・旅館の露天風呂が混浴だと知ってフリーズする敬語妹ツンデレと無表情姉

――さすがに疲れた。

部屋に戻るなりぶっ倒れた俺は、そのまま夕飯に呼ばれるまで眠り続けた。
山田に叩き起こされて軽く乱闘をした後、そろって食堂に向かうとかなみと舞姉が、みんなに混じって談笑していた。
……なぜに。

「ザキの計らいだぉ。どうせなら兄弟そろって食事した方が楽しいだろうって言ってたぉ」
「……感謝すべきか余計な御世話だと罵倒すべきか」
「いっそ両方とかやるとぐっじょぶ」
「参考にならない意見ありがとよ」

くだらないやり取りをしながら席に向かうと、2人は俺に気づいて挨拶をしてきた。

「お疲れ様です、兄さん。よく眠れました?」
「そりゃもうぐっすりな。明日は筋肉痛だ」
「軟弱者。お姉ちゃんを見習え」
「舞姉は規格外なんだから一緒にすんな。それより、かなみのほうが明日は大変だと思うぞ?」
「あ、それはたぶん大丈夫です。姉さんが後でマッサージしてくれるらしいですから」
「あんあん言わせてあげる」
「ぶっ」
「そんなこと言いませんっ!///」

そのテーブルだけ、やたらと賑やかな食事になった。

食事を終えた俺達は、互いに別れて風呂に入ることにした。
さすがに汗だくでそのまま寝てしまったからか、体がべとべとして気持ち悪い。
これは早いとこ温泉に入ってさっぱりすべきだろう。
タオルを肩にかけ、お風呂セットを持って風呂場に向かう。山田曰く、ほかのやつらは全員夕飯前に入ってしまったらしい。薄情なやつらめ。
逆にいえば、今このペンションには俺達の学校の人間しかいないことから、もしかしたら貸し切り状態になるかもしれないということ。
それはそれでいいかもしれないと、ふんふふ〜んと鼻歌を歌いながら浴場へと向かった。

「っはぁ〜〜……」

案の定、中には誰もいなかった。
広々とした桧の浴槽にのびのびとつかり、昼の疲れをとる。
なんて贅沢な。
これだけでも、ウィンターに来たかいがあったというものだ。

「うーん……しかし参ったな」

唯一の誤算は、ここまで二人がおしかけてきたこと。
まさかこんな強硬策に出るとは思いもしなかったから、最初は思いっきり戸惑ってしまったが。
てっきり問題になるんじゃないかと思っていたが、どうもうちの学年の教師たちはその辺りは大雑把らしい。
これといったお咎めもなく、むしろ喜んで二人は受け入れられ、ごく自然に溶け込んでいた。

「まぁ、うまくいってるにこしたことはないけどさ」

さっきの夕食だって、和気あいあいとしてて楽しかった。
さすがに二人して「あーん」攻撃されたのは、周りの野郎どもから殺意を感じて背筋が凍ったが、でもそれだって学校での延長だ。そんなとりたてて珍しいことではない。
かなみも舞姉も楽しんでいるみたいだし、ならこのままでもいっかと、結局結論付けた。

「そうだ、露天風呂いってみようか」

ドア一枚隔てた向こう側には、このペンション自慢(らしい)の露天風呂がある。
しかし、昨日の段階では鍵が掛かっており、入ることができなかったのだ。
もしかしたら男女で交代して使ってるのかもしれないと思い、だったら今日は入れるかもしれないと淡い期待を持って開けてみる。

「お、開いた」

ドアを開けると、身を突き刺すような冷気がなだれ込んでくる。
しかし、十分温泉で温まったからか、それほど寒くはない。
露天風呂は、予想以上に大きかった。
直径約七メートルもある円形の形で、その中央には俺の身長ほどもある巨大な岩が突き刺さっているかのようにして存在している。
無骨な蛇口からは、湯気と共にじゃばじゃばと熱いお湯が注がれていて、なんだかとても風情があった。
俺はにんまりとほほを緩めると、いそいそとお湯に浸かる。

