【ツンデレな妹VSデレデレな姉16】

「カナがちゅーして欲しいとせがんで困る」
「んなこと言ってないッ!」
 休日だというのに、妹のカナが俺を殴る。
「いや、違うんだ。そんな展開になったらいいな、という常日頃考えている事が口をついて出ただけだ」
「んなこと常日頃考える兄って……ものすごい迷惑だから、金輪際考えないで」
「つまり、考えずに行動に起こせと? カナが自分からちゅーしてくれとせがむよう暗躍しろと? ……よし、カナの期待に応えるべく、早速プランを練られば!」
 縄でぐるぐる巻きにされた上、物置に閉じ込められた。

 奇跡的に縄から脱出し、物置から外に出ると、お姉ちゃんが半泣きで庭をうろうろしていた。
「お姉ちゃん、なにしてるの?」
「あっ、タカくん! もうっ、どこ行ってたの!」
 なんて言いながらお姉ちゃんは俺の頭を抱きしめた。豊満な胸に顔が埋まって、気持ちいいやら呼吸できないやら気持ちいいなあ。
「まったく、一人でうろうろしてたら迷子になるでしょっ! どこか行きたい所があるなら、お姉ちゃんを呼びなさいっ!」
 小学生でも庭で迷子になったという話は聞いたことない。あと、子供ではないのでどこでも姉随伴は割と勘弁してほしい所。
「……タカくん、いっぱい怒られて、悲しくなっちゃった? ごめんね、でも全部タカくんのためだから……タカくん?」
「…………」(呼吸不能)
「あっ、タカくん白目剥いてる! 気持ち悪いけど、ちょっと可愛い! タカくんキモ可愛い! 写真撮っとこっと♪」
 お姉ちゃんがひどいこと言ってるような気がしたけど、気絶してるのでよく分かんないや。

「うーん……はっ! 目覚めた俺!」
「…………」(超凝視)
「うああっ!?」
 目を開くと、お姉ちゃんの鼻と俺の鼻がくっつくぐらい間近だったのでびっくりした。改めて周囲を見ると、居間のようだ。庭からここまで運んでくれたらしい。
「はうー……タカくん、気絶してる顔もかーいーねぇ。お姉ちゃん、いっぱい写真撮っちゃった♪」
 お姉ちゃんの撮る写真を以前見せてもらったことがあるが、ほとんど俺の写真なのはどういうことなのか。
「お姉ちゃん、膝枕しててくれたの? 足しびれなかった?」
「お姉ちゃんを気遣ってくれるなんて……なんて優しい弟なのっ!」
 お姉ちゃんは俺の顔をつかみ、嫌というほどほおずりした。
「お姉ちゃんはね、タカくんのためなら不眠不休で膝枕してあげるよ? ううん、むしろしたいよ? していい?」
 それはありがたいが、枕が痩せ衰えていく様は見たくないので丁重にお断りする。
「残念だよ……じゃ、タカくんライブラリー見る?」
 タカくんライブラリーとは、お姉ちゃんの撮った写真であり、名は体を現している上、押入れを席巻するほどの量なので、是非見たくないので丁重にお断りする。
「こんな可愛いのに……」
 しょぼーんな感じになった。
「ところでお姉ちゃん、カナはどこ?」
 人をグルグル巻きにしたお礼を是非しないといけない。
「お部屋だよ。カナちゃんと遊ぶんだったら、お姉ちゃんも混ぜて欲しいなー」
「3Pか!」
「さんぴー……? 新しいゲーム? お姉ちゃん、ゲーム弱いから手加減してね?」
 お姉ちゃんは積極的なくせに性の知識があまりないので、こんな感じになる。なに、信じられない? なら試してやる。そして俺は誰と会話してるんだ。
「お姉ちゃん、子供を作るにはどうしたらいいの?」
「えっ、ど、どうって……お、お姉ちゃんとエッチしたら……」
 すごく恥ずかしそうに明後日の方向を向いてもごもご言ってる。性の知識はあることに驚いたが、それ以上に姉限定ということに驚いた。
「た、タカくん、……子供欲しくなっちゃった?」
 お姉ちゃんは目を潤ませ、俺の顔を両手で挟んで覗き込んできた。なんだかとってもピンチな気分!
