・あいしてる

「なあ」
『何?』
「俺たちってもう付き合って随分になるよな」
『だから何?』
「いや、なんだかんだ言ってもう3年半くらい経つからなと思って」
『そうね。あ〜あ、なんでこのあたしがこんなカエル野郎と…』
「カエル野郎とはご挨拶だな」
『だってあんた顔がカエルっぽいじゃない。本当のこと言って何が悪いの?』
「あ〜、で、なんでお前はそんなカエル野郎と3年も付き合ってんの?」
『あんたがかわいそうなくらいモテなかったから。ボランティアよ、ボランティア』
「ふうん…俺、割と女の子には人気があったんだが」
『自惚れるな。そんなの勘違いに決まってるじゃない。童貞だったくせに』
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!…ってお前だって処j」
『貞操を守ってたと言ってもらいたいね』
「それを童貞カエル野郎とやらに捧げるとはえらく安い貞操だな」
『バカにしないで。言ったでしょ、ボランティアって。
 性犯罪者予備軍を野放しにして世界中の女性を危機にさらすくらいなら、あたし一人の貞操なんて安いものよ』
「はいはい、見上げたもんだな。
 そのセリフ、とても俺を巡って渡辺さんと激しいバトルをくりひろげた人間の吐くものじゃないよな」
『あ、あれは、渡辺さんをあんたみたいなカエルの毒牙にかけるわけにはいかないでしょ』
「渡辺さん大泣きしてたけどな。正直、あの時は居心地悪かった」
『だから何だっていうのよ』
「ああ、先週渡辺さんから連絡があってな」
『…!』

「久しぶりに会いたいんだと。お前どうする?」
『え、ど、どうするって…そりゃあ、気まずいから嫌に決まってるじゃない…』
「そうか…」
『…ま、まあ、あんたが会いたいなら、あ、会ってくればいいんじゃないの?』
「別にそんなことは一言も言ってないんだが…なあ?」
『何?』
「ボランティアなら、別に降りてくれたって構わないんだぜ?なんか気の毒だし」
『…どういう意味?』
「そのままの意味。いやだって、お前、俺と一緒にいるのが何だか嫌そうだしさ、
 何もお前に無理してつき合わせるのも……」
『…酷いよ』
「え?」
『あの時、渡辺さんじゃなくてあたしを選んだのは嘘だったの?
 もう3年もつき合ってるのに、あたしのことまだわかってないの?
 ただのボランティアで、こんなに長くつき合えるわけないじゃない!』
「お、おい…」
『もういいよ。渡辺さんに会ってきてあげて。
 あんたにあたしが嫌そうにつき合ってるように見えたのはあたしのせい。ごめんね。
 じゃあね』
「ちょ、待てよ!」

『何よ!離して!』
「だからちょっと待てって!一人で勝手に話進めんな」
『…あたしなんかに構ってないで、渡辺さんでもつかまえてればいいじゃない』
「聞けって。渡辺さんの話は断ってるんだよ」
『じゃあ何であたしに会うかどうかなんて聞くのよ?』
「それは…何か俺たちつき合ってんのに、お前から罵倒しか聞かないし。
 それで、ちょっと不安になったってのと、あと、腹いせにいたずらというか、何と言うか」
『あきれた。ガキね』
「悪かったな。まあだからそういうことで渡辺さんとは何もなしだ。誤解させてごめん」
『…信用できない』
「え?」
『信用できないって言ったの。本当はあたしみたいなのなんかとは別れたいんじゃないの?』
「ねーよ」
『じゃあ証拠』
「証拠って?どうすりゃ納得する?」
『そうね…あたしに話すときには必ず最後に、愛してる、って言って』
「はあ?ちょ…」
『簡単なことでしょ、本当に愛してるんなら、本心を言葉にするだけなんだから』
「……うう、わかったよ」

路上
[あ、かなみー、別府くーん]
『あ、友子。どこ行くの?』
[んー、ちょっと学校にね。そっちは?]
「ああ、俺らは買い物に、な、かなみ」

グリッ

「いたたたたたたたたたた!ちょ、思いっきり足踏むな!」
『……約束』
「あー、ごめん。愛してる」
[ちょ、あんたたち、こんなところで愛情表現しなくてもいいじゃない]
「いや、これはかなみが強制的n」

グリッ

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」


ファミレス
[ご注文はお決まりになりましたか]
「俺は娼婦風スパゲティーで。かなみは決まった?愛してる」
[( ゚д゚ )]
『あたしはモッツァレッラチーズとトマトのサラダで』
「かなみ、それだけでいいのか?愛してる」
『いいのよ。ほっといて』
[( ゚д゚ )]


