第5話
前回までのあらすじ:料理→酷評→涙目

俺的にはもう、この事でいっぱいいっぱいでしたよ、えぇ。
目を覚ます。カーテンの隙間から太陽の光が強く差し、今日も晴天だという事が嫌でも分かった。
時計を見るとまだ7時。普段ならこのまま昼までダラダラとしているが、同居人ができたので
そうもいかないだろうな。あいつ、多分休みもキチッと起きるタイプだろうし。
とりあえず、朝飯を作ろうかな?などと考えていたとき、異変に気づく。
ベットには俺一人だけだった。
トイレにでも行ったのか?しかし、纏が寝ていたであろう場所を触っても冷たさは感じられない。
まさか夢オチじゃないだろうな?目が覚めたら、昨日の昼間・・・とかさ。
ほっぺたを抓ってもしっかり痛みを感じる。夢ではないな。
ふと思う。まさか・・・溶けた?都会の熱帯夜は田舎では想像を絶する暑さだろう。
妖力だかで防ぎきれなくなって・・・なんてこった!俺が抱きついていたせいで、身動きもままならない
まま、そのままじわりじわりと。あぁ、俺が殺したも同じじゃないか。
「纏・・・」
ガラガラ
『なんじゃ、起きたのか?それなら早よう、こっちへこんか。飯の準備はできておるぞ?』

「つまり、朝早く目が覚めて、やる事がない。だから、暇つぶしに朝ごはんを作った・・・と?」
『うむ、そうじゃ。あくまでも、暇だからじゃからな?』
「お前な、起きたらいないからビックリしただろ。溶けたかと思ったぞ」
『溶けるか!』
まぁ、なんにせよ無事でよかった。味噌汁を一口すすると
「・・・あつっ」
『当たり前じゃろ。作りたてじゃしの』
見ると、ご飯、味噌汁、その他もろもろ全部湯気が立ち上っていた。
しかし、ある疑問がよぎった。
「纏、お前は熱いのダメなんじゃなかったか?」
『ダメじゃ』
「でもさ、纏が作ってくれたのって、熱々だよ?」
『儂は食べん。全部お主が食べよ』
纏の目の前をみると・・・どこかで見覚えのある料理が並んでいた。なんか、思い出したくもない
昔の失敗の証拠をずらっと並べられている、そんな感じだ。
「・・・それ、俺に対する嫌がらせか?」
『何を言う。儂が食べるのじゃ』
「いや、昨日散々ケチつけたじゃないか」
『確かに不味いがの、食べ物を粗末にしては罰が当たるじゃろ?それに調度いい塩梅に冷えてるし』
「そうか・・・」
『そ、それよりじゃな・・・どうじゃ?』
「何が?」
『何がって・・・儂の作った料理に決まっておろうが!』
熱さに驚いて、ちゃんと味わってなかったな。では再び味噌汁から・・・。
纏はなんとも言えない神妙な顔つきでこちらを見つめていた。
「・・・悔しいな」
『な、何がじゃ?』
「いや、俺も仕返ししようって思ったんだけどさ・・・なんつーか・・・な」
『もったいぶらずに、結論を言え』
「・・・美味い」
これでもかってくらいの笑顔でニンマリとする纏。ついでに小さくガッツポーズしてるし。
『ま、まぁ、当たり前じゃな。この程度、まだまだ儂は本気を出しておらんからの?』
ぷいっとそっぽを向く。白い頬はほのかに朱に染まっている。
続いての玉子焼きも、これまた美味かった。・・・悔しいけど、嬉しいな。
「俺のために作ってくれたんだもんなぁ・・・それだけでも美味しく感じるよ」
『ち、違・・・ひ、暇つぶしじゃ!お主のためではないぞ!』
真っ赤になった顔の纏さんに怒られました。褒めたのに怒られるなんて、なんという理不尽。
俺、カワイソス。
そんなこんなで食卓の皿は残らず綺麗さっぱり。
「晩飯やってもらったから、朝飯は俺がやる!分担だろ?」
そういって洗い物は俺がやる事にした。美味いもの食べさせてもらった、せめてものお礼だ。
洗い物をしながらふと・・・お皿が多い事に気がついた。
そう、昨日俺が作ったものも綺麗さっぱり平らげられている。
なんだかんだ言っても、残さず食べてくれた。作り手にとって、嬉しい限り。
心の中で「ありがとう」っと呟いて、最後の皿を棚にしまった。