「ああっ、すごくお腹痛い! 便所へ超特急!」
「あっ、待ってタカく……ああっ、お姉ちゃん足びりびり! しびれあしら!」
 足がびりびりで動けないお姉ちゃんをその場に置いて、カナの部屋に向かう。
「カナ! よくも兄を縄でぐるぐる巻きにしてくれたな! 万死に値するが、条件によっては許してやらなくもない……ぞ?」
「着替え中よ、馬鹿兄貴ッ!」
「下だけ下着ってのはオツだよね。で、なんでその歳でくまさんぱんつ?」
 辞書が飛んできたので避難。しばらく待ってから部屋に入る。
「よう、くまさん」
「今すぐ死にたいようねッ」
 真っ赤な顔のカナが俺の首を絞めにかかったので苦しい。死ぬのは嫌なので助けを請うたら助かった。
「カナ、そこに座りなさい」
 まずは兄の威厳を見せるのが先決。そこから徐々にカナを追い詰め、最終的には謝らせてやる! ふ……なんと恐るべき計画よ!
「もう座ってるわよ」
「パンツが見えるように座りなさい」
 殴られたので、話を進める。
「どうして兄を縄でぐるぐる巻きにしましたか。兄を縄でぐるぐる巻きにしてはいけないと、学校で習わなかったのですか?」
「んなの習うわけないでしょ」
 それもそうだ。話の展開を誤った。
「とにかく、なんでもいいから謝ってください。でないと兄の矜持が保てないんですよ」
「あーもー分かったわよ。こんな兄でごめんなさい。これでいい?」
「ノー! それでは兄の存在がごめんなさいなのでノー! もっと縄について言及を!」
「兄貴、加速度的に頭悪くなってない?」
「英語使ってるのに?」
 ため息を吐かれた。なんでだ。
「謝るとかどうでもいいからさ、早く出てってくんない?」
「地球から!?」
「部屋からよッ! なんで地球から追放しなきゃいけないのよっ! そもそも脱出用シャトルとか持ってるわけ!?」
 軽いボケなのにすごいつっこまれた。
「ロケット花火くらいしか持ってません」
「じゃあもうそれで宇宙まで飛んで行きなさいよ……」
「ははっ、カナはちょっと頭が悲しい感じだから知らないかもしれないが、人はロケット花火で大気圏を突破できないぞ? そもそも、人がロケット花火程度の力で空に浮かぶこと自体が」
「知ってるわよッ! 馬鹿にしてたのよ! 誰が頭が悲しい感じかッ!」
 つっこみのたび、頭をべしべし殴られる。痛い。
「だいたいさ、兄貴が悪いんだよ」
「脳が?」
「……あー」
 あーとか言うな。
「じゃなくて、そ、その、……あたしが兄貴にちゅーしたいとか言い出すから」
「いや、しかしそんな妄想が兄の頭の中では常に渦巻いて」
「兄妹なのにそんなの、おかしいじゃん……」
 カナはなんだか寂しそうな、つまらなさそうな感じで足先を床にこすりつけた。
「おかしいのが兄です」
「言い切んなっ! じゃなくて、じゃなくてさ、……そうじゃなくて」
 なんだか、マジ話のようで。なら、俺も。
「……えーと、今から話すのは兄の妄言なので、聞き流すも可です」
「兄貴……?」
「何が一番大事か、よく考えて決めることです。そうすれば、後はただそれだけを大事にすれば簡単なのです」
「……よく、分かんないよ」
「えーと、俺を例にすると、カナとお姉ちゃん、この二人が俺の一番大事なもの。だから、その他の事柄……世間とか、常識とかは、割とどうでもいい人なんです」
「……ダメ人間だね、兄貴」
 なんて言いながらも、カナはどこか嬉しそうだった。
「あと、最終的には血が繋がってねーじゃんうへへへハーレムエンドという夢のような展開が」
「兄貴ッ!」
「じょ、冗談、冗談です。カナエンドがよかったです」
 カナが超怖い顔で詰め寄ってきたので、半泣きで謝る。
「そっ! ……そういうゲームばっかやってると、将来犯罪者になっちゃうわよ?」
 カナは照れくさそうに頬をかきながら、そっぽを向いた。
「その時は、カナが養ってくれ」
「うわ、サイテー。夫が犯罪者なんて、あたし嫌よ」
「ん? 俺は兄妹のままで、と思ったんだけど……カナは結婚したかったのか?」
 カナの頭から湯気が出た。
「ちっ、ちちち違うわよっ! なんだってあたしが馬鹿兄貴なんかとッ! そっ、そもそもあたし兄貴のこと、だいっ嫌いだし!」
「俺はカナのこと好きだよ?」
 それが家族としてか、異性としてなのか自分でも判然としないのがどうかと思うが。
「そっ、そーいうことを、さらって言うのって、どうかと思うわよ? なんか、軽い感じ?」
 カナが顔をより一層赤くしながらそう言う。
「ふむ……なら、常日頃言った方がいいか? 好きだよ、カ」
「わーわーわー! 聞こえない聞こえない聞こえなーい!」
 カナは耳を塞いでわーわー言い出した。これ幸いとスカートめくったら蹴られた。
「しまった、塞いでいるのは耳であり、目はそのままだった! 不覚! あとくまさんこんにちは」
「くまさん言うな、この馬鹿兄貴ッ!」
「見られたくないなら、はかなくてはいいんじゃなくて?」
「だ、だって……くまさん、可愛いじゃん」
 恥ずかしそうに頬を染めるカナを見て、可愛いのはおまいだ、と言いそうになるのを必死で止める。
「兄貴……そのポーズ外でしたら、兄妹の縁切るよ」
 必死で止めてたらかっこいいポーズになった俺を見て、カナが冷たいことを言う。
「中ならいいと」
「ま、まぁ、どうしてもって言うなら」
「中でそのポーズ出して、って言って」
「……? 中でそのポーズ出して」
「略して」
「中で出……な、何を言わせてるか、このエロ兄貴ッ!」
「着床」
 べこんぼこんにされた。
「あいたた……まぁなんだ、あんま色々深く考えるな。気楽にしろ。ケセラセラ、なんとかなるさ」
「兄貴、ほんとにそれを体言してるよね……」
「人を適当に生きてるみたいに言うな」
「あははっ、自覚ない人はっけーん」
 カナに笑顔が戻った。よかった、なんとかなった。
「お姉ちゃん、ふっかーつ! タカくんタカくん、さっき言ってた“さんぴー”、しよ?」
 とか思ってたら、お姉ちゃんが突然部屋に乱入してきて俺を窮地に追いやる。
「……兄貴?」
 ほら見ろ、カナが超怖い。
「カナちゃんカナちゃん、タカくんと“さんぴー”しよ? きっと楽しいだろうねぇ♪」
「ほーう……3Pねぇ。さっきまであたしのこと好きとか言ってたの、勘違いかしらねぇ……?」
 うおおお、カナが超絶怖え。
「かっ、カナ? 違うんだ、お姉ちゃんは3Pを違う遊びと勘違いしてるんだ。なっ、お姉ちゃん?」
「“さんぴー”はね、お姉ちゃんと、タカくんと、カナちゃんの三人で楽しむゲームだよ♪」
 お姉ちゃん、その発言は間違っちゃあないけど間違ってる! それでは依然俺の死亡フラグが立ったまま!
「……覚悟はいいかしら、お兄様?」
「あっ、カナの手になんだか叩かれると痛そうな棒が! あはっ、あはははっ、そ、そんなので大切なお兄様を叩かないよな、カナ?」
「……ええ、叩きませんよ。……大事なお兄様ならね。馬鹿でエロい兄貴なら叩くけどッ!」
「あっ、カナちゃんが棒でタカくんを! 可哀想だけど、ぼろ泣きのタカくん可愛い! 写真写真、ぽちっとな♪」
 棒を振り回す妹から必死で逃げる休日だった。


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