第25話「六華の降る夜に(後編)」

クリスマスの夜。雪の降る小鳥遊公園にて。
僕は彼女に想いを告げるため少しずつ言葉を紡ぎだしていく。
「…えと。とりあえずまず勝負の結果を言わないとね。そうでないと何も言えないもんね?」
「あー…。確かに、そう言えばそうだったわね」今思いだしたように言う六華。というかそうなのだろうが。
ゴメン剛。『従業員には店長として平等に対応します』なんて言ってしまって。僕は1つだけ嘘をつきます。
え、お前は散々人を騙くらかしてるくせに何を言う、だって?
心外だな。僕は今まで嘘をついた事も無いし人を騙した事も無いよ?
ただ回りくどい言い方をして誤解させたり誤認させたり錯覚させたりはしたけれど。
ホラね?騙して無いだろ?やってるのはミスリードだけ。え、詭弁だって?いやいやまあまあ。ともかく、僕は六華に勝負の結果を話す。
「えっと、まず結果を先に言うと…」ミ○オネアのみ○さんの如く、少し間を置く僕。コレ結構気分良いな。
「も、勿体つけて無いで早く言いなさいよっ」言って、ゴクリと喉を鳴らす六華。
「引き分け、でした」
「…へ?」予想外だったのか間の抜けた声を出す六華。
「だから、引き分け。一桁の位まで売り上げ金額が同じだったんだよ。いやー凄いね?」
「なっ、そんなのあり得ない!」
「在り得たんだからしょーがない。まぁアレだよ。聖夜の奇跡、って事で」
「ブンが言うと妙に安っぽく聞こえるわね聖夜の奇跡。…また何かやったの?」
「そんな、僕がまるで日常的に悪巧みをしているみたいじゃないか」
「違うの?」何故かな?心底不思議そうな顔されちゃったよ。まあ僕が何かしたかどうかは皆さんの想像にお任せシマス。
「うん、ちょっとした認識の相違があったみたいだね?まあいいや。話を本題に戻そう」
「そう言うわけでどちらも勝利する事無く終わってしまったわけだけど、この場合どうしたら言いと思う?六華」
「知らないわよそんな事」
「そっか、なら僕の意見を言わせてもらえるなら―」

「別に言っちゃってもいいんじゃないかな?と思うのだけれど」
「なんでよ?」
「とりあえず僕…あ、いや”僕ら”の店は潰れずに済んだ」
「つまりは守れたワケだから取り合えず僕等的には勝ちかな?と思うわけで」
「それ、思いっきり詭弁よね」
「そうだね。でもまあそれが一番丸く収まりそうだったから」
「うわ開き直った。…まあいつもの事か。昔からそーだったもんね」
「というわけで」
「どーゆーワケよ」何故か呆れ顔の六華。
「コホン!…まあ話を始めようか。さて…僕が君と再会してレストランの店長になってから、もう半年が経つけど」
「僕は未だに自分が店長に向いているのか、人を纏めるのに適しているのか。未だに分からない」
「向いていないんじゃないか、って思うときもたまにある」
僕の言葉に顔を僅かにしかめる六華の口から文句が出てくる前に、さらに話を続ける。
「でも。『Bird Nest』の仲間達と、君が居ればまあ何とかなるのかな?と思えるくらい前向きにはなれたと思う」
「皆が居たから、ここまでやってこれた。君が居たからここまで頑張れたんだ」
「有難う、六華」僕は彼女に向き直り静かに、深々と頭を下げる。
「あ…ちょ、ちょっと!そんな急に畏まらないでよもう」嬉しさと居心地悪さが半々といった面持ちの六華。
「そ、それによ?『私のお陰で頑張れた』なんて、それは幾ら何でも言いすぎじゃない?」
「そりゃ私の料理の腕前は自分で言うのもなんだけどちょっとしたものよ?でも…やっぱり、ね?」
「言いすぎ?そんな事無いさ。それに君の料理の腕はこのレストランには必要不可欠だけど、僕が頑張る理由にはならないな」
「なんでかって言われたら、そりゃあ―」
「僕が君の事を好きだったからだけど」
「…え?」

「だから…ってあれ?もう全部言っちゃったな」
「まあいいや。六華、そう言うわけで返事を―ってどうしたの?」何故か俯き肩をプルプルと震わせる六華に僕は問う。
「あんたねぇ…なによそれ!?」
「え?なにって…ナニが?」
「そんな告白の仕方ってある?雰囲気もないしそれ以前にサラっと言いすぎなのよ!軽い!軽すぎ!」
「私だって人並みにこう言うシチュエーションに夢もってたのよ?それなのに、それなのに…あんまりよ」
「ふむ…ただ『好き』っていうだけでもだめなのか」
「う…まあ。結構嬉しかったけど、ね」はにかみながら言う彼女。この顔を見れただけで告白した甲斐があったなぁ。
「そっか。…で、六華。返事を聞かせて欲しいんだけどな。ぶっちゃけ、見掛けと違ってかなりどきどきしてるよ僕?」
「あ、それともその前に言いたい事あるって言ったよね?そっち先でもいいけれど」
「こ、この…っ。ブンあんた本当は全部分かってるでしょ?」
「分かってる?…何が?」首を傾げる僕。いやもう全然分からないんだなホント。
「くっ…白々しくとぼけちゃって…私が―」
「私がアンタを好きだって事よ!とっくに気付いてたんでしょ!?」
どこぞの弁護士を髣髴とさせるポーズで僕を指差し、六華。
「…………………………」いきなりの衝撃的な一言に僕は唖然とする事しか出来ない。
「ふふん、図星を突かれたんで言葉も出ないようね…ってあれ?」
勝ち誇る様に言う六華だったけれど、そんな僕の様子を見て流石におかしいと思ったらしい。
「えっと、ちょっと待って。ホントに…気付いて無かったとか?」この寒さだと言うのに額に汗を浮かべ、六華。
「うん。でも両想いだったなんて、嬉しいな」顔をが綻ぶのが抑え切れない。
対照的に、六華は石化してしまったけれど。

