験が無いわけじゃあないが…
それは異性として意識する前、しかも孤児院のガキンチョ共と一緒だから、状況が全く違う。なにせ、2人っきりだ。
そう言う訳で、俺は奈那と何処に行って何をしたら良いのかが全然分からず、溜息をついていたというわけだ。

幾ら悩んでも出てくるのは溜息ばかり。
このままではいたずらに地球上の二酸化炭素の量を増やすだけだ。
ならどうするか。
答えは簡単、自分で考えても分からないなら誰かに聞けば良い。
だけど、クラスの連中に聞いてもからかわれるだけだし、孤児院のガキンチョ共じゃハナシになりゃしねぇ。
仮に参考になる話が聞けたとしても、小学生や中学生にデートの相談に乗ってもらうってのは、どうかと思う。
すると、相談相手は自然に絞られる。非常勤ではあるが一応バイト先の、『Bird Nest』の連中しかいない。
年上だから、俺よりは少なからず経験豊富だろうし、信頼できる人間ばかりだ。
ただ1人、性格の歪んだあの店長を除けば、だが。奈那は一体なんでアレに惚れてたんだろうか…
何はともあれ、俺はとりあえず一番信頼の置けそうな副店長の、五代 剛の家へと向かった。
しばし歩くと、少し大きめの小綺麗な白いマンションが見えてきた。
連絡先として教えられた住所が正しければ、このマンションの部屋に住んでいるはずだ。
階段を上りひとつの部屋のドアの前に立ち、インターホンを鳴らす。
………………………中々出てこない。
出かけているのだろうか、と一旦引き返そうとした矢先。ドアが開けられた。
「ちわっす」とりあえず挨拶する俺。
「む、ハチか。遅くなってスマンな」その言葉とともに190cmを超す巨体が顔を出す。
つくづくデカイなぁ、この人。つーか俺の呼び名はハチで固定かい。
そんな事を考えた所為で、彼が出てくるのに時間がかかった理由に気付けなかった。
その事を、俺はとても後悔することになる。

「いえ、別に良いんですけど…ちょっと相談したい事がありまして」
「ふむ、俺に相談?まあ此処で話すのもなんだ。上がっていくと良い」穏やかな声で俺に言ってくる剛さん。
「凛も来ている。もし不都合が無いのなら、彼女にもその相談事とやらを話すと良い」
「寧ろ俺よりも良い意見が聞けるかもしれん」
そうかそうか先輩も居るのか、それは頼もしい。
それじゃ早速中に上がって相談に…ちょっとマテ。
「…く、草薙先輩が、いるんで、スか?」聞く俺。
声が震えてるのが自分でもよく分かる。
「ああ。明日休みだからな。泊まりに来ている」素っ気無い答え。と、いうことは。
恋人同士が、愛の巣と化しているマンションの一室で、2人きりで過ごしていた至福の時間。
そんな中訪れた俺って……ひょっとしなくても、お邪魔虫?
その事に気付いた次の瞬間だった。
「…ヒィ!?」俺は思わず小さく悲鳴を上げた。声が裏返っていた。
剛さんの後ろに続く部屋の廊下の向こう―恐らくはリビングだろう―から、こちらを睨みつける人影が。

視線の主は、言うまでもなくウチのチーフウェイトレスである草薙 凛だった。
その視線が俺に訴える事は1つ『帰れ』。
蛇に睨まれた蛙の如く俺の額に脂汗が大量に浮かび、恐怖ゆえの冷や汗が背筋を伝う。
(うわ、怖ぇ、めっさ怖ぇ!これ以上ここに居たら、あまつさえ部屋にに上がりなんてしたら俺は確実に殺される!)
さすがウチの高校のミスコンで優勝しただけの事はある。
なまじ綺麗な顔をしているだけにガン付けの迫力が半端じゃない。
「お、俺お邪魔みたいですし…今日の所は…」おずおずと言いながらあとじさる俺に。
「む?そんな事は無いぞ。遠慮などするな」と微笑を浮かべ言ってくる剛さん。
良い人だ…あんなクサレ店長と長い付き合いなのが信じられないくらい良い人だ。
…でも、気付けよ!空気読めよーーーーーー!!!!!
既に先輩の殺気は、羽虫程度なら近寄っただけで気死してしまいそうなレベルだ。うう、帰りてぇ。
「凛、どうした?」さすがの剛さんも様子がおかしいのに気付いたのか、疑問の声を先輩に投げかける。
「別に、何でもないですよ」拗ねたような声で答える先輩。
「いや、にしては機嫌が悪いようだが…なにか気分を害すような事でもしたか?」イヤだから気付けよアンタも。
「うるさいです。何でも無いって、言ってるじゃないですか」ついにそっぽを向いてしまう先輩。
「…そうか。さあ、ハチ、上がっていけ。俺でよければ力になろう」釈然としないといった顔の剛さんの言葉に、
「は、はひ…」と力なく返事をした。処刑台に上る死刑囚の気持ちがよく分かったような気がした。

