【ツンデレな妹VSデレデレな姉】

「タカくん、お姉ちゃんと一緒にご飯食べよ」
 お姉ちゃんが教室まで来て一緒に弁当を食べようとせがむ。
「や、俺は級友と食べる約束がある故」
「タカくんはお姉ちゃんと友達どっちが大切って言うの!」
「お姉ちゃんに決まってるよ」
 すげー怖い顔で睨まれたので、すかさずへりくだる。
「さすが自慢の弟! ん〜、やっぱ弟はいいわね〜」
 お姉ちゃんに抱きつかれ、ほっぺをすりすりされる。気分は愛玩動物でやや屈辱的。
「……またやってんの、姉ちゃん」
 げんなりした顔で、俺と一日違いの誕生日を持つ妹がやってきた。
「あっ、カナちゃんも一緒にやる? 一日一回はすりすりしないと落ち着かないでしょ?」
「そりゃ姉ちゃんだけでしょ。あたしは御免ね、こんな奴にすりすりされると思うと気持ち悪くて」
 妹──カナは、俺をじとーっと見た。
「え〜? なんで? こんな可愛いのに」
 可愛いかどうか知らんが、公共の場であまりいじくり回さないで欲しい。お姉ちゃんになでられるたび、俺の社会的地位が加速度的に落ちていく気がする。
「もーなんでもいいから飯食おうぜ……早く食わんと時間なくなるぞ」
「あっ、そうだね。それじゃこれ、はいお弁当」
 弁当を机の上に広げていると、見慣れない女生徒が教室の入り口からお姉ちゃんを呼んだ。
「あっ、いっけない! 用事あったんだ……ごめんねタカくん、お姉ちゃん一緒にご飯食べれないよ」
「いや、いいから早く行けよ。呼びに来た人困ってるぞ」
「うー……お姉ちゃん、ちょっと寂しいけど頑張ってくるね!」
 お姉ちゃんは手を振りながら教室を出て行った。
「やれやれ、やかましい人だ」
「とか言って、ホントは嬉しいんでしょ? 身内とはいえ、女の子に優しくされて」
「あの人は優しいと言うか、俺をペットか何かと勘違いしてる」
「あははっ、それホントにあるかも。……で、何一人で食べてんの?」
「友達みんな学食行っちまったし、今更行くの面倒だから」
「……し、しかたないわね。あたしが一緒に食べてあげる」
「ん、そっか? 別にどうでもいいけど」
「食べてあげる! ……感謝しなさいよ」
 なぜ妹と一緒に飯を食うだけで感謝しないといけないのか分からないけど、射抜くような目で見られたのでコクコク頷いておく。
「……へへ、こうやって差し向かいで食べるのって、久しぶりかも」
 何が嬉しいのか知らないが、カナは珍しく終始ニコニコしていた。


