・小さな恋の物語

私の名は、稚水ちなみ。
私には、好きな人がいる。
その人の名は、別府タカシ。
この話は、彼への私の恋の顛末を書いた話。
そう、どこにでもありそうな、小さな恋の物語。

朝、私は目覚まし時計のベルよりも、タカシが乗ってくる自転車のベルの音で目を覚ます。
彼とは小さい頃からの付き合いで、体の弱い私を気遣っていつも私の家へ迎えに来てくれる。
タ「ちなみー!起きたかー!?」その声に、私は部屋の窓を開けて、答える。
ち「朝からうるさい・・・もっと静かにして・・・」そう私は悪態をつく。
私は彼の行為にいつも感謝してるし、彼と学校に行く時間は楽しみだし、幸せだ。
だけど、どうしても素直になれず、さっきみたいな事を言ってしまう。
私は、自分のこんなところが大嫌いだった。
タ「悪い悪い、元気だけなのが俺のとりえでな」そう彼は苦笑しながら言う。
私の言った事をさほど気にもしていない彼の様子にひそかに安堵を覚えながら、私は答える。
ち「今準備する・・・待ってて・・・」
タ「了解。あわてて転んだりすんなよ」
ち「余計なお世話・・・」ああ、まただ。どうして私はいつもこうなんだろうか・・・密かに自己嫌悪する。
準備を終え、急ぎ軽い朝食を済ませると、彼の元へ行く。
ち「・・・お待たせ」
タ「おう。じゃ、自転車の後ろに乗れよ。しっかり、つかまってろよ」
ち「・・・言われなくても、分かってる」密かに自己嫌悪する。
タ「わかった。それじゃ、行くぜ」
そういうと、彼は力強く自転車を漕ぎ出した。私は、必要以上に、両手で彼を抱きしめるようにつかまった。
彼と一緒にいられる幸せを、噛みしめるように。

午前の授業も終わり、昼食の時間になった。
特に申し合わせたわけでもないけれど、屋上で2人昼食を食べるのが日課になっていた。
タ「ふぅ〜やっと午前が終わったか〜しんどかった〜」購買で買った焼きそばパンを食べながら、彼は言った。
ち「何・・・言ってんだか・・・ずっと寝てるか、隠れて漫画読んでたくせに・・・」
タ「漫画じゃねえよ。携帯で2ちゃんねるっていうサイト見てたんだ。面白くて、飽きないぜ」
ち「・・・テストで、泣いても・・・知らないよ?もうすぐ、定期テスト・・・」
タ「・・・Σやっべぇぇぇぇ!また赤店とったらやばい・・・ちなみ〜助けてくれ〜」
ち「うるさい・・・自業自得・・・少しは、反省したほうが良い・・・」
タ「そんなこと言わないでさ〜頼むぜ〜」
ち「・・・そこまで言うんだったら、今度勉強教えに行っても、良いよ・・・」
タ「え!マジか!?やった〜」
ち「勘違い・・・しないで・・・いつも送ってもらってるから、その借りを返すだけ・・・」
タ「何でも良いよ!サンキューw」
ち「困ったり、喜んだり、ホント忙しい奴だね・・・タカシは・・・」
そう言いつつも、彼の家に行ける口実が出来て、内心私は大喜びだったのだが。
タ「お、そろそろ休み時間終わるな。遅れるとセンセうっさいからな。早く行こうぜ」
そう言うと、彼は私の腕をつかんで歩き出した。
ち「ちょ・・・手・・・(//////)」突然のことに、私はいつも以上に言葉がうまく出せなかった。
タ「うん?ああ、置いてくワケにもいかないからさ。それより、早く行こうぜ」
なんか強引な理由である気もしたけれど、彼と手を繋ぐことの嬉しさが、反論を押し込めた。
ち「分かった・・・そのかわり、しっかり握って離さないで・・・」
今日はラッキーな一日だな・・・そう思っていた。
5時限目が終わった休み時間、あんな事を聞くまでは。

