・C H I N A M I

タ「よーし、頑張るぞ」
一言気合を入れた俺は、体操部の練習場を目指す。
って、覗きとかじゃないからな! 正式な取材だよ、取材!
俺、別府タカシが新聞部に入部して丸1年、ようやっと特集記事の単独取材を任された。
要するに部長から信頼された証、そりゃ気合の入り方も違うさ。

部室の前についた俺は、取材対象の椎水ちなみを探す。
今年入学した体操部のスーパールーキーで、今回の特集のターゲットだ。
しかも外見も凄く可愛い子だし、ちょっと期待とかもしちゃってたり……。
タ「あ、居た居た! おーい、椎水さん、ちょっといいかな?」
ち「…………(ふぃっ」
なんだ? 聞こえなかったのかな? 思い切り顔逸らされたような……。
タ「椎水ちなみさんだよね? 新聞部だけど、ちょっと取材いいかな」
ち「…………練習の邪魔です。さっさと消えてください」
う……練習中にいきなり話しかけたから機嫌損ねちゃったかな……仕方ない、ここは気長に行く事にしよう。
タ「あ、邪魔してごめんね。それじゃ、また日を改めてくるよ、その時は宜しくね」
ち「……………………」

●4月17日 月 (晴)
今日、高校に入ってから4人目の取材が来た。
と言っても、もう中学の頃でうんざりしているし、全て無視している。
どうしてあの人種は人の気持ちも無視して根掘り葉掘り聞いてくるんだろう。
とりあえず今日の奴は鬱陶しいので断ったらそのまま帰っていった。
見た目通り貧弱な奴だ。

●4月18日 火 (晴)
今日もまた昨日の奴が来た、名前は別府とか言うらしい。
別に知りたくもないけど、勝手に名刺とか渡してくるし……捨てたけど。
今日はなんかしつこいので、明日なら話を聞いてやると言って追い払った。
……ホントに話を聞いてやる気なんか全くないけど。

タ「で、今日こそ話を聞かせてくれるんだよね」
今日で3日目。そろそろちゃんと取材をしないとヤバい。
ち「…………練習が終わってからでよければ」
タ「OK、んじゃ待ってるよ」
ち「……あと、練習場の中には入らないように。公然と覗きをされているようで不快です」
ああ、そういやそうか。配慮が足らなかったな。
タ「あー、了解。それじゃ外で待ってるよ」
ち(…………誰が取材なんか受けてやるか……馬鹿)

●4月19日 水 (曇りのち雨)
今日もあの男が来た。正直いい加減にしてほしい。
外で待ち構えているようなので裏口からこっそり抜け出してきた。
まぁ、外は雨が降ってるし、さすがに帰っただろう。

ち(ってあれ…携帯がない……練習場に置き忘れたのかな……取りに行こう)

タ「うー……寒いなぁ……」
やべぇ、そろそろ本格的に体温下がってきたかも……
やっぱ傘くらい取りに行ったほうが良かったか。でもその間に出てきちゃうと困るしなぁ。
しかし練習熱心だな、もう9時回ったぞ……毎日こんな遅くまでやってるんだ……ってあれ?
門の方から来るのって、あれ椎水ちなみじゃ……?
タ「あれ、いつの間にそっち行ってたの? ごめんごめん、探した?」
椎水は驚いた目で俺を見ている。ああ、そうか、こんなズブ濡れの格好じゃ流石に引くよな。
ち「…………なに…してるんですか?」
タ「何って、取材に決まってるじゃないか。あ、取材道具一式はちゃんと濡れないところにあるから心配ないよ」
ち「……………………」
タ「とりあえず、今から取材、いいかな? ちょっと遅くなっちゃったけど」
ち「…………は、はぁ」

●4月19日続き
あんな馬鹿は初めて見た、傘もなしに本当に待っていたなんて。
帰ったのを怒られるかと思ったけど、私がずっと練習してたと勘違いしているらしい、馬鹿すぎる。
余りの馬鹿さ加減が不憫なのでつい取材を受けてしまった…不覚。

●4月20日 木 (曇り)
今日もあいつが取材に来た。懲りない奴だ。
馬鹿は風邪をひかないのかと思ったら、しっかり熱は出ていたらしい。
無理しないでさっさと帰れと言ったら、心配していると勘違いされて喜ばれた。
……どうも調子が狂う。

●4月21日 金 (晴)
あいつが来た。風邪はすっかり治ったらしい。
それにしても懲りない奴だ、クラスでも私にこれだけ根気良く話しかけた奴はいない。
つい口車に乗せられて、取材に関係ない世間話にまで付き合わされてしまった。
それでわかったんだけど、あいつは一つ上の学年だったらしい。
年上とは思えない馬鹿さだけど……。