「……幸せすぎる」

空には満天の星空。
そして岩造りの露天風呂と雪景色。
これ以上はないというくらいの至福に包まれて、俺は思わず溜息を洩らした。

「同感。温泉はいいね」
「ああ……できればうちもこんな風呂がほしいけど、無理だもんなぁ」
「しょうがない。ここで満喫すればいい」
「そうだな。せめて後悔しないくらいにまん……き……」

気づいた。
何故だ。何故こんなことになっている。
待て、落ち着け。クールになるんだ。そう、びーくーる。
状況を整理しろ。五感を研ぎ澄ませ。
俺はまず予想を立てる。
1:もともとここは女湯、男ははいっちゃいけないとこ。
2:実は交代制だけど、今は女湯。鍵が開いてたのは事故。
3:すべてを超越した混浴。つまり問題なし。

「正解は2」
「俺被害者だよな。悪くないよな。ってわけで出ていいか?」
「だめ」

舞姉がいた。俺の真横に。
楽しげに話しているけど、それはつまり俺をからかって楽しんでいるということ。
温泉の熱さによるものとはまた別の、嫌な汗がだらだらと流れた。

「正確にいえば、私が鍵開けた」
「……なんで」
「開けとけば、弟君ならきっとくると思ったから」
「計画犯かよっ!?」

ばしゃぁぁっと、一気に距離をとる。
つまりこうか、俺が風呂に行くのを見て舞姉は一足先に風呂に向かい、男湯につながる露天風呂のドアの鍵を開けておく。
それをてっきり、俺は入っていいものかと勘違いしてこうやって露天風呂に入り、舞姉と一緒に混浴になってしまってるわけで……。

「そろそろ俺上がるわごゆっくうぉわぁ!?」
「だめ。逃がさない」

ぐぬゅっと、音がした気がした。
タオルで股間を隠し、早々に脱出しようとした俺は、ぐいっと開いた手を引っ張られてお湯の中に再び引きずり込まれる。
その時、背中に感じたのがその音だった。
首に何かが巻き付き、ぎゅっと抱きしめられる。
かーっと頭に血が上り、軽くパニックに陥った。

「せっかくの姉弟水入らず。楽しまないと損」
「ま、ままま舞姉!? む、むむ、むね、むねあ、あたあた」
「おっきい?」
「……ああ、これはもしやDクラsってそうじゃなくてあたってる!? すごい直にぐにって歪むくらいに!!?!」
「あん……えっち」
「離せ! 俺を離せ解放しろ!」
「誰かいるんですか、姉さん? わ、ちょっと熱いかも……」
「このぐらい余裕。ちなみにゲストが一人」
「ゲスト?」
「!?!」

相変わらず俺の首に両手を巻きつけて、その豊満な胸を惜しげもなく押し付けてくる極楽地獄のさなか、俺は聞いちゃいけない声を聞いた気がした。

――こ、ここここの声はもしかしなくとも……っ!?

最悪の展開が予想される。
静かに水をかき分ける音と共に、湯気の向こうからやってくるのは、髪をお団子にした一人の人間。
うっすらと湯気に浮かぶその体躯、身長、そして聞いたことがありすぎて困る声。
もしかして俺、絶対絶命?

「かなみがびっくりする相手」
「なんです? まさか兄さんとか?」
「っ!?」

もしかしなくても、それはかなみだった。
しかも、湯気の向こうを見る限り、タオルで隠してすらいない。
やばい、やばいよこれ!?
そしてなんでそんなに鋭いんですかかなみさん!?

「おお、さすが。じゃぁご対面」
「……え」
「……あ、あは、あはは」

まるで空気を読んだかのように、俺とかなみの間にあった湯気がさーっと消え去ってしまう。
空気が凍った。
俺の乾いた笑いなど、その絶対零度の空間ではあってないようなもので。
そして一瞬で俺は様々な推測を立てる。
かなみが絶叫して、向こう側にいるみなさんをお招きして俺タイーホ。
かなみが顔を真っ赤にしてビンタをかまされ、巣巻きにされて雪原にぽい。
あまりの出来事に卒倒したかなみを介抱するために舞姉が俺を解放。その間に脱走。
とにかくいろいろ考えてみた。
そして最後の一つくらいしか俺が生き残る選択肢がないことを知って絶望した。

