第13話

前回までのあらすじ:越冬→再会→驚愕

色々詰め込むと、あらすじの説明に悩みます。
二人がまた出合ったら・・・こんどはずっと一緒だと思っていた。しかし、思いとは裏腹に纏から
はそれを否定する言葉。そのショックで、しばらく次の言葉がでなかった。
『その・・・立ち話もなんじゃし、中に入れてくれんかの?』

水出しのお茶に、冷凍庫に残っていた氷を入れて差し出す。
「それでさ・・・なんでダメなの?」
雪女の世界には俺じゃ判らない仕来りやら掟やらがある。説明されても納得できないかもしれない
が、聞かないまま「はいそうですか、わかりました」なんて言えるはずもない。
お茶を一口すすり、纏が話し出す。
『その・・・なんと言えばよのじゃろ・・・』
「言いづらい事なのか?」
『ま、まぁ・・・そうじゃな』
髪の毛の先っぽを指でクルクルさせながら、こっちを見たり下を見たりを繰り返す。
その動きがピタッと止まり、キッと睨みつける。
『お、お茶を・・・おかわりじゃ』
「分かった」
立ち上がって、ふと見ると纏りはお腹をしきりに摩っていた。
お腹の調子が悪いなら、氷は入れないほうがいいのかな?そう考えながら2杯目は氷を入れずに
作って差し出す。
「なぁ、体調悪いのか?」
『な、なぜそうそう思うのじゃ?』
「いや・・・なんか・・・何となく?」
『ふん、何となくでそういう事をいうでない!』
勢い良くお茶を口にして、けほっけほっとむせる。
「まったく、何やってるんだよ・・・」
そう言って背中を摩ってやる。せきが治まったところで、そのまま後ろから抱きしめた。
『な、何をするのじゃ!離さんか、莫迦者!』
「・・・」
『こら・・・離せと言うておろうが・・・』
「俺の事、好きじゃなくなったのか?」
『も、元より好きでも何でもないのじゃ』
「そっか・・・」
腕の力を抜くと、纏は座ったまま体勢を変えて、こっちを向く。お互い見つめあう格好だ。
そして、青い目が静かに閉じられる。こうする行動の意味は一つだ。
俺は優しく丁寧に・・・唇を重ねる。冷たくて柔らかい感触はあの時のキスと同じ。
止めるのが非常に惜しかったが、それ以上に息が続かないので仕方なく離す。
呼吸が整うを待って、もう1度尋ねた。
「なんで・・・ずっと一緒に居られないの?」
『や・・・その・・・だ、大事な時期になってしまったからじゃ・・・』
そう言うとまたお腹を摩り始めた。
「えっと・・・大事な時期?」
『お、お主が悪いのじゃぞ?さっさと、準備を終えないから・・・こんなになってしまって』
「・・・」
『ま、まだ分からんのか!はぁ・・・こんな愚図が父親とは、この娘も可愛そうじゃな』
「ちちお・・・や?」
視線をそらして、恥ずかしそうに頷く。
「い、いやいやいや、待って!」
『何を待てというじゃ!まさか覚えておらぬとは言わせぬぞ?』
「だって・・・えっと・・・えーー!?」
頭の中が真っ白になる。いきなり・・・だぜ?確かに良く見ると、お腹が心持出ているような気がする。
じっとそっちの方を見ていると、ぱっと後ろを向かれた。
『こ、これ、あんまりジロジロ見るでない。恥ずかしいじゃろうが』
「あ、あのさ・・・触ってもいい・・・かな?」
こっちへ向き直る。そして、俺の手をとると、自分の腹部へ当てた。
正直、この中に自分の子供が居るなんて・・・あんまり実感がわかない。
だけど、纏の慈しむような表情を見ていると、本当の事なんだなと思う。
『だ、黙ってないで、何か喋ったらどうじゃ?』
「え?それじゃ・・・でかしたぞ」
『月並みじゃな。つまらんの』
そうは言いつつも、嬉しそうだった。何だかんだ言っても、俺の自分の子供だと認識して
欲しかったのかな?
「何か俺の知らない所で・・・色々大変だったんだな」
『元来、雪女は男の居ない社会。お主がおらんでもまったく問題ないのじゃ』
「そりゃ、俺は必要ないって事か?」
『・・・儂は父親の顔も名前も知らんのじゃ』
「え・・・?」
『雪女にとって、人間の男とは子供を授かる道具でしかない。授かれば、用無しなのじゃよ。
 だから、一晩共にして、それっきりという事が多いのじゃ』
「そ、そうなのか・・・」
『じゃが・・・やはりな、父親に会ってみたいと思う事があるのじゃよ。それに・・・』
「それに?」
『たとえ一晩でも愛し合ったのじゃから、産んだ時の喜びも二人で・・・分かち合いたいと思うての』
ここまで話した纏が急にはっとした顔をする。
『お、お主とは愛し合った訳ではのうて、単なる間違いじゃからな?』
「つまり、俺とは一緒に喜びたくないって事?子供に会わなくても良いって事?」
う・・・と言葉に詰まる纏。
『そ、そんな・・・意地悪な事言うでない・・・そんなお主は大嫌いじゃ』
むくれてそっぽを向く。こういうやり取りも久しぶりで、すごく楽しい。
改めて抱きしめてやり、頭を撫でる。
『じゃ、じゃから・・・撫でるなと言うておろうが』
「嫌なら払いのければいいじゃない?」
『うぅ・・・またそうやって意地悪を・・・本当に酷い男じゃ』
拗ねたような顔で上目遣い。これもこれで可愛いなって思う。だが、撫で続けると
次第に嬉しそうな顔になり、顔も赤くなっていく。
「纏・・・愛してるよ」
そう言って、さらに強く抱きしめる。
『タカシ・・・』
纏も俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくる。
「今日は・・・いつまで居れる?」
『あまり遅くならなければ・・・まだ大丈夫じゃ』
「じゃぁ、もう少しこのままこうしてても・・・いいかな?」
『まったく、しょうがない奴じゃな。仕方ないの』
全然仕方ないという表情じゃない。これは一つ、お仕置きが必要だな。
今度は短く、激しいキスを何度も何度もする。唇が触れ合うたびに、纏からは
甘い吐息が漏れる。
『やっ、タカシ・・・んん・・・そんな・・・あっ・・・ちゃんと・・・』
「ちゃんと・・・ちゃんと、どうして欲しいの?」
『・・・』
「言わないと・・・してあげない」
『久しぶりなのじゃから・・・やさしく・・・して欲しいのじゃ』
「ふ〜ん・・・して欲しいんだ」
『ほ、本当は、お主なんぞとしたくないのじゃが・・・妊娠中のは胎児にも良いとされておるで』
「つまり?」
『えぇい!まどろっこしい奴じゃ!』
「わっ、ちょっと待て!大事な時期なんだから、無理やりは」
『問答無用じゃ〜!』
こうして久しぶりの再会は熱く激しくなった訳でして・・・。