覚悟を決めて(と言うか諦めて)部屋の中に入ろうとしたその時。後ろから声がした。
「あれ?ハチじゃない。変なトコで会うわね」
その声に振り向くと、そこにはポニーテールのにした髪に気の強そうな表情。
今は私服だったが『Bird Nest』関係者だったら見間違うわけも無いその人は、
同店のシェフにして理不尽大魔王。六道 六華だった。
「む、今日は千客万来だな。何の用事だ、六華」
「ブンの奴に頼まれたのよ。忘れ物届けてくれってね」六華さんは手に持っていた紙袋を差し出す。
『忘れ物』とやらはその中に入っているらしかった。
「そうか。礼を言う。…だがなぜ文が直接来ないのだ?」紙袋を受け取り、問う剛さん。
「なに、私じゃ不満?」わざとらしく顔を顰めてみせる六華さん。本気で怒っているわけではなさそうだ。
「いちいち喧嘩腰になるのは止せ。お前を使いに出すとは良い度胸…ではなく、アイツらしくないと思ってな」
「なんか仕事残ってるらしくて、ウチの事務所に篭ってるわ」
「ふむ。なら手伝えばやれば良かったのではないか?」
「な、なんで私がブンなんかを手伝わなきゃいけないのよっ…」
「ま、まあ一応『困ってるなら手伝ってやらなくも無い』とは言ってやったんだけどさ」それを聞いた俺は、思わず苦笑してしまった。
目を逸らし顔を微かに赤くして、照れ隠しに尊大な言い方でそう申し出る彼女の様子が目に浮かぶようで。
「なにニヤニヤ笑ってんのよ」それを見た六華さんが俺の頭に拳骨を喰らわせた。結構痛ぇ。
「でさ、それを聞いたブンの奴、なんていったと思う?」
「いや、分からんな」そう答える剛さんはなんとも楽しそうに微苦笑を浮かべる。
「『僕1人でも十分だし、人数居れば良いって物じゃないから』って言って断ったのよ!フンだ、カッコつけちゃってさ」
「それで、お前は大人しく引き下がりこちらに向かった、と」
「し、仕方ないでしょ。その後続けて、『だから、六華はゆっくり休んでてよ。疲れてるだろう?』」
「なんて、あんな顔で言われたらさ、何も…言えないじゃない」六華さんの顔が真っ赤に染まった。

「健気ですねぇ…痛ぇ!?」
ニヤニヤと笑いながら言う俺に六華さんは再び拳骨を俺に喰らわせた。先程よりも力が篭っていた。
「だからニヤニヤすんな…ん?」何かに気付いたように六華さんは部屋の奥に目を向ける。
六華さんの視線の先にはやはりと言うかなんと言うか、草薙先輩がこちらを睨んでいたが、流石に相手が悪かった。
ギン!と音が聞こえそうな程の鋭い視線で六華さんは先輩を睨み返す。
気迫負けしたか、怯んだ様に目を逸らす先輩。
「…あのね。私はアンタも居ただろうって思ってたから邪魔するのも何だし、直ぐに引き返そうと思ってたわよ」
「まあそれでも十分邪魔だったろうけど、そんな顔で睨まれる言われは無いわけ」
「決めた。部屋に上がらせてもらうわ。ゴウ、良いわね?ちょ〜っと、カチンと来ちゃった」
「…好きにしろ」
止めても無駄だと悟ったか、溜息交じりにそう答える剛さん。
あの店長とこのシェフの間で板ばさみになっているこの人の苦労を思うと不憫でならない。
「OK。それじゃ行くわよハチ」ガシッ。六華さんは俺の制服の襟を後ろから鷲掴みにした。
「えっ、あ、ちょ、六華さん!?」
突然の事に混乱する俺。正直この隙に逃げようと思ってたので彼女のこの行動には面食らった。
「ゴウに用事あるのはハチでしょ。アンタが来なくてどうするの」
俺を引きずるようにして部屋の中へとズンズン足を踏み入れていく。
「助けて…」目の幅涙を流しつつ、引きずられながら口にした俺の言葉は誰の耳にも届く事は無かった。