5時限目が終わり、休み時間になった。
ふとタカシのほうを見やると、彼に話しかける姿があった。
隣のクラスにいる、校内でも可愛いと評判の、高瀬さんだった。
ち(タカシに何の用があるって言うの・・・?)私の心の中で小さな黒い感情が生まれる。
よく見ると話してると言うよりは、高瀬さんが一方的にタカシに話している様だ。
彼女は彼に何かを言うと、まるで逃げるようにしていなくなった。
私は、話の内容が気になって、彼の近くにいる女友達のかなみにに近づき、話しかけた。
名字が同じだったのが、仲良くなったきっかけだった。
余談だが、最近彼女は年上の彼と付き合うようになったらしく、名前は偶然にも、タカシというらしい。
なぜか待ち合わせ場所は決まって学校近くの駅なんだという。
ち「さっき・・・タカシは高瀬さんに何を言われてたの?」
か「告白、されてたよ。・・・ずっと、好きだったって」
ち「・・・!」目の前が真っ暗になった。
確かに、私とタカシはそんな仲じゃない。
タカシは、外見も悪くないし、性格も良い。告白されてもおかしくないけど・・・
でも、こんな事って・・・こんな事って・・・
か「明日、返事を聞かせて欲しいって言うと、顔を真っ赤にして走っていっちゃった」
ち『タカシは・・・何て答えるの?OK・・・しちゃうの?』そう私は彼に聞こうと思い、彼の席へ向かう。
だがその瞬間、チャイムが鳴ってしまった。
結局、彼が何て返事をするつもりなのかを聞くタイミングを、私は逃してしまった。
タカシが誰かと付き合うなんて・・・そんなの、嫌だよ・・・
胸が締め付けられるような気分だった・・・
そして、次の日がやって来た。

今日も、いつもと同じように彼に送ってもらう。
いつもは幸せな時間も、今日は心が重かった。
タ「・・・どうした?元気ないけど・・・」
ち「・・・何でもない。ちょっと昨日寝つきが悪かっただけ・・・」
それはある意味本当だ。彼がどんな返事をするのか気になって、よく眠れなかったのだ。
タ「そっか、それなら良いんだけどさ」
程なく、学校に着く。授業中も、先生の声など耳にはいらなかった。
時間はあっという間にすぎ、昼休みがやってきた。
屋上で、昼食をとるが食欲が出ない。それでもボソボソと少しづつ食べていると、
もう昼食を食べ終わったのか、タカシがおもむろに立ち上がる。
ち「・・・タカシ?」
タ「あ、ちょっとこれから行くところがあるんだ。すぐ、戻ってくる」
ち「何しに・・・行くの?」分かってはいたが、聞かずにはいられなかった。
タ「実は、告白されたんだよ。隣のクラスの高瀬さんって人に」
ち「そう・・・なの・・・」だが、彼の次の言葉が、今まで以上に私にショックを与えた。
タ「ちなみ・・・戻ってきたときは、もしかしたら、今までのような関係じゃ、いられなくなるかも知れない」
OK・・・しちゃうの・・・?そうとしか、思えなかった。私の中で、何かがはじけた様な気がした。
タ「それじゃ・・・またな」そういうと彼は下の階に行くために屋上の勝手口へと向かう。
次の瞬間、私は彼の背中に、すがり付いていた。

タ「・・・ちなみ?」
ち「・・・行かないで・・・」
もう、気持ちを抑える事なんて、出来なかった。
まるでダムが決壊して、大洪水でも起こしたかのように、私は今まで溜め込んでた気持ちを、ぶちまけていた。
ち「いっちゃ・・・やなのぉ・・・!タカシ・・・好き・・・!タカシが他の誰かと付き合うなんて・・・そんなの・・・やなのぉ・・・!」
私は子供のように泣きじゃくりながら、彼の背中を掴む力を強める・・・
だが、彼から返ってきた答えは、予想外のものだった。
タ「ちなみ・・・俺は、高瀬さんとは付き合わない。」
タ「これから、断りに行くとこだったんだよ」
ち「え・・・?でも・・・今までのような関係じゃ、いられないって・・・」
タ「実はさ、その後お前に告白するつもりだった。」
タ「ましてや、先に言われるなんて、考えもしなかったけどな」
ち「タカシ・・・」
タ「それじゃ、行ってくる。そしたら、改めて、お前に俺の気持ち、伝えようと思う。待っててくれな」
ち「・・・早く・・・戻ってきなさい・・・バカ・・・(//////)」
コレで、この話はおしまい。
これからは、別の物語が始まる。
それは、私とタカシとの、大きな大きな、愛の物語・・・

Fin


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