第4話
前回までのあらすじ:雪女→抱擁→極楽

微妙なニュアンスまで伝えられたか不安だがそんな感じ。
すやすやと眠る我が姫君を起こさないように、慎重に料理を始める。
チーン
おっと、から揚げが完成したようだ。レンジ、音を自重しろ!
・・・何?レンジでチンしただけで料理とか言うな?
ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。むははは・・・・はは・・・は・・・サーセン。
でも、食事の主役を張れるってから揚げとかじゃない?サラダとかは作れるけど
一人暮らしだと揚げ物なんてやらないしさ。
ほ、他のはちゃんと自分で作ったんだからね?勘違いしちゃダメだからね?
・・・俺は誰に言い訳してるんだ?
「よし、出来た」
テーブルにずらっと並ぶ色とりどりの皿。相手の好みが分からないので
量を控えめに品数を多くで攻めてみた。揚げ物や焼き物も冷まし済みだぜ。
「きっと目が覚めて、こんなに料理が一杯だったら・・・」

『す、凄い、見直したぞ』
「ふっ、俺がちょっと本気を出せばこの通りだ」
『儂のために・・・ぐすっ・・・ふぇぇぇ・・・たかしぃ・・・ありがとう・・・』
ぎゅ・・・
「何言ってるんだよ?俺達はもう家族だろ?」
『ぐすっ・・・家族・・・?儂は・・・その・・・』
「雪女だからダメと言うのか?そんなのナンセンス、愛があれば年齢だって生物の壁だって関係ない」
『愛・・・お主は・・・儂の事を・・・』
「愛してるよ・・・纏」
「タカシ・・・儂も・・・」

「うあああああぁぁぁ、何考えてるんだ俺は!!!」
いかん、相手は子供なのに、イケナイ妄想に突入するところだった。
頭を振って妄想の残りカスを振り払うと、ベットへ向かった。
「纏、起きれ。準備できたぞ」
ううん・・・と妙に色っぽい声を出す眠り姫。さっきの妄想の続きがむくむくと膨らむ訳で。
あぁ、俺はどうしちゃったんだろう?
『・・・たか・・・し・・・』
名前を呼ばれた。その口元・・・綺麗なピンク色の唇。
ドクンと大きく心臓が鳴る。
「纏・・・」

完全に待ちぼうけをくった歓迎会の料理を見ながら、本日4本目のアイスを頬張る。
結局は理性が勝ち、あわや警察沙汰は回避した。もちろん、指1本触れていない。
「次は・・・大丈夫かな?」
不安を口に出してみたが、自信は失っていく一方。
冷静に考えてみれた、雪女に対して人間の法律なんて適応されないよな・・・。
しかし、相手は妖力を持っているので闇から闇に葬られそうな気もする。
『晩飯前に間食とは関心せんのぉ』
いきなりの声でビックリ。心臓が胸を突き破って飛んだかと思うくらいだ。
「おはよ」
何とか冷静な声で対応できた。我ながら偉い。
『・・・意気地なし』
「は?今なんて?」
『な、何でもない・・・独り言じゃ!』
纏の顔は不機嫌そのものと言った様子。ここは一つ、歓迎会の料理を見せて
機嫌を直してもらうしかない!
「纏のために一杯つくったぞ、見てくれ」
『・・・』
無反応ですか、そうですか。やっぱり、根本的に食べるものが違うのか?
箸でから揚げをつまむと、まじまじと見ていた。
なんか・・・秘境にいって、原住民の食事を無理やり食べさせられるリポーターのような
感じだ。
「あ、あぁ、それはから揚げと言ってな−」
『知っておる』
「そうっすか」
『ふむ・・・冷凍食品じゃな』
「ぎくっ・・・なんで判った?」
『お主のような男やもめが、揚げ物なんぞ作れるわけないじゃろ』
鋭い・・・。どうやら相手のほうが俺より何枚も上手だったらしい。
料理で女性を欺こうとした俺が浅はかだったのか?
『まったく・・・手料理とか言うから期待したのじゃがな・・・』
「いや、他のは手料理だよ!それだけは、ちょっと見栄張りたかったから・・・」
纏は軽くため息をつくと、きんぴらごぼうを口に入れた。
『ふむ・・・確かに。これは手料理じゃな』
「おぉ、判ってくれたか」
『こんな不味い物を売ったら、間違いなく店は潰れるじゃろうな』
そこからチクチクとハバネロも裸足で逃げ出すような辛口評論が続く。
海原○山も「そこまでは言いすぎではないか?」と庇ってくれそうな気がするよ、うん。
結局、例のから揚げ以外、すべてに辛口品評がくだされた。
から揚げなんて、口にすら入れてもらえてないがな。テラカワイソス。
『ま・・・お主じゃし、この程度じゃな』
デザートとしてアイスを食べながら、主賓の纏様より閉会の言葉を頂いた。まさに 撃 沈 。
俺は逃げるように風呂場へ走り出しシャワーを浴びる。
頬を水が伝うが、これは涙じゃなくてただの水なんだからな!