部屋のリビングにはホットカーペットの上に短めの足のテーブルが置かれ、それを囲むようにしてソファーが。
俺たち4人はソファーの上に腰かけた。
ソファーの座り心地と反比例するかのように場の雰囲気は最悪だった。
「…で、九重君。用事とはなんですか?」
俺達の前に手際よくお茶を置きながら不機嫌そうな顔で問う先輩。
「いつまでそんな顔してんのよ。ハチが萎縮しちゃって話すもんも話せないでしょそれじゃ」
「誰の所為だと思ってるんですか」口を尖らせ反論する先輩。
「誰の所為でも無いわよ。アンタの機嫌が悪いのはアンタの所為」
「ハチも私もゴウに用が在って来ただけでアンタに何かしようとしたわけじゃない」
「勝手にそっちがへそ曲げてるだけでしょ」
六華さんの言葉にう、と言葉を詰まらせる先輩。
「まあいいわ。ここに説教する為に来たわけじゃないし」
「アンタの面倒はゴウに後でゆっくり見てもらえばいいし」
「ってワケで、さっさと話しちゃいなさいハチ」
「アンタも好き好んでお邪魔虫になりたいわけじゃないでしょ」
「分かりました。実は…」俺は3人に事情を話した。
無論俺の奈那に対する気持ちはできるだけ隠して。

「…えっと、どうしたんですか皆さん。俺なんか変な事言いました?」
俺が話した後、3人は急に黙ってしまった。どうしたんだ?
「あー違う違う。別にそんなんじゃないから。ただ、どうアドバイスしたら良いかわからなくて」
顔を曇らせる六華さんに見切りをつけ剛さんの方を見るが『むぅ…』と唸るばかり。
(ダメだこりゃあ…)傍目にも分かるくらい顔に落胆の色をにじませた俺を見かねたのか、先輩が、
「何処へ行ったら良いのか、何をしたら良いのか。どんな態度でどう振舞ったら良いのか。そんな事を聞きたいんでしょうけど」
「部外者である私たちが言えることなんてネットとか雑誌で幾らでも調べられる範囲の事でしかないですし」
「でも、貴方はそんな事を聞きたいわけでは無いでしょう?」
と、諭すように言った。俺はコクリ、と頷いた。
「なら、私たちに言えることなんて無いんですよ。私たちだって手探りの様な状況ですしね」
「確かに、貴方より人生経験は多少なり多いですけど。何でも分かるわけじゃ、無いんですよ。申し訳ないですが」
「そんな…そうだ、六華さん。店長にナニしてほしいとか、何処に連れてってほしいとか、そんなのでも良いんですけど」
「な、なんでそこでブンの名前が出てくるわけ!?」
「え、だって付き合ってるんじゃ」俺が言い終わる前に六華さんは早口でまくし立てる。
「んなわけないでしょ!なんで私がアイツと付き合わなきゃ!っていうか別にアイツの事なんか好きでも何でも…」
必死に否定する六華さん。何を今更。
つか好きな人の事でからかわれてテンパるって…小学生かアンタは。人の事は言えないけどな。

「と、とにかくその話は置いといて!要はアレよ。自分で考えなってことよ」
「あまり力になれず、スマンな」
「うう…そっすか。それじゃ、帰って1人でゆっくり考える事にしますよ」俺は立ち上がり、帰り支度をする。
「それが良いわね。それじゃ私も帰るかな」六華さんもそれに続くようにして立ち上がる。
「九重君、さっきは睨んでしまってスイマセン。少し…大人気なかったです」ドアのノブに手をかけた俺に、先輩が声をかけた。
「別にいーすよ。邪魔しちゃったのは確かだし」
「ま、後は2人っきりで存分にイチャイチャらぶらぶしなさい。私も帰るから」人の悪い笑みを浮かべ、六華さん。
「身も蓋も無いこと言わないでくださいよ、もう」先輩は小さく溜息をついた。
「ふむ。丸く収まった様で何よりだ。…ところで凛、なぜ機嫌が悪かったのだ?」
俺の目の前で、六華さんはケンカキックを、先輩はハイキックをそれぞれ剛さんに無言で叩き込んだ。
「ぐはぁっ…な、何故…だ…」そんな断末魔の声を吐き、剛さんは昏倒した。
タイトルをつけるなら、『朴念仁の末路』と言ったところだろうか。
「はぁ…コレさえなければ…」溜息をつく先輩。お察しします、その苦労―