ち「……今日は学校は休みですよ……何しに来たんですか」
タ「そういう椎水さんだって来てるじゃん? お互い様だよ」
ち「…私は部活です」
タ「じゃ、俺も部活。もちろん君の取材ね」
ち「……先輩は、なんでそんなに熱心なんですか」
タ「あ〜……それはだな」
頬をぽりぽり掻きつつ、俺は答える。
タ「新聞部の部長がね、すげー人でさ。俺その人をマジで尊敬してるから、認めてもらいたいんだよね」
う〜ん、ちょっと恥ずかしいけど、俺も椎水に色々聞いてるわけだしな
ち「…………部長ですか」
タ「ああ、うん。女の人なんだけど、コラムとか賞もとってるくらいの人で、記者としても一流だし」
ち「……………………」
タ「大手の新聞社から既にスカウトが来てるって話も……ってあれ? どうしたの?」
ち「…………練習を再開します、部外者は出てってください」
タ「あ、ああ」
さっき休憩入ったばかりのはずなのに、凄いなぁ…さすがエリートってとこか。

●4月22日 土 (曇り)
どうしてだろう……あの先輩から部長とやらの話を聞くと何か腹が立つ。
その部長がどれだけ凄いかは知らないけど、
賞くらい私だって一杯もらって……って何を張り合ってるんだろう。
馬鹿馬鹿しい、考えるのはよそう。

●4月24日 月 (雨)
今日もあの先輩は来た。馬鹿な先輩だけど話し相手としては退屈しなくていい。
またズブ濡れで待たれても困るので、練習が終わる時間を教えたのに、
何故か帰るときにズボンの裾を濡らして外で待っていた。さすがに傘は差していたけど。
次から中に入って待ってていいと言おうとしたけど、なんとなく言い出せなかった。

部「お、別府じゃない。見たよ、あの記事」
タ「あ、部長、おはようございます」
部「なかなかいい感じだったよ。よくあの無口な子からあれだけ聞き出せたもんだ」
タ「ありがとうございます、ってことは」
部「うん、あれで合格。とりあえず今回の取材は切り上げていいよ」
タ「わかりました、そんじゃ……って今誰か居ませんでした?」
なんか視界の端に走り去る女の子の人影を見たような……。
部「さぁ? あ、それからね。アンタの椎水ちなみ特集記事、連載する事にしたから」
タ「ええっ、連載ですか」
部「うん、我が校の数少ない全国区の選手だからね。アンタとは相性もいいみたいだし、任せていいでしょ」
タ「はい、それじゃ早速取材に行ってきます!」

ち「………………何しに来たんですか」
タ「そりゃ君の取材にだけど? どうしたの?」
ち「……私の取材は終わったんでしょ?……練習の邪魔、消えて」
タ「いやそれがその記事連載する事になってさ、っておーい……行っちゃった」

●4月25日 火 (晴)
今日は先輩にいつも以上に無愛想に当たってしまった。
だって…なんか廊下で女の人に褒められてデレデレしてる先輩を見たら
何故か腹が立ってきたし……多分あの人が部長なんだろう。
でもちらっと聞こえたけど、私の特集記事が連載される事になったらしい。
これで先輩はまた毎日来る事に……それは…その…迷惑。うん…迷惑……のはず。

●4月26日 水 (曇り)
今日は先輩が私を待っていたところを体操部の先輩に見つかり、冷やかされた。
腹が立ったので、否定するついでに「もう二度と来るな」と言っておいた。
まぁ…そんなこと言っても、きっとまた来るんだろうけど……。
ふふ、本当に迷惑な奴……。

部「別府、ごめん! ちょっと今日からこっち手伝って!」
タ「え? 部長、どうしたんですか?」
部「3年の子たちが同時に取材ドタキャンされちゃってさ、ちょっと量が多くてあたし一人じゃ空白埋められそうにないの」
ああ、あの学校OBのアーティストへの取材か。まぁよくある事だよな、忙しそうな人だし。
タ「いいっすよ、部長の頼みとあれば、喜んで」
部「悪いね、椎水ちなみの記事は来週からの連載にしましょ」
うーん、それは少し残念かも。最近椎水のところに行くの、ちょっと楽しみになってきたんだけどなぁ。

●4月27日 木 (雨)
……今日は先輩は来なかった。昨日言った事を気にしているんだろうか、狭量な奴。
でも一日くらい来ない事も……あるよね。
まぁ、私には関係のないことだけど。むしろうるさいのがいなくて有難い。
これで練習にも身が入る。

●4月28日 金 (雨)
……今日も来なかった。どうしたんだろう……。
取材、打ち切っちゃったのかな……人の気持ちも知らないで…勝手な奴……。
私の気持ちってなんだろ……よくわからない。
謝ればまた来てくれるかな……って何考えてるんだろう。私は悪くないし、別に来てほしい訳じゃ…ない。

●4月29日 土 (晴)
…………来ない。練習に身が入ってないってコーチに怒られた。
今日一日、集中しようと思ったけど、全然集中できなかった。
謝りに行こうかな……謝って許してくれるかな……。
いつもあんな態度だったし、もうとっくに嫌われてるかも……。
あんな奴に嫌われたってどうでもいいけど……だけど……。
なんで涙が止まらないんだろ……。