風呂からでると、テーブルが綺麗さっぱり。残り物はきちっとラップが掛けられ冷蔵庫に仕舞われていた。
あー・・・主役にここまでやらしてしまった自分がとことん情けない。
「纏・・・ゴメンな」
『謝られたくない・・・このくらい、普通じゃ』
「いや、でもさ。料理もお気に召さなかったし、片付けまでやらせちゃったし・・・」
『愚痴愚痴とうるさい奴じゃのぉ・・・』
怖くて顔がみれない。きっと、めっちゃ不機嫌な顔してらっしゃるに違いない。
もう、謝って謝って許してもらおう。それしかない。
「本当にゴメン!どこかお店でやればよかったんだよな。あ、明日さ・・・」
ぽんっと肩を叩かれる。首筋に真剣をあてがわれたような感じといえばいいのか、背筋が
ゾクゾクっとする。俺の生殺与奪は纏の気持ち一つ・・・。
『顔をあげい』
恐る恐る顔をあげて、纏を見ると・・・あ、あれ?怒ってないの?
『共に暮らすというのは家族も同じじゃろ?家事の分担程度、普通ではないのか?』
「ぐすっ・・・家族?・・・俺は・・・」
『お主と家族なぞ、気持ち悪いがの。じゃが、成り行きでこうなった以上は仕方がない』
さっき妄想したのと立場が逆な気がしなくもない。人として、男としてこれでいいのだろうか?
・・・まぁ、機嫌が直ったみたいなので良しとしようか。

夜もいよいよ更けていき、就寝の時間。
「普段なら寝苦しい夜も、今日からは違うぜ」
『うぅ、暑苦しい!あまり近くに来るではない!』
なんたって、抱き枕兼氷嚢という纏がいるのだ。世間ではクーラーなんぞつかっているがな
俺の冷房はふにふにしてるし、いい匂いなんだぞ!
『わっ、こら!抱きつくでない!』
「だーめ。働かざるもの食うべからずって言ったのは誰だっけ?」
『う・・・わ、儂じゃが・・・』
「食べたからには、きっちり働いてもらうからな」
『あんな不味いものを食べさせられて働けとは何じゃ!』
ついでに、文句まで言う機能つきだぜ。

この後、さっきの料理の話になりちょっと涙目になったのは内緒。

「・・・」
『・・・』
「・・・なぁ?」
『なんじゃ?』
「もしかして・・・お前、さっき寝たから眠れないのか?」
『そんな訳ないぞ?もう、眠くてかなわん。話しかけるでない』
「おう・・・わかった」
『・・・』
「・・・」
『・・・ほ、本当に寝るのか?』
「え?どういう意味?」
『な、何でもない!さっさと寝るのじゃ!』
「んだよ・・・話しかけてきたのはそっちじゃないか・・・」
さっきといい、俺に何をして欲しいのかまったく判らない。世間の年頃の娘を持つお父さんは
さぞ大変なんだろうな・・・。独身の俺としては、娘が持てるだけでも羨ましいが。
『・・・寝たか?』
返事をすると、また何か言われそうなので黙る事にしよう。もう俺は寝たんですって。
寝てる振りをしていたが、目を瞑っていると睡魔に導かれて意識が夢の世界へ旅立ち始める。
その夢と現実の境目で・・・唇に冷たくて柔らかいものが押し当てられた感触がした・・・気がした。

その日の夢は全裸で南極をマラソンする夢だった。こんな夢を見るって事は、涼しすぎるのも問題か?


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