第15話(後日談)


纏が会合だかで出かけてしまったので、娘と二人きりのお昼ご飯。雪女の世界は割りと躾けには
厳しいらしいく、いつも箸の持ち方がどうのとか、茶碗の手の添え方がどうのとか、果ては
ご飯とおかずの食べる割合に至るまで細かく指導が入る。
まぁ、大抵は俺が「美味しく食べられれば何でもいいんじゃね?」みたいな事をついつい言って
指導対象がこっちに向き『お主が甘いからいつまでたっても・・・』みたいな事を永遠言われる訳だが。
普段はそんな感じなので、鬼の居ぬ間のなんとやら、娘は嬉しそうにご飯を食べていた。
「どうだ?お父さんが作ったんだけど美味しいか?」
『まずい・・・けど・・・もったいないから・・・たべる』
どうも最近、そっちの兆候が出てきたようで。生まれた直後は、お母さんみたいになって欲しいな
どうせなるんだろうな?と思っていた。しかし、現実に突きつけられしみじみ思う。
やっぱり素直が一番だよ・・・マジで。
「ほら、ニンジン残しちゃダメだろ?」
『・・・』
「どした?」
『にんじん・・・きらい・・・おかずに・・・いれた・・・ととさまも・・・きらい』
でも、そこは親子。子供がどうして欲しいのかを見分ける事が出来るわけ。言葉の裏に込められた
意味を解釈しないと付き合っていけません。・・・まぁ、それは纏にも同じ事が言える訳だけどね。
期待の眼差しで上目遣いされる。はいはい、分かってますよ、お母さんが居る時はできないからね?
「はい、あーん」
『そ、そんなこと・・・されても・・・たべない・・・』
「そうか・・・」
『で、でも・・・ととさまが・・・かわいそうだから・・・たべてあげる・・・しょうがない・・・』
そう言って、美味しそうに頬張る我が娘。ちなみに、ニンジンが嫌いで食べられないというのは
俺の前でだけの設定らしい。なぜなら、纏が居る時はちゃんと食べているからだ。

お昼ご飯の片付けが済み、テレビでも観ようかと腰を下ろす。しかし、すぐにはテレビをつけては
いけない。そもそも、テーブルにはチャンネルが置いてないのだ。どこにあるか?というと・・・
『はい・・・これ・・・』
「ありがとう。ちょうど探してたんだ」
大抵、娘が隠しているか持ち運んでいるかだ。
『・・・』
「ん?」
『おてつだい・・・した・・・ごほうび・・・よこせ・・・なの』
「あ、忘れてた。ごめんね?」
リモコンを脇に置いて、頭を撫でてやる。親子間での頭を撫でる行為は親子愛なので
特に問題ないはず。・・・なんだけど、なんだか嬉しそうな恥ずかしそうな感じで喜ぶ姿が
纏の姿とダブって見えるのは何故だろう?
テレビをつけると、すかさず俺の胡坐の上にちょこんと座って一緒に見始める。
『ととさまは・・・いすがわり・・・』
娘の頭の上にあごを乗せて軽く抱きしめてやる。これが我が家でのテレビ鑑賞スタイルだ。
ちなみに、纏と二人でテレビを見るときは、娘のポジションには纏が座る訳だけど。
まぁ・・・どちらの場合でも、俺の見たい番組を見せてもらえないのが難点なんだが。

真昼間に放送される番組で大して面白いものはないのは娘も同様で、適当にチャンネルを回して
面白そうなのがなければ寝てしまう。まぁ、あっても大抵後半には寝ちゃうんだけどな。
起こさないように、静かに寝室へ運んで部屋を後にする。やり途中のゲームでもやるかなぁと
ぼんやり考えていると、ちょうど玄関からドアの開く音がした。
「おかえり、纏」
『ただいま』
「ご飯は?」
『向うで馳走になってきた』
「そか」
そんな会話をしつつ、何かキョロキョロと探している。まぁ、何もない家だ、探すのは一つだろ。
「ちょうどお昼寝中だよ」
そう言うと、しばらく俺の顔をじっと見ていたが、急に拗ねたような顔になり
ふんと言って自分の部屋に行ってしまった。やれやれ、何が面白くないんだろうな?
追いかけるように部屋に入ると、着替えの真っ最中。
「あ、悪い」
そう言って部屋を出ようとする俺の手を掴み、中へ引き入れる。
『今更お主に着替えを見られて動揺する儂と思うてか?』
「いつもはすけべぇだ、変態だ何だって言うくせに・・・」
『・・・』
「どうした?何かあったのか?」
『うるさい!さっさと出て行くのじゃ!』
そういって、俺を外へ蹴り出した。相変わらず、理不尽この上ないな・・・。