週明けの月曜日、俺は久々に椎水のところに向かっていた。
体操部の練習場に着くと、入り口のところに妙にそわそわした椎水がいた。
俺の姿を見ると一瞬ビクッとして、恐る恐ると言った感じで近付いてくる。
タ「やあ、久しぶりだね椎水さん」
ち「……な…何しに来たんですか」
タ「そりゃもちろん取材に。ちょっと新聞部の用事で数日空いちゃったけどさ」
ち「……もう来ないかと思ってました」
タ「なんでさ、連載するって言ったじゃん。まぁ迷惑だとは思うけど、付き合ってよ」
ち「……っ。人の気も知らないで……! ……ぐすっ」
って、いきなり泣いてるし! ど、どうしよう、そこまで迷惑だったのかな……
タ「ご、ごめん! そんなに嫌だったら無理に取材するの止めるから!」
ち「ち……ちが……ぐすっ…うぅぅぅぇぇぇぇぇぇん」
ああ、余計に大泣きされてしまった。今日の彼女は、なんか不安定みたいだ。
俺は結局、彼女が泣き止むまで慰め続ける破目になった。
良く分からないけど、取材はこのまま続けていいらしい。

●5月1日 月 (晴)
今日は先輩の前で泣いてしまった。だって、もうずっと来てくれないって思ってたから……。
勘違いだって分かったら安心して、涙が出てきてしまった。
それで気付いた事……私は先輩のことが好き…みたい。多分……自信は持てないけど。
とにかく、また先輩が来てくれる事になって、良かった……。

●5月2日 火 (曇り)
どうしよう……自覚しちゃったら先輩の顔がまともに見れない……。
せっかくまた会いに来てくれてるのに、2日連続でほとんど取材にならなかった。
あ…呆れられちゃったかなぁ……。気付かれちゃった…ってことはないよね。
明日から連休だし、気持ちを整えないと。

●5月3日 水 (曇り)
今日から連休…………先輩はどうしてるかな。……会いたいな。

あれから1ヶ月が経ち、6月になっても俺の椎水ちなみへの取材は続いていた。
というのも、彼女はあれからめきめきと実力を伸ばし、今や全国的に注目される選手となったからだ。
今じゃたまにテレビの取材まで来る始末、だが椎水はマスコミ嫌いらしく、それを全て断っていた。
だから彼女に密着取材しているのは俺だけ、そりゃ連載の人気も出るってもんだ。

タ「って訳で、大会前のインタビューってことで今日は読者からの質問な」
ち「下らない企画……もう少し自分で考えて記事練ったらどうですか」
タ「いいじゃん、みんな気になってる事だしさ……その俺も…少し」
ち「……し…仕方ないですね…答えてあげます……」
タ「んじゃ最初の。最近の椎水さんはめきめき実力を伸ばしています、何か理由やきっかけがあるんでしょうか?」
ち「……理由…は…っその……なぃです」
あれ、そんなに答えにくい質問だったかな……っていうかなんで赤面してるんだ?
タ「じゃ次……ってこりゃなんだ、好きな異性のタイプはぁ?」
ち「………………っ!? どさくさに紛れて何を聞こうとしてるんですか…く、下らない質問をするなら帰ります……」
タ「ああ違う違う! これ紛れちゃったやつだ。俺が聞きたかった質問これじゃないから!」
ち「…………やっぱり帰ります」
あれ、何で余計機嫌悪くなってるの……?
その後、椎水をなんとかなだめ、どうにか取材を最後まで終える事ができた。

●6月2日 金 (雨)
今日は先輩に色々聞かれちゃった……あんまり正直には答えられなかったけど。
だって…体操頑張ってる理由が、大会でいい結果出すと先輩が取材に来てくれる時間が延びるから…
だなんて、言われてもきっと先輩は困っちゃうし……。
先輩は私の好きなタイプに興味は持ってくれないんでしょうか……悲しいです。
私は…先輩がどんな女の子を好きか……知りたいです……。

●6月3日 土 (曇り)
今日は勇気を出して先輩にお弁当を作って来た。
でも土壇場で恥ずかしくて渡せなくって、結局自分で食べてしまった。
……私のバカ。

●6月4日 日 (雨)
今日は日曜日。先輩に会えない日。
早く明日にならないかな…………。
日記を読み返してみた、先輩のことしか書いてないや……私。
最初から素直になればよかったのに……って、今も素直になれてないんだけど。

●6月5日 月 (雨)
また先輩に酷いことを言ってしまった。
何度後悔すれば気が済むんだろう……私の馬鹿……。
こんなんじゃ愛想つかされちゃうよ……。
明日謝らなきゃ。

●6月6日 火 (曇り)
先輩は許してくれた。私は嬉しくて泣いてしまったんだけど……。
先輩はうろたえながらも、そんな私をそっと抱きしめてくれた。
好きです……先輩。

●6月7日 水
どうしよう、もう最近何をするにも先輩の顔が頭から離れない。
先輩に早く会いたいよ…早く明日にならないかな…。

●6月8日
せんぱい……
……すき


(日記はここで途切れている)


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