第6話
前回までのあらすじ:雪女→子供→大人

何事も思い込みとか決め付けるのは良くないって事で。
胡坐の上に纏を座らせ、抱きしめ、あご乗せの体勢は続く。
「そっか・・・お前、大人だったのか」
『どこからどう見ても大人じゃろうが!』
これってボケてるのか?突っ込んだ方がいいのか?見た目は妥協して中学生がいいところだろう。
って、思ってることを言うと、また肘打ちがきそうなので止めておいた。
「童顔なのはいいとして・・・やっぱり大きさで見誤ったんだな」
『それなら心配ないぞ?医者の見立てでは、難産するやもしれぬが、問題ないとおっしゃっているしの』
いや、体のサイズじゃなくて、胸の方ですよ。どうみても真っ直ぐじゃないっすか、絶壁ですよ。
・・・でも、この身長で巨乳もちょっと嫌だな。
『よもや・・・こっちの大きさ、と言っているではないじゃろうな?』
そういうと両手で胸を押さえた。
「・・・いや、違うよ」
『なんじゃ、その間は!やっぱりこっちの事を言っておったのか!』
バレた。さすがは女の勘というべきか。それとも、実は身長以上に気にしてるのか?
「心配するな、俺は巨乳より貧乳の方が好きだよ」
『ひ、貧乳と言うでない!ひ、控えめなだけじゃ!』
あはは、やっぱり気にしてたのか。この姿勢は、つくづく相手の顔が見れないのが難点だと思う。
でも、抱きつくには調度いいから止めるつもりはないけれど。
『そ、それに、お主に好きなど言われても・・・う、嬉しくも何ともないしの・・・』
そう言いつつも、さらに体を俺の方に預けて、足もパタパタ。とても嬉しそうに見える。
その仕草がとっても可愛いので、もう少し意地悪、もとい喜ばせてみたくなった。
「纏・・・」
耳元でそっと囁いてみた。
『ん・・・』
纏が俺のほうを向く。目が合うと、こっちも妙に恥ずかしい。
しばらく見詰め合う・・・やばい、ドキドキが止まらない。
ふいに、青い瞳が閉じられる。その意味、続いての行為について考えるまでもない。
俺も目を閉じて、顔を近づける。

ピンポーン

あともう少しで唇が触れ合うという所で、無粋なチャイムが鳴り響く。
二人とも目を開け、再び見詰め合うと、今度は気まずさが勝ったのか急に不機嫌な顔をされた。
『や、な、何を・・・しようとしておるのじゃ!』
「な、何って・・・」
『えぇい!来客じゃろ?さっさと行かんか』
纏を胡坐の上から床に座りなおさせると、しぶしぶと玄関へ歩き出す。
これで宗教や新聞の勧誘だったら、かなり暴力的な俺が登場するだろう。
相手が泣いて謝っても許さん!そんな自分を止められる自信ない・・・止める気もないが。
ガチャ ガツッ
『いたっ・・・』
勢い良く開けると何かに当たる音がした。あれ・・・これって、前もあったような・・・?
目の前には、鼻の頭を抑える女性が立っていた。
その女性・・・一目見て気がつく。白い着物、青い瞳。
間違いなく、纏の関係者だ。
『急に開けるからぶつけてしまったではないか』
「どなたですか?」
『ほう、謝罪の言葉もないとはな・・・』
冷たい視線が俺を射抜く。睨まれたまま動けない・・・まるで足元から凍りつくような感覚。
「そ、その・・・すいま・・・せん」
やっとの思いで口をひらき、言葉を搾り出す。女性が視線を逸らすと、ようやく動けるようになった。
『自己紹介がまだだったな。私は尊と申す」
「お、俺は・・・」
『別府タカシ・・・だろ?』
何で知っているんだ・・・?そういえば、纏も俺の名前を知っていたな。
「どうして俺の事を?」
『なんだ、纏から聞いていないのか?ふむ・・・』
何かを考え事をしているような様子。ともかく、尊と名乗る女性から纏の名前がでたので
関係者であることは間違い。
『纏は中にいるのか?』
「え?はい・・・います」
何となく丁寧に答えてしまった。この人には、何故だかそういう雰囲気がある。
尊は俺の事などまったく気にせず中に入いり、俺もそれに遅れる形で部屋へ戻った。