ショッピングセンター
『ちょっとたかし、こっち来てー』
「はいはい」

ボグシャー

「ギャース!ちょ、こんなところでもやんのかよ!?」
『いいのよ別に。あたしが信用しなくなるだけなんだし』
「わ、わかったよ。愛してる」

『ちょっとたかしー!それもとってきてー』
「わかったー!かなみー、愛してるー!』
ざわ………ざわ………

「なあ、かなみ。ちょっと提案なんだが。愛してる」
『何?』
「これ、俺だけってのは不公平じゃね?愛してる
 そもそも発端は、お前の態度があんまり酷いからなんだしさ。愛してる
 ここはお前もやるのが筋なんじゃねえの?愛してる」
『え……で、でも……』
「でも何だよ?愛してる」
『いや、あの……ね?…は、恥ずかしいかな、って』
「俺だってずっと死ぬほど恥ずかしかったんだぞ!愛してる!」
『お、女の子に恥ずかしい思いをさせちゃいけないんだよ?』
「知るかそんなの!愛してる!
 俺だって疑ってたんだから俺にも信用させろ!愛してる!!」
『わ、わかったよ……』
「ほら、もう忘れてる」
『い、いちいち細かいよ……ぁ………ぁぃ…し、てる……』


美術館
「かなみー、この絵の女の子、お前に似てね?愛してる」
『ふん、あたしこんな歪んだ顔してないよ。あんたの目は節穴ね。ぁ、愛して…る……』
「歪んでるかもしれないけどさ、目のかわいらしさとかそっくりだぜ。愛してる」
『ば、馬鹿じゃないの?こんなところでそんな恥ずかしいセリフ……あ、愛しちぇる』
「ぷっ、かむなよそんなとこでw愛してる」
『う、うるさい!死ね!愛してる!』
「いやでもさ、ちょっとさすがに周りの目が気にならね?愛してる」

( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )

『知らないよそんなこと!そういう決まりなんだから仕方ないでしょ!愛してる!』
「だ、だから声でかいって…愛してる」

( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )


駅前
「だからもう捨てちゃったものは仕方ないじゃないか!愛してる!」
『よくないよ!ペットボトルは燃やしちゃいけないの!愛してる!
 最低限のルールすら守れない奴は人間として失格よ!愛してる!』
「いちいち細かいんだよ!それにわざとじゃなくってうっかり間違えただけだよ!愛してる!
 大体ここのゴミ箱表示が見にくいんだよ!愛してる!!」
『よく見ればわかることでしょ!愛してる!
 そういう手間を惜しむのがまわり回って環境の負荷になってるのよ!愛してる!』
「でも、またこのゴミ箱に手突っ込んで捨てなおせってことかよ!愛してる!」
『そうよ!それくらいやりなさいこの犯罪者!!愛してる!!』
「犯罪者とはなんだよ!ちょっと間違ったくらいでそれは言いすぎなんじゃないのか?愛してる!」
『言い過ぎでもなんでもない!こんなの犯罪も同然よ!愛してる!』
「……なあ、かなみ。愛してる」
『何よ!愛してる!』
「悪かったからさ……ここでやるのはやめね?愛してる」
『………そ、そうね……愛してる……』

( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )
( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )
( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )


「か、かなみ……愛してる」
『何?愛してる』
「俺が悪かったからさ…もうこれ、やめね?愛してる」
『………絶対、いや。愛してる』
「だってさ、どこに行っても注目の的だし、さすがに疲れたよ…愛してる」
『あたしは、ずっと続けたい。愛してる』
「いやでも、お前もずっとそれ言うのは嫌だろ?愛してる」
『……い、いやじゃ…ない……愛してる』
「なんでよ?愛してる」
『…だ、だって…あたしは口が悪くて、あんたにもきついことしか言えなくて…愛してる
 あたしが、す、好きだってことを伝える手段を、初めて、手に入れたんだから…愛してる』
「…………愛してる」
『そ、それにさ、今日一日中、たかしから愛してるって言ってもらえて、とても嬉しかったし…愛してる
 だからね、ずっと、続けて欲しい………愛してる』
「……ふぅ、わかったよ。愛してる」
『うん………これからも、ずっとね…愛してる』


[あー!あいしてるのお姉ちゃんだー!お姉ちゃんこんにちは!]
『こんにちは山田君。どこいくの?おつかい?』
[うん!ねえお姉ちゃん、ぼくにはあいしてるっていってくれないの?]
『ごめんね。だめなの。山田君はかわいくて大好きだけどね。
 これは一人の人にしか言っちゃいけないのよ』
[ふうん。あのあいしてるのお兄ちゃんのことだね!]
『そ、そうね…あ、来た』
「ごめんごめん。寝坊しちまったよ。愛してる」
『馬鹿ね。そのまま二度と起きなかったら良かったのに。愛してる』
[じゃあお兄ちゃんお姉ちゃん、ぼくそろそろいくね。あいしてるー!]
「おう、じゃーなー」
『…あたしたち、何だかすっかり有名人になっちゃったね。愛してる』
「そりゃあ、そこら中で大声で愛してる愛してる連呼してたら有名にもなるだろ。愛してる
 あーあ、だから俺はやめようって言ったんだよ。愛してる」
『過ぎたことをネチネチと、本当にクズみたいな男ね。愛してる』
「でもさー……愛してる」
『ほら、さっさと行くよ!あんたが寝坊したせいで時間ないんだから。愛してる』
「へいへい………愛してる」


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