【ツンデレな妹VSデレデレな姉2】

 お姉ちゃんが教室まで来て一緒に帰ろうとせがむ。
「や、俺は妹と帰る約束をしてる故」
「してないわよッ!」
 すかさず否定する妹のカナは冷たいと思う。
「みんなで帰ろ。ね?」
「はい」
 言葉は訊ねているが手は既に引っ張られていたので、諦めて頷く。
「ほらほら、カナちゃんも一緒に帰ろ」
「う、うー……分かったわよ」
 三人揃って学校から出る。横に三人広がっていて、道を占拠してしまい申し訳ない気分で一杯だ。
「お姉ちゃん、手繋いで歩くとみんなに迷惑かけるよ?」
「他の人のことまで気にするなんて……なんて優しい弟なの!」
 ひしと抱きつかれ、頭をなでられまくった。周囲を行く通行人の視線が辛い。特に隣のカナの視線が一番辛い。
「……まーた猫可愛がりして。そんな可愛がってると、こいつが家出て行くとき辛いわよ?」
「えっ……タカくん、家出て行くの!?」
「行きません、行きませんから首から手を離してください」
 とても苦しいです。
「びっくりした〜。心臓止まるかと思った」
「俺は息が止まりかけた」
「……愉快な姉弟ね」
 カナは他人事のように言った。
「あ、でもね、もし本当に進学か何かで出て行くなら、お姉ちゃんに言ってからにするのよ」
「え、なんで?」
「お姉ちゃんも一緒についてくから♪」
「…………」
「いいよね?」
 笑顔の裏に鬼を感じたので無言でコクコク頷く。
「カナちゃんはどうする? 来る?」
「あ、あたしは……」
「カナはいいって。なんか知らんけど俺のこと嫌ってるみたいだし」
「そんなことないよー。カナちゃんって、タカくんのいないとこじゃ」
「わーっ!」
 突如カナが大声を出した。隣にいた俺の鼓膜に大ダメージ。
「いきなりなんだよ、鼓膜破れるかと思ったぞ」
「なんでもない、なんでもないから姉ちゃん、それ以上は!」
 カナがお姉ちゃんに手を合わせて頼むと、お姉ちゃんはにっこり笑った。
「カナちゃんも素直になればいいのにね〜」
「……よく分からんが、どうなったの?」
「いいのいいの♪ ほら、もう料理の材料なかったからスーパー寄って行こ?」
 お姉ちゃんはなんだか上機嫌で歩いていってしまった。
「……なぁ、お姉ちゃん何言いかけたんだ?」
「あたしに聞くなッ!」
 カナは顔を真っ赤にしてお姉ちゃんを追いかけた。俺は首を傾げながら二人を追いかけるべく、軽く走った。


【ツンデレな妹VSデレデレな姉3】

 居間でテレビを見てたら、お姉ちゃんが膝に乗ってきた。
「……なんでしょうか、お姉様」
「タカくんと一緒にてれびー♪」
「…………」
 この人は本当に俺より年上なんだろうか。
「……まーたやってんの」
 部屋にやってきた妹のカナが呆れた顔で言った。
「あっ、カナちゃんも一緒にテレビ見よ。面白いよ?」
「……んー、まぁすることもないし、別にいいわよ」
 カナは素直に俺の隣に座り、テレビに視線を向けた。
「あっ、あっ、タカくん見て見て。生まれたての鹿が立ったよ。偉いねー♪」
 お姉ちゃんはテレビを見てはしゃいでいた。偉いのは鹿であり、俺は偉くないのでほっぺをすりすりされる必要はないのですが。
「ほらほら、可愛い……!!!!! し、鹿が! 小鹿さんが!」
 生まれたての小鹿がライオンに狙われていた。ライオンはその鋭い爪と牙を使い、小鹿を押し倒した。
「あちゃー、こりゃダメだね、お姉ちゃん。きっと生きながらに体を引き裂かれ、貪られるんだろうね」
 続けてテレビを見ようとしたら、ブツンという短い音の後消えた。
「……こ、こんなのつまんないし、見なくていいじゃん。あ、あたしちょっと用事思い出したから部屋戻るね」
 カナはリモコンでテレビを消すと、足早に部屋を出て行った。
「……どしたんだろいてててて」
 お姉ちゃんにほっぺを引っ張られた。
「怖いこと言ったらダメ! お姉ちゃん泣かせていいの!?」
「いや、でもたぶん俺が言った通りになってるよ?」
「うー……」
「ごめんなさい」
 涙目でじっと見られたので謝る。
「……よし♪ じゃあお姉ちゃんご飯作るから、お部屋で待っててね」
 お姉ちゃんは俺の頬に軽くキスして、台所に消えて行った。
「……戻るか」
 なんだか疲れたので俺も部屋に戻ることにする。
「……っく」
 その途中、カナの部屋の前でちいさく声が聞こえた。
 ……まさか、自らを慰めてる!? あああ兄としてちゃんと出来てるか見守る必要があるよね? はい!(間違った自問自答)
 というわけで小さくドアを開け、様子を見る。
「……っく、ひっく、鹿さん可哀想……」
 カナは枕を抱き、ぼろ泣きしていた。
「……鹿さん?」
「だっ、誰!?」
 思わず漏れた声に、カナは鋭く反応した。そして、目が合った。
「あ、あ、あ、兄貴!? な、なんで!?」
 カナは顔を真っ赤にして狼狽した。
「や、その、なんか声聞こえてきて……」
「だからって覗くな! いいから出てけ!」
 枕を投げられたので、慌ててドアを閉める。その後も音が続いてるってことは、まだ何か投げてるってことか。
 いやしかし、カナがテレビ見て泣くとはなぁ……正直意外だ。
「カナも可愛いとこあるんだなぁ」
「独り言は小さい声で言え、馬鹿兄貴ッ!」
 一際大きくドアが軋んだ。