『やはりここに居たか、纏』
『ね、姉さま!?』
纏の表情は、驚きよりむしろ恐怖といった感じだった。この二人、仲悪いのか?
『私が何故ここにいると思う?』
『・・・わ、儂を連れ戻しに』
『分かっているじゃないか。では、帰るぞ!』
『い、嫌じゃ!儂は帰らない』
『ならば力づくでも・・・となるが?』
尊から冷たい突風のような圧力を感じる。まるで吹雪そのものだ。
纏もそれに応じるように立ち上がると睨みつけた。
俺はというと、ここで我に帰る。このままだと俺もそうだが、部屋の物がすべてが危ない。
「ちょ、ちょっと待った!二人とも落ち着けよ!」
かなり怖かったが、二人の間に割って入る。前後からそれぞれ感じは違えど、凍りつくような圧力
が加わり立っているのがやっとだ。
『人間風情が私を止められると思っているのか?』
言葉の一言一言が刺すように痛い。
「纏が嫌がってるじゃないか!力づくは相手の言い分を聞いてからでも遅くはないだろ?」
『お主・・・』
やや間があって、尊から感じる圧力が消えた。
『冷たい茶を用意しろ、話はそれからだ』
どうやら俺と部屋の物は氷付けから逃れる事に成功したらしい。・・・今は、だけど。

「どうぞ」
昨日のうちに作って冷やしていた麦茶をだす。
『少々込み入った話をするで・・・お主は向うの部屋に行っておれ』
「分かった」
部屋のドアと閉じて、ベットに寝転がる。どんな話をするのか気になるところであるが
下手に盗み聞きがバレたら大変だ。おそらく、人生というフィールドから1発退場だろうな。
1日振りだが、久しぶりに思える猛暑を味わいつつ、これからどうなるのかを考える。
纏が連れ戻されたら、また暑さの中を耐える日々に戻る訳だ。
・・・いや、暑さなんかどうでもいい。
今の俺にとっては、纏がいない生活自体に耐えられないかもしれない。一緒に暮らし始めて
たった1日だが、長い時間いたような気がする。
もしそうなったら・・・敵うはずもないが、とりあえず抵抗してみようかな?
それで死んだとしても・・・好きな女のためならカッコいいじゃん。男ってそんな生き物だろ?

・・・好き?

昨日から感じていた違和感の原因はこれだった。俺はいつの間にか、纏の事が好きになっていたのか。
それに気がつかなかったのは、相手を子供だと思っていたから。大人だって聞いたとき嬉しかったのは
堂々と恋愛ができる感じたから。
フラれて傷つくのが嫌で、ずっと逃げていた恋愛。いつの間にか、人を好きになったときの
感情がどういうものか忘れていたんだな。・・・我ながら、情けない。
ベットから飛び起きると、禁断のドアを開けた。
いきなりの事で驚く二人。
『お、お主・・・』
「俺はお前が好きだ!どこにも行かせないかならな!」
呆然とする纏を強引に抱き寄せて、唇を重ねた。
『あははは、あの時の纏の顔・・・キョトンって・・・思い出すだけで・・・ぷははは』
『姉さま、笑いすぎじゃ』
『いや、すまん。しかし・・・あははは』
部屋に入ったときは話しがついて、もう少しここに居ても良いという事になっていたらしい。
そこに俺が入って、いきなりの行動。すっげー恥ずかしい・・・いっそ殺してくれ。
『お、お主が悪いのじゃぞ?いきなり・・・せ、接吻など・・・莫迦者が』
真っ赤な顔で睨まれた。でも、口元は緩んでいたのを見逃さなかった。
『里の長には、すでに人間を虜にしているので子を授かるのも時間の問題と伝えておこう』
『ね、姉さま!!!今のは、こやつが勝手にやった行動であって、儂は別に』
さらに真っ赤になって抗議したが、すでにとき遅しといった感じであった。

帰り際の尊から封筒を渡される。
『万が一、纏に何かあったらそこへ連絡しろ』
「はい、わかりました」
『それと・・・』
急に視線を逸らした。指先は髪の毛のさきっぽをくるくるといじる。
あれ?この仕草は、纏もしてたな・・・。
『さっきのお前、ちょっと・・・か、カッコ良かったぞ』
「は?はぁ・・・それはどうも」
そう言うとダッと走り出し、あっという間に小さくなっていた。
『姉さまはもう帰ったのか?』
「うん・・・今あの辺じゃないかな?」
すでに見えなくなった後姿に指を差す。

部屋に戻ってチャンネルを変えると暴れる8代将軍の姿が。あぁ、もすうぐお昼だなと思う俺であった。


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