晩御飯の時間になっても不機嫌なのは変わらずで、娘もその雰囲気を感じとったのか
模範的な食事作法で文句を付けられる前にさっさと食卓を撤退した。俺もそれに倣いたい所であったが
片付けもあったので耐えるしかなかった。
『儂がおらん間、何をしておった?』
「いや、別に。昼ご飯を作ってやって、テレビ見てた」
『それだけか?』
「そうだな」
『まったく・・・字を教えるとか、色々あるじゃろ?』
「俺がやろうとしたら、まだ早いって止めたのお前だろ?」
『あ、あの時はあの時じゃ!今ならもうええじゃろうと・・・』
最後の1枚を棚に仕舞って、纏の隣に座る。
「本当にどうした?今日はなんか変だぞ?」
『べ、別に何ともないのじゃ!放っておけ!』
そう言い放ち、席を立ってしまった。どっからどう見ても不機嫌この上なしって感じだよ。

娘を寝かしつけて、ようやくやってきた二人の時間。
その時になっても機嫌が直らないので、強硬手段に出る事にした。
「纏、ちょっといいかな?」
『何じゃ?ロクでもない用事じゃったら、唯では置かんぞ?』
まったく無防備に近づく纏に不意打ちっぽく抱きつき、頭を撫で回す。
『んな、お主・・・な、何を・・・離すのじゃ・・・』
「やだ。なんでそんなに機嫌が悪いのか、ちゃんと言ってくれるまでこのまま」
『べ、別に機嫌など悪くはない!じゃから、離すのじゃ』
「だーめ。そんな嘘、今更俺に通用すると思ってるの?」
『・・・』
普段は撫でると嬉しそうな顔をするのに、今日はしょんぼりという顔。
纏も俺の腰に手を回すが、抱きしめる力は弱々しい。
『・・・儂に飽きてしもうたのか?』
「え?」
予想外の一言に、俺はしばらく撫でる手が止まってしまった。
『・・・』
「い、いや、そんな事はないって!」
青い瞳に一杯の涙を溜めて、俺を見る。あぁ、なんて顔するんだよ・・・。
『ぐすっ・・・ひっく・・・』
「な、なんでそう思ったんだ?」
しばらくの間の後、ポツリと言葉が出る。
『わ、儂が・・・帰ってきたとき・・・ぐすっ・・・』
「帰ってきたとき?」
『お、お帰りの・・・ひっく・・・ちゅー・・・してくれなかった・・・ぐすっ・・・』
「そ、それだけ?」
『その後も・・・着替え・・・見せたのに・・・何も・・・』
「い、いや、それはさ・・・」
『じゃから・・・じゃから・・・ぐすっ・・・儂は・・・ふぇぇぇん・・・』
「あー、もう・・・よしよし」
『ふぇぇぇん・・・ふぇぇぇん・・・』
「纏・・・愛してるよ」
『うっく・・・ぐすっ・・・』
「な?」
『も・・・もう一回・・・ぐすっ・・・もう一回言うのじゃ!でないと、許さんからの』
「愛してる」
『まだまだじゃ』
「愛してる」
『もっとじゃ』
「愛してる・・・つか、纏も俺に言ってよ」
『わ、儂か?儂は・・・その・・・い、嫌じゃ』
「俺の事・・・愛してくれてないの?」
『や、そ、そういう事ではのうて・・・』
「何か一方通行じゃない?ちょっと寂しいな・・・」
『う・・・あの・・・』
「纏」
『あ・・・あ・・・愛してます』
「まだまだ」
『あっ、愛して・・・愛してます』
「もっともっと」
『こ、これ以上は恥ずかしくて言える訳ないじゃろ!』
赤くなった所を見られまいと、俺の胸に顔を押し付けてくる。その仕草がとても可愛くて仕方ない。
俺はそのままお姫様抱っこで寝室まで連れて行き、用意しておいた布団へ寝かせる。
そのまま大急ぎで台所にもどり、火の始末と戸締りを確認して、部屋へ。
「それじゃ・・・今度は体で愛を確かめ合おうか?」
『ふん、今日は寝れると思ったら大間違いじゃからな?』
この調子だと、一体何人の子宝に恵まれることになるのだろうか?お互いの服を脱がせあいながら
考える俺であった。

最近思う、雪女が男と隔離しているのは、こういう事態を避けるためじゃないかと。ま、嬉しいから良いけど。


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