 その日の晩飯は、カナに赤い顔でずーっと睨まれてたので、非常に居心地が悪かったです。


【ツンデレな妹VSデレデレな姉4】

 いい時間になったのでぼちぼち寝ようとしたら、お姉ちゃんがピンク色のパジャマ姿で部屋にやってきた。
「今日はお姉ちゃんの日〜!」
 お姉ちゃんがベッドにダイブしながら言った。
「説明しよう! お姉ちゃんの日とは、お姉ちゃんと一緒に寝ないといけない日のことである!」
「いや、知ってる。もう何度もお姉ちゃんの日を経験したし」
 正座しながら得意げに講釈を垂れるお姉ちゃんにぴしりと言うと、お姉ちゃんは不満そうに唸った。
「タカくん冷たい……」
「変温動物なんだ」
「タカくん人間でしょ!」
「は虫類に憧れてるんだ」
「相変わらずタカくんは変だね」
「…………」
「そんなのいいから、一緒に寝よ寝よ♪」
「……はい」
 抵抗しても無駄だと今までの経験が知らせるので、明かりを消して大人しくベッドに向かう。
「ほら、もっとお姉ちゃんにくっつかないと寒いでしょ?」
 お姉ちゃんが俺の頭を自分の胸の間に収めた。気持ちいいけど呼吸しづらい。
「もふーっ、もふーっ」
「た、タカくん鼻息荒い……」
「興奮してるんだ」
「た、タカくんお姉ちゃんのおっぱいに興奮するなんて……あ、姉として頑張らないと!」
 姉は普通そういうことで頑張らないと教えた方がいいのか。
「ええと、男の子って、その、出さないと治まらないんだよ……ね?」
「ごめんなさい冗談です」
 おちおち冗談も言えやしない。ていうか、黙ってたらどうなってたか、想像するだに恐ろしい。
「もうっ、タカくん冗談ばっかり言って。ちゃんとお姉ちゃんと一緒に寝なさい!」
 『お姉ちゃんと一緒に』という辺りに姉としての資質が見え隠れするがどうか。……どうでもいい。
「あ、尿が漏れそう。ここでしていい?」
「た、タカくんが望むなら……」
 姉の大きすぎる愛情が怖くなったので、そそくさと部屋を抜け出し便所へ。
 すっきりしたところで、妹のカナにお休みの挨拶をしてなかったことを思い出した。
「カナ、起きてるか?」
 軽くノックすると、いきなりドアが開いてしたたかに顔を打ち付けた。
「……何転がってんの?」
「いや、ちょっと廊下の冷たさを肌で感じたくなって……」
 緑色のパジャマに身を包んだカナが、呆れたようにため息を吐いた。
「お休みの挨拶でしょ? はいはい、おやすみ」
「あ、ああ、お休み、カナ。じゃ、お姉ちゃんが待ってるから」
 その言葉に、閉まりかけたドアが止まった。そして、俺は自分の失言を呪った。
「……今日、お姉ちゃんの日?」
「は、はい」
「…………」
 カナは黙って部屋に戻ると、枕を抱えてやってきた。
「ほら、早く行く」
 俺の脚を軽く蹴って、カナは促した。
「……はい」
 カナを連れ、自室へ戻る。
「お帰り、タカくん。あ、カナちゃんも」
「兄貴が姉ちゃんに変なことしないよう、あたしもここで寝る」
 カナは俺の部屋に入るなり、いつもの常套句を言った。
「好きにしろ……」
 お姉ちゃん、俺、カナの順で川の字になってベッドに横になる。ちょっと、ていうか大分狭い。
「ちょっと兄貴、あんまり引っ付かないでよ」
「狭いんだよ。おまえこそ薄い胸をこすりつけるな」
「薄くなんかないわよッ!」
「まぁまぁ。お姉ちゃんの妹なんだから、すぐおっきくなるよ」
 お姉ちゃんが豊満な乳を俺に押し付けながら、ほがらかに言った。
 たまには静かに寝たいなぁと思いつつ、俺は二人の声を子守唄に眠りに就くのだった。


【ツンデレな妹VSデレデレな姉5】

 朝飯食って、出すもん出して、お姉ちゃんと妹のカナがテレビの運勢チェックに夢中になってる間にそ〜っと家を出る。
 うむ、たまには一人で登校するのもいいもんだ。
 なんて思ってたら、ものすごい衝撃が後頭部を直撃した。すごく痛い。
「はーっ、はーっ、兄貴、あたし置いてくのはともかく、姉ちゃん置いてくなよ!」
 カナが肩を上下させながら俺に怒鳴っていた。たぶん、手に持ってる鞄で殴られたんだろう。
「いや、その、気づかなくて」
「んなわけあるかッ!」
「ううううう〜、タカくん酷い〜」
 カナに怒られてると、お姉ちゃんがひどく頼りない足つきで走ってきた。
「やあお姉ちゃん、ご機嫌いかが?」
「タカくんに追いてかれたから悲しい〜。めそめそ」
 お姉ちゃんが口でめそめそ言いながら泣きまねした。
「いや、これも全てはお姉ちゃんを鍛えるため。獅子は子を千仭の谷に落とすと言うし、俺もそれに倣ってみた」
「お姉ちゃんはタカくんのお姉ちゃんだから、子じゃないよ?」
「じゃあカナを落とそう」
「なんでよッ!」
 マンホールの蓋を開けようとしたら、頭を蹴られて地面とランデブー。
「いててて……まったく、カナは乱暴だな。嫁の貰い手がなくなるぞ」
「余計なお世話よ。それに、こう見えてもあたし結構もてるのよ?」
「…………」
「何よその目は! 信じてないわね?」
「……まぁ、最近はロリコンが増えてるしなぁ」
「誰がつるぺたかッ!」
 腹を貫く勢いでボディーブローが炸裂する。朝から吐きそう。
「カナちゃんは本当にもてるんだよ。大変だね、タカくん」
「大変って、何が?」
「ね、姉ちゃん! 何言ってんの!」
 なぜか慌てているカナが、お姉ちゃんの口を塞いだ。
「むーっ、むーっ」
「あ、あはははは、変な姉ちゃんだね」
 それならカナも大概変だが、それを言うとまた殴られるので黙っておく。
「けど、カナがなぁ……なんか、寂しいな」
「なにが?」
 お姉ちゃんを解放したカナが不思議そうに問い返した。
「いや、彼氏とかできたら、お前とこうやって一緒に登校したりするのも出来なくなるんだなって。それが、なんか寂しいなって」
「……大丈夫だって。あたし結構もてるけど、本当に好きな人には振り向いてもらえないし」
「何ッ! い、いるのか! 誰だ! 俺の知ってる奴か!?」
 カナの両肩に手を置き激しく揺さぶると、カナは目をさ迷わせた。
「え、え〜と、その、……一応、知ってることになる、かな?」
「どんな奴だ! 変な奴だとお兄さん許さんぞ!」
「え、えっと、変だし馬鹿だけど、本当はすっごく優しくて、……その、ずっと一緒にいたいと思える人……かな」
 カナは俺を見つめながら、頬を染めて言った。
 変で馬鹿、だけど本当は優しくて一緒にいたいと思えるような奴……誰だ?
「渡辺か?」
「校長先生じゃないの! 違うわよ!」
「う〜ん……となると」
「い、いいじゃない別にそんなの! 関係ないでしょ!」
「あるに決まってるだろ。大事な妹を任せるんだから、ちゃんと俺のお眼鏡に適う奴でないと」
「……そ、そう。……それなら、多分大丈夫だよ」
「えっ、それってどういう……」
「ほっ、ほら、いいから早く学校行こ! 遅れるよ!」
 カナは顔を赤くしたまま足早に学校へ駆けて行った。
「……どういうこと、お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんをほっとくタカくんなんて、知らないもん。お姉ちゃんも行く!」
 お姉ちゃんにも置いてかれた俺は、首を傾げながらも学校へ向かうのだった。


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