マンションを後にし、六華さんと別れた俺は孤児院に帰るべく歩いていた。
「結局、自分で考えなきゃダメってことか…それが出来れば苦労しねえっつの」ぶちぶちと愚痴る俺。
「大変そうだね」そう、大変なんだよコレからどうしたら良いかって…ん?
なにやら聞きたくない声が聞こえた気がしないでも無い様な感じがそこはかとなくするのでいませんよーにと祈りを込め振り向くと、
居やがった。俺が最も苦手とする人物で奈那が好きだった男。『Bird Nest』店長、山田 文だった。
「店長!?な、なんでアンタがここに…!」
「いきなりご挨拶だね君も。僕がここに居ちゃ悪いかい?寧ろ当然だと思うんだけどな」親指で横方向を指しながら、店長。
指差した方向を見る。そこには『Bird Nest』があった。
考えてみれば剛さんのマンションと孤児院は丁度此処を挟んで反対側にある。此処は必ず通りがかる。
どうやら考え事をしながら歩いていた所為で、此処まで来ていたのに気付かなかったらしい。
さっき六華さんから聞いた話によれば、残った仕事を此処で片付けていたらしいし、コイツが居るのは当然か。
「それで、どうしたんだい?難しい顔してたけど、悩みでもあるのかい?」
「アンタにゃ関係無え。じゃあな」即答しその場を去ろうとする俺に、
「えー?でも奈那君とのことで悩みがあるんだろ?」
「な、なんでその事をっ!?」その言葉に俺の足が止まった。否、止まらざるを得なかった。

「あ、やっぱりそうだったんだ。適当に言ってみたんだけど、当たるもんだね」
「ぐあ…」畜生、カマかけられた。つーか俺は奈那の事しか頭に無いと思われてるのか。まあ、その通りなんだが。
「もう、そんな悩みがあるんだったら相談してくれれば良いのに。同じ店で働く仲間じゃないかぁ」猫なで声出すな、気持ち悪い。
「嫌だ。どうせ話したらその事でからかいまくるに決まってる」
「酷いなァ。僕のこの眼を見てよ。嘘ついてたり悪気があったりするように見える?」
「見える。混じりっけなし悪意100%の瞳って感じ」日頃の(特に俺に対する)行いを考えろ馬鹿野郎。
「そんな事は無いよ。…僕はね、昔ある人にとても酷い仕打ちをしたんだ。だから―」
「僕は、助けてあげたい。手の届く範囲の人だけでも。幸せそうにしている姿を、見てみたいんだ」
「…それ、世間一般では偽善って言うだろ」
「偽善じゃないよ。僕は『良い事』をしてるつもりなんて全く無いから。コレはただの趣味であり、自己満足さ」
「…最低だな」
「その言葉は、聞き飽きたよ」

その後、俺は店長に事情を話した。コイツのさっきの言葉を聞いたら、話してもいいか、と思ったからだった。
自分でもよく分からないが、この人間には最終的に心のガードと言うか壁みたいな物を壊してしまう何かがある。
奈那は、コイツのこんな所に、惚れたんだろうな。と、今更ながらに気付いた。
「…成る程、ね。そういう事。…ハハ、ずいぶんとつまらない事で悩んでるんだなぁ、君は」
「何処がつまらないってんだよ。俺にとっては大事なんだっての」くそ、やっぱ話すんじゃなかったかな。
「ゴメンゴメン。まあ、それに対する僕の返答だけどね」
「…何だよ」
「行きたい所に行って、やりたい事をやれば良いんじゃない?」
「それが出来ないから悩んでるんじゃねーか!奈那が何したいかとか何してほしいとか、何処連れてってほしいとかわからねえし」
「そう言う時は素直に聞けばいい。2人で何処いこーかって楽しく考えるのもいいと思うよ」
「少なくとも勝手に調べて勝手に決めて、『コレなら奈那君が喜ぶ』って決め付けて彼女を引っ張りまわす方が酷くないかな?」
「デートの仕方なんて人それぞれ。当人同士が楽しければ良いんだ」
「でもよ、それじゃただいつも通り遊びに行くのと変わらねえじゃんかよ」デートってのはこう…ちょっと違うもんだろ?
「…君はデートってのを何か勘違いして無いかい?デートってのは恋人同士が2人きりで楽しく時間を過ごす事さ」
「硬くならないで。肩肘張らずに、普通に楽しんで来なよ」
「…はあ。結局状況は大して変わってねえじゃん。聞いた意味無かったぜ」
「あれ?そ、そう?」
「ま、でも…」
「?」
「他の奴等よりは、参考になったかな。ちっと、意外だったけど」
「それなら、良かった」
「とりあえず、サンキュな。なんかスッキリした。じゃあな」俺は今度こそ、踵を返して孤児院へと向かった。
そして、夜になり、いつもより若干少なめの睡眠時間の後。朝がやって来た。
決戦の日、デートの日がやって来た。


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