部屋に戻ると、纏はテレビを見ていた。
画面には、きぐるみとちびっ子が仲良く踊るシーン。それにあわせて、纏も左右にリズムを取る。
・・・思わず頬が緩むのを感じた訳でして。
俺は、後ろから纏の両脇に手を入れて持ち上げ、そのまま腰を下ろす。
胡坐をかいて、その上に纏りを座らせ抱きしめる格好だ。そして、止めに頭の上にあごを乗せて完成。
『・・・な、お、お主!いつのまに!』
ふふふ、やられた本人すら気がつかない早業。今日も冷たくて、吸い付くような抱き心地ですな。
「いや、テレビ見てるの邪魔しちゃ悪いから」
『こ、この体勢にすること事態が邪魔をじゃ!』
「でもさ、これは纏の仕事だから」
う・・・と言葉に詰まる。つくづく律儀というか、何と言うか。お陰で涼しく過ごせる訳だけど。
でも、そんな纏を利用しているようで、ちょっと心が痛んだ。
「あのさ」
『何じゃ?』
「・・・こういうの、嫌・・・だよね?」
『無論じゃ!』
「ゴメン」
乗せたあごをどけて、手の力を緩めた。が、一向にどこうとしなかった。
不思議に思っていると纏から意外な一言が
『つまり、お主は儂に飢え死にせよと申すのか?』
「は?」
『言うたじゃろ?働かざるもの食うべからずと』
「いや、でもさ」
『お主、仕事は好きか?』
「いや・・・あんまり」
『では、何故辞めんのじゃ?』
何故・・・そういわれると、真面目に考えた事がないな。
新しい職場を探すのがめんどくさいから・・・?それとも、辞めると他の人に迷惑をかけるから?
う〜ん・・・分からない。
『つまり、嫌といいつつも潜在的には続けたいと思う理由があるからじゃ』
そう言って、纏は俺の方へ体を預けてきた。それにあわせて、再び腕に力を込める。
「てことは、俺にぎゅってされたい理由があるの?」
『あ、ある訳ないじゃろ!ただ、嫌でも続けないといけないという事があるという例えであってなじゃな』
この体勢からは見えないけど、多分顔を赤くして言ってるんだな。
ともあれ、何となくだけど、本心では嫌がってないって言うのが分かった。
「ん〜〜・・・まつり」
『こ、これ、頭の上をグリグリするでない!』
あごを乗っけて、つむじの辺りに押し付ける。そういえば、今日は髪の毛を結わいてないな。
おろした髪は普段結んでる場所であっちこっちの方向に跳ねている。
「今日は結わいてないんだね。でも、これはこれも良いよ。可愛い」
『ふぇ・・・そ、そうか・・・・』
急に大人しくなったので、しばらくそのままでいる事にした。
テレビは良く分からないヒーローが子供達と混ざってストレッチをして、怪人をやっつけるという
なかなかシュールな画像を映し出していた。
「なんか面白いな、コレ」
『ふん・・・この程度が面白なぞ、お主は子供じゃな』
「いや、子供のお前に言われたくないな」
『何を言う、儂は立派な大人じゃぞ?』
「あー、そうだったね。はいはーい」
子供の頃は早く大人になりたいと思っていた。大人になって、お金を稼いで、好きなものを
好きなだけ買いたいって。でも、実際なってみると、子供の頃は働かなくても良いし
何より自由だったな・・・と羨ましく思うんだよな。
『随分な言い方じゃな?言っておくが、儂は成人の雪女じゃぞ?』
「そうか。でもな、雪女の世界ではそうかもしれんが、人間の世界では子供なんだよ」
『お主・・・儂をいくつだと思うてる?』
なかなか難しい質問だな。こと女性に対しては、実年齢をほぼピタリと当てないと
不機嫌になるケースも多々ある。若く見られたくないとか、年とって見られたくないとか。
今回は子供だが、大人ぶっているからちょっと割り増しで答えてやるか。
「うーん・・・12歳」
『たわけ!』
肘打ちがわき腹に命中した。俺は32のダメージをうけた。
・・・分かりにくいが、かなり痛いって事。
『儂は、雪女の世界の掟でも、人間の法律でも子を生める年じゃ』
「またまた、ご冗談を」
『冗談でこんな事を言うと思うてか?』
1日しか一緒にすごしていないが、冗談を言うような性格ではないのは間違いない。
つまり・・・本当なのか!?
『お主の不可解な態度の理由がよ〜〜〜っく分かった』
そう言うと、底冷えをするような大きくて深いため息をついた。
俺はというと・・・あれ?何か嬉しい??これで悩ましい諸問題が解決したんじゃね?みたいな。
が、昨日1日の行動を振り返ると、恥ずかしさのあまり顔が火照っていく。

テレビは小学生向けの理科番組、お題は空気に力を加えたら。頼む、俺に空気の読み方教えてくれ。


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