――あぁ……短い人生だったなぁ。

そうやって最期を悟り、状況を受け入れようと身構える。
だが、結果は俺が考えたどの状況をも裏切り、全く予想外の展開を見せた。

「っ……むがっ!?」
「しーっ。叫んだらだめ。静かに。このままゆっくり浸かる」

まず第一の推測通りに絶叫をあげようとしたかなみ。その時点で己の最後を覚悟したのだが、舞姉はそのさらに斜め上を行っていた。
まるで神業だった。
抱きついていた俺から一体いつ離れたのか、今やかなみの後ろに回り込んで羽交い締め。
口元には手を当てて声を出すのを封じ、きちんと頸動脈を絞めている。もしこのまま舞姉の忠告を無視して叫んだりすれば、舞姉は問答無用で絞め落とすだろう。
……実の妹にそこまでするか、舞姉。おそろしや。

「イエスなら首を縦に。ノーなら横に」
「(こくこく)」
「解放」
「ぷはっ! な、なんなんですかもう! 姉さん、今本気で私のこと落そうとしてたでしょう!?」
「激しく気のせい。証人保護プログラム」
「意味がわかりません! それに何で兄さんが……あ、あぅっ」

最初は威勢がよかったかなみも、俺の存在を指摘しようとしたところでようやく今の状況に思い至ったらしく、最後になるほど言葉が尻すぼみになった。
同時に鼻頭までお湯に浸かり、顔を真っ赤にして上目づかいに俺を見上げている。

「よ、よぅ」
「なんで兄さんがいるんですか!? ここ、今女湯のはずですよ!?」
「私が召喚した」

えっへんとえらそうに言う舞姉。ちっとも反省してねぇな、これは。

「……やっぱり姉さんですか。大方、先に男湯の鍵を開けておいたとかそんなところでしょう」
「名探偵かなみ」
「まったく……運よくほかに女性がいなかったからよかったですけど、一歩間違ったら大変なことになってましたよ?」
「それもまたあり。スリルがあって面白い」
「個人的なことに兄さんを巻き込まないでください!」
「……かなみ、照れ過ぎ」
「んなっ、ち、違いますっ!」
「ま、まぁまぁ。こうなっちまったもんはしょうがないからさ、ほら、かなみも落ち着け」
「ぶーっ」
「舞姉は少しは反省しろ」
「しょぼーん」
「はぁ……もういいですけどね」

ちゃぷ、っと。
二人は肩まで浸かる。
舞姉はほっぺを膨らませて。
かなみは呆れたように溜息をついて。
俺はあははーと苦笑するしかなくて。
気がつくと、俺を真ん中にして三人は並んでいた。

「まぁ驚いたけどさ、考えたら、昔は三人でよく風呂入ってたわけだし」
「私は今でもおっけー」
「姉さんはもっと恥じらいを持ってください」
「かなみはもっと素直になるべき」
「よ、余計なお世話ですっ」

俺をはさんで繰り広げられる会話が、なんだかとても懐かしかった。
昔、俺達はこうして一緒に風呂に入っていたのを思い出す。
その時も、こうやって俺を真ん中に挟んでいろいろと言い合っていたなぁ。
結局、何年もたった今でもそれは変わってなくて、俺はそれがとても嬉しかった。

「ほら二人とも喧嘩すんなって。もうこうなったのはしょうがないしさ」
「……兄さん、順応しすぎです」
「タカシは空気が読める子。撫で撫でしてあげる」

そう言って俺の頭をなでる舞姉。
……どうでもいいが、腕をあげたせいでちらちら見える横乳がとんでもなく嬌艶じみてて凶悪だ。

「むっ……」

それを見て、今度はかなみが柳眉をしかめた。
……これは間違いなく、対抗心を燃やしている。
舞姉は目ざとくそれを見てとって、からかうように言った。

「かなみ、我慢よくない」
「うぅ……」
「今は三人しかいないから、好きにしたら?」

その言葉が、後押しをしたのだろう。
かなみは、夜空の下でもわかるほど顔を真っ赤にして、覚悟を決めたのか目をつむるといきなり俺の腕に抱きついてきた。

「いひぁっ!? か、かかか、かなみさん!?」
「な、何も言わないでそのままでいてっ。恥ずかしくて死にそうなんだからっ!」

普段の丁寧語すらも忘れて、かなみは顔を隠して俺の右腕に抱きついてくる。
姉とは正反対に、Aより少しくらいしかない胸が、しかし確かにその存在を訴えて俺を刺激する。
ぺったんことはいうが、しかしそれでも女の子だ。
舞姉のアレとまではいかないが、しかし想像以上に柔らかいそれが激しい自己主張を押し付けてくる。
あ、いかん。このままではマイサンが……っ。

「よし、なら私も」
「なにぃぃいいっ!?」

今度は左腕に包み込まれるかのような感触がっっ!!
先ほど背中に感じものの比ではない柔らかさで、舞姉は自分のそれを俺の腕に押し付けてくる。

――やばい、やばいやばいやばいっ!!

頭に血が上るとか興奮するとかそういう問題じゃない。
いつの間に二人はこんなにも『女の子』になっていたんだとか、俺だって男なのに誘ってるのかとか、でも弟だからこういう対応なのかもとか、そういうのもひっくるめて、全てがやばかった。
心臓をばっくばっくにして、みっともないほどに冷や汗をだらだら流し、しかし体が硬直して動かないままパニックに陥る俺。
マイサンはもはや元気に起動を果たし、いつ気付かれるかこっちは不安で胃が痛くなりそうだ。
でも、そんなのはただの杞憂だった。

「ごめんね、兄さん」
「ごめん、タカシ」
「……え?」

姉妹二人が、同時に謝罪を口にしていた。
奇しくも、俺の腕に抱きつき、顔は伏せたままという全く同じポーズで、パニックと焦りで平常心を失っている俺に気づくことなく、2人は淡々と口にを動かす。

「ほ、本当はね? 私が最初に言ったんです。兄さんと一緒に、ウィンターに行きたいって」
「そう、だったの?」
「それで、私が準備した」
「……すげぇ納得した」

最初はただの思いつき。
ありえないようなただの希望を、舞姉はその変なところでの超人ぷりを発揮して、現実にしてしまった。
ようはただそれだけのこと。
それだけのことなのに、2人はとても申し訳なさそうだった。

「迷惑?」
「ごめんなさい、いきなりこんなことになって」
「……」

二人の言葉は違うけど、でも言いたいことは同じ。
まるで双子じゃないかってくらい気持ちが通じてる二人。
それがちょっとおかしくて、俺は思わず笑みを漏らした。

「んにゃ、全然」
「……嘘だ」
「嘘ですね」
「なんで俺ってばこんな信用ないの?」

ちょっと泣きそうになる。

「もう慣れっこだからさ、2人の突拍子のない行動には」
「馬鹿にされてる?」
「むしろ変人扱いしてませんか、兄さん?」
「してないっての。そりゃ、最初は驚いたけどさ。考えて見たら、結局いつも通りじゃん?」

そう、結局のところ、いつものことなのだ。
俺のところへ何も言わずに押しかけてきて、巻き込んで、振りまわして。
そしていつの間にか俺はそれを楽しんで、最後には「楽しかったな!」って笑って。
それでいいじゃないか。
いつも通り。
俺達が俺たちである、そのままの姿。
いつでも、どこでも、迷いなく。
ただ自然体であり、そして仲良く。
こんな素敵な姉弟妹(きょうだい)が、他にいるだろうか。

「俺、2人のこと誇りに思ってるよ。世界中に自慢できるくらい」

本心だった。
俺の、今の、今までの、そしてこれからの、偽らざる本心。
たとえ血がつながってなくても、絆という血で俺達はつながっている。
どこまでも、どこまでも。
遠くに離れても、それは決して途切れない、見えなくて太くて頑丈で、そして何よりも丈夫な最強の糸。

「だからさ、気にすんなって。むしろ、ありがとう。俺、このウィンターのこと、絶対忘れねぇ」

だから、記憶に刻まれる。
忘れえない、ダイヤモンドのように固く輝く思い出。

「タカシ、恥ずかしい」
「……ばか」
「え、え? 俺今いいこと言ったよね? なんで怒られてるの?」

やっと顔を上げてくれた姉と妹は、ともに不満そうな顔と照れた顔をごっちゃ混ぜにした、そんな微妙な顔で俺を見上げていた。
口を衝いて出るのは、いつものような悪態。
でも、そこには隠しきれない嬉しさがにじみ出ていて、俺の口も思わずほころんでしまう。
これが、俺達だ。これが、俺達なんだ。
きっと、これからもこうあるのだろう。
笑って、楽しんで、怒って、悲しんで、泣いて、でもまた笑って。
くり返しくり返し、思い出を刻んでいくのだろう。
この先にどんな分かれ道があっても、それまでに刻んだ思いは色あせずに残って、三人の中で決して失われることのない、何よりも大切な絆のままで。
それを確信して、俺は安心する。
でも、俺の腕に抱きついている二人の小悪魔は、まるでその安心した瞬間を狙っていたかのようだった。

「調子に乗った弟には罰ゲーム」
「そうですね、おしおきです」
「え、いや待て。俺が一体何をした」
「「問答無用♪」」

腕ではなく俺の体に完全に密着し、まさに抱き枕の如く抱きつかれる俺。
腕に感じた感触など比ではない、生々しいまでの柔らかさを全身で感じて、俺は言葉を詰まらせる。
そして、両方の頬に、キス。
一瞬触れ合うだけの、そんな子供じみたキスだけど、でも、なによりも衝撃的な、行動。

「舞姉……かなみ?」

二人の好意が、まるで流れ込んでくるかのようだった。
体中から溢れて、どうしようもなく暴走して、もう止められないというくらいはっきりとした感情。
問いかける俺の言葉に反応し、びくりと体を震わせる二人。
でも、次の瞬間。
この姉と妹は、声を奇麗に重ねて、微笑んだ。

『大好きだよ、タカシ♪』

その瞬間俺は、隣にいる二人の姉と妹が、まるで別人の女の子のように見えたのだった。





「ザキちゃーん、このばかっぷる、どうするー?」
「あー、いいから放っとけ。下手にかかわるとやけどじゃ済まないぞ」
「はーい」

ウィンタースクールも終わり、帰りのバスの中。
一番後ろの多人数用の席の一角は、別府姉弟妹(きょうだい)によって占領されていた。
間にタカシを挟み、その両隣に陣取る舞とかなみ。
舞は、無表情ながらもそれとなくわかるほどに上機嫌で、対してかなみはむすっと膨れている。
原因は簡単だ。
舞の肩に寄りかかって、アホ面を惜しげもなく晒して眠っているタカシの姿。それである。

「ね、姉さん。そろそろ交代して……」
「だめ。タカシ起きちゃう」
「うぅ……姉さんずるいですっ! 少しぐらい交代してくれたっていいじゃないですか!」
「タカシに言って。私がやってるわけじゃない」
「兄さんのばかーっ!」
「タカシ、起きちゃうよ?」

二人の美少女にとり合いをされていることにも気付かず、ただ泥のように眠っているタカシ。
昨日も結局、2人に引きずりまわされてへとへとになっていたのだ。
おまけに深夜は三人だけでなくクラスのみんなも巻き込んだ乱痴気騒ぎ。
そして、昼に姉妹の相手をしたタカシは、今こうして見事に轟沈してるわけである。

「昨日一昨日、かなみはタカシを独り占めした」
「その後姉さんだって二人っきりになったじゃないですか! それでお相子ですっ!」
「違う。かなみはマンツーマンで指導してもらった。私はただ滑っただけ」
「へ、屁理屈! 姉さんほんとずるいですよっ!」
「お姉ちゃんに勝つなんてまだまだ。修行が足りない」
「ふえぇ〜ん、兄さんこっちきてぇ〜!」
「……幸せ」

傍から見れば、幼馴染の男を取り合う美少女姉妹だ。
はたして、本人がそれに気づいているのかどうか。
それを横目で見ながら、山田と友子はどちらともなく笑い合う。

「まったく、面白いきょうだいだぉ」
「ほんと。こっちが恥ずかしくなるぐらいに、ね」

タカシが起きるまで終始、そんな調子でバスは走り続ける。、
こうして、お騒がせ姉妹の巻き起こしたウィンタースクール突入作戦は、タカシとその周りのみんなを遠慮なく巻き込んでひっかきまわし、静かに穏やかに、終わりを告げたのだった――。


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