彼女の石化が解けるまで、辛抱強く待っていたその時だった。
「…うっ…グス」眼に大粒の涙が浮かぶ六華。
その涙がこぼれ頬を伝うまでに然程時間はかからなかった。
「うわわ…!?ど、どうしたのさ六華!?」当然、僕は慌てふためく。
「…あんなに」
「え?」
「…あんなに、練習したのに。家で何度もシュミレーションして、ちゃんと告白出来るように頑張ったのに」
「怖くて、くじけそうになるのを必死で我慢してここに来たのに。なのに…」
「なによ、これぇ…。全部、台無しじゃない…。なんで、こうなっちゃうのよぉ…」
「全部、ブンの所為よ…この馬鹿、バカ、ばかぁ〜!」
それっきり見も世も無く大泣きする六華。
そんな彼女を、僕は彼女を優しく抱きしめる。
そう言えば、前もこんな事があったなぁ。と思い出す。
この前2人で食事に行った時、泣く彼女を今みたいに抱きしめたっけ。
いや、抱きしめてから泣いたんだっけな?まあいいや。
今度も同じ手が通用するとは限らないけれど―
それでも、僕はこうする事しか出来ないし思いつかないから。だから、コレが僕の精一杯。
「落ち着きなよ、六華。…確かにさ、漫画やドラマで見るようなドラマチックな告白じゃなかったよね、お互い」
「不器用で、カッコ悪くて。ちょっとグダグダで。他人から見ればお笑い草でしかないのかもしれないけど」
「これはこれで『僕ら』らしくて良いじゃない。…少なくとも、僕は今嬉しくて堪らないよ?」
「君が僕の事を好きだって事が知れて、幸せで幸せでしょうがないんだ」
「六華は今はどう?さっきは嬉しいって言ってくれた。…今はもう、そうじゃないのかな?」

「…言いたくない。…今度こそ、分かってるくせに」
「そうだね。分かってて僕は聞いてる。嫌な性格だと思うよ。それに欲張りだとも思う。でも」
「それでも、君の口から聞きたいんだ」
「このバカ、ドS、鬼畜…………………………嬉しいわよ。そりゃあ」
「良いでしょ、コレで」
「可愛いなぁ。ま、及第点ってとこかな」
「うっさい。それよりブン、まさかこの程度で誤魔化せるなんて思って無いでしょうね?」やっぱり。同じ手は通じないか。
「そう言う手が通じてたのは前までの話」
「こんなやり取りがあった後であんたはただ抱きしめるだけ?」
「何かする事は無いの?なにかしたいことはないわけ?」…ああ、成る程。そう言う事ね。
「六華は、何かしたいのかい?」
「その切り替えし方、ズル。…ブンってば昔っからいつもそうよね」
「私の希望を第一にするフリして、私の言う事に大人しく従ってるフリして」
「最終的には自分が得する様に、得するようにもっていくんだから」
「そんな事は無いよ。僕は六華の喜んでる顔を見るのが楽しかったし、今でも君第一なのは変わらないよ?」
「僕はただその『おこぼれ』に預かってるだけさ。…で、僕は何をしたらいいのかな?」
「知らないわよ。ただ、私達これから…ねぇ。ほら、アレじゃない」

「恋人同士って亊?」
「う…言いにくい事をサラッと言うわねブン」
「ほら、『そーゆー関係』になったカップルが良くする亊あるじゃない」
「ゴメン僕全然わからないやー」この上も無くわざとらしく棒読みで、僕は答える。
「だーかーらー!アレよ、アレ。……………………………………………………キスとか」
最後の方を物凄い小声で、六華。
もしコレが漫画だったら見たことも無いくらい小さな写植が使われているだろう。
「成る程。六華はキスがしたいんだ」
「ち、違うわよ!そんなワケないでしょ!?」
「ただこう言う時に普通のカップルはこうするだろうなーとか思っただけで」
「キスしたいなんて思ってるわけ無いでしょ?」
「まあしたいって言うんならこう言う関係なワケだしOKしてやらなくも無いけど」
「あ、そうなんだ。じゃあ先生、キスが…したいです」
「誰が先生よ誰が」
「冗談冗談。さあ六華キスしよう今しよう直ぐしよう」
「あんたって…最低」憎まれ口を叩きながらも眼を閉じ微かに口をすぼめる六華。
「その言葉は―」
僕は微笑み六華を抱きしめたまま顔を近づけ。
「聞き飽きたよ」

―ちゅ。


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