・ツンデレに心を込めて言ってみたら

「ご馳走様でした。兄さんが涙目になりながら全力全開で作った料理は今日もおいしかったです」
 そう言って、かなみは空っぽの食器の前でいつものようにぽん、と両手を合わせた。
 心がこもっていない、と俺、別府タカシは考える。この微妙な毒舌はどうでもいい……と言えば語弊があるが、もう慣れた。問題はそこではない。
 今日は俺と、俺の義理の妹であるかなみにとって、大切な日なのだ。
「お前さぁ……もうちょい心の込もった言い方できないの?」
「……インフィニティおいしかったです」
「なんだそれ」
「エターナルおいしかったです」
「意味が分からん」
「おいしさ永久無限大でした」
「和訳か……ったく。忘れたのか?」
「何がです? 兄さんこそ意味が分かりません。頭のイカれ具合がアクセレートしてますね」
「本当に、忘れたのか?」

 自分で言うのも何だが俺は珍しく、本気になって彼女を問い質していた。
「だから、何のことです?」
 はぁ、と俺は大きく溜め息をつく。どうやらコイツ、本当に忘れているらしい。
 口ではあれこれと言っていても、心の底には正反対の感情を隠している……そんなヤツだと思っていたのに。心に心が返らない。
 そっぽを向いたかなみの眼を見ることもなく食器を片付けようとした、その時。
 かなみの手が、俺の袖口を掴んでいた。

「……どした、かなみ?」
「一回しか言いませんよ?」
 何故か俯き、頬を紅に染めながら、かなみはおずおずと口を開いた。
「ホントなら赤の他人の私に本物の妹みたいに接してくれて、いつも優しくて、料理も上手で、私のこと大切に思ってくれて……三年間、ずっと」
 忘れてなかった。忘れてなどいなかった。疑ってしまった自分が恥ずかしい程一途に大切に、コイツは覚えていてくれた。
「私、別府の子になれてよかったです。ありがとう、私の……」
 今日は両親を事故で失ったかなみが親の伝手でウチに来て、三周年の記念日なのだ。
「私の……」
 消え入るような声で、小さく呟いたその言葉を、俺は聞こえなかった振りをした。
「……大好きな兄さん」


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