『もうここで良いぞ』
夜も更けてきて、さすがに戻らないといけない時間。雪女の里には入れないので、そのギリギリの
境界線まで送る事にした。周りは民家も街灯もないが、月がまぶしいほどの光を放っているので
足元が見えないといういうような心配もなさそうだ。
「次は・・・いつ逢えるかな?」
心配そうな顔をする俺を面白がっているように微笑みながら纏は答えた。
『さぁの・・・儂の気分次第じゃな。暇でどうしようもなかったら逢ってやらんこともないぞ』
「あはは、そうか」
『そもそもじゃな、もっと早く準備が終わっておれば、しばらくは一緒に暮らせたのじゃぞ?』
「だから悪かったって。俺だって一生懸命やったんだからさ・・・」
『分かっておる。さっきのお返しに嫌味を言うてみただけじゃ』
そう言って差し出す手に、持っていた袋を渡す。中身は本来の目的あるアイスだ。
なんでも、纏が里へ戻った時に人間の世界で食べたアイスが美味かったという話をしたら
是非食べてみたいという事になったらしい。言い付かったのは2つだけだったが、そんな
事情ならと、買って来た物全てを持たせてやる事にした。
「あ、その黄色いパッケージのが俺の一押しね」
『ふん、では儂はそれ以外を食べることにするかの』
不敵な笑みを浮かべながら、纏は木々の間に消えていった。
次に逢えるのはいつだろう?もしかしたら、子供が生まれた後なのかな?それなら名前とか
考えておいた方がいいのかな?などと考える事は山ほどできた一日だった。

翌日、目を覚ますと纏が朝飯を作ってました。曰く『適度な運動が必要じゃから仕方なく来た』らしいです。


前へ  / トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system