その3

ちなみと山田はすでに各々の楽器を調律していた。
ちなみはベース、山田はドラム、かなみはギターボーカル。
メンバーが足りないらしく、キーボードは別のバンドから借りてくるらしい。
「よし…準備できたよ」
「じゃあ、始めるか」
「うん」
みんなが集まって、何かに向かって頑張る。
そんな姿を見ていると、俺も部活をしていたらよかったと思う。
山田が始めにリズムを取って、演奏が始まった。


「よし、今日はこんくらいにしとこうぜ」
普段はふざけている山田も、熱心に練習していた。
みんな汗だくで、それでもすごく楽しそうで。
青春ってやつ?
「お疲れ様」
途中で抜けて買ってきたスポーツ飲料をみんなに渡す。炭酸じゃないぞ。
500ミリを一気に飲み干す姿を見ながら、俺はもう一度お疲れとこいつらを労った。
そして、後片付けをしながらわいわいと騒いでいたところ。
何の脈略もなく山田が言った。
「海に行こう」
「「「はぁ?」」」


そして現在、俺と椎水とちなみと山田は、海にやってきた。
一泊二日の短い旅行。
じいさまばあさまがやってるこじんまりとした旅館に荷物を置いて、男と女で部屋を分ける。
「じゃあ、着替えて海で集合な」
俺は自分の部屋へ向かう。
そして彼女たちの部屋のほうを見ると、
「うん」
「は〜い」
「おうwwww」
間違っている馬鹿の背中を二人が蹴った。
「厳しいツッコミフゥゥゥウゥーーーー!」
「バカ……」
ちなみが呆れた顔でこめかみに手を当てた。
そしてそのまま、それぞれの部屋へ。


この前買ったトランクスみたいな水着を取り出し、着替える。
「で、なんで突然海なんよ?」
「ん?いや、夏だし」
「それだけか」
「公の理由はな」
「公?お前だけでなんか理由あんのかよ」
「まあ、いろいろと、な」
そこで二人とも着替え終わる。まあ脱いで着るだけだからな。
先に行って、ビーチボールに空気でも入れといてやるか。


海……かあ。
窓の向こうに果てしなく広がる青い海原を見ながら、すこし長めに目をつぶる。
ばっと目を見開いて、水着を取り出し着替え始めた。
ちなみのほうを見やると、すでに服は脱いでいた。
出るところがしっかりとでていて、すっごいプロポーション。
対する自分を見下ろすと、まあ下半身はまだいいとして……
「ち、ちょっと、あんまり見ないでよ……恥ずかしいじゃない(///)」
「え、ああ…ごめんごめん。羨ましくってさ……」
「それはそれで需要があるんだからいいじゃない」
そうだろうか、と自分のBカップ70センチの胸を見つめた。
むぅ……。
「涼なんてさー、私のがでかすぎるーなんて愚痴るのよ…信じられなくない?」
え?でかすぎる……
「えっとさ…ちなみ……それっていついわれたの?」
「ん……えっと…この前の…って」
そしてちなみの顔が赤くなった。何かを思い出しているのかもしれない。
「ま、まあその……いわゆる…夜の時間に(////)」
ふ、二人ってそこまで関係進んでたんだ……。
「そういえばちなみが大きくなってきたのって……」
「……涼に…揉まれだしてから…」
小さな民宿の小さな部屋の中。
二人の女が裸で赤くなっていた。


パラソルを組み立て、日陰を作る。
さんさんと俺達を上から照らす太陽は、それでも存在感を薄れさせない。
シートを敷いて、荷物を置き、浮き輪やゴムボートに空気を入れていたときには、
彼女たちもやってきた。
「おまた」
「おう。準備は…」
そういって振り返った山田も、一緒にあいつらへ向き直った俺も一瞬フリーズ。
「なあ……別府」
「何だ山田」
「水着っていいもんだよな……」
「ああ、そうだな……」
椎水は淡いピンクのブラで腰に布を巻いていた、なんつーか、南国系。
水谷は上下とも白のビキニで、横は紐でくくるタイプの水着を着ていた。
普段から可愛らしいと思っていた二人だが、水着で見ると三割増しって感じがする。
「えへへ、どう?似合う?」
椎水がにこやかに聞いてくるので、
「似合う似合う、うん、可愛い。な、別府?」何故か山田が嬉しそうに話を振ってきた。
しかし、まあ似合うのはホントだったので素直に
「ああ、似合うよ。きれいだ」と答えた。
「ホント?ありがと♪ぶいっ!」
ころころと、違うタイプの笑顔をするやつだな。
「うはwww別府愛想ワルスwww」
「うるせ、お前こそ彼女いるんだから早く水谷の水着ほめてこいよ」
俺が指差す先には、相手にされず拗ねる彼女がいた。


「……」
涼ったらなによ私の水着は気にも留めないでかなみの水着は可愛いって褒めてまだきづかないなんてありえないじゃないけっしてかなみに嫉妬してるんじゃないわよこれは事実よ真実よていうか早く気付けよバカ……
別府に指摘されてようやく私のほうを向いて、上から下までじろじろ見てから……
「……ちなみも、十分可愛いぞ」
適当な言い訳がでてこなかったのか、結局照れたように目線を逸らしてそう言った。
「……知らないっ」
ぷい、とそっぽを向く。
「……」
涼も反省しているのか、俯いて足で砂浜に円を描いている。
と、思いきやそっとに近づいてきて
耳元で、「拗ねた顔も大好き」っていわれた。
「〜〜〜〜〜〜!!!!!(////////)」
あわてて涼のほうに向き直ると、真顔で
「ほら、可愛い」といってくる。
「な、なによバカ!こ、この……」
まずい、気が動転してうまくろれつが回らない。
「あ、あんたの目が安っぽくてよかったわ。適当に選んだのでも喜ぶんだから!」
涼はといえば、ニヤニヤとわたしを見つめている。
絶対、わたし顔赤い。
「あんなこと言ってるけど、本当はちなみ、三時間ぐらいなやんで決めたんだよ?」
「っ、かなみ!?」
「十着ぐらい試着して、わたしに《どう?こんなのなら涼喜ぶかな?》って真剣な顔して聞いてきて」
「きゃーー!!!聞くな!聞くな!聞いたら殺す」
そしたら涼は、わたしをじっと見つめて
「そこまでして選んでくれたんだな?すっげぇ嬉しいよ、ありがとう」
「……」
その笑顔でそれまでの怒りとか変なもやもやも、すっと掻き消えてしまったかもしれない。
ああ……どんどん顔が赤くなってくる。
それを、何とかごまかそうとして、実際はごまかしきれてないだろうけど、軽口を叩く。
「ふ、ふん。わたしみたいな理想の彼女が居る事をありがたく思いなさいにょ?」
噛んだ。


相変わらずニヤニヤしている山田と、赤くなりつつ山田を追いかける水谷を、
俺と椎水は並んでみていた。
「バカップルどもが……」
「いいじゃない、和む〜」
足の裏に伝わるビーチボールに空気を送る感触を楽しみつつ、ポンプを踏んでいると
「これも、お願い」と椎水からビニールを渡された。
広げてみると、
「浮き輪…」
「うん、その……泳げない…」
「どんくさいヤツだ」
「プールではちゃんと泳げるのよ!その……海は…」
「何?」
「しょっぱいから…顔水につけれない…」
「ガキくさいやつだ」
「うるさい!」
弁慶の泣きどころを